「オルフェノクがいるよ」
その一言から始まった物語も、
これで最後です。
願わくば、
人も、オルフェノクも、
誰もが帰ってこられる場所がありますように。
# 最終話「オルフェノクがいるよ」
朝。
ラーメン屋『中花』。
「店長、ネギ切りました。」
「おう。」
「コウタさん、チャーシューできました。」
「助かります!」
「お婆ちゃん、無理しないでくださいね。」
「大丈夫よ。」
筑摩は笑った。
もう、ここが自分の居場所だった。
そして。
向かいの電柱。
黒いコートの女。
「また見てる。」
「見てない。」
「見てるわよ。」
「……。」
シュライクは顔を逸らした。
「店長さんが呼んでる。」
「行かない。」
「ラーメン伸びるわよ?」
「知らない。」
「本当は食べたいくせに。」
「馬鹿。」
「うん。」
「馬鹿。」
二人は笑った。
◇
夕方。
買い出しの帰り。
横断歩道。
信号が変わる。
親とはぐれた小さな少女が、ボールを追って飛び出した。
「あっ!」
トラック。
クラクション。
悲鳴。
その瞬間。
「危ない!」
筑摩が飛び出した。
灰色の外殻。
翼。
コルヴスオルフェノク。
少女を抱きかかえ。
トラックの前から跳び退く。
地面に着地。
「大丈夫?」
「うん……」
少女は泣いていた。
周囲がざわつく。
「オルフェノク!」
「怪物だ!」
「スマートブレインに!」
筑摩の身体が震える。
あの日。
自分が言った。
『オルフェノクがいるよ』
その言葉。
その時。
少女の母親が駆け寄った。
「みいちゃん!」
「ママ!」
抱き締める。
そして。
涙を流しながら筑摩に頭を下げた。
「ありがとうございます!」
「……。」
「娘を助けてくださって!」
少女も笑った。
「お婆ちゃん、ありがとう!」
筑摩は泣きそうになった。
「どういたしまして。」
しかし。
「オルフェノクがいるよ!」
「早く通報しろ!」
人々の声。
赤いサイレン。
ライオトルーパー。
仮面ライダーミューズ。
『オルフェノク反応確認。』
『排除を開始する。』
筑摩は少女を庇った。
「逃げて!」
その時。
「馬鹿。」
黒い影。
シュライクオルフェノク。
ライオトルーパーの前に立つ。
「ここにオルフェノクがいるよ!」
「!」
「だから。」
「人間は下がりなさい!」
「あなた!」
「馬鹿。」
「何で出てくるの!」
「知らない。」
「何で!」
「知らない。」
「でも。」
「ラーメン伸びるの嫌だから。」
「え?」
「帰る場所。」
「あるもの。」
ライオトルーパーが銃を向ける。
その時。
「おーい!」
海堂だった。
「店長さん!」
「何やってんだ馬鹿!」
コウタも。
ケイも。
「お婆ちゃん!」
「大丈夫!?」
シュライクが呆然とする。
「何で来るのよ。」
「知らねぇ。」
海堂は笑う。
「馬鹿だから。」
「……。」
その時。
少女がシュライクを見た。
「鳥さん!」
「?」
「ありがとう!」
「え?」
「お婆ちゃん守ってくれた!」
「……。」
初めてだった。
感謝。
ありがとう。
そんな言葉。
自分には関係ないと思っていた。
「……。」
シュライクの目から涙が流れる。
「何よ。」
「変。」
海堂が鼻を鳴らす。
「泣いてんじゃねぇ。」
「泣いてない。」
「泣いてる。」
「うるさい。」
そして。
ミューズは周囲の人々を見る。
救われた少女。
感謝する母親。
庇う人々。
『……。』
数秒の沈黙。
やがて。
『作戦中止。』
ライオトルーパー部隊が撤収を始める。
筑摩は呆然とした。
「行った……。」
シュライクも信じられなかった。
◇
夜。
中花。
「いただきます。」
「いただきます。」
「いただきます。」
「……。」
海堂が睨む。
「何だ。」
「……。」
「食わねぇのか?」
「……。」
「いただきます。」
シュライクが小さく呟く。
海堂が笑う。
「よし。」
筑摩も笑った。
コウタも。
ケイも。
そして。
窓の外。
一匹の蚊が飛ぶ。
電柱の上には小鳥。
筑摩は静かに目を閉じた。
『お婆さん、無事だといいなぁ。』
優しい声。
名前も知らなかった青年。
今は知っている。
ヒサオ。
「ありがとう。」
小さく呟く。
「おかげで。」
「みんな、ここにいる。」
暖簾が揺れる。
笑い声。
ラーメンの湯気。
そして。
ここには。
人間も。
オルフェノクもいる。
馬鹿みたいに優しい奴らがいる。
それでいい。
それがいい。
完