そして久々のあの子の登場です。
セレナが目覚めた場所。そこは現在、七星魔剣が拠点としているフィーネの館だった。ここがかつてフィーネのアジトであった事など、セレナが知る由もない。そもそもここにいるセレナは、この世界の住人ではないのだから知らないのは当たり前。
「ここが……Z.E.U.S.の人達の……」
そこに扉の鍵が解除される音が響く。ビクッと身体を振るわせて振り返った先には……
「起きてた……」
「よく寝れました?」
萌芽と影風が入って来た。二人がここにいるという事は、本当にここがZ.E.U.S.のアジトなのだと実感する。前に出た萌芽の右手には、電子ロックタイプの手錠を所持している。
「結ちゃんが呼んでる。一緒に来て」
言われるがままではいけないと、対抗すべくギアを纏おうとするが、その為に必要なものが失くなっていることに気が付く。
「お探し物はこれですか?」
影風がお目当てのものを胸ポケットから出して見せつける。
「私のペンダント!」
「一応立場的には捕虜ですので、気を失っている間に持ち物検査はさせていただきました。一度全部脱がして♪」
「えぇっ?!」
問い質す立場のはずだったセレナが、影風からの予想外のカウンターをくらって頬が赤くなる。
「えっと……セレナさん?」
「フーちゃん……最後のは言わなくていいよ……」
「ほえ?」
どうやら余計な事を言ってセレナを色んな意味でノックアウトした事に気付いていない影風。流石の萌芽も、今も尚羞恥心が込み上げているセレナに同情してしまう。
「とりあえず行こ?」
「……はい」
今ので図らずも大人しくなったセレナの両手に手錠を掛ける。萌芽と影風に挟まれる形で歩かされ、廊下を渡っていくと、ある一室の前で止まる。萌芽が先行して大きな扉をノックする。
「連れて来たよ」
「ああ。入れ」
結の返事を確認すると扉を開ける。入ると部屋の中は執務室のような造りになっており、奥のデスクに結が座っている。そしてその左側に舞華がお淑やかな雰囲気を纏って、右側に愛亜が足を組んで座っている。
「ソフィさん……!」
旧知であるソフィ、こと愛亜に気が付いたセレナ。だが愛亜はセレナから視線を外し、窓の方を向いてしまう。
素っ気ない態度を取られ、セレナの表情が翳る。だが結の咳払いに反応して彼女の方に向く。
「ようこそ、セレナ・カデンツァヴナ・イヴ。改めて名乗ろう。我々はギリシャ政府管轄の機関 Z.E.U.S.だ。そして直轄である実行部隊 七星魔剣。私はその一人、氷室結だ」
自己紹介を終えるとゆっくりと椅子から立ち上がる。
「で、君を連れて来たのは炎城萌芽と胡 影風。確か一度会っているだろう。あの下水道で」
「改めてよろしくです♪」
突然横から顔を覗き見て手を振る影風に驚いたセレナ。萌芽は自由奔放な彼女に苦笑いを浮かべている。
「私は紫宮舞華。初めまして、平行世界の住人さん」
微笑んで言い放った言葉に思わず後退るセレナ。自分が平行世界の人間であると知られている事に驚いてしまっている。
そしてこの場にいる七星魔剣の中で、唯一名乗っていない愛亜だが、セレナの方に見向きもしない。
「彼女は紹介するまでもないか。とはいえ、愛亜がF.I.S.出身だったのは初耳だったが」
過去を晒されたくなかったのか舌打ちしている。何故そのような態度ばかりなのか、過去のソフィを知っているセレナからすれば目を疑う光景だ。
「さて、話が逸れたな。セレナ、君を拉致したのには訳がある。だが、いきなりそれを説明されても受け入れ難いとは思う。まずは段階を踏んだ後にいずれ話す。今日は君の扱いについてだ。質問等はその後に聞こう」
話しながらセレナの前まで歩く結。その冷徹な瞳と醸し出される雰囲気と圧力から、今は『はい』と返事するしかない。
「まずは君の立場としては捕虜となる。だが扱いとしては、客人のようにもてなそう」
そう言うと、舞華にサインを送る。受け取った舞華はデスクに置いてあった衣服一式をセレナに渡す。
「早速だけど、これに着替えてもらうわ」
「は、はい」
そう言って着ていた私服から、支給された制服に着替える。
黒いワイシャツの上に白い長袖のジャケット、黒いショートスカートの裾には白い線が入っているものだ。
「あら、似合ってるじゃない」
「ありがとうございます。これって、皆さんの着ている制服と同じものなんですか?」
「ええ。私達七星魔剣の基本的な制服よ」
「ですが、皆さんの制服って統一されていないみたいですが……」
セレナの着ている制服は、舞華と同じく基本形のものであるが、結のジャケットは軍服風に造られており、萌芽のスカートはフリル付きといった、隊員によって異なる形をしている。
「ええ。希望があれば制服をアレンジしてくれるの」
「制服の話はいい。次の話に入るぞ」
無駄話が過ぎたかと少し笑いながら下がる舞華。話の続きを始める。
「君の扱いを客人と同等にするが、逃走を企てる恐れもある。君の監視に星羅をつける。今この場にいないが、もうそろそろ……」
「お待たせ〜!戻ったよ〜!」
遅れてやって来た星羅が陽気な声を発して部屋に入ってきた。
「準備は出来たよ。愛亜、お願い」
一息吐いて椅子から立ち上がる。そして星羅と入れ替わるように部屋から出て行った。
「何か欲しくなったら星羅に頼め。彼女を介してその注文に応えよう。出来るもののみだがな」
最後に冷たい声で念押しする。逃げようなどと考えるな。暗にそれを示唆している。
「話は以上だ。聞きたいことはあるか?」
結に質問の有無の確認をとる。セレナも聞きたい事が山程あるが、どれから先に聞けばいいか迷う。だが、これは真っ先に聞かなくてはならない。
「マリア姉さんは無事なんですか?」
最初に出てきたのが姉の無事という内容に、七星魔剣の面々が面を食らったような反応になるが、セレナにとっては真剣だ。
察した結が答える。
「それについては心配ない。耐久力に優れたシンフォギアなら気絶で済む。今頃目を覚ましているだろう。これで満足か?」
「はい……!」
マリアの無事を知って安堵。緊張の糸が解れたかのようにその場にへたり込む。
「まさかと思うが……聞きたいことがそれだけ、ではないだろう?」
「はい……でも……」
結が問いかけるが、今のセレナでは思考がまとまらず質問どころではなさそうだ。それともう一つ。
「お腹が空きました。あはは……」
あぁ。と結が頷いて納得する。
「舞華」
「もう支度は済んでるわ。さっ、ご飯にしましょう」
そう言って舞華が先に部屋から出る。腹が減っては何とやら。尋問の続きは食事の後という事で、一旦中断する事になった。
「ご飯……!」
ご飯と聞いて目を輝かせながら部屋を出て行く萌芽。その背中をニコニコ笑顔を崩さずに追うように続く影風。
「それじゃあ行こっか」
「は、はい」
星羅に声を掛けられて返事をした途端、電子手錠のロックが解除された。突然の事で驚きの声が漏れ出る。
「そんなもの着けてたらご飯食べにくいでしょう?」
優しく微笑む星羅の手を繋いで食堂へと向かう。
(何だろう……不思議な人達だなぁ……)
目的の為ならば犠牲も厭わない残酷な組織かと思えば、捕虜の自分に対してここまで優しくしてくれる。仲間同士の信頼も強い。
ただの諜報組織と考えていたが、七星魔剣のメンバーの人となりに触れてから、印象が変わっている。
だが同時に、何故日本で暗躍するのか。その実態の謎がより深まっていく。
〇〇
一方、戦いの負傷により病院での安静を余儀なくされている響には困っている事がある。
「やっぱり病院のご飯は味気ないし足りないなぁ」
病院食は量と塩分やカロリー調整が施されている為、大食らいの響には物足りないものとなっている。それに今は病室で一人なのだ。療養の為とはいえ退屈は響が苦手とするものだ。
「未来に会いたいなぁ……」
いつ七星魔剣が動くか分からない今、装者である未来も心身ともに強くなるべく本部でトレーニングしている。自分が戦えないばかりに、未来に苦労をかけてしまっている。
一体何が出来るのだろうか。リハビリとして無理のない範囲で病院内を歩いているが、それすらやっとな状態な自分に一体何が出来るのだろうか。
(やっぱり……身体がすぐに重くなる……!)
少し動いただけで身体が鉛のように重くなる。休めば何ともないが、それでも今の状態では到底戦えない。
ただただ悔しい。それに気を取られて膝の力が抜けてしまった。
「うわっ!」
咄嗟に手すりに伸ばそうとした手も届かない。このまま頭を打ってしまう……
「おぉっ?!」
だが床に叩きつけられる前に止まるどころか、腕を掴まれそのまま後ろに引き寄せられた。
「おぉ?おっ?」
何が起きたのか分からず素っ頓狂な声が出てしまう。
「大丈夫か?」
声がした後ろに振り返る。その人は響の腕を掴んでおり、響の体を支えている。同じ病院着を着用しているが、そのサラサラとした長い金髪の女性の顔に見覚えがあった。
「あっ!」
公園で飛んできたサッカーボールを止めてくれた女性その人だった。
〇〇
響の病室に移動した二人。ただ響は普通に歩く事すらままならない状態なので女性の肩を借りて、病室に辿り着くと響をベットに寝かせた。
「本当に大丈夫か?虫の息じゃねえか」
「へいき……へっちゃら……」
「どう見てもへっちゃらじゃなさそうだけどな……」
言動と表情が一致していない様子に呆れる女性。
「じゃあアタシは戻るから、大人しく寝てろよ?」
「うん……。私、立花 響。あなたの名前は……?」
「ルミナスだ」
「ルミナスちゃん……ありがとう。あの時も……」
あの時と言われ、一瞬首を傾げたがすぐに思い出した。
「あっ。あの時のか。こんな偶然あるんだな」
「そうみたいだね……」
「とにかく今日は大人しくしてろよ?アタシは戻るからな」
そう言ってルミナスは響の病室から出て行った。
それから翌日。響の様子を見にルミナスが再びやって来た。
「今日は調子良さそうだな」
「うん!何か寝ると調子が戻るみたいなんだ〜!」
「そうか!」
昨日の調子が悪かった時と打って変わって、平常時のテンションの高さの違いがあっても驚かないばかりか笑っている。
「そう言えばルミナスちゃんはどうして病院に?」
「アタシか?まあ検査入院ってやつだ。ちょっとばかし検診が大掛かりでさ。けど病院って暇だろ?何か落ち着かなくてさ」
「分かるそれ〜!」
二人はすっかり打ち解け合った。気が合うのか特に食べ物の話には花が咲く。
「ふらわー?」
「そう!そこが私と親友がよく行ってるお好み焼き屋さん!あそこふわふわで美味しいんだ〜!」
「へえ、そうか。じゃあ退院したらそこで退院パーティするか。ってか、食い物の話してたら腹減って来たな」
そんな事を言っていたら部屋中に腹の虫が二匹分鳴り響いた。
「あはは……そうだね」
「よし、購買で買ってくるか。響の分も買ってやるよ」
「えっ?良いの?!」
「アタシも病院食には飽き飽きしてんだ。なんか適当に買って腹拵えしようぜ」
そう言って病室から出て行った。
「まさかこんな事があるなんて……未来が聞いたらビックリするだろうなぁ〜」
まさか同じ病院に入院しているとは夢にも思っていなかった。思いがけない再会だったが、また会えて嬉しいかった。
一方、病院の購買へと向かったルミナス。途中でタブレットを出して電話を掛ける。
「ああ、私だ。ちょっと頼みたい事があるんだ」
そう言うと、ルミナスの口角がつり上がった。
ルミナス
サッカーと人助けが趣味の男勝りな女性。
性格も口調も乱暴な所がある一方で、困っている人を見過ごせない一面がある。