誰かを助けた、その優しさは。
誰かを救い、
誰かの運命を変え、
そして誰かの命を終わらせた。
ヒサオが最後に願ったもの。
筑摩が初めて願ったもの。
二つの想いは交わることなく、
夜の街へ消えていきます。
※『仮面ライダー555 パラダイス・リゲインド』IF設定による二次創作です。
第三話「デルタ」
夜風が冷たい。
出前用のバイクを止めた青年は、保温ケースを軽く叩いた。
「やっべぇ……」
腕時計を見る。
「完全に遅れてる。」
ヘルメットを脱ぎ、苦笑する。
「店長、怒るだろうなぁ。」
ラーメン屋『中花』。
海堂直也が営む、小さな店。
ヒサオにとっては、帰る場所だった。
携帯電話が鳴る。
「もしもし?」
『おせぇ!』
「すいません!」
『どこほっつき歩いてんだ!』
「いやぁ、ちょっとお婆さん助けたり。」
『……はぁ?』
「無事だったから大丈夫っす。」
『お前なぁ……』
「今から届けます!」
『急げ!』
「はい!」
電話を切る。
笑みがこぼれる。
「怒ってる怒ってる。」
その瞬間だった。
遠くからサイレン。
赤色灯。
何台もの黒い車両。
「……え?」
車列は一直線にこちらへ向かってくる。
急停止。
ライオトルーパーが一斉に降り立つ。
その中央。
黒い装甲。
仮面ライダーミューズ。
『対象確認。』
『モスキートオルフェノク。』
『排除を開始します。』
ヒサオは少し困ったように笑った。
「俺?」
少し考えて。
「あー……。」
昼間。
横断歩道。
老婆。
通報。
「そういうことか。」
小さく笑う。
「しょうがないか。」
ライオトルーパーが一斉射撃。
「危ないって!」
跳ぶ。
灰色の外殻。
モスキートオルフェノク。
「悪いけど!」
「俺、今日は帰りたいんだ!」
飛び込む。
一人。
二人。
蹴り飛ばす。
しかし。
数が多い。
ミューズが前へ出る。
高速の剣撃。
「ぐっ!」
吹き飛ばされる。
「強ぇ……。」
『抵抗を確認。』
『排除を継続。』
「参ったな。」
ヒサオは保温ケースを開けた。
中には。
デルタギア。
「使いたくなかったんだけど。」
デルタフォンを握る。
「変身。」
【Standing By】
【Complete】
紫の光。
仮面ライダーデルタ。
「行くぞ!」
デルタムーバー。
連射。
ライオトルーパーを次々撃破。
だが。
ミューズだけは違う。
『Predict Complete』
「え?」
攻撃を読まれる。
避けられる。
ルシファーズハンマー。
放つ。
しかし。
空を切る。
「しまっ——」
ミューズの必殺剣。
直撃。
爆発。
「ぐぁぁぁ!」
デルタが吹き飛ぶ。
変身解除。
デルタギアが地面を転がる。
「くっ……。」
立ち上がろうとする。
ライオトルーパーが包囲する。
その時。
「ヒサオ!」
カイザフォンの銃声。
ライオトルーパーが倒れる。
「店長!」
海堂直也。
コウタ。
ケイ。
そして。
「相変わらず間抜けだな。」
草加雅人。
四人が割って入る。
海堂が怒鳴る。
「何やってんだ!」
「配達中だったんです。」
「そういう話じゃねぇ!」
草加がミューズを押し返す。
「ここは俺たちがやる。」
「早く立て。」
「はい!」
ヒサオはデルタギアへ手を伸ばした。
あと少し。
その時だった。
指先が。
灰になった。
「……あ?」
腕。
肩。
胸。
身体中が灰へ変わる。
海堂が振り向く。
「ヒサオ!」
コウタが息を呑む。
「寿命だ……!」
ケイの瞳が潤む。
ヒサオは少し笑った。
「今かよ。」
それでも。
デルタギアへ。
手を伸ばす。
「まだ。」
「まだ戦える。」
「やめろ!」
海堂が叫ぶ。
「もういい!」
「よくないっす。」
「まだ配達終わってない。」
「そんなもん!」
海堂の声が震える。
「どうでもいい!」
「どうでもよくないですよ。」
ヒサオは笑う。
「俺。」
「中花、好きなんで。」
身体が崩れていく。
「潰れたら困るなぁ。」
「潰すか!」
海堂は泣きながら怒鳴る。
「自分でラーメン食いに来い!」
ヒサオは少し笑った。
「はい。」
そして。
ふと。
昼間を思い出す。
横断歩道。
怯える老婆。
目隠しの隙間から見えた瞳。
「お婆さん。」
小さく呟く。
「無事だと……いいなぁ。」
海堂が尋ねる。
「誰だ?」
「今日。」
「助けた人です。」
「……。」
「怖がってたけど。」
「生きててくれたら。」
「それでいい。」
海堂は何も言えない。
「店長。」
「またラーメン作ってください。」
海堂は涙を拭いながら怒鳴る。
「だから!」
「自分で食いに来い!」
ヒサオは笑った。
「……はい。」
小さな返事だった。
次の瞬間。
身体は静かに灰となり、
夜風へ溶けていった。
海堂は、
もう何も言えなかった。
その瞬間。
ミューズが静かに後退する。
『対象の灰化を確認。』
『殲滅完了。』
『全部隊、撤収。』
ライオトルーパーも撤退していく。
彼らの目的は最初から一つ。
モスキートオルフェノクの抹殺。
その目的は、
果たされたのだった。
「……行った。」
誰かが呟いた。
しかし。
誰も追おうとはしなかった。
海堂はただ、
灰だけが残る場所を見つめていた。
◇
その頃。
高架下。
筑摩は夜空を見上げていた。
「ありがとうって……」
「ちゃんと届いていたのかしら。」
小さく呟く。
遠くでサイレンが鳴った。
胸に手を当てる。
弱い鼓動。
冷たい身体。
「……あの人。」
大丈夫かしら。
名前も知らない。
優しかった青年。
生きていてほしい。
そう願った。
その願いは、
夜空へ消えていった。
◇
雨のビル屋上。
シュライクオルフェノクは、
風に舞う灰を静かに見つめていた。
「……。」
モスキート。
馬鹿な男。
人間を助け。
裏切られ。
それでも最後まで。
人間の無事を願っていた。
「本当に。」
「馬鹿。」
彼女は静かに背を向ける。
その声には、
以前のような冷たさはなかった。
そして彼女も知らない。
その男が最後まで案じていた老婆こそ。
自分が殺したはずの存在であることを。
――第三話「デルタ」 終――
(次回 第四話「居場所」)