追放人狼 〜パーティー内の『役立たず』を見つけて追放するゲームの賭博で孤児院の借金を返そうとしていたら、人生を賭けた一戦をすることになった件〜 作:無名の冒険者
明くる日の朝。
私は年長の子ども達に留守を任せ、ダンジョンにやってきていた。
ここは好戦種が多いダンジョンだ。
迂闊に行動すると大変なことになるので、慎重に行動せねばならない。
ちなみに好戦種と言うのは、近くを通っただけで襲いかかってくる獰猛なモンスター達の総称である。
のんびりしていて攻撃するまでなにもしてこないのが非好戦種だ。
何もしてこないとはいえ、一概に非好戦種が安全とは言えない。
冒険者など歯牙にも掛けないくらい強いこともあるので、手を出す時は注意が必要だ。
さて、何故今回は好戦種が跋扈するダンジョンに来たかというと。
「無理ですよこんなの! うわあ! 死ぬ! 死ぬ! 勝負で負ける前に人生が終わる!」
「生きてりゃ自分の回復魔法で助かるんだから気張りなさい。ほら、まだターゲッティング外れてないわよ」
「無理いい! こんなの無理いい!」
「静かにしなさい。ここのモンスターは耳が悪いから寄ってこないけど、単純にうるさい」
スーテラさんの修行は厳しいものだった。
現実逃避気味に考え事をしてしまうのも致し方ないと思う。
どういう修行かと言えば、好戦種の真横を攻撃されずに通り抜けて来いというもの。
なんだこれ? とんちか?
できっこないだろうと言ったけど、私の訴えは無視された。
死にかけたら助けてあげるからとりあえずやってみろ、と。
あー、死にかける前提なんですねと遠い目になった私は悪くないと思う。
実は非好戦種なのではなかろうかと普通に横を通ったら襲われて、このざまである。
こっちはまともな攻撃手段がないんだぞ!
助けてくれるって言ったのに助けてくれないし!
それについて文句を言ったら、まだ死にかけてないからと冷静に返された。
そうですね! 死にかけたら助けるって言いましたもんね!
でも今死にかけているんですけどぉ! なんて叫んでも、聞いちゃくれなかった。
どうやら一人で倒せと言うことらしい。
回復魔法で耐久しながら貧弱な光魔法で戦うこと十分。
「ようやく倒せた……」
「じゃあ、次ね。言っとくけど、気付かれずに真横を通るまでこの修行は終わらないから」
「鬼! 悪魔! 冒険者!」
「あなたの中では罵倒なのかもしれないけど、事実の羅列を並べても何も変わらないわよ? 今の私は悪魔の如きメニューを押し付ける鬼教官だからね。これくらいやらないと手練れの冒険者たる私には勝てないわよ?」
「もう負けてもいいかもぉ」
「あのタヌキ親父と愛し合いたいならやめてもいいわ」
「やります。やらせていただきます」
スーテラさんは私の変わり身の早さにため息一つついてから、助言をくれた。
「このままだと帰れなさそうだから、一つヒントをあげるわ。あのモンスターを選んだ理由を考えてみて? どこでもいいわけじゃないの。ここじゃないと出来ないことよ。そして、あなたはできるようになるだろうけど、私は適性がないから一生かかっても無理。自分の出来ることを振り返ってみることね」
あのモンスターを選ぶ理由か。
特徴を考えてみるといいのかな?
まずあのモンスターは耳が聞こえない。そのかわり、目がとても良い。この薄暗いダンジョンでも、通路の突き当たりまで見えるらしい。
岩魔法を使える魔術師が迷路のようにするまでは、魔物がわらわら寄ってきて難易度の高いダンジョンだったと聞く。
そして、スーテラさんには一生かかっても出来ない事か。
とりあえず、強めの閃光魔法を放って目眩ししてみた。
すると、攻撃されることなく通り抜けられた。
あれ、もしかしてこれで正解?
私はスーテラさんの方に振り返って、結果を報告する。
「できました! これでいいんですよね?」
「結局絡まれているから不正解。とりあえず、怒らせたそいつは自分で始末しなさいね」
「え?」
スーテラさんの言葉にモンスターの方へ振り返ると、襲いかかってくる直前だった。
その攻撃を、間一髪で避ける。危ない。
食らっていたら魔力をごっそり持っていかれる怪我をするところだった。
泣き喚きながらまた十分かけて倒す私。
倒してへたり込んでいると、スーテラさんが声をかけてきた。
「休んでないでもう一回。そんな安直なものじゃなくて、もっと高度なものよ。最初からやっても出来ないだろうけど、練習すればできるようになるわ」
また謎かけみたいな事を言うな、この人。
直接光を焚くのはダメ。
でもこのモンスターは目視しかできないから、光魔法を使うんだよね?
ということは姿の隠蔽か偽装?
試しに自分の姿が背景と同じ模様になるように光魔法を使ってみた。
だけど、初めてでうまくいくはずもない。当然襲い掛かられたところで、横合いから弓矢が飛んできた。どすっ、どすっとモンスターの目に矢が刺さる。毒でも塗ってあったのか、やがてモンスターは動かなくなった。
「今回は助けてくれるんですね?」
「努力の方向性が合っているからね。失敗するたびに戦わせていたら日が暮れちゃうわ」
どの口が言うんだ。
「ならさっきの戦闘はなんだったんですか?」
「修行の一環。言わば成長分岐みたいなものかな」
「間違ったままならあのまま戦わされ続けていたってことですか?」
「そうね。自分で思い付かないようなら、純粋な戦闘能力の方を鍛えようと思っていたわ」
「そうですか」
なんだ。嫌がらせじゃなくて一応意味があったんだな。それならいいか。
それにしても、隠蔽ね。確かに使えるようになれば、追放遊戯で誰にもバレず殺す事ができるから戦いの幅は広がるだろう。
問題は、スーテラさんがそれを知っている事なんだけど。
この人が自分で言っていた事だけど、手の内が割れていたら相当不利だ。
それなのに、種がわかったまま覚えさせるんだ。
でも自分で考えさせるって事は、技能の訓練には途中から付き合ってくれなくなりそう。
その予感は的中して、三日ほどで姿の隠蔽魔法を覚えたら、技能習得のコツは掴んだだろうから、あとは自分で好きな技能を覚えなさいと放り投げられた。
四日後にはゲームの手解きを始めるらしいので、それまでは自由に研鑽しろとのお達しだ。
まぁ偽装の方が使えそうだから、修行を見られる事がなくなってラッキーだったと思おう。
そして戦いの中で何度も死にかけて回復魔法を使っていると、一つの案を思いついた。
偽装を覚えたら、今度は回復技能を極めるために、無償回復をしてみようかな?
まだ完璧に偽装できるわけじゃないから後回しだけど。
技能が順調に育っていく達成感があって、非常に充実していた。
この調子なら賭けの当日には多くの技能を習得できているはず。
ただ、そんな生活を続けていたら、子ども達から文句を言われた。
最近構ってくれなくて寂しいのだと。
こっちは貴方達を救うために必死なんだから、少しは我慢してほしい。
私がヘマをしたら皆破滅なんだから。
そんな事を言えるはずもなく、スーテラさんに遊んで貰ってねと言うしかない日々。
子ども達の鬱憤が溜まっているのは分かるけど、こっちはそんな場合じゃないのだ。
そんな事を思っていた私への当てつけだろうか。
晩御飯の時間になっても見当たらない子がいるという事件が起こった。
心配になった私はあちこち探し回り、一時間経って私の部屋のクローゼットに隠れているのを見つけた。
なんでこんな事をしたのか聞くと、私が構ってくれなくて寂しかったからだと言う。
そして、心配して探してくれたことが嬉しかった、とも。
正直に言えば、私はこの時点でだいぶキテいたように思う。イラつきを表に出さないようにしながら、軽く嗜めるに済ました。
そんな事がありつつ、修行を始めてから一週間。
今日はスーテラさんに追放遊戯の手解きをしてもらう日だ。
そして、この日が契機だった。
「やだ! スーちゃんを連れて行かないで!」
「ごめんね。今日はスーちゃんと大事な用事があるから我慢してね」
勝つためには一日たりとも無駄に出来ないのに。
なのに、子ども達は私の思いを無視するかのように、わがままを言う。
というか、スーテラさんいつのまにこんなに懐かれたんだ?
私が出かけている間に何したんだ。
「やだやだやだ! お姉ちゃんはいつも私達を放ってどっかいくじゃん!」
「大事なことだから仕方ないの。いい子だからわかって。ね?」
「いい子じゃないからわかんないもん! 最近いつも一人で遊んでばっかり! その上スーちゃんまで連れて行こうとして! 本当は私達の事どうでもいいんでしょ! だから私達の言う事を無視するんだ!」
そう言われた瞬間、私の中で何かが切れる音がした。
なんで私ばっかり責められなきゃいけないんだ。こんなに苦労してるのに。
そう思ったら、自分でも驚くほど冷たい声が出た。
「ならずっとスーちゃんと暮らせば? その人がいつまでも居てくれるとは限らないけどね」
そう言い残して、私は部屋に戻って荷物をまとめにかかった。
とりあえず着替えと、取り返してもらったお金があれば充分か。
私が身支度していると、スーテラさんがやってきた。
「何してるの?」
「出ていくんですよ。どうやらスーテラさんの方がお気に入りみたいですし? 私が負ければ皆売られるのに、そんなこと知りもしないで呑気なんだから」
「あの子達を見捨てるって事?」
「いいえ? 負けたら私も借金奴隷じゃないですか。そんなのは嫌ですから、勝ちますよ。でも、あの子達が助かるのはついでです。勝負が終わったら、自分の力で生きて行って貰います。先代院長が亡くなった後、私もそうしてきたんですから」
「それじゃあ結局見捨てる時期が遅れるだけじゃない」
「そうかもしれませんね」
「そうかもしれませんねって、本当に放っておくつもり? 子ども達の為に頑張っていたんじゃないの?」
そうだけど、もうそれも無理だ。思いの切れた私は、長年溜まっていた思いを吐き出した。
「別に私、子ども好きじゃないんですよ。先代院長に任されたから院長代理をしていただけで」
「本当にあの子達のことどうでもよくなっちゃったの?」
「あの子達の方こそ、私の事なんてどうでもいいのでは? 良くしてくれるなら誰だっていいんですよ。今日だって、引き止めたかったのは私じゃなくスーテラさんの方みたいでしたし」
「あの子達はあなたが構ってくれなくて寂しかっただけよ。なにか大事なことをしているって分かっていたから、邪魔しちゃいけないと思ってあなたを引き止めなかった。私じゃあなたの代わりになれないわ」
そうだとしても、ここ数日間だけの話ではないのだ。
きっかけが最近の重責によるだけで、積年した思いは元からあった。
「……もうずっと気を張るのは疲れたんですよ。いつまで良いお姉ちゃんでいなきゃいけないんですか? 私だってまだ二十歳になってない、甘えたい盛りの子供です。そんな子供に、こんな重荷を背負わせないでくださいよ」
荷物をまとめ終わった私は、スーテラさんの横を通り過ぎて外へ出ようとする。
すると、腕を掴まれて止められた。
「本当に行くつもり?」
「はい」
「行ったらもう手解きしてあげないわよ?」
「自分で経験して覚えるのでいりません」
「それで本当に勝てると思ってるの?」
「勝てるとか勝てないとかじゃなく、勝つんですよ。もう邪魔をしないでください」
私はスーテラさんの腕を思いっきり振り解いて、孤児院の外へ出た。
もうここに戻ることもないだろう。
そう思うと、なんだか涙が込み上げてきた。