ヒロ「氷上メルル……! みんなをここから返す方法を話せ」
【死に戻り】の魔法によって魔女裁判が起こる前の時間に蘇った二階堂ヒロは焦っていた。
メルル「ごめんなさい……私にも、皆さんをお家に返して上げることはできないんです……」
ヒロ「くっ……どこまでもシラを切るつもりか!」
牢屋敷に残存する魔法によって魔法少女Y 談お姉さんと化した宝生マーゴの騒動によって、殺人は起こらず氷上メルルがこの牢屋敷の黒幕だと判明した。
よって、ヒロが積極的に尋問を行っているのだが、ここでひとつ問題があった。
ノア「ヒロちゃん、毎日問い詰めたらメルルちゃんがかわいそうだよ?」
ミリア「おじさんも、ちょっとやりすぎだと思うかな……メルルちゃん、泣いてるし……」
レイア「焦る気持ちはわかるがこれでは弱いものいじめのようにも見えてしまう! ヒロくんのような公明正大な人物にはふさわしくないんじゃあないかな!」
ヒロ「君たちは、何も知らないからそんなことが言えるんだ……!」
牢屋敷に集められた魔法少女たちが、メルルから情報を引き出すことに必死でないことも、ヒロの苛立ちの理由だった。
ヒロ(彼女たちは、実際に殺人が起こる危機感がない……私が看守に殺されたことすら伝聞でしか知らないのだから仕方ないことではあるが……)
何より、ヒロを苛立たせるのは同室であり幼馴染みの桜羽エマだった。
エマ「ボクたちが自分で脱出の方法を見つければヒロちゃんもあんなことすむよ……頑張って見つけ出そう!」
エマはヒロとメルルを一瞥し、そそくさと去っていく。
ヒロ(エマはいつもそうだ。口先では優しそうなことを言いながら、見て見ぬふりを繰り返す。桜羽エマは正しくない……!)
日増しに、エマへの殺意が高まっていくのを自覚する。このままではヒロが最初の殺人者になりかねない。
どうしたものか考えていると。
ココ「ぎゃあああー! やめろー! やめてくださいお願いします!」
ヒロ「沢渡ココの悲鳴……!?」
耳をつんざく声には、普段のココのふざけた感じがない。本物の悲鳴だ。
ヒロ「まさか、今度こそ殺人事件が……!? 来い、メルル!」
メルル「は、はい……」
無理やりメルルの手を引く。メルルの治癒の魔法なら死ぬ前に治せる可能性がある。
そんなヒロを白い目で見つつ、他の魔法少女たちも悲鳴の方向に向かう。
そこはシャワールームだった。
シェリー「あれ? ココさん、今日はもうお風呂ですか?」
ハンナ「いくら服が使い捨てだからって、破り捨てることはないでしょう、もったいない!」
ココ「お前らこの状況を見てなんでその反応なんだよアタオカなの!?」
沢渡ココは、全裸になっていた。周りには破れたココの衣服が散乱している。
そして、ココの前には━━銃を構えた黒部ナノカが立っていた。
ヒロ「ナノカ……君がココの衣服を剥ぎ取ったのか?」
ナノカ「反論なんてないわ。ただ今の私は……魔法少女野球拳大好き」
レイア「魔法少女野球拳大好き!?」
ヒロ「おいどういうことだ、説明しろメルル!!」
黒部ナノカは寡黙で真面目な少女だ。こんな冗談を言うタイプではない。
メルルの尋問にこそ協力しないものの、ゴクチョーが尋問を止めないなら真の黒幕がいるのかもしれないと牢屋敷を探索してくれているのはヒロも知っている。
メルル「ああ……いつか大魔女様と遊ぼうと取っておいた魔法がこんな形で……倉庫の隅にしまっておいたのに……」
ノア「メルルちゃん、へんたいふしんしゃさんだね」
よく見ればナノカは普段の黒服ではないグーチョキパーの描かれた羽織のようなものを来ている。あれを着たせいでナノカはおかしくなってしまったようだ。
ナノカ「アウトセーフ よよいのよい!」
ミリア「えっ、あっ……」
ココ「ミリアのおっさーん!」
ヒロ「押しが弱いにも程がある……!」
ミリア「か、身体が勝手に野球拳を……!」
ハンナ「身体が勝手に野球拳を!?」
メルル「洗脳と結界を合わせた高度な魔法で、止めるにはナノカさんに野球拳で勝つしかありません……!」
ミリアの服がどんどん脱がされていく。
無理やり乗せられたとはいえ、半裸になったミリアの顔がどんどん青くなっていく。
ミリア「ナ、ナノカちゃん……おじさんの裸なんか目の毒だよ……だから、やめて、お願い……」
羞恥心とは違う、トラウマでも思い出したかのような振る舞い。
ナノカ「大丈夫よ。私は沢渡ココと違って配信で晒し者にする趣味はないわ。私はただ、純粋にじゃんけんがしたいだけ」
ミリア「よかった……いや、脱がされてる時点で全然よくないんだけどね……」
トラウマを刺激することは避けられたが、言ってる間にミリアはすってんてんになってしまった。ここに男性がいたら間違いなく不健全な光景になっていただろう。今だけはここに魔法少女しかいなくてよかったと思うヒロ。
レイア「そこまでだナノカくん! 女性同士とはいえ、無理やり衣服を剥ぎ取るなど許せない! 私が相手だ!!」
ヒロ「レイア……!」
身を挺して仲間をかばおうとするレイア。
レイア「男性の前ならともかく、私は自分のプロポーションにも自信があるからね! 脱衣などに怯みはしないさ! さぁ今のうちになんとかする方法を考えてくれヒロくん!」
ハンナ「やっぱムカつきますわねこの人」
自信満々のレイアに、ナノカはおもむろにマフラーやサングラス、マスクを取り出した。
ナノカ「そういう人には逆に負ける毎に露出を減らしてもらうわ」
レイア「いやだっー! それじゃあ誰も私の顔を見れなくなるじゃないか!」
ヒロ「くそっ、役に立ちそうもない!」
一瞬でトラウマを刺激されるレイアの醜態に頭を抱えるヒロ。
シェリー「元を正せばメルルさんの責任ですし彼女に全裸になってもらえばいいのでは? それでココさんに配信してもらいましょう」
メルル「ひ、人の心とかないんですか……?」
シェリー「そこになければないですねー!」
ナノカ「よよいのよい」
メルル「いやっーゴクチョーガード!」
またしてもゴクチョーを盾にするメルル。
ナノカ「服がないから代わりにバリカンで毛狩りでもしようかしら」
メルル「ゴクチョー!!」
バリカンで貧相な姿にされたゴクチョー。
エマ「みんな、どうしたの……ゴクチョーが痩せてる!?」
ゴクチョー「メルル様……後で労災保険払ってもらいますからね」
ハンナ「フクロウにも労災とかあるんですのね……」
そこへ、ようやくエマがやってきた。
ナノカ「遅れてやってくるなんて怪しいわね……よよいのよい」
エマ「じゃんけん勝負!? なら、この最強の手で……」
ヒロ「エマ……! なんて姑息で正しくない手を……!」
グーチョキパーを同時に出す小学生みたいなインチキをしようとするエマ。
ナノカ「ズルは反則負け」
ナノカは自前の銃を乱射し、エマの服をビリビリにして全裸にしてしまった。
ヒロ「エマーーーー!!」
ノア「ヒロちゃん鼻血すごいよ?」
片手で胸を、片手でチョーカーをつけていた太ももを隠して涙目になるエマ。
エマ「うう……ボク、もうお嫁にいけない……」
ヒロ「どう考えても他に画すべき場所があるだろうエマ!」
ナノカ「隙を見せたわねよよいのよい」
ヒロ「し、しまっ……!」
そんなこんなで強制野球拳によりヒロも、結局メルルやノアも裸にされてしまった。
ナノカ「さて……残ったのは遠野ハンナと橘シェリーだけね。あなた達も全裸にして黒幕としての証拠を隠し持っていないか見せてもらうわ」
ヒロ「一応、黒幕を探そうという理性は残っていたのか……」
様子はおかしくなっているが、黒部ナノカとしての意識もちゃんと残ってはいるらしい。
ナノカ「さぁ……次はあなたよ遠野ハンナ」
ハンナ「ひっ……! こ、来ないで……わたくしは、お嬢様としての綺麗な姿でいたいの……」
ハンナの喉から引きつった悲鳴が漏れる。
それを聞いて━━今まで傍観していただけの橘シェリーが、勢いよくハンナとナノカの間に割り込んだ。
シェリー「ナノカさん、私と野球拳しましょう!」
ナノカ「どちらからでもいいわ。よよいの……」
シェリー「その前に、ルール確認なんですけど。野球拳って、じゃんけんして服が全部脱げたら負けなんですよね」
ナノカ「その認識で構わないわ」
ハンナ「シェリーさん!? あなたも脱がされてしまうんですのよ!」
本気で心配するハンナに、シェリーはいつも通りニッコリと笑って。
シェリー「大丈夫ですよ、シェリーちゃんは脱衣も着衣も毛狩りも気にしませんし……何より、野球拳必勝法がわかりましたから!」
ハンナ「シェリーさん……」
ナノカ「それは楽しみね。よよいの……」
ナノカがさっさと野球拳を開始する。シェリーも勢いよく手を振りかぶって━━
シェリー「じゃーんけーん、パッー!」
ナノカ「がはあっ……!?」
シェリーの平手が、ナノカの胸を勢いよく押しナノカの身体が勢いよくシャワールームの壁に叩きつけられた。
ナノカ「ひ、卑怯よ……!」
シェリー「卑怯? 嫌ですねナノカさん。じゃんけん中の暴力は禁止なんて言わなかったじゃないですか! 次はグーで気絶させて、あなたをすっぽんぽんにすれば私の勝ちです!」
シェリーは本当にやる気だ。のしのしと壁に叩きつけられたナノカに近づいて、露骨に拳を握る。
ナノカ「こ、こないで……」
シンプルな暴力が近づいてくる。恐怖心が顔を出しかけたナノカとシェリーの間に。
看守が、立ちはだかった。
シェリー「あれれ~おかしいですよ~? メルルさんを全裸にしても出てこなかったのにナノカさんのことは庇うんですか? 実はナノカさんこそ黒幕だったのでは?」
シェリーの疑問は尤もだ。しかしその答えは、すぐにナノカの口から出てきた。
ナノカ「お姉ちゃんはいつもそう……! 私が罰を受けそうになると、いつもいつも庇ってくれて……」
ヒロ「そうか……看守はナノカの姉だからこそ、ナノカはあんなに真剣に……」
ナノカ「少しくらい……私に、格好つけさせてよ!!」
看守にすがり付いて涙を流すナノカから、看守は優しくグーチョキパーの羽織を脱がせる。まるで、姉が幼い妹の着替えを手伝うような慈しみすら感じさせた。
こうして、第二の事件は魔法少女野球拳大好きと化した黒部ナノカが泣き崩れて終わったのだった……。