第一話「目隠し」の続編。
『
仮面ライダー555』二次創作『Corvus』第二話。
「ありがとう」と「ごめんなさい」を伝えられなかった一人の老婦人の物語。
流血・残酷描写はありません。
全年齢向けです。
# 第二話「Corvus」
寒い。
最初に感じたのは、それだった。
そして。
静かだった。
「……あら?」
筑摩はゆっくり目を開けた。
夜。
路地裏。
濡れたアスファルト。
足元には杖。
買い物袋。
落ちた携帯電話。
「私……」
起き上がろうとした瞬間。
思い出す。
知らない女。
灰色の怪物。
そして。
胸を貫く痛み。
「……!」
胸に手を当てる。
鼓動はある。
けれど。
妙に遅い。
身体も冷たい。
「夢……」
「そうよ……」
「悪い夢……」
震える手で携帯を拾う。
画面には通話履歴。
スマートブレイン。
そして。
あの青年。
オルフェノク。
自分が通報した。
「あの人……」
どうなったのかしら。
初めて。
そんなことが頭をよぎった。
◇
「脈拍が低すぎます」
看護師が困惑した顔で言った。
「体温も低いです」
医師が眉をひそめる。
「心電図を」
しばらくして。
出力された波形を見つめた医師は息を止めた。
「……何だ、これは」
古い資料。
スマートブレイン医療連携局。
対オルフェノク対応マニュアル。
看護師が小声で言う。
「先生……」
「まだ断定はできない」
「ですが……」
「決めつけるな」
その時。
「先生……」
筑摩が不安そうに二人を見つめていた。
「私、悪い病気なんでしょうか……」
医師は笑顔を作った。
「大丈夫です」
「少し検査しましょう」
しかし。
看護師が思わず口にする。
「スマートブレインへ連絡を……」
「!」
筑摩の顔が強張った。
オルフェノク。
その言葉。
数時間前。
『オルフェノクがいるよ!』
自分の声。
あの青年。
「違う……」
「私は……」
「違う……」
筑摩は立ち上がった。
「奥さん!」
「待ってください!」
「私は人間です!」
「人間なんです!」
そのまま病室を飛び出していく。
医師は立ち尽くした。
「……頼む」
「人間であってくれ」
◇
夜の公園。
ベンチに腰掛ける筑摩。
震える手。
冷たい身体。
「私は……」
「人間よ……」
涙が零れる。
その時。
胸の奥が脈打った。
「……!」
指先に黒い模様が浮かぶ。
灰色の外殻。
肩に広がる羽根のような模様。
「いや……」
「いや……」
震える声。
街灯の下。
濡れたアスファルトに映る姿。
灰色の異形。
嘴。
羽根。
黒い翼。
「……嘘」
誰かが叫ぶ。
「オルフェノク!」
「逃げろ!」
「スマートブレイン!」
誰かがスマートフォンを向ける。
誰かが悲鳴を上げる。
その視線だけで十分だった。
『オルフェノクがいるよ!』
数時間前。
自分が発した言葉。
「違う……」
「私は……」
「違う……」
逃げた。
ただ。
逃げた。
◇
高架下。
いつの間にか人間の姿に戻っていた。
胸に手を当てる。
弱い鼓動。
冷たい身体。
ふと。
思い出す。
少し照れくさそうな笑顔。
『それじゃ、お婆さん』
『気を付けて帰ってください』
優しい声。
「ありがとう……、ちゃんと聞こえたのかしら……」
「ごめんなさいも……、言えなかった……」
胸を押さえる。
「もし、あの人も……」
「私みたいに……、誰かに怖がられて……」
「逃げていたのなら……」
『オルフェノクがいるよ!』
自分の声。
「私は……」
「何てことを……」
涙が零れた。
その時。
夜空を一羽のカラスが横切った。
カァ――
◇
雨のビル屋上。
黒いコートの女が立っていた。
シュライクオルフェノク。
彼女は逃げていく灰色の鳥を見つめていた。
「……嘘」
確かに殺した。
そのはずだった。
「何で生きてるのよ……」
人々は怯え。
灰色の鳥は涙を流しながら逃げていく。
その姿に。
説明できない感情が胸を掠めた。
「……本当に」
「何なのよ」
怒りでもない。
憎しみでもない。
ただ。
理解できない戸惑いだけが残っていた。
◇
その頃。
遠く離れたどこかで。
一人の青年が、
誰かを守るために戦っていた。
その青年はまだ知らない。
助けた老婆が生きていることを。
そして。
老婆もまた知らない。
自分を救ってくれた青年の名前を。
もう二度と会えないかもしれないことを。
サイレンの音が、
雨の夜に溶けていった。
雨はまだ、
静かに降り続いていた。
――第二話「Corvus」 終――