相場師は欲望から降りられない   作:山崎春のパン祭り

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第二十三話 規則の言い換え

 9月8日、月曜日。極東金融システムの買い注文は、650円で30,000株すべて約定していた。

 

 買付代金 19,500,000円

 買付手数料 1,575円

 買付後現金 751,769円

 

 始値668円、高値701円、安値612円、終値644円。注文は複数回に分かれ、加重平均650円で成立した。

 

 8月22日に南関住宅開発を売った後、譲司は2週間、新しい注文を出していなかった。口座には20,253,344円ある。4,200万円から見れば半分以下だったが、16歳になった朝に残っていた122,360円と比べれば160倍以上だった。

 どちらも同じ口座の数字だった。

 極東金融システムは、銀行や証券会社へ決済・顧客管理用のシステムを納める会社だった。金融機関そのものではない。融資を行わず、住宅ローンも保有せず、海外の証券化商品へ投資したという発表もない。保守契約による売上があり、受注残も前年同期を上回っていた。

 8月末から株価は下がっていた。9月1日の終値760円。2日747円。3日696円。4日688円。5日673円。

 出来高は増えている。だが、高値は切り下がり、終値も安値に近い。以前の表なら、買いが続いているとは書けなかった。

 譲司は「下落しただけでは買わない」という規則を開いた。

 その下へ、極東金融システムの受注残と保守契約を書いた。さらに1行追加する。

 金融不安の直接影響が限定され、固有業績が維持される場合は対象外にしない。

 規則を消してはいない。例外条件を明確にしただけだと考えた。

 30,000株なら、1円の値動きで3万円が増減する。650円から1割下がれば195万円。東海精工と南関住宅開発で2,000万円以上を失った後でも、譲司は数量を減らさなかった。残高が減ったからこそ、同じ利益額を得るには資金を遊ばせられない。

 半分だけ買う案も計算した。15,000株なら買付代金は975万円で、現金を1,000万円以上残せる。だが、個別価値が維持されているという判断が正しいなら、半分にする理由は恐怖しかない。恐怖を数量へ反映すれば、判断が正しくても利益が小さくなる。

 譲司は30,000株のまま送信した。

 佐伯は相場表の買付前理由を読んだ。

 

「市場全体は弱い、でいい?」

「いい」

「金融の業種も弱い」

「この会社は金融機関じゃない」

「取引先は金融機関だろ」

「システムは止められない」

「新しい注文は減るかもしれない」

「保守契約がある」

 

 佐伯は市場欄へ「弱い」、業種欄へも「弱い」と入力した。個別材料の欄には「受注残・保守契約」と入れる。

 

「三つ並べると、二つ弱いよ」

「個別が違う」

「だから買う?」

「市場の売りで、個別価値まで下がっている」

 

 佐伯は「個別価値」の意味を聞かなかった。聞けば、決算書のどの数字か、過去のどの価格か、同業他社との比較かを決めなければならない。譲司は説明できた。説明できる項目が多いため、説明のどれを先に使ったかは曖昧になった。

 9日の終値は613円。10日は610円。11日は582円。12日は566円。

 買付後の4営業日で、評価額は252万円減った。

 会社から新しい悪材料は出ていない。金融機関の信用不安に関する海外記事は増えていたが、極東金融システムの受注取り消しは発表されていない。

 譲司は毎日、同じ欄へ追記した。

 直接影響は確認されない。

 保守契約は継続。

 信用不安は取引先側の問題。

 価格が下がるたび、直接影響がないという文章が長くなった。

 同じ夜、佐伯直人は自宅で京浜制御機器の行を開いていた。

 買付前に書いた撤退条件は残っている。その下には、買付後に増えた文章が並んでいた。

 受注残は維持。

 新製品の需要は継続。

 業界全体の設備更新は止まらない。

 下落は一時的。

 悪材料は織り込み済み。

 業績見通しの慎重化を伝える記事も保存していた。ただし、備考欄へ移し、「短期的」と付けた。過去の大型受注は買付理由のすぐ下へ残した。

 会社の情報を調べているつもりだった。実際には、売らなくてよい文章だけが上へ集まり、売る理由は下へ送られていた。

 掲示板には、売られすぎ、反発間近、同業へ資金が戻るという書き込みがあった。根拠の薄い文だと分かっていた。それでも、自分と同じ結論へ届いた文章だけは閉じずに残した。

 買値まで戻るために必要な上昇率を計算する。前日に見た時より数字は大きくなっていた。

 買値へ戻ったら売る。

 それは撤退条件ではなく、損を確定しなくてよい未来だった。

 

 9月13日、土曜日。美琴から、月曜日の午後に大学近くの喫茶店へ来ないかと連絡があった。授業で扱った地域産業の記事について、以前取材した工場へもう一度話を聞きに行くという。

 

 月曜日は祝日で、市場は休みだった。

 譲司は「行ける」と返信した。

 15日の朝、海外ニュースの見出しが画面へ並んだ。

 米国の大手証券会社が連邦破産法の適用を申請。日本の金融当局は、その国内証券会社へ業務停止と資産保全の措置を出した。

 市場は開かない。極東金融システムの株価も566円のままだった。

 国内株の数字が止まった横で、為替と海外市場は動いていた。円が買われ、海外の株価指数先物が下がる。原油と工業金属にも売りが出る。金も一方向には上がらず、換金の注文と逃避の買いが同じ画面に混ざっていた。

 譲司は喫茶店へ行く支度をしなかった。

 居間のテレビでも同じ会社名が繰り返されていた。美佐子は洗濯物を畳む手を止め、誠一は新聞の経済面を開いた。遥だけが、祝日の番組がニュースへ変わったことを不満そうに見ていた。

 

「持ってる会社?」

 

 美佐子が聞いた。

 

「違う」

「関係ある?」

「取引先の業界にはある」

「売れるの?」

「今日は市場が休み」

「じゃあ、明日まで何もできないの」

「注文は出せる」

 

 売り注文を出すこともできた。だが、価格がないまま成行注文を置けば、明日の最初についた値段で売ることになる。どこまで下がるか分からない時に、価格を決めずに売るのは規則に反する。

 譲司は注文画面を開き、数量30,000株まで入力した。売却価格は空欄のままにした。

 美琴へ電話する。

 

「今日、無理」

「相場?」

「海外で大きいのが潰れた」

「譲司の会社?」

「違う。影響を確認する」

「市場、休みなんでしょ」

「だから明日の反応が分からない」

 

 美琴は数秒黙った。

 

「じゃあ、来週の水曜」

「分かった」

「今度は、無理なら前日に言って」

 

 通話が切れた。

 譲司は相場ノートを開いた。「材料より材料後の反応を見る」と書いたページだった。材料だけで売らず、価格と出来高を確認するための規則だった。

 その下へ1行加えた。

 直接影響が限定される材料は、市場反応と分けて評価する。

 反応を見る規則は残っている。市場全体が下がっても、直接影響がない会社まで同じ価格で評価する必要はない。その説明なら、明日下がってもすぐには売らずに済む。

 

 9月16日、火曜日。極東金融システムは492円で始まった。高値547円、安値468円、終値522円。出来高は前週末の2倍を超えた。

 市場指数、銀行株、証券株、輸出株、資源株が同時に下がった。円は高くなり、原油と銅も下がる。業種をまたいで売られている以上、極東金融システム固有の価値とは別だと譲司は考えた。

 以前なら、市場全体が弱い時は現金で待った。

 今回は、世界的な換金売りだから個別企業の価値とは関係が薄い、と書いた。

 17日の終値489円。18日は452円。

 佐伯が相場表の規則欄を開いた。

 

「買う前は、直接影響が限定って書いてる」

「限定されてる」

「でも、株価は下がってる」

「市場全体の換金売りだ」

「材料後の反応を見るんじゃなかった?」

「固有材料への反応と、市場全体の反応は分ける」

「それ、買う前に分けてた?」

 

 譲司は時刻欄を見た。市場全体の換金売りという文章は、16日の取引終了後に追加している。

 

「起きたことを記録した」

「撤退条件も変わる?」

「乱高下の幅が大きい。通常の値幅は使えない」

「どこで売る?」

「430円」

「買う前は?」

「市場の状態が変わった」

 

 変化へ対応するための変更なら、規則違反ではない。固定した価格を守ることより、現在の市場を反映する方が正しい。譲司は430円の売り条件を入力した。

 

 9月19日、金曜日。極東金融システムは449円で始まり、高値468円、安値404円、終値424円。

 30,000株は加重平均430円で全量約定した。

 

 売却代金 12,900,000円

 売却手数料 1,575円

 現金残高 13,650,194円

 

 純損失は6,603,150円だった。

 買付後に残っていた751,769円へ、売却代金から手数料を引いた12,898,425円が加わった。計算は合っている。誤発注も、約定漏れもない。

 譲司は損失額より先に、売却後の極東金融システムを登録銘柄へ残した。翌週に戻れば、430円で売った判断が早かったことになる。さらに下がれば、直接影響が限定されていても市場全体に従うべきだったと確認できる。どちらへ動いても、次の規則を作る材料になる。

 売却後、譲司は極東金融システムの行へ「規則違反なし」と入力した。買付前の規則を削除せず、発生した市場状態に合わせて追記し、最後は決めた価格で売った。

 

 その夜、佐伯直人の京浜制御機器も前日より上がっていた。同業株の一部が反発し、強気な記事が新しく出ている。

 佐伯は売却画面を開かなかった。

 戻り始めた。

 やはり売られすぎだった。

 買値までは遠くない。

 

 翌日には上昇分の多くを失った。佐伯は反発が否定されたとは考えず、戻る途中の押し目と書いた。

 以前なら、「押し目」を使う条件を先に決めた。今は、売らない結論を残せる言葉として後から入力した。

 佐伯は譲司の「規則違反なし」のセルを見たが、変更しなかった。自分の表にも、買付後に増えた言葉が並んでいた。

 週明けの9月22日、譲司は新東輸出機器を買った。

 30,000株、430円。買付代金12,900,000円。手数料1,575円。買付後現金748,619円。

 始値444円、高値461円、安値408円、終値426円。注文は加重平均430円で全量約定した。

 新東輸出機器は精密駆動装置を海外の工場へ納めていた。円高は不利だったが、受注残があり、省電力型の新製品も発表している。原油安は輸送費を下げ、銅などの金属安は材料費を下げる。

 市場全体、輸出機器業種、新東輸出機器の株価は、どれも弱かった。

 円相場の画面では、輸出企業の想定より高い水準へ円が進んでいた。商品画面では原油と銅が下がる。右のモニターだけを見れば、世界需要の縮小と円高が同時に進んでいるように見えた。左のモニターには、新東輸出機器の受注残と新製品の記事がある。

 譲司は二つの画面を同時に見ず、一つずつ最大化した。右を開けば買えない。左を開けば、安くなった理由を説明できる。

 先に開いたのは左だった。

 弱いものが三つ並んでいる。

 譲司は「分からない時は現金で待つ」という規則を開いた。分からないのは、金融危機がどこまで広がるかである。新東輸出機器の技術力や受注残が消えたわけではない。

 文章の「分からない時」に線を引いた。その横へ、「企業価値まで分からない場合」と書き足す。

 危機の範囲が分からなくても、企業価値が分かるなら待つ必要はない。

 佐伯は放課後、譲司の部屋でその行を読んだ。

 

「分からないから待つ、じゃなくなった」

「何が分からないかを分けた」

「市場は?」

「分からない」

「業種は?」

「弱い」

「個別は?」

「割安だ」

「前は、順番を見てたよね」

「順番だけで売られすぎを無視する方がおかしい」

 

 佐伯は新しい列を作ろうとした。市場不明、業種弱い、個別割安。それぞれを並べれば、後で比較できる。

 列名へ「分かる範囲」と入力しかけ、消した。

 

「何で消す?」

「何を書けばいいか、分からない」

「今言っただろ」

「お前が買った後に増えた言葉を、列にしたくない」

 

 譲司は自分で列を追加した。佐伯が作らなくても、表は使える。

 23日は祝日だった。美琴との約束は翌日だった。

 

 24日、新東輸出機器の終値は407円。25日は403円。26日は392円。

 譲司は美琴へ「今週は難しい」と送った。

 返信は短かった。

 じゃあ、10月5日。

 29日の終値384円。30日は364円。10月1日は320円。2日は299円。

 円高は続き、原油と金属の下落も広がった。輸送費と材料費が下がっているのに、輸出機器株へ買いは戻らない。費用低下より、海外需要の減少と円高の方が強く見られていた。

 譲司は、効果が出る順番の問題だと考えた。

 需要不安は株価へ先に出る。費用低下は決算へ後から出る。市場が短期の不安を織り込んだ後、利益率の改善が評価される。

 どちらも起こり得る。どちらを先に使うかで、保有の結論が変わる。

 

 3日、金曜日。新東輸出機器は296円で始まり、高値306円、安値263円、終値276円。

 30,000株を加重平均280円で全て売った。

 

 売却代金 8,400,000円

 売却手数料 1,575円

 現金残高 9,147,044円

 

 純損失は4,503,150円だった。

 佐伯は売却結果を入力した後、1か月、注文を止めるよう言った。

 相場表には、7月7日から10月3日までの四取引が続いていた。4件とも損失で、42,009,644円は9,147,044円になっている。佐伯は開始残高と現在残高のセルを選び、減少率の式を入れかけた。

 譲司が画面を見ているため、式を消した。割合を表示しても、止める理由として採用されなければ、また比較基準を変えられる。4,200万円を基準にすれば大損で、12万円を基準にすれば大幅な利益だった。

 

「1か月は長い」

「9月から2回で、1,100万円以上減ってる」

「残高は900万円ある」

「だから止める」

「何を基準に1か月なんだ?」

「市場が毎日違いすぎる」

「違うから機会がある」

「僕も撤退条件を広げた。買値へ戻る材料だけ探してる。家には損を小さく言った。だから、今の自分の判断を信用してない」

「自分で信用できない人間が、俺を止めるのか」

 

 佐伯は口を閉じた。

 自分も規則を破ったと認めることは、忠告の根拠にも、忠告を退ける理由にもなった。譲司の文章が注文を許可する方向へ増えるたび、佐伯の表も保有を許可する方向へ増えていた。

 

「1か月じゃなくて、次の条件が出るまで待つ」

「条件は、お前が書くんだろ」

「市場が決める」

「言葉を変えるのはお前だよ」

 

 佐伯は相場表を保存した。新しい列は加えなかった。

 

 10月5日、日曜日。美琴から午前中に連絡が来た。

 今日どうする?

 譲司は前日の海外市場と、月曜日に開く国内市場の気配を調べていた。新東輸出機器を売った後も、関連株は下がっている。買い直すつもりはない。だが、売った判断が正しかったかを確認する必要があると感じた。

 午後は無理、と返信した。

 美琴から電話が来た。

 

「9月15日。9月24日。今日、10月5日」

「何が」

「会うって言った日」

「数えたのか」

「数えたんじゃない。忘れてないだけ」

 

 譲司は市場画面の時刻を見た。

 

「今は市場が普通じゃない」

「普通になったら会うの?」

「落ち着けば」

「いつ落ち着くの」

「分からない」

「じゃあ、私は分からない予定を空けない」

 

 美琴は、相場をやめろとも、損を取り返すなとも言わなかった。

 

「今月はもう約束しない。私の予定を先に入れる」

「分かった」

「分かってない声」

「何て言えばいい」

「何も。決めたのは私だから」

 

 電話が切れた。

 譲司は携帯電話を机へ置き、市場画面へ戻った。

 

 10月6日から10日まで、大都証券システムの終値は420円、378円、323円、280円、238円と下がった。

 譲司は毎日、値下がり率ランキングから同社を開いた。最初の日は監視銘柄へ入れただけだった。2日目には出来高を記録し、3日目には過去1年の高値を表示した。4日目には1株当たり純資産を調べ、5日目には、前週の420円まで戻った場合の利益を計算した。

 下落しただけでは買わないという規則は、どの日にも残っていた。その横にある情報だけが増えた。

 420円から238円へ下がったことで、会社のシステムや契約が半分近く失われたわけではない。そう考えると、下落率の大きさそのものが企業価値とのずれに見えた。

 証券会社向けの注文・清算システムを扱う会社だった。極東金融システムと似ているが、同じ会社ではない。株価は5営業日で4割以上下がっている。出来高は増え、10日には安値221円を付けた。

 

 10月13日は祝日だった。

 海外では、金融機関への資本支援や市場安定策が相次いで報じられた。連休明けの14日、国内市場には寄り付きから買い注文が集中した。

 大都証券システムは226円で始まり、高値310円、安値218円、終値284円。前営業日終値238円から大きく反発した。出来高は10,000,000株を超えた。

 値上がり率ランキングと売買代金急増ランキングの両方へ入った。以前なら、そこから市場、業種、個別株を数日確認した。今回は、政策後の反発初日を逃せば価格が戻ると考え、その日のうちに候補から注文へ進めた。

 譲司は午前8時15分に出していた30,000株、290円の買い注文が、加重平均290円で全量約定したことを確認した。

 

 買付代金 8,700,000円

 買付手数料 1,575円

 買付後現金 445,469円

 

「1か月止めるんじゃなかった?」

 

 佐伯が聞いた。

 

「止めるとは言ってない」

「次の条件まで待つって」

「条件が出た」

「1日上がっただけだよ」

「市場全体が上がった。出来高もある」

「前に、反発と底は別って書いた」

「今回は政策が入ってる」

「前と違う?」

「違う」

 

 譲司は東日本電子部品の取引を記録したページを開こうとした。東日本電子部品を買った時、底だったかは後で分かると書いている。指数、新安値銘柄数、業種、個別株を数日確認してから買った。

 ページの端へ指を掛けたまま、開かなかった。

 今回は、確認を待てば価格が戻る。安くなった時に買うには、反発の初日でなければならない。

 その説明を、買付後理由へ入力した。

 

 15日、大都証券システムの終値は241円。16日は197円。

 1日の反発で戻った金額より、翌日から失った金額の方が大きくなった。

 譲司は撤退条件を170円に置いた。

 

「買う前の条件、どこ?」

 

 佐伯は画面を指した。

 

「乱高下だから、通常の値幅では切らない」

「それは買った後に書いてる」

「買付日の安値は218円。そこで売ったら反発を全部否定する」

「今は197円」

「政策後の相場は値幅が大きい」

「170円になったら、何が変わる?」

「初日の安値から2割以上下がる」

「その計算、今したの?」

 

 譲司は答えなかった。

 佐伯は「規則違反」のセルを選んだ。空欄のまま、別のセルへ移る。新しい列も作らない。

 

 10月17日、金曜日。大都証券システムは201円で始まり、高値209円、安値156円、終値163円。

 30,000株は加重平均170円で全量約定した。

 

 売却代金 5,100,000円

 売却手数料 1,575円

 現金残高 5,543,894円

 

 純損失は3,603,150円だった。

 

 9月8日の20,253,344円から、14,709,450円減っていた。

 6週間で、四分の三近くがなくなった。

 譲司は三つの取引を並べた。

 極東金融システム。直接影響は限定。

 新東輸出機器。費用低下は後から効く。

 大都証券システム。政策後の反発は別。

 どの説明にも、起きた事実が含まれていた。完全な嘘ではない。

 ただし、事実を見つけた順番は、注文前と注文後で違っていた。先に結論を置き、その結論を残せる事実を後から選んでも、表の中では同じ文字数で並んだ。時刻欄だけが、その違いをかろうじて数字として残していた。

 佐伯は表を閉じた。

 自分の取引表では、京浜制御機器の行だけが未決済のまま残っている。撤退条件の欄には買付前の価格があり、その下に「買値へ戻ったら売る」「同業反発」「悪材料は織り込み済み」と追記されていた。

 譲司の規則の意味が変わる過程を見抜いても、自分の表から希望の文章を消すことはできなかった。

 

「もう列は増やさない」

「理由は?」

「増やしても、言葉の意味を変えたら同じだから」

「意味は市場に合わせて変わる」

「そう言えば、全部変えられる」

 

 佐伯は自分のフロッピーディスクを鞄へ入れた。譲司の相場表は、譲司のパソコンに残っている。

 画面の横には、東日本電子部品の反発を記録したページがあった。

 譲司はページの端へ指を掛けた。

 開かずに、値下がり率ランキングへ戻った。

 




【今回の運用資産推移】
開始時:20,253,344円
終了時:5,543,894円
増減額:-14,709,450円
増減率:-72.63%
取引回数:20回
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