戦姫絶唱シンフォギア 七つのヒカリ   作:レーラ

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今回、Z.E.U.S.側の必殺技のフォントを編集してみました。


冷たい憤怒

 まさに両者共に青天の霹靂だった。グラデアメイルの使い手達によって窮地に立たされていた最中に、援軍が駆けつけた。

 

「間に合ったか……」

 

 工事現場であるポイントAに小日向未来が現着した。未来は神獣鏡のシンフォギア装者であるが、シェム・ハの一件もあって複雑な事情が絡んでしまうが故に出撃させるのに躊躇いがあった。

 

 とはいえ万が一に不測の事態に陥った場合、特別に未来を出動する事になっていた。

 

 だが問題なのは別にある。ポイントAにあるはずのガングニールの反応が、山中のポイントBで確認され、ポイントBにあるはずのアガートラームの反応が、ポイントCに表れている。 

 

「一体……何が起きているんだ……」

 

 通信が妨害されているポイントBで何が起きているのかは分からない。だがそれがないポイントCの様子をモニターに映す。

 

「そんな……どうして?!」

「司令!」

 

 モニターを映した友里と藤尭が驚愕の顔を浮かべながら弦十郎の方を見る。弦十郎も、目の前で起きている事態に驚きを隠せないでいる。

 

「セレナ……君だと……?」

 

 この世界にいるはずのない人間。セレナ・カデンツァヴナ・イヴがアガートラームのギアを纏って構えているのだ。

 

 既にこの世のものではない人間が現れるなどありえない。だがそれは普通ならばの話。その普通を簡単に覆す完全聖遺物が存在する。

 

「藤尭!ギャラルホルンの反応は?!」

「それが……反応に変化はありません!」

「では、彼女達は何故ここに?!」

 

 ギャラルホルン。数多のIFの世界、つまりこの世界では起こりえなかった並行世界と繋ぐ完全聖遺物。シンフォギアの生みの親である櫻井理論の提唱者 櫻井了子率いる発掘チームにより発見された。

 

 ギャラルホルンによって繋がれた並行世界に起きた異変を幾度も知らせ、多くの世界を渡り歩いた。

 

 奏が生存している世界。陽だまりが失われた世界。セレナが生き残った世界。そしてシンフォギアが存在しない世界など挙げればキリがない程に。

 

 つまり今ここにいるセレナは、その平行世界から現れたセレナという事になる。

 

 そして、セレナがここにいるという事は、ポイントBで反応があったガングニールの装者が一体誰なのか。想像に容易い。

 

「まさか、奏までもが……。だが、ギャラルホルンはベアトリーチェが倒れてより、ずっと基底状態のはず。一体何故……?」 

 

 人々に呪いを振り撒くカルマノイズことガンド、そしてそれを生み出した組織ウロボロスの首領 ベアトリーチェとの死闘を経て、ギャラルホルンは基底状態となり、ゲートが完全に閉じてしまった。

 

 現状、開く術はないと判断されたものの不用意に保管場所を変えられなかった事から、現状そのままの状態で保管される事になった。

 

 奏もまた、自分の信念を貫き、絶唱を唄った末に命が尽きてしまった。本来、ここにいるはずのない人間。それが五体満足で、響と同じガングニールを身に纏っている。

 

「か、奏……?!どうして……?!」

「相変わらず固いな翼は。そんな事今はどうでもいいだろ?」

「どうでも良くないでしょう?!だってギャラルホルンは機能していないはずじゃ……」

 

 目の前に現れた奏に、翼とマリアが困惑している。特に防人として強くあらんとする翼は、思わず本来の繊細な女の子の本来の性格が表に出ている。

 

「あー。それなんだけどな、色々とややこしい事になってな」

 

 頭を掻きながらなんて説明すればいいか思考を巡らせている。

 

 ポイントCも同様、セレナが現れ調と切歌が驚きを隠せないでいた。

 

「その……突然目の前に、ゲートが開いたんです。そしたら、皆さんが危険な目にあっているような気がして、思わず飛び込んだんです。そしたらここに」

「ゲート?」

「飛び込んだデスと?!」

 

 ゲートと言われ、調と切歌のみならず、本部の面々も唖然としていた。ゲートが閉じられた今、平行世界に渡る術は存在しない。だが基底状態ではゲートは開かない。

 

 謎が更に謎を呼び、深めている。だがその解明は今するべきではない。 

 

「詳しい説明は後だ。それにしても、見た事ない顔だね。それに、そのシンフォギアみたいなパワードスーツ……。そんでもって……その眼だ」

 

 またしても邪魔が入り、突如現れたイレギュラーを睨みつける愛亜。かつてノイズに家族を失い、ノイズを殺す為ならば喜んで地獄に落ちようとしていた、かつての自分と重なった。

 

「今にも全てをぶっ壊しちまいそうな、その眼。懐かしいな」

「天羽奏……!貴様、死んだはず……!」

 

 愛亜はギャラルホルンの事を知らない。故に死んでいるはずの奏がここにいる事が信じられずにいる。だがそれで諦めるような愛亜ではない。

 

 愛亜にやられて負傷した翼だが、最強の援軍にして片翼である奏が現れ、情けない姿をいつまでも晒せないと意気込み、立ち上がって隣に立つ。

 

「おいおい翼。その体じゃ……」

「私も戦う。あれは並の相手じゃない」

 

 グラデアメイルと愛亜自身の戦闘能力の高さをその身で味わった。奏に忠告するが、本人はやる気満々だ。

 

「だったら尚更あたしに任せな。ああいう手合いはあたしに向いている」

「なら、私も混ぜてもらえるかしら?」

 

 そう言いながら立ち上がったマリアも翼の隣に立つ。翼と比べれば受けたダメージはまだ軽い。そして、マリアにはまだ戦わなければならない理由がある。

 

「あの子は私の客人よ。勝手に取らないでもらいたいわね」

「何だい?知り合いかい?」

「ええ。ちょっと古い馴染みなの」

 

 住む世界が違うとも、二人は共に戦った仲間。こうして軽口を叩き合えるのも、互いを信頼している証だ。

 

「だったら手伝ってやるよ。色々言いたい事、あるんだろう?それならやれるな翼?」

「ええ。私も協力しようマリア」

「ありがとう。二人とも、手を貸して」

 

 戦力の数はマリア達が勝るが、相手は手練の暗殺者。それが身に纏うのはシンフォギアと互角以上に渡り合える戦闘装束グラデアメイル。油断は出来ない。

 

 そして懸念点はもう一つ。それはマリアにある。

 

「マリア、LiNKERの効果は?」

「そろそろね……」

 

 マリアがそう言うと緑色の薬品が入った注射器を出し、それを首筋に打ち込んだ。劇薬を本来であれば連続使用は控えたかったが、やむを得ない。

 

「さあ……続きをやりましょうか。ソフィ!」

「図に乗るなよ……マリア!」

 

 マリアと愛亜(ソフィ)。互いに得物を構える。戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

〇〇

 

 

 地下水道のポイントCにセレナが現れ、切歌と調を追い込んでいた空気が一変。萌芽と影風が攻撃を一旦止めた。

 

「装者は皆出て来たと思ってたのに、まだいたの……?」

「けど、あのギアってアガートラーム……ですよね?その装者は愛亜さんが相手してるはず……ですよね?」

 

 萌芽と影風はお互いとセレナをそれぞれ交互に見ながら首を傾げる。

 

 セレナも、初めて見るグラデアメイルを前に警戒を怠らない。

 

「グラデアメイル……。まるでシンフォギアみたい……」

『気を付けろセレナ』

「ヴェイグさん……?!」

 

 セレナの中に眠るドヴェルグの精霊 ヴェイグがセレナに忠告する。

 

『あの赤い方の持っているもの。見覚えがあると思ったが、やはり……!』

 

 セレナの体を通して、ヴェイグは萌芽のグラデアメイルから放たれているエネルギーを感じ取っていた。そしてその顔は険しいものへと変わる。

 

『あれは大陸の全てを焼き尽くす滅びの魔剣、レヴァンティンだ!』

「レヴァンティン……」

「どうしてこの魔剣の事を……?」

 

 セレナがその聖遺物の名を呟いたのを、萌芽は聞き逃さなかった。セレナは遅れてやって来た為、グラデアメイルの事も、そして萌芽の使うグラデアメイルの魔剣について何も知らないはず。それを見ただけで当てたと、ヴェイグの事を何一つ知らない萌芽にはそう捉えられる。

 

「まあまあ良いじゃないですか。知られた所で、私達には絶対勝てない……でしょう♪」

「うん」

 

 シンフォギア装者が一人増えたところで、この優位が崩れる事はない。 

 

 一方、調と切歌はLiNKERを投与。適合係数を引き上げる事に成功する。 

 

「これでまだ戦える」

「セレナも来て、第二ラウンドデス!」

 

 セレナが参戦し、二人が意気揚々となって対峙する。

 

「たかだか一人増えて、勝ったつもり?」

「まとめて壊してやりますよ!」

 

 影風が駆け出し、構えを取らせる間も与えずにセレナに攻撃を仕掛ける。

 

「「やらせない(デス)!」」

 

 だがその速攻を切歌の大鎌と調の鋸が防いだ。だが影風が続けて回し蹴りでアームドギア諸共、二人を後ろに飛ばした。

 

「「うわああぁ!」」

「暁さん!月読さん!」

「余所見してる場合ですか? 」

 

 振りかぶった拳を突き出し、風の拳圧を放った。

 

【轟竜断空拳】

 

 セレナは短剣で防御するが、まるで刃と打ち合っているような重さで驚愕する。

 

 だが影風は休む暇を与えずに連続で轟竜断空拳を放つ。セレナは咄嗟に短剣を地面に刺して、そこから一筋の白い光線を放つ。

 

【SILKY†RAY】

 

 轟竜断空拳の嵐は光線で軌道がそれて、セレナの横を通り抜けて消えた。だがSILKY†RAYも影風に当たることなく弾かれた。

 

「危なかった……」

『セレナ!奴の後ろだ!』

「えっ……?」

 

 ヴェイグの注意で気が付いた。影風の後ろがやけに明るい。その正体を見て、セレナは戦慄した。

 

 なんと後ろで待機している萌芽が大剣に炎を纏って構えている。

 

「まさか特大級をぶっぱなすつもりデスか?!」

「そんなのを放たれたら、逃げる場所がない!」

 

 切歌と調がセレナの援護に回ろうとするが、目の前に地面から隆起した氷が裂け、アイスノイズが姿を現した。

 

「こんな時に!」

「邪魔するなデス!」

 

 壁となっているアイスノイズを二人で切り刻むも、その壁は厚い。

 

『力が増大している!あのまま増え続けたら避ける事も防ぐ事も出来なくなる!』

「じゃあ早く倒さないと!」

「そうはさせませんよ!」

 

 ヴェイグの言う通りに萌芽を倒そうとしても、影風がそれを許さない。突然繰り出された鉄山靠で大きく後ろへ飛ばされる。だがそこに調と切歌がキャッチした。

 

「大丈夫セレナ?!」

「はい。ありがとうございます」

「けど、それよりもヤバいデス!」

 

 炎を纏った大剣が頭上に振り上げている。それを確認した影風が萌芽の後ろに下がった。

 

「焼き付けしてやる……!」

 

 運命の刻。滅びの大剣が振り下ろされ、灼熱の業火がシンフォギア装者に襲いかかった。 

 

 

〇〇

 

 

 廃れた工事現場のポイントAに駆けつけた未来。神獣鏡のシンフォギアを身に纏い、結と向かい合っている。

 

「響……!」

 

 響を傷つけられ、今の未来には怒りで狂いそうになる。だがそれでもその一線を越えないのは、それが響が望んでいないからだ。

 

「神獣鏡……あらゆる魔を祓う歪な鏡」

 

 結は未来を苦々しい目で見る。神獣鏡の装者が来る事は想定していたが、何処に現れるのか予想が出来なかった。だがここに来た所で戦いをやめるつもりはない。

 

「今更何しに来た?まさか私に勝てるつもりでいるのか?」

「いいえ。響を助けに来たんです!」

 

 未来もまともにやり合って勝てるなどと思う程、思い上がっていない。

 

「だが良いのか?今のガングニール装者は、ラハブの力で、少しずつ身体の熱が奪われている。直に手足が麻痺し、息も出来ず、心臓が止まる」

 

 そう告げられ、未来とクリスが意識を失っている響の方を見る。事実、クリスが氷の破片を受けた箇所を触ると、そこを中心に響の身体が冷たい。だが心臓は動いており、まだ冷たいのは傷の周辺だけだ。

 

「急所を外した故に、時間は残されているだろうが……それもいつまで持つかな?」

「テメェ!」

『落ち着けクリス君!』

 

 弦十郎が通信越しに諌める。

 

「今救護を向かわせている。未来君は、響君を……」

『おいオッサン!こんな所に非戦闘員を向かわせるのか?!』

「ノイズの類いが相手でなければ、案ずる事はない!」

 

 いくらクリス達でも、戦いに巻き込むのは猛反対だ。だが今向かっている救護班の車の中に、緒川も乗っている。

 

『もうじき緒川が到着する。それまで敵の猛攻を阻止するんだ!未来君はクリス君の援護だ!』

「おう!」

「了解しました!」

 

 クリスが結の前に立ち、銃口を向ける。未来は一度後退し、響を守るように立って扇を構える。

 

「ならばまずは君からだ……イチイバル装者!」 

 

 アイスノイズを呼び出し、氷のように冷たいレイピアの刃を構えて駆け出す。同時にクリスが二丁のリボルバー拳銃の引き金を引き続ける。

 

 刃で弾きながら間合いに入り、クリスの心臓を狙って突く。それをクリスは銃身で弾き、それを剣のように振り下ろした。

 

 銃で殴るという反撃を前にしても結は狼狽えず、それを受け流す。そこにもう一丁の拳銃による超近距離の発砲。結はそれを読んで回避行動をとるが、それでも頬を掠めていった。

 

 アイスノイズは未来の方へと向かって走り出す。見た事がない亜種のノイズを前にしても、響を守る為ならば怖くない。

 

「絶対に通さない!響は私が守るんだ!」

 

 開いた扇を構え、そこから紫色の閃光の波動を放つ。

 

【閃光】

 

 波動に飲み込まれたアイスノイズは溶けていくように消滅する。閉じた扇からでも光線を放つ事が出来、次々と放たれる光線にアイスノイズが消滅する。

 

 だがそれを掻い潜って間合いに入った個体が腕を振り下ろそうとする。それを扇で防ぎ、近接武器として振るう。殴られたその個体は砕け散った。

 

 アイスノイズは未来に任せられる。心置き無く結と向き合える。レイピアの素早い刺突と斬撃を回避しつつ近接射撃にて迎え撃つ。

 

「お前、一体何なんだ?!こんな事して、一体何になるってんだ?!」

「言ったはずだ!国を守る為に、私は最善の手段を選ぶと!」

「その為なら人の命を奪っても良いってのか?!んな事してたら、いつまでも争いが終わるわけねえだろ?!」

「でなければ……奪われるだけだ!」

 

 拮抗状態が続いていたが、ついに結がクリスとの距離を離す。そして再び掌に氷の薔薇を作り出した。

 

「あいつは……!」

 

 響を重傷に追いやった殺しの技。次は未来をもやりかねない。そう踏んだクリスはアームドギアをガトリングに変えながら腰部のアーマージャッキの小型ミサイルみならず、背部のユニットから二基の大型を展開。

 

「だったらあたしがさせねえ!何も奪わせねえ!」

 

 それらを一斉にぶっぱなした。

 

【MEGA DETH QUARTET】

 

「チッ……!」

 

 流石にまともに撃ち合えないと判断してその場から駆け回る。自身に被弾しそうな小型ミサイルは、レイピアを振り上げると地面から隆起した氷の結晶が守った。

 

【CRYSTAL WALL】

 

 だが大型ミサイルと氷の障壁がぶつかる瞬間、結は飛んで離れる。信管が反応して大爆発を起こした。その衝撃を防ぎきれず、呆気なく崩壊した。もしその場に留まっていれば、結もただでは済まなかった。

 

 だがもう一発の大型がまだ骨組み剥き出しの建物に直撃、その爆発で骨組みが崩壊した。

 

「小賢しい真似を……!」

 

 レイピアの刃を地面に刺す。結の周囲から巨大な氷の薔薇が咲き誇る。その蔓が触手のように振り回し、落ちてくる鉄骨やパイプを諸共に切り裂いた。

 

【WHITE GARDEN】

 

 落下した骨組みは結に落ちることなく、地面に叩きつけた拍子で砂塵が大きく舞う。

 

「これでは……」

 

 氷の蔓で砂塵を払わせて、視界が晴れる。だがそこに相対した装者達の姿が無かった。

 

「何……?!馬鹿な……!あの一瞬で、負傷者を抱えて逃げ果せるなど出来るはずが……!」

 

 冷静沈着な結が人知れず狼狽え、現場の外を出て確認するがそれらしき形跡は無い。

 

 どうやったのか分からないが、完全に出し抜かれたという事実は揺らがない。舌打ちすると、そこに通信が入る。

 

 Z.E.U.S.の通信のは結から発信する事が殆ど多い。自分に通信をかけてくるとは珍しいと思いながら通信に出る。

 

「こちら氷室……。何……?」

 

 通信相手は大体察してた為、驚くことはなかった。だがその驚くべき内容に目を疑った結は何度も確認をする。

 

「分かりました。早急に皆を集め、策を講じます。はい。ギリシャに残している星羅にも招集させます。はい。では司令、失礼します」

 

 そう言って司令と呼んだ相手との通信を切る。

 

(事態は予想より深刻になりつつある。作戦の練り直しだ。だが……)

 

 あらゆる事態を想定し、冷静に対処し、最善の結果を齎す。それが自分の役割だと心得る。だが……

 

 

 アイツらは、ただ自分達の居所が欲しかっただけだ!何度も理不尽に晒されて、何度も孤独に苛まれても足掻き続けたんだ!

 

 必死に生きようとしたアイツらの尊厳を否定させねえ!

 

 

 口角が釣り上がっているが、レイピアを持つ手が震えていた。そして少しずつ、二色の眼に怒りが表出する。

 

「雪音クリス……」

 

 脳裏にチラつくのは、自分と対峙したクリスの顔。計算なのか、まぐれなのか関係ない。自分を出し抜き、逃げ果せたという事は、結の敗北を意味する。これは結にとって普通に力で負ける事より遥かに屈辱的だった。そして……

 

(それで……その甘さで……どれだけの犠牲が出た……!)

 

 

 

 貧しい生活。自分達を養う為に身を削りながら遅くまで働いた母

 

 そして……車両に轢かれ、屍になってしまった家族。

 

 

  

 

 過去の記憶を思い起こさせたクリスに、増大した怒りは現場のフェンスを瞬く間に切り刻んだ。それで物足りなかったのか、残った骨組みまでもを面影すら残さず滅多切りにした。

 

 怒りが露わになったその美貌に血管が幾つも浮かび上がる。

 

「その顔、覚えたぞ……雪音クリス!次に会ったその時には……必ずお前を八つ裂きにしてやる!」

 

 瓦礫となった骨組みを見ながら、この場にいないクリスに向けて言い放って現場を後にした。 

 

 

 一方、クリス達は既に緒川が運転するジープに乗り込んで本部に向かっていた。響は担がれて荷台で寝かせられているが、息が荒く、意識が朦朧としている。

 

 共に乗車した救護班による応急手当は済んでいるが、まだ安心は出来ない。

 

「響……」

 

 未来が今にも泣きそうになって響の手を握る。クリスは響を守れず、危険な状態にさせてしまった悔しさで床を強く叩いた。

 

 あのミサイルの爆破と同時に緒川が到着。響を担ぎながら二人を連れて脱出。緒川の出現のタイミングが一瞬でも違っていれば結に存在を勘づかれ、戦いは確実に長引いていた。そうなれば響の命がより危ぶまれる結果になっていただろう。

 

 それ程までに、Z.E.U.S.とグラデアメイルの使い手、それもその内のたった一人にここまで戦力を注ぎ込まなければならない相手だったという事を、S.O.N.G.は思い知らされた。 

 

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