S.O.N.G.本部の研究室。そこは実質エルフナインの城のような状態になっていた。というのもまともな研究者がエルフナイン以外にいないという背景もあって、自然にそうなっている。
そこでエルフナインは一人思考に没頭している。Z.E.U.S.との戦いが激化していく中、様々な謎が浮かび上がる。
(グラデアメイル……七星魔剣が使うシンフォギアにも匹敵する兵器。シンフォギアが歌の力で起動するなら、グラデアメイルは魔剣の力で起動する。それだけのものを、櫻井理論でも用いなければ作れないはず……)
七星魔剣が現れてから、エルフナインはアトラスと共にグラデアメイルの解明に勤しんでいた。そうすればグラデアメイルに対する対策も見えてくる。だがいくら研究しようにも、その謎は何一つ明らかに出来ない。
そもそもシンフォギアと同等の異端技術を作り出すなど、シンフォギアを作成した櫻井理論の提唱者 櫻井了子以外に出来る者はいない。それが出来るのだとすれば、グラデアメイルを作ったのは櫻井了子に匹敵する天才という他ない。
そして、突如現れた平行世界の住人である奏とセレナの出現。
(突然現れた奏さんとセレナさん。二人とも平行世界からやって来た。でもギャラルホルンの機能は停止していて、ゲートは閉じている。それがまさか……)
現在ギャラルホルンは基底状態のまま稼働を停止しており、ゲートは完全に閉じてしまっている。故に二人が現れる事などありえないはずだった。
(けど一瞬だけ、ギャラルホルンを保管している部屋から検出された高エネルギー反応。どうしてそんな事が……)
奏とセレナが現れてから調査した所、何とほんの一瞬ではあるがギャラルホルンから反応があった。だがすぐに消失し、再び基底状態に戻った。
問題は何故再びギャラルホルンが刹那とはいえ起動状態になったのか。これも現在、解明されていない。そもそもギャラルホルンは、平行世界という異次元を次元の狭間から通過するという、言ってしまえばデタラメが過ぎる性能をしている。
これだけでも他の完全聖遺物とは一線を画すものであり、今も尚その全容は解き明かす事が出来ない。
だがエルフナインは幾度も迷宮とも言える聖遺物の性質や打開策を見出してきた。命懸けで戦う仲間達が信じてくれたから。ならばその思いに応えなくてはならない。
(せめて……皆さんが戦いやすくなるよう、セレナさんを助ける為にも、頑張らないと……!)
——
一方、攫われたセレナはというと、敵の拠点のど真ん中で七星魔剣のメンバーと食事をしていた。
決してふざけているわけではない。七星魔剣のメンバーによって誘われたのだ。立場的に承諾せざるを得ないが、それにしては待遇が良すぎる。
食欲を唆る芳醇な香りのビーフシチューにサクサクのバケット。シャキシャキでみずみずしい生野菜を使ったサラダ。それをメンバーにはともかく、捕虜であるセレナに振る舞われたのだ。
「良いんですか?こんなご馳走になって……」
「勿論ですよ♪」
「ご飯は皆で食べた方が美味しいから」
「では、いただきます」
セレナの向かい側に座っている影風と萌芽に勧められるがまま、ビーフシチューを口にする事になる。だがそれを口に運んだ瞬間、口の中に広がる美味な味わいに目を輝かせた。
「美味しいです!」
臭みはなく、舌の上でホロリと溶けていくような牛肉。スパイスと調味料と渾然一体となったシチュー。バケットとも相性がよく、サラダが口の中に溜まった脂を洗い落としてくれるかのよう。
「美味しいでしょ?舞華の料理」
「これを舞華さんが?」
「そう。舞華は七星魔剣のシェフみたいなものでね、献立も調理も舞華が組んでくれるの」
セレナの隣の席に座っている星羅も一口食べて、その美味しさに悶える。
「ご飯は美味しいに超したことはないでしょう?いただきます」
向かい側にに座った舞華もシチューを食す。結も黙々と食べている中、一人いない事に気が付いたセレナ。星羅にどうしたのか尋ねる。
「あの、ソフィさんは?」
「ソフィ?あっ、愛亜か。愛亜なら……おっと噂をすれば」
そこに愛亜が現れる。席を見渡すと、空いているのはセレナの左隣のみ。ため息を吐いて空いている席に座る。
「ソフィさん……!このビーフシチュー美味し……」
「おい」
ぎこちなく話すセレナに冷たい声で遮った。
「二度とその名前で呼ぶな」
セレナに目もくれずに言い放った。
「ソフィさ……」
再びその名前を口にした瞬間、明確な殺意が籠った目を向けた。味方であるはずの萌芽も怯えてしまう。
「ごめんなさい……愛亜さん」
悲しくも偽りの名前で呼んで謝罪するセレナ。それで気が済んだのか、怒りを沈めてセレナから視線を外した。
(ソフィさん……)
怒声一つあげる事なくセレナの身を縮こませた目線。あの眼に宿る覇気と怒りは尋常ではない。
(今のソフィさん……率直に言って怖い……。ソフィさん、一体どうして……?)
元々愛亜、ことソフィは正義感に熱く曲がった事が嫌いな実直で心優しい性格だった。
『まだ始まったばかり。諦めるなんて早いよ』
それが今はどうか?セレナが知っている人物像とはあまりにもかけ離れている。人の命を奪う事を何とも思わない非情な人間に変貌してしまった。
ソフィの身に一体何があったのか。セレナの平行世界でもソフィは存在していたが、残念ながら亡くなってしまっている。
『私にも守りたいものがある。その為なら、私は命を投げ出す覚悟がある。あの子にとってのヒーローである為にも、私は戦うよ』
(あっ……!)
この時、セレナは大切な事を思い出した。
(そうだ……!確かにソフィさんには妹さんがいたはず……!もしかしたらこの世界にも!)
天啓の閃き。それが頭に過ぎったその時だった。
七星魔剣が使用している通信機が一斉に通知音が入る。その時のメンバーの顔は真剣な顔付きへと一瞬で変わる。
この緊張感漂う空気の中で、ただ一人事情を何一つ分からないセレナが戸惑う。
「み、皆さんどうしたんですか?」
「しっ。司令部からの通達だから、話しかけないで」
先程まで優しい笑みを浮かべていた舞華が、真剣な顔付きでセレナに注意する。
『通達。現地エージェントからの報告により、不審な人物が目撃された。現在東京の臨大寺周辺を移動中。至急調査に向かえ』
通信機よりボイスチェンジャーによって加工された声で七星魔剣の隊員に指令が下る。この時をもって、儚くも楽しい食事の時間は終わりを告げた。
「聞いたな?星羅、愛亜はエリア周辺を捜査。萌芽と影風は後衛として二人のサポート。私は先に仕掛けをしてから星羅達に加わる。舞華はセレナの監視を。以上」
五人が結の指令に頷き、舞華以外のメンバーはそれぞれの持ち場へと赴く。
「あの……一体何があったんですか?」
「悪いけど、その質問には答えられないわ。セレナ、あなたには部屋へ戻ってもらうわ」
舞華が電子手錠を出してはセレナの両手にロックを掛けた。そのまま部屋へと連行される。部屋に入ると、そこで手錠が解除される。
「今は有事だからここで大人しくしていて。逃げようとしたその時には、あなたを痛めつけなきゃいけなくなるから」
そう告げて扉を閉め、施錠。セレナは再びこの部屋で一人となった。
(またこの部屋に……)
『大丈夫かセレナ?』
一連の様子を見守っていたヴェイグが話しかける。ギアが無い以上、今のヴェイグには何も出来ない。セレナの役に立てない自分にもどかしさを感じている。
「はい……」
セレナも同じだった。囚われたばかりに、ここで手をこまねいている自分が歯がゆい。脱出しようにも扉には鍵をかけられ、窓も開けられないよう作られており、防弾仕様では破壊のしようがない。
何も出来ない無力。二人はその身をもって思い知らされた。
〇〇
その頃、入院している響の見舞いに未来とクリスがやって来た。
「やっぱり来てくれると嬉しいよ〜。病院ってする事ないから退屈で退屈で」
「ったく、本当に病人なのかぁ?」
「響の事だからあまり心配はしてないけど、だからって変に動き回るのもダメだからね?」
「分かってるよ〜。あっ!そうだ未来!こないだボールから守ってくれたあの人!ここに入院してたんだよ!」
「えっ?あの時の?」
二人で公園を散歩していた時、飛んできたサッカーボールを止めてくれた女性と再会した事、その女性がルミナスという名前である事、そのルミナスが危ない所を助けてくれたのを話した。
「そんな偶然があるんだ……」
「でしょー?私もビックリしちゃったよ〜」
「おい。あたしを置いてあたしの知らない奴の話を始めんな」
「あっ。ごめんごめん!じゃあ今度クリスちゃんにも紹介するよ!」
二人が自分の知らない人の話で盛り上がっているのを気にくわないクリスがツッコむ。
そこに、未来とクリスの端末に本部からの通信が入る。
「おうオッサン、どうした?」
『アイスノイズの反応が確認された!』
「こんな真昼間からか?!」
Z.E.U.S.は目的の為ならば非合法な手段も厭わない諜報機関。その特性上、今までアイスノイズを仕掛けて来るのは人目のつかない真夜中が殆どだったのが。今回は白昼堂々と仕掛けて来た。
既にノイズ警報が街中に鳴り響き、民間人はその異形の怪物から逃げ出しているが、まだ逃げ遅れている者がいるかもしれない。
「アイツらの好きにさせてたまるか!行くぞ!」
「うん!」
通信を切って病室から飛び出すように出ていく。だがその寸前、未来が響に伝え忘れていた事があると思い出しでその場に止まった。
「行ってくるね響」
「うん。無茶しないでね未来」
響の言葉に頷いた未来。すぐに病院を後にした。
〇〇
街中の車道をアイスノイズの群れが一糸乱れぬ動作で行進する。既に人はおらず、目立った犠牲者もいない。だがアイスノイズが踏み込んだ道には冷気が漂い、踏んだコンクリートや通り過ぎた建物の窓が凍りつき、芽吹いていた花には霜が降りる。
その行く手には先に到着した奏、調、切歌が立ち塞がる。これ以上の蹂躙による恐怖から、無垢な市民を救う為に。
「行くぞ!」
奏達が詠唱を唄い、それぞれのシンフォギアを身に纏う。それに反応したのか、奏を敵と判断したのか、アイスノイズは奏達を標的と定めて攻撃を仕掛ける。
「返り討ちにしてやるよ!」
奏もアイスノイズの先鋒隊に向かって突撃。振るった槍の穂先がアイスノイズを両断。すぐさま次の個体を穿ち抜き、次々と周囲のアイスノイズを屠っていく。
左右からの挟撃で奏を狙う個体は、右側が調、左側が切歌がそれぞれのアームドギアで阻止。刈られた個体は粉氷のように散った。
「いくら束になって来ても!」
「まとめてぶった切りデェース!」
次々と襲い来るアイスノイズを威勢よく叩き切っていく。奏もその勢いに混ざるように一度の攻撃で複数の個体をまとめて始末する。
「オラアァァッ!」
高く飛翔した奏が槍を投擲。すると、一本の槍から同じものを大量に複製されたそれが雨のように降り注いだ。
【STARDUST∞FOTON】
群れを成すアイスノイズを次々と屠っていくが、それでもまだ終わりが見えない。いくら倒しても後続のアイスノイズが再び襲いかかる。数が減っている気がしない。
「クソッ!数が多い……なっ!」
奏の背後から一撃を入れようとしたアイスノイズを串刺しにして返り討ちにする。
「全然減らない……!一体どうして……?!」
「キリが無さすぎにも程があるデス!」
倒しても倒してもまた次の個体が前身。軍隊のように足並み揃った行軍を前に、装者達の体力が徐々に浪費されていく。
さらに浪費されていくのは体力だけではない。三人がギアを維持する為のLiNKERの効果時間も確実に削られている。
ここで早くアイスノイズを全て片付けなければ、七星魔剣のグラデアメイルと戦う時にはタイムオーバーを迎えてしまう。そうなれば命はない。その焦りを、アイスノイズの群れの中に潜んでいる者が見据えていた。
「アイツ……!」
奏が結を見つけた。彼女こそがこのアイスノイズを生み出している張本人。だが本人はグラデアメイルを纏っていない。こちらを視認した事に気が付いたのか、ゆっくりと歩んで離れていく。
「逃がすか!」
結を追おうとするも、その前に無数のアイスノイズが立ちはだかる。
「邪魔だぁっ!」
槍の穂先を高速回転させて発生させた竜巻を、邪魔なアイスノイズを穿つ。
【LAST∞METEOR】
次々と壁となっていたアイスノイズを葬り、竜巻が結に迫る。だが焦っている様子はない。
「ふっ……グラディエルフォーゼ!」
起動詠唱を唱えた結の眼前で竜巻が消失。同時に深蒼の鎧を身に纏った姿へと変身した。
何も告げず、右手に持つレイピアを振り下ろし前進の号令を下す。奏の大技によって空いた穴を塞ぐように、アイスノイズの壁が再編される。
「君達の相手は私ではない」
さらに指をパチンと鳴らした。その瞬間、壁となっていたアイスノイズの身体が変異、次々と粉雪になって分解される。
「何だ……?!」
すると、雪がアメーバのように一箇所に集約。徐々に増幅、肥大化を経て新たな肉体となる。それはまるでトロールを連想させる肥満体の巨人の姿となった。
「今日は君達と戯れるつもりはない。精々こいつの遊び相手にやってやれ」
「逃げるなデス!」
「待って切ちゃん!今はあれをどうにかしないと!」
そう告げた結が戦線から退いた。装者達は追い掛けたいのは山々だが、アイストロルが行く手を阻んでいる限り、追撃は難しい。
「来るぞ!」
敵と定めた三人に向かい、アイストロルが猛獣の咆哮を挙げた。
アイストロル
アイスノイズの身体を合体させたアイスノイズの変異体。
大型ノイズに類似されているが、こちらは巨人の形に寄せており、オリジナルの大型ノイズよりも機敏な機動力と豪快な破壊力を兼ね備えている。
但し戦闘特化という事もあってか知能は低め。