『Corvus ―オルフェノクがいるよ―』   作:木崎真帆

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最終話「オルフェノクがいるよ」

「オルフェノクがいるよ」

その一言から始まった物語も、
これで最後です。

願わくば、
人も、オルフェノクも、

誰もが帰ってこられる場所がありますように。


最終話「オルフェノクがいるよ」

# 最終話「オルフェノクがいるよ」

 

 朝。

 

 ラーメン屋『中花』。

 

「店長、ネギ切りました。」

 

「おう。」

 

「コウタさん、チャーシューできました。」

 

「助かります!」

 

「お婆ちゃん、無理しないでくださいね。」

 

「大丈夫よ。」

 

 筑摩は笑った。

 

 もう、ここが自分の居場所だった。

 

 そして。

 

 向かいの電柱。

 

 黒いコートの女。

 

「また見てる。」

 

「見てない。」

 

「見てるわよ。」

 

「……。」

 

 シュライクは顔を逸らした。

 

「店長さんが呼んでる。」

 

「行かない。」

 

「ラーメン伸びるわよ?」

 

「知らない。」

 

「本当は食べたいくせに。」

 

「馬鹿。」

 

「うん。」

 

「馬鹿。」

 

 二人は笑った。

 

 

 夕方。

 

 買い出しの帰り。

 

 横断歩道。

 

 信号が変わる。

 

 親とはぐれた小さな少女が、ボールを追って飛び出した。

 

「あっ!」

 

 トラック。

 

 クラクション。

 

 悲鳴。

 

 その瞬間。

 

「危ない!」

 

 筑摩が飛び出した。

 

 灰色の外殻。

 

 翼。

 

 コルヴスオルフェノク。

 

 少女を抱きかかえ。

 

 トラックの前から跳び退く。

 

 地面に着地。

 

「大丈夫?」

 

「うん……」

 

 少女は泣いていた。

 

 周囲がざわつく。

 

「オルフェノク!」

 

「怪物だ!」

 

「スマートブレインに!」

 

 筑摩の身体が震える。

 

 あの日。

 

 自分が言った。

 

『オルフェノクがいるよ』

 

 その言葉。

 

 その時。

 

 少女の母親が駆け寄った。

 

「みいちゃん!」

 

「ママ!」

 

 抱き締める。

 

 そして。

 

 涙を流しながら筑摩に頭を下げた。

 

「ありがとうございます!」

 

「……。」

 

「娘を助けてくださって!」

 

 少女も笑った。

 

「お婆ちゃん、ありがとう!」

 

 筑摩は泣きそうになった。

 

「どういたしまして。」

 

 しかし。

 

「オルフェノクがいるよ!」

 

「早く通報しろ!」

 

 人々の声。

 

 赤いサイレン。

 

 ライオトルーパー。

 

 仮面ライダーミューズ。

 

『オルフェノク反応確認。』

 

『排除を開始する。』

 

 筑摩は少女を庇った。

 

「逃げて!」

 

 その時。

 

「馬鹿。」

 

 黒い影。

 

 シュライクオルフェノク。

 

 ライオトルーパーの前に立つ。

 

「ここにオルフェノクがいるよ!」

 

「!」

 

「だから。」

 

「人間は下がりなさい!」

 

「あなた!」

 

「馬鹿。」

 

「何で出てくるの!」

 

「知らない。」

 

「何で!」

 

「知らない。」

 

「でも。」

 

「ラーメン伸びるの嫌だから。」

 

「え?」

 

「帰る場所。」

 

「あるもの。」

 

 ライオトルーパーが銃を向ける。

 

 その時。

 

「おーい!」

 

 海堂だった。

 

「店長さん!」

 

「何やってんだ馬鹿!」

 

 コウタも。

 

 ケイも。

 

「お婆ちゃん!」

 

「大丈夫!?」

 

 シュライクが呆然とする。

 

「何で来るのよ。」

 

「知らねぇ。」

 

 海堂は笑う。

 

「馬鹿だから。」

 

「……。」

 

 その時。

 

 少女がシュライクを見た。

 

「鳥さん!」

 

「?」

 

「ありがとう!」

 

「え?」

 

「お婆ちゃん守ってくれた!」

 

「……。」

 

 初めてだった。

 

 感謝。

 

 ありがとう。

 

 そんな言葉。

 

 自分には関係ないと思っていた。

 

「……。」

 

 シュライクの目から涙が流れる。

 

「何よ。」

 

「変。」

 

 海堂が鼻を鳴らす。

 

「泣いてんじゃねぇ。」

 

「泣いてない。」

 

「泣いてる。」

 

「うるさい。」

 

 そして。

 

 ミューズは周囲の人々を見る。

 

 救われた少女。

 

 感謝する母親。

 

 庇う人々。

 

『……。』

 

 数秒の沈黙。

 

 やがて。

 

『作戦中止。』

 

 ライオトルーパー部隊が撤収を始める。

 

 筑摩は呆然とした。

 

「行った……。」

 

 シュライクも信じられなかった。

 

 

 夜。

 

 中花。

 

「いただきます。」

 

「いただきます。」

 

「いただきます。」

 

「……。」

 

 海堂が睨む。

 

「何だ。」

 

「……。」

 

「食わねぇのか?」

 

「……。」

 

「いただきます。」

 

 シュライクが小さく呟く。

 

 海堂が笑う。

 

「よし。」

 

 筑摩も笑った。

 

 コウタも。

 

 ケイも。

 

 そして。

 

 窓の外。

 

 一匹の蚊が飛ぶ。

 

 電柱の上には小鳥。

 

 筑摩は静かに目を閉じた。

 

『お婆さん、無事だといいなぁ。』

 

 優しい声。

 

 名前も知らなかった青年。

 

 今は知っている。

 

 ヒサオ。

 

「ありがとう。」

 

 小さく呟く。

 

「おかげで。」

 

「みんな、ここにいる。」

 

 暖簾が揺れる。

 

 笑い声。

 

 ラーメンの湯気。

 

 そして。

 

 ここには。

 

 人間も。

 

 オルフェノクもいる。

 

 馬鹿みたいに優しい奴らがいる。

 

 それでいい。

 

 それがいい。

 

              完

 

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