夜が明けたばかりの早朝。風鳴弦十郎は墓地へと訪れていた。水桶と花束などの道具一式、供え物である酒カップを抱えて、弦十郎は『織田家』と刻まれた墓石の前に立った。
「遅れてすみませんでした。先輩」
この墓に眠る者に詫びて、墓石に水をかけて布で磨く。そして枯れた花を新しい花に取り替え、供え物の酒カップを墓前に置いて合掌する。
(あなたは俺にとって、偉大な先輩。先輩には色々教えてもらった。返しきれない程の恩を受けた。なのに俺は……あなたが遺した家族を守りきれなかった)
この墓に訪れる家族はもういない。S.O.N.G.の司令、その前身である特異災害機動対策部二課の司令に就任するその前、かつて所属していた公安警察の先輩だったそれには家族がいた。
妻と娘二人というありふれた家庭を持っており、弦十郎も面識があった。特に長女はそんな父親に対して強い憧れを抱いていたのを覚えている。
だがその先輩はある捜査で命を落としてしまった。それが引き金となり、遺された家族は数年後に破綻。
姉妹は死亡。妻は精神病院に入院しているも、毎日妹の名前を縋るように呟いており、まともな会話すら出来ない廃人となってしまった。
(何故あなたの家族が壊れてしまったのか、俺は使えるものは何でも使い、真相を追い求めた。だがその答えに辿り着けずにいる……我ながら情けない限りだ……)
今も尚、弦十郎は探し求めている。織田家破綻の理由を。それは二課、そしてS.O.N.G.の司令に就任しても変わらない。そしてその解明とその報告が、彼に報いる唯一の方法と信じている。
そんな背景もあって、弦十郎が代わりに彼への墓参りを続けている。それを知っている者は、S.O.N.G.の面々ですら知らない。弦十郎の右腕である緒川すらにも秘密にしている。
(次に来た時に真実を報告出来るように努力します。聞き飽きたかもしれませんが、もう少しだけ待っていてください)
墓前への報告を済ませたと同時に、通信が入った。
「緒川か」
『エルフナインさんとアトラスさんから報告があるそうです。装者の皆さんも、という事だそうです』
「分かった。すぐに行こう」
緒川からの通信を切った弦十郎は墓地を後にして本部へと向かった。
〇〇
S.O.N.G.の本部。Z.E.U.S.の襲撃から装者を救ったアトラスを一時的に協力者として迎え入れる事になり、エルフナインの助手として雇う事になった。
早速、ブリッジに平行世界からやって来た奏とセレナも含めた装者全員を召集。アトラスよりZ.E.U.S.の所有する戦闘装束 グラデアメイルに対抗する為の計画が提案された。
「君達のシンフォギアのデータを見せてもらった。エクスドライブ、アマルガム、そしてデュオレリック。どれも目を見張るものがある。だがそれでも、グラデアメイルを真っ向から対抗するのは難しいと思う」
「理由を聞かせてもらおうか」
アトラスの推測に、翼が尋ねる。
「まずエクスドライブ。これは……君達がよく分かっているだろうな」
エクスドライブはシンフォギアの言わば最終進化形態とも言える決戦機能。その威力はシンフォギアの持ちうる全ての形態を上回る。だがその為には膨大なフォニックゲインを必要とし、装者全員ではとても賄えるものではなく、それこそ奇跡の副産物とも言える。
「次にアマルガム。攻撃と防御形態二つの性能があまりにも極端すぎて、常に攻守共に安定して発揮するグラデアメイルに対抗するのは難しい。デュオレリックも、今では全員が行使出来るわけではない」
奏やセレナのように常に切り替えられるのならまだしも、響のミョルニルは消失、翼の天叢雲剣やクリスのネフシュタンの権杖は元は平行世界のものである為、おいそれと貸与出来るものではない。
さらにデュオレリックの負担は通常より大きいというデメリットもあり、精神的動揺で解除される恐れもある。
「以上の点から、その弱点を克服しつつ、瞬間的に出力をブースト出来る新たな決戦機能が必要になる。その鍵となるのが、黒剣の腕輪だ」
七つの黒い腕輪を出した。
「魔剣の力を以て魔剣を打ち倒す。言うなれば、《ストームブリンガー》だ」
「目には目を、魔剣には魔剣か」
翼の指摘にアトラスは頷いた。
「その通り。だが七つとも起動に至っていない。何度か試みてはみたが、やはり複製聖遺物の力では起動しないようだ」
「なので、皆さんのギアのフォニックゲインと連動して起動出来るよう調整しました」
昨日、エルフナインと共同で黒剣の腕輪を調整に勤しんでいた。その過程で改良も進めていた。
「後は実戦で試す他ありません。ですがそれでも起動には時間を要するはずです。くれぐれも無理はしないでください」
「任せてエルフナインちゃん。アトラスさんと作ってくれた腕輪の力、信じるよ!」
そう言って響が真っ先に腕輪の一つを手にした。未来、翼、クリス、切歌と調が手にし、最後の一つもマリアの手に委ねられた。
奏とセレナはデュオレリックギアに変形出来る為、今回は選ばれる事はなかった。
「ま、それが妥当な所だろうな」
「そうですね。けど、どんな力が出てくるんでしょう?」
黒剣の腕輪から繋ぐ決戦機能、ストームブリンガーの力に期待が膨らむ。だがセレナの中にいる精霊ヴェイグが疑念のような唸り声をあげる。
(どうしたんですかヴェイグさん?)
(いや、何でもない。ただ……)
過去に数多の人間の欲望によって心に傷を負ったヴェイグは、セレナ以外に心を開こうとしない。当然、それは出会ったばかりのアトラスにも同じ疑念が向けられている。
(何だ……この違和感……)
だがただの疑念にしては胸騒ぎが止まらない。それがただの杞憂である事を、ヴェイグは願うしか出来ない。
ヴヴーーッ!ヴヴーーッ!
突如艦内に響き渡るアラート。
「どうした?!」
「埠頭エリアに聖遺物の反応を検知!」
「反応パターンを照合!モニター出します!」
藤尭の報告と共に友里がモニターに映し出した。それを確認したエルフナインとアトラスの目が見開いた。
「この反応パターンは……!」
「やはり複製聖遺物か!」
「更にアイスノイズの反応も検知!」
「グラデアメイルの反応!ラハブとカルヴェナンです!」
「ソフィが……!」
藤尭と友里が立て続けに報告した中に、マリアが強く反応した。
「他の七星魔剣がいるはずだ!お前達、油断するな!」
了解!!
装者達が一斉にブリッジから出て行き、向かうべき戦場へと駆ける。
〇〇
「た、助けてくれぇぇ……」
「来るなぁ!来るなぁ……」
月の光が差し込む夜。埠頭の倉庫は既に地獄絵図となっていた。
ここで取引が行われるはずだった。ブラックマーケットの商人が、取引相手であるマフィアに複製聖遺物を売ろうとしていた。
だが複製聖遺物の反応を感知され、七星魔剣の一人、黒夜実愛亜がカルヴェナンのグラデアメイルを纏い急襲。
仕掛けられた爆弾により倉庫が火の海と化し、アイスノイズに襲われたマフィアの下っ端。全身が熱に晒されようとも溶ける事のない氷に変換されていた。
「他愛もない……」
その光景を、愛亜は爆発によって穿たれた屋根の上から見下ろしていた。
同じく出動していた萌芽と影風もまだ無傷な倉庫の屋根の上で待機している。
「萌芽先輩、来ましたよ♪」
「うん。それじゃあ、お願いね」
影風が手を振って合図を出した。萌芽の号令でアイスノイズが倉庫の壁を破壊して、こちらに逃げて来たマフィアの面々の前に立ちはだかる。
「な、何なんだコイツは?!」
「この野郎死に晒せぇ!」
恐怖で取り出した銃を乱射する。だがそれがアイスノイズに被弾した所で焼け石に水。小さな穴はすぐに塞がってしまう。
抵抗する術など最初からないという絶望と恐怖で動けなくなった所をそのまま捕まり、断末魔を挙げながら氷へと変えられてしまった。
「流石、結先輩ですよねぇ。アルカノイズをヒントにこんなノイズを作ってしまうんですから」
「けど……やっぱり残酷。ライブにいた観客も……ああやって虐殺されたんだよね」
日本に来る前に、S.O.N.G.やパヴァリア光明結社との戦いの記録を確認している。その過程で翼の凱旋ライブの映像を見ている。そこで起きたアルカノイズによる観客十万人が虐殺された映像も。
「あんなのもう見たくない。なのに、自分も同じ事をしてる……」
これでは自分もパヴァリア光明結社と変わりない。そんな自分に自己嫌悪してしまう。そんな萌芽の隣に寄り添うように座る。
「大丈夫ですよ。先輩はアイツらとは違います。先輩は皆を守る為に悪い奴を倒す為に戦ってるんです。萌芽先輩は優しいから、自分で手を汚す事をしてしまう事を、私は知っています」
微笑んで萌芽の手を優しく包み込む。
「だから、私はずっと萌芽先輩の味方でいます。例え萌芽先輩が自分自身を嫌いになっても、私は肯定します。ずっと一緒に戦います」
「
二人の絆は固いの一言で片付けられないものを感じさせる。故に高いコンビネーションを奏でられるのだろう。
「私達で終わらせましょう」
「うん!」
萌芽が頷いた途端、二人に通信が入る。
『S.O.N.G.の装者が現れた。すぐに合流せよ』
「うん!けど商人がまだ」
『それは星羅がやる』
「了解です!」
結からの通信を切り、二人は屋根から飛び降りた。
「「グラディエルフォーゼ!!」」
赤と緑色の閃光と共にグラデアメイルを身に纏ったと同時に着地。標的へと走った。
〇〇
現場に到着した装者一同は、ギアを纏ってアイスノイズを蹴散らしながら埠頭を捜索している。
同じ頃、マリアとセレナはカルヴェナンのグラデアメイルの反応を追っている。
「マリア姉さん。やっぱり、ソフィさんと本当に戦うの?」
「ええ。あの子の豹変は普通じゃない。何があの子を狂気に駆り立てたのか。それを知らなくちゃいけない」
変わり果てた親友を止めなくてはならない。それが今の自分の役目。マリアとセレナはナビゲーションに従って反応に迫る。
そしてその中心。広い倉庫に入った瞬間。突如灯りが次々と点灯。一瞬で眩しくなり、一度は視界を覆うもその先に一人、二本の短剣を構える黒いグラデアメイルを身に纏った使い手が待っていた。
「また会えたわね、ソフィ」
「言ったはずだ。その名を呼ぶなと……」
本名を呼ばれて嫌悪を露わにする愛亜。その鋭い目つきに、一抹の恐怖を感じたセレナが勇気を出して問いかける。
「ソフィさん!これ以上、手を汚すのはやめてください!」
「セレナ……」
死んだはずのセレナを見ても、その冷酷な目つきに変化はない。だが結から聞かされた時は俄に信じ難かった。
だが今となってはそんな事はどうでも良い。
「邪魔をするなら……ここで諸共死んでもらう」
「お生憎様。その要望は聞き入れられないわね」
愛亜が鼻で笑う。同時にアイスノイズの群れが姿を現した。一斉に襲いかかるアイスノイズを前に、マリアとセレナ、二つのアガートラームで迎え撃つ。
〇〇
周囲のアイスノイズを片付けた響達。何とか生き残りがいないか手分けして捜索に当たる。だがいくら探しても見つかるのは人ではなく、人の形をした氷像だった。
「何でこんな所に氷像が?」
「外にもあちこちあるデスよ!」
「こっちもだ!どうなってんだこりゃあ?!」
調と切歌が外の捜索にあたっていたが、そこでも数体、倉庫内でも次々と氷像が見つかった。中には既に人の形を保てずに壊れてしまったものもある。
クリスが氷像に触る。感触は氷そのもの。だが氷の苦痛と恐怖に怯えた表情が、クリスの胸を締め付ける。
翼も同様に複数の氷像を調べている。
「ただの氷像にしては、真に迫りすぎている。ここまで細かな模様に異なる容姿、このような環境では保存など出来はしない。いや、まさか……!」
出来れば当たってほしくない考察が脳内に過ぎった。同じ事をクリス達も考えている。響と切歌以外は。
「え?急にどうしたの?」
「調、考え事デスか?」
「切ちゃん……もしかしたらこの人達……」
「君達の想像通り……それは人間だった者だ」
冷たい声が倉庫内に響いた。聞き覚えのあるクリスにとって、その声の主はクリスにとって倒さなければならない相手。奥の方に銃口を構えると、その先に氷室結がいた。
「じゃあこの氷の人間は……お前の仕業なのか?!」
「私が作り出したアイスノイズに触れた人間は、氷に変換される。運が良ければそのままの形を保てるが、大半はノイズの攻撃で砕けてしまう」
「それって命を奪うって事だろ?!お前のやってる事、結社の連中と変わりねえじゃねえか!」
「これは心外だ」
「あっ?」
鼻で笑った結を睨むクリス。
「私のアイスノイズは、奴らの下劣なアルカノイズのように分解で終わりにはしない」
指を鳴らすと、すぐ近くにいたマフィアの氷像が元の人間の姿に戻った。その拍子で尻もちをついた。
「ぁ……ぁ……!な、何なんだお前ら?!アイツらの仲間か?!」
「ち、違ぇよ!」
錯乱しているのかクリスに対して怯えている。いくらクリスが説得しても届かないばかりか及び腰で倉庫から逃げ出した。
「ってか、凍った人間を戻せるのか?!」
だがそれよりも、氷像となってしまった人間を戻せるのならば、やる事は一つだ。
「ならば氷像にした人達を元に戻してもらおうか!」
翼達がアームドギアを構えながら結と相対する。
「風鳴翼……その言に何の意味がある?」
「何?」
「言ったはずだ。私の意思で戻せる。だが……」
そう言いながらもう一人、無傷の氷像に近づくとその首を掴んだ。
「複製聖遺物の存在を知った者を……ましてや犯罪に利用するような輩を生かして返すつもりはない」
「おいまさか……!」
クリスが引き金を弾いた。だが氷のレイピアの一突きで弾丸は完全に真っ二つに折れて、結のすぐ脇を通り過ぎた。
「無駄な事を……!」
そしてそのまま、氷像の首を掴んでいる左手に力が入る。そして亀裂が入る間もなく首がガラスのように砕け散った。
目の前で氷像を砕かれ、装者達は絶句した。
落ちた頭は結の足元に転んだが、床に落ちた衝撃で左半分が粉々になった。
「こうなってはもう戻したところで何の意味もない。砕けた氷も放置すれば溶けて水となり、蒸発して無に還る」
「いい加減にしやがれ!このクズ野郎!!」
「止せ雪音!まだ無傷の人がいるんだぞ!」
憤怒に染まったクリスがガトリング二丁を結に向けるが、翼に羽交い締めにされて止められる。だがそのお陰で自分が取り返しのつかない事をする所であったと認識して、冷静に戻った。
「気遣う必要はない。ここにいる氷像の人間は……皆死ぬ。さっきの一人も含めてな」
「そう簡単にあたしらがやられてたま……」
ドカアアアァァァン!!
という轟音と共に天井に巨大な穴が空けられ、装者達は一斉にそちらの方を向いた。
「いきなり無茶苦茶デスよ?!」
「こんな無茶苦茶やる人……あの人達しかいない!」
ここまでの力業を無理矢理押し通すやり方。誰の仕業か、切歌と調は予想が着いていた。
「承影の使い手、胡 影風と……」
「レヴァンティンのグラデアメイル、炎城萌芽デス!」
「「正解!」」
瓦礫の落下で立ち込めていた砂煙が衝撃波で吹き飛んで姿を現した。二人ともそれぞれのグラデアメイルを纏っている。
「あなた達に恨みはありませんけど、これ以上私達の邪魔をされたら面倒なんです♪」
「今度は確実に殺す。覚悟して」
「やれるものならやってみろデス!」
萌芽と影風。二人の登場で、切歌と調にとって前回の因縁もあって息巻いている。
「だが、これだけの氷像があるんだ。それでは君達も戦いに身が入らないだろう」
「人質を取るのか?!」
「汚ねえ手を使いやがって!」
翼とクリスに憤怒と謗りを向けられるも、結にとっては痛くも痒くもない。
「勘違いするな。それで倒されてはあまりにも哀れだ。故に、やりやすいようにしてやる。萌芽」
「うん」
赤い大剣を地面に突き刺す。すると倉庫の床に複数の裂け目が、無造作に生じる。
「これって……うわぁっ!」
響がその裂け目を覗こうとした時、裂け目から巨大な炎が噴き出す。危うく顔が丸焦げになる所だった響だが、他の所でも灼熱の炎が噴き出している。
「この炎はあの時の!」
翼は思い出した。コンビナートで翼達を追い詰めた炎の壁。それを行使した犯人を驚きの目で見る。
そして、氷像の真下の床に裂け目が生じる。その亀裂がさらに割れて紅蓮の炎が噴き出した。
「しまった!」
「氷になった人達が!」
響と未来が炎に呑み込まれた氷像の人を助けようとするが、一瞬で炎が消えたと同時にそこにあった氷像が完全に消えてしまった。
「いない……?!氷になった人達が!」
響が氷像を探すが、その破片の一片すら見当たらない。その意味を悟った翼が憤怒の目を使い手達に向ける。
「Z.E.U.S.!何処まで血を流せば気が済む?!」
「さあな。それより……時間だ」
結は構わずに空いた天井を見上げる。そこには月を背景に倉庫内を見下ろす紫色のジャケットを身に纏った女性が佇んでいる。
「人間五十年、下天の内をくらぶれば……」
かつて平安時代に活躍した武士を題材にした能の演目。それを唄いながら屋根からストンと降りて来た。
「夢幻の如くなり」
妖しい赤い瞳が装者達を捉える。日本演芸をよく知る翼がその演目を答える。
「敦盛を口にするとは……何者だ?!」
「初めまして、シンフォギア装者の皆さん。私は紫宮舞華。Z.E.U.S.の七星魔剣の一人。以後、よろしく……ねっ!」
突如何の前振りも無く瓦礫となった天井の鉄骨を蹴り飛ばした。咄嗟に翼が刀で鉄骨を両断した事で、事なきを得たが、翼自身も冷や汗をかいている。
「生身で鉄骨を蹴り飛ばすとは……」
「オッサンの趣味な映画じゃねえんだぞ?!リアルで事が罷り通ってたまるかよ!」
弦十郎ならばこれくらいの鉄骨を投げたり破壊したりする事など造作もないだろうが、似たような事をやった舞華のデタラメにクリスは目を丸くする。
「これはほんの小手調べ。本番は……ここからよ!」
舞華が首に掛けている紫色の結晶のペンダントを露わにする。
「グラディエルフォーゼ!!」
紫色の閃光が結晶から放たれ、光が舞華の身体を包み込む。やがて身に纏っていた衣服から紫色の基調とした和装兵装に変わる。その手には黒い妖刀。
本部でも舞華の姿とグラデアメイルの反応を検知しており、友里と藤尭が解析と照合を急いでいる。
「反応パターン、判明しました!」
「聖遺物コード、村正!」
画面に《MURAMASA》と表示された。アトラスの表情に焦りが垣間見える。
「村正……血塗られた呪いの魔剣。しかもそれを、よりによって紫宮舞華が……風鳴司令!」
弦十郎に進言しようとしたが、彼を呼ぶ声は届いていない。目を見開いたまま言葉を失い、額から滲み出た汗を拭えずに頬を伝って落ちていった。
(馬鹿な……!何故君が、そこにいるんだ?!)
弦十郎は覚えている。世話になった公安の先輩の姉妹。その姉の幼かったあどけない笑顔。それが自分達の前に立ちはだかる敵となっていた。
「さあ、是非も無し……」
柔らかい声色が一片、冷たくもドスの効いた声で敵であるシンフォギア装者を赤い眼が捉えた。