装者達がアイスノイズと戦っていた同時間の病院。ノイズ警報が発せられ、既に病棟内の患者やスタッフがシェルターへの避難が開始されている。
だがその流れに逆らおうとする者が一人いた。
「はぁ……はぁ……」
歩行器に掴まりながらシェルターとは反対の方へと、息を切らしながら少しずつ歩みを進めていく。
きっかけは、響のいつもの人助けだ。ノイズ発生警報が鳴り響くと同時に、響は患者の避難誘導を促していた。
「押さないで!落ち着いて避難してください!」
今は戦えずとも、少しでも役に立ちたい。響は動ける内に行動を起こす。その最初のアクションが、一般市民の避難誘導。
「ありがとう!君も避難したまえ!」
「分かりました!その前に、逃げ遅れている人がいないか見てきます!」
そう言ってシェルターから離れて今に至る。病室に誰もいない事を確認して次の部屋と、一つ一つ見て回っていく。
「良かった……みんな避難した……」
誰もいない事を確認すると今度はエレベーターへと向かう。屋上であれば、アイスノイズがこっちに近づいても迎撃出来る。もちろん時間制限はあるだろうが、それでも時間稼ぎにはなる。
エレベーターの上るボタンを押し、電光パネルの数字が変わる。三階、響のいる階層にエレベーターが止まると、自動扉が開いた。
「あっ」
「あっ……!」
だがエレベーターに入ろうとした時、驚きの余りどちらも動けなかった。
「響!」
「ルミナスちゃん?!」
エレベーターを呼んだ響とエレベーターに乗っていたルミナス。思わぬ出会い頭の遭遇だった。
〇〇
一方、アイスノイズの発生の中心地点である街中。アイスノイズを合体させた新たな氷の怪物、五メートル以上はあるであろう巨人 アイストロル。アイスノイズの対応に当たっていた奏、切歌、調を見下ろして睨む。
「あたし達を餌だと思ってんのか?だったらあたしらがお前を食らってやる!」
「全身なます切りにしてやるデスよ!」
「切ちゃん、あれは食べられないよ」
「っ!来るぞ!」
アイストロルが振り上げた拳を振り下ろした。三人ともその場から回避すると、三人がいた場所がクレーターのように陥没する。
「なんて破壊力……!」
「さすが大型なだけあるな。だが!こいつはどうだ!」
奏がアイストロルの剛腕を避けつつ懐に潜り込んだ。
「くらいなぁっ!」
槍の穂先がアイストロルの胴体を穿ち抜く。そこから穂先を高速回転させて、竜巻のエネルギーを生み出す。
【LAST∞METEOR】
吹き飛ばされ、地に倒れ伏せたアイストロル。その胴体に、空いた穴がより大きくなっていた。
「やったのデス!」
「流石奏さん……!」
「いや、まだ終わってねえ」
あれだけの大技を受けたにも関わらず、アイスノイズのように身体が氷となって崩れずに残っている。奏は嫌な予感を覚える。その時だった。
「のわっ!」
「えぇっ……?!アイスノイズが!」
突如走り出したアイスノイズの群れ。調と切歌に襲い掛かるかと思われたが、何と二人の間を走り抜けてしまった。
「あたし達をスルーデスか?!」
「どうして?!」
まさかの事態に切歌と調が戸惑うが、嫌な予感を感じていた奏が、二人を走り抜けた個体を切り捨てる。
「何でこいつら、急にあたしらを無視しやがる?!」
だがそれでも数で押し通され、遂に奏の横を通り過ぎた。邪魔者がいなくなった個体の身体が崩れ落ちた。そして身体を構成していた雪がアイストロルに向かい、取り込まれた。
次々と雪がアイストロルに吸収され、空いた風穴がみるみる塞がれていく。
「コイツら、あのデカいのを回復させる為に自分達から取り込まれたのか?!」
(雑兵も使いようには巨人の為の保存食。一匹でも生かせばそれが糧となり、何度でも再生する)
バイクを最高速度で走らせる結。左手から撒き散らした雪の花が地面に落ちる。すると、そこからアイスノイズが召喚される。
戦力だけでなく、これらを肉の壁として利用する無数の盾、そしてアイストロルの回復用の餌。多様な使用用途に富んだアイスノイズ。
「さあどうするシンフォギア装者……?LiNKERのタイムリミットが迫っているぞ……」
完全に治癒が終わったアイストロルが再び立ち上がり、唸り声を挙げる。
「だったらこれはどうデスか!」
イガリマの大鎌の碧刃が三つに分離。それらの刃を振り下ろして投擲する。
【切・呪りeッTぉ】
宙を舞う碧刃はアイストロルの両手を断った。
「調!」
「たああぁぁーー!」
ツインテールのアームと脚部のローラーと連結した鋸がタイヤのように走行。そのままアイストロルに向かって突撃。
【非常Σ式・禁月輪】
身体を真っ二つに割れたアイストロル。崩壊を始めるがすぐさまアイスノイズが動き出す。再び同化して再起動させる為に。
「一匹も逃がすな!切り刻め!」
「「了解(デェス)!」」
アイストロルに向かって駆けつけるアイスノイズを切り捨てていく。
だが物量戦で押し通ろうとするアイスノイズ。三人だけでは手が足りない。
「キリがないデス……!くっ……!」
「LiNKERが……!」
「時限式も限界か?!」
三人の身体にスパークが生じ、全身の筋肉が悲鳴をあげる。
「LiNKERのタイムリミットが!」
「三人の適合係数低下!」
S.O.N.G.本部でもその様子がモニタリングされている。モニターに映るバイタルが赤い信号と波形で危険な状態である事を表示している。
しかも悪夢は終わらない。
三人がギアのバックファイアに苦しめられる中、一体のアイスノイズが三人を抜いた。二体目、三体目と次々と抜かれてしまい、アイストロルの身体に刻まれた傷が修復される。
「クソッ……!またやり直しかよ……!」
完全蘇生されたアイストロルが、奏に向かって腕を伸ばす。
「こうなりゃテメェだけでも道連れに……」
「頭上注意だぁ!!」
空に響くクリスの声。同時に結晶状のクラスター弾がアイストロルの頭上より降り注いだ。巨大な図体では避けようがなく、そのまま撃沈した。
空を見上げると二基の大型ミサイルを乗り捨てたクリスと未来が現着。操作を失ったミサイルはそのまま小型のアイスノイズに向かって墜落、爆発と共に多くの群れを巻き込んで一網打尽にする。
病院からここまで自分達の足で向かっていたら時間がかかる。ならばギアを用いてショートカットした方がベストだと考えた。そこで屋上でギアを纏い、イチイバルのミサイルに乗り、一気に近道したのだ。
「行くぞ!」
「うん!」
ミサイルの爆撃から残ったアイスノイズが一斉に駆け出して、アイストロルの方へ向かう。だが大半が滅んだのか行進に隙間が生じている。
「はあぁぁー!」
フルオープンにした神獣鏡の扇から紫色の光線が発射される。
【閃光】
光線に飲み込まれたアイスノイズ達は塵すら残らずに消滅。さらにクリスのリボルバー拳銃の銃口から放たれた弾丸は一発も撃ち漏らすことなく全滅させた。
アイスノイズを全滅させた事を確認した未来が、アイストロルの残った身体に光線を浴びせてトドメを刺した。これにて周囲のアイスノイズの消滅を確認した。
「へっ。美味しい所は持ってかれたな。けど助かったよ」
あのまま援軍が来ずに続いていたらジリ貧で負けていた。まさにギリギリの大逆転劇だった。
モニタリングしていたS.O.N.G.本部にいた面々も、切羽詰まった状況から脱したが、まだ油断は出来ない。
「アイスノイズの反応無し。ラハブのグラデアメイルの反応も消失しました」
「そうか」
モニターに映し出された赤い光点で示されていたアイスノイズは無い。藤尭の報告に、弦十郎が重く答える。
「司令、やはり気になりますか?」
「ああ」
弦十郎の右腕であり、凄腕の諜報員である緒川もこの違和感を感じ取っている。だが共に戦いを見守っていたアトラスも浮かない顔をしている。
「前回と動きがまるで違う」
「アトラス君もそう考えるか」
「僕も……って事は司令殿も?」
「ああ。いつもZ.E.U.S.のメンバーの誰かが、それも複数で活動をしていたからな。それが今回の敵襲はアイスノイズのみ……これは……」
今回は悪人も含めてアイスノイズによる犠牲は出なかった。それは喜ばしい事だ。
だがこれだけのアイスノイズの大群を放った割には、街の破壊や人の犠牲が殆ど無い。それがどうも気掛かりだ。
そして今回、七星魔剣のメンバーは結を除いて姿を見せなかった。これまでの動きから、七星魔剣の誰かが必ず、それも複数人を実行部隊として動員される。だが今回は結たった一人。
「Z.E.U.S.め……一体何を企んでいる……?」
違和感を拭えない弦十郎。それを感じ取ったのかオペレーター陣は周囲の索敵と捜索を開始する。
〇〇
同じ頃、装者達とアイストロルとの交戦地帯から離れた所に寺院が立っていた。そこが臨大寺と呼ばれている。
臨大寺は古い時代から存在する由緒ある寺院として広く知られており、観光客も多く訪れている。だがノイズ発生警報が鳴り、一般人はシェルターへと退避。周囲には人っ子一人いない。
だが寺院の山門より、水色のジャケットと黒いシャツ、水色のラインが入ったフリルスカートを身にまとった星羅がたった一人で侵入した。
開いた端末の液晶画面にはレーダーが映っている。黄色の光点、即ち星羅を中心に緑色の光が円を描くように回っている。
これを手にしながら寺院の中を巡っている。だがレーダーには何の反応も示さない。
「ここにも反応は無し……やはり本堂かな」
結が装者を足止めし、S.O.N.G.に気取られないよう注意を引き付けているが、向こうにアトラスがいる以上は時間を掛けられない。
念の為と思い、本堂を後回しにして周囲の堂から回っていたがすぐに本堂へと走って向かう。
鍵が掛かった扉はキーピックでこじ開けて内部へと入る。護身用の拳銃を構えて捜索に踏み切る。中には貴重な菩薩像が並んでおり、天井には幾つもの黄金の吊り灯篭が下がっている。人は誰もいない。
拳銃をジャケットに収め、痕跡を残さないよう手袋をはめて調べる。菩薩を一つ一つ調べ、安置されていた棚や壁に仕掛けが無いか隈なく捜索する。
(何処にもない……?いや、もし奴らがこの周辺に出没と考えるなら……っ!)
その時、沈黙を貫いていたレーダーに反応があった。赤色の光点がそれを示している。だがそれは、黄色の光点である自分とほとんど重なっていた。
寺院の周囲を探した時、屋根には何も無かった。ということはこの反応は……
「下……?!」
それに気付いた時、その足で地響きを感じ取った。この轟音は人間やそこらの動物が出せるものではない。もっと巨大な何か。
嫌な予感を察知した星羅はすぐに本堂から脱出。同時に轟音と共に木の床と畳が破られた。土や木材の破片と共に床から這い出た異形の手、そしてその胴体と風貌が咆哮と共に現す。
「こちら星羅!複製聖遺物を発見!その名はネフィリム!」
かつて米国の聖遺物研究機関 F.I.S.が引き起こしたフロンティア事変。その要であったネフィリムまでもが複製されていた。星羅は通信機で全隊員に報告する。
『やはり当たったか。誰か操っている者はいるか?』
「レーダーには何も……。けど必ず何処かに……っ?!」
突如別の御堂からも轟音が。振り返ると地鳴りと共に崩壊。同時にそこから異形の怪物が地より這い出た。
「嘘でしょ……?!」
境内のそれぞれの御堂からネフィリムが顕現。その数五体。
「どういう事?!複製は一個だけだって言ってたのに?!」
『分からん。それらが分身なのかそれともそれぞれが独立した複製聖遺物なのか、いずれにせよこのまま野放しには出来ん!』
ここから一匹でも野に解き放たれれば被害は想像もつかない。星羅もその事は分かっている。なのでジャケットのボタンを外して水色の結晶のペンダントを出す。
『使用を許可する!だが、くれぐれも……』
「分かってる。グラディエルフォーゼ!!」
ペンダントの水色の結晶が強い光を放ち、白銀の鎧を身に纏う。右手に水色に光る片手剣、左手には巨大な盾。その姿はまるで天空より舞い降りし聖天使。それが天の魔剣 アゾットのグラデアメイル。
その反応はS.O.N.G.本部にもすぐに知れ渡った。藤尭と友里がそれをプログラミング、解析した。
「臨大寺で複製聖遺物とグラデアメイルの反応を検知!」
「聖遺物の識別コード!アゾットと……これは!」
モニターにAZOTHの文字が大きく表示される。そして複製聖遺物ネフィリムが映った時、その因縁が蘇った弦十郎達を驚かせた。
「あれはネフィリム?!」
「忌まわしき巨人までもが複製されていたか!」
ネフィリムには随分と苦汁を舐めさせられた。それの為だけに、どれ程の命が奪われたか。複製であっても、あれは野に解き放ってはならない災厄の象徴だ。
「響君を除いた全装者に通達!すぐに臨大寺へと向かえ!敵はネフィリムだ!!」
再び巡った因縁を断つべく、弦十郎は強く指令を下した。