埠頭の戦いを終え、S.O.N.G.の本部へと戻って来た装者達だが、事態は芳しくない。メディカルチェックを終え、動ける装者達をブリッジに集め、ブリーフィングを行う。
「完全なる敗北だ。俺達はまんまと出し抜かれた」
あの戦いは、完全敗北とも言える結果だった。
「アイツに……たった一人にボコボコにされて、センパイが……!」
紫宮舞華によって、装者達は完膚なきまでに叩き潰された。特に翼は舞華が使う村正のグラデアメイルの一撃を受け、今もメディカルルームで眠っている。
響も結に打ち込まれた氷の花弁の後遺症が現れていた。メディカルルームで検査を行うと、負傷箇所を中心に体温が低下。特に右上肢は冷たかった。
「そして拉致されたセレナ君の行方も、未だに掴めていない」
そして愛亜と戦っていたマリアとセレナ。グレイプニルの力で愛亜に勝ったにも関わらず、何処からともなく現れた狙撃手によって、全てが覆された。マリアは負傷し、セレナが拉致されてしまうという最悪の結末を迎えた。
「そしてもう一つ、悪い知らせです」
緒川が切り出し、モニターに映像を出す。それは、アイスノイズに氷にされ、一度は元に戻ってその場から逃げ出したマフィアの人間。
だが逃げ出した後は行方が知れなかったが、モニターには眉間を撃ち抜かれて死体となって水上に流されていた。
「犯人は例の狙撃手と思われます」
「その狙撃手についてですが、狙撃する僅かな瞬間に、聖遺物の反応を捉えました」
エルフナインがコンソールをタッチすると、《CLAI OMH SOLAIS》と表示された。
「クラウソラス。ケルトの光り輝く魔剣です」
「剣なのに銃使うのか?」
「恐らくは響さんのガングニール、そしてクリスさんのイチイバルのように、グラデアメイルも使い手の心象風景を色濃く反映していると思われます」
本来ガングニールは魔槍としての伝承があり、イチイバルも伝承では弓として記録されている。
だが響は他者との繋がるという想いの強さから無手、クリスはバルベルデの内紛の日々の記憶が強く残ってしまっている事から拳銃やライフルに変形している。
グラデアメイルもまた、使い手の心象風景によってアームドギアが変わるものと推測される。
「詳細の能力はまだ断定出来ませんが、恐らくクラウソラスにはステルス機能が備わっている可能性があります。レーダーが捉えられる範囲の外で起動させ、ステルスを維持したまま戦場に現れたのかもしれません」
最初に狙撃手を認識した時も、何処からともなく現れ狙い撃った。そして今回も音もなく影すらも感じさせずに狙撃ポイントに到達している。
だがそれには唯一の弱点がある。
「ですが、狙撃をするほんの一瞬、クラウソラスの反応を捉えています。恐らくは、攻撃の瞬間だけはどうしてもステルス機能が停止すると考えられます」
「それでも、クラウソラスの狙撃手の反応地点から、マリアさん達がいた場所まで、約1キロメートルも離れています。それを自身の居所を、引き金を引く瞬間まで気取らせずになし得るなんて……まさに神業の一言に尽きます」
緒川も高い射撃能力を備えているが、その緒川にそこまで言わせしめる相手となると、Z.E.U.S.を知るアトラスはその正体に行き着く。
「やはり、天空寺彩か。僕は天空寺彩と面識はないが……彼女の活躍は耳にしている。それが七星魔剣のリーダーを務めているとなると、例え白兵戦に持ち込んだとしても勝てるかどうか……」
アトラスが弱音を吐くほどの相手なのだと認識させられる。
「そうだ。黒剣の腕輪の方はどうかな?」
「コイツか?結局起動しなかったぞ。本当にコイツで勝てるのか?」
埠頭の戦いでは誰一人起動する事なく敗走する羽目になったのが堪えているのか、黒剣の腕輪に疑問を呈するクリス。
腕輪を受け取ったアトラスが解析に回す。
「うん。順調だ。もう少し戦ってくれたら、起動出来ると思う」
「そう言えばアトラスさん。それってどういう原理で起動するの?」
「えっ?」
「えっ……?」
調に尋ねられて思わずキョトンとするアトラス。調もそうであるが、他の装者達も調と同じ反応をする。
「だって、まだ起動出来ない理由とか聞いてないし……」
「あれ?言ってなかったっけ?」
「言ってねえな」
「言ってないデス」
「言ってないな」
「言ってないです」
他の装者達にも同じ事を言われて頷いた。だが言われてみれば肝心な起動方法を説明した気がしない。エルフナインの方を見て確認を求める。
「せ、説明してなかったですよ……」
エルフナインにそう言われては認めざるをえなくなった。そして調にジト目で見られる眼差しが痛い。
「ごめん。じゃあ、今から説明しよう」
咳払いして、改めて黒剣の腕輪の起動方法を説明する。
「黒剣の腕輪は、エルフナインのお陰で君達のフォニックゲインとリンク、起動の鍵として漕ぎ着ける事が出来た。けど、それだけじゃ足りないんだ」
「まだ何か必要なのかよ?」
面倒な起動方法が残っている事について、クリスに呆れられる。だがアトラスは頷いて話を続ける。
「もう一つの鍵、それがグラデアメイルの力なんだ」
「グラデアメイルの力……?!」
「なんデスと?!」
まさか敵の力が必要という前代未聞のやり方に調と切歌のみならずアトラス以外の全員が驚きを禁じ得ない。
「ストームブリンガーは、今はまだ空想段階に過ぎない。それを現実の魔剣の力として具現化させるには、本物の魔剣の力がいる。その為に、グラデアメイルから放たれる僅かなエネルギーを、腕輪に取り込ませる必要があるんだ」
「それってつまり……?」
「グラデアメイルと戦う事で、黒剣の腕輪が起動する。より長く、そして強い魔剣と戦う事でストームブリンガーの起動が早くなる。そして全員の腕輪とリンクしているから、一人が起動すれば全員使えるようになる」
ストームブリンガー起動の仕組みの説明を受け、理解したのか装者達は頷いた。
「そして吉報が一つ。前回の紫宮舞華との戦いで、腕輪のエネルギーが七割を超えた。あと数戦と踏んでいたけど、これなら……」
「司令」
切り札の起動という希望が見えてきた所で、エージェントからもう一つ知らせが入る。
「そうか。メディカルルームの翼とマリア君が意識を取り戻したぞ」
仲間の身を案じていた装者達にとって、大きな吉報が入った。一旦ブリーフィングをここまでにし、メディカルルームに顔を出す。
「すまない皆。私が情けないばかりに……不甲斐なさに恥じるばかりだ」
「センパイの所為じゃねえよ。アイツが化け物みたいに強かったんだ。あたしらだって、アイツに手も足も出なかった」
一矢報いる事も出来なかった自分を責める翼。そんな中、まだ目覚めたばかりのマリアがベットから立ち上がるが、ダメージが残っているのかふらついている。それでもマリアは歩みを止めずにメディカルルームを出ようとする。
「何処に行くつもりだい?」
そこに奏が腕を掴んで止めた。
「決まってるでしょう?セレナを助けにいくの」
「まだ起き上がったばかりデスよ?!ヤケになったらダメデス!」
「手掛かりもないのに、そんな身体で行ったら……」
「そんな悠長な事言ってられないわ!」
切歌と調に向けたものは、とても身を案じてくれた者に放つべきではない言葉だった。マリアもそれを分かっていたが、最愛の妹が敵に攫われてとても冷静でいられるわけがない。
その心情を理解しているが故に、今すぐにでも助けに行きたいマリアを責めるのも酷というものだ。
「その気持ちは分からなくもない。けど、相手は一人でどうにかなる奴らじゃないのは分かっているだろう?ましてや、そんな身体じゃまともに戦えやしない。足を引っ張るのがオチさ」
助けたいという気持ちは、他の仲間達も同じ。だが相手はギリシャの諜報機関の中でも精鋭揃いの七星魔剣。一人で行けば返り討ちに遭うのは目に見えている。
マリア自身も頭で分かっていても、心のどこかで受け入れられずにいる。
「セレナを助けたいのは、私達も同じ。けどマリアに何かあったら、セレナは余計に悲しむ」
「まずは身体を治す事デス!それで、一緒にセレナを助けるデス!」
自分に突き放されて失望されてもおかしくないにも関わらず、家族のように信頼してくれる二人を見て、自分が焦っていた事を認められるようになった。
「ごめんなさい二人とも……」
「こっちは問題なさそうだな。あとは……」
マリアの方を見る奏は懸念が払拭されたと安堵する。だがもう一人、今この場にいない響が気掛かりだった。
〇〇
「いやぁ〜ご心配をお掛けしました〜」
ブリーフィングが終わった後、装者達は響の見舞いに出向いた。訪れてみると、存外元気そうにしている。
「ったく、心配かけやがって。まあお前の事だから、死にはしねえと思ったぞ」
「何なに〜?!クリスちゃん心配してくれたの〜?!」
「うわっ!寄るなバカ!大人しく寝とけ!」
抱きつこうとしたのを頭を抑えつけるクリス。
「しかし、本当に頑丈だな。流石だな」
「はい!元気なのと頑丈が売りですから!」
奏に感心されて益々喜ぶ響。わざわざ右腕で力こぶを作るポーズまで取っている。
「けど響、さっきまで意識なかったんだから、あんまり動いちゃダメだよ?」
「分かってるよ〜♪」
未来に注意されても調子を崩さないのが響らしい。元気そうなのを確認したので、翼から響へブリーフィングの内容を共有する。
セレナが攫われたと知ると、流石の響も唖然としてしまった。
「そんな……セレナちゃんが。マリアさん、大丈夫かな?」
「どうかな。今は何とか抑えているけど、心の底じゃ早くセレナを助け出したくてたまらないはずだ」
この場にいないマリアの身を案じる響。奏もあのように焦るマリアは初めて目の当たりにし、胸騒ぎすら感じる。
「何か進展があるまで今の所は待機。けど響、お前は当分療養に専念する事だ。と、弦十郎の旦那からのお達しだ。未来、サポートは頼んだよ」
「分かりました。響がまた無茶しないように付き添います」
情報を共有した所で今日は解散。見舞いに来た装者達も家路に着く。だが奏と未来はもう少し用があると言って病室に残る。
奏が皆が帰った事を確認すると、扉を閉めて響に投げかける。
「皆帰ったよ。いつまで無理するつもりだい?」
「そうですか……ありがとうございます」
起こしていた上体を、身を委ねるようにベットに倒れ込んだ。肩で大きく呼吸しているその様は、まるで一日中戦い続けていたかのようだった。
「皆に心配かけたくないからって、無理して起きてるなんて……」
「翼さんもマリアさんも……大変なのに……私のせいで……迷惑かけたくないから……」
「響……」
皆に心配かけまいと気張っていた。だが実際は体力が奪われたまま、起き上がる事すらやっとの状態だった。
「ごめんね未来……しばらくの間、Z.E.U.S.の方はお願いする事になるけど……」
「ううん。響こそ、ちゃんと身体を治すんだよ?」
「分かった。気をつけてね」
響から未来に平和の命運を、未来から響には無事の願いを託した。
〇〇
あれ……
私は一体……
マリア姉さんが…… 倒れて…………
それから……私も…………
ズドォン!!
「はっ……!」
頭に響いた銃声に驚いて目を覚ましたセレナ。勢いよく起こしたその身体には汗が流れている。悪夢に魘されていた証だ。
「えっと……ここは……」
初めて見る部屋を見渡すセレナ。視線を落とすと綺麗な毛布に質のいいベットで寝ていたのだと認識する。
『セレナ!目を覚ましたか!良かった……』
「ヴェイグさん……!」
どうやらヴェイグに心配かけさせてしまう程、眠っていたらしい。
「ご心配おかけしてすみません」
『無事なら良いんだ。それよりも、ここは……』
「はい……ここは何処なのでしょうか?」
『分からないだが……』
セレナの心の中では自分自身が攫われたという実感があまり湧いてこない。虜囚の扱いというにはあまりにも豪華なベットであり、どちらかと言えば客人をもてなしていると言った方が近い。
それでも七星魔剣に拉致されたとなると、考えられる可能性が高いのは……
『奴らのアジトかもしれない』
ヴェイグが深刻そうに答えた。