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時系列は3学期スタートです
「カオル・ハクエン、トオル・ハガクレ。ルーキーとしては十分な活躍だった!! プロになった時の活躍が今から実に楽しみだ!!」
滑走路に響き渡る爆音の中、スターアンドストライプが豪快な笑い声を上げながら、二人の肩をガシッと力強く叩いた。その圧倒的な存在感と握力に、二人は思わず身体を縮こまらせる。
「「スターさん、本当にありがとうございました!!」」
「ふむ、良い返事だ!」
怒涛の勢いで過ぎ去った2泊3日のアメリカ旅行。その短い滞在の中で、二人は世界最高峰のヒーローを親しみを込めて「スターさん」と呼ぶようになっていた。正直なところ、世界の頂点に立つヒーローをそんな砕けた愛称で呼ぶのは畏れ多いという気持ちが強かったが、本人が「固い呼び方は抜きだ!」と笑って聞き入れなかったのだ。
さらに去り際、スターさんは二人を信頼し、自身の能力の一端を特別に明かしてくれたのだった。
スターアンドストライプの個性『新秩序(ニューオーダー)』。
対象に触れ、名を呼ぶことで『新しいルール』を付与・付加する絶対的な概念操作。
それ以上についての詳細な仕様や適用条件は厳重な国家秘密だと言っていたが、その一端に触れただけでも、白煙くんの背筋には恐ろしいほどのゾクゾクとした戦慄が走っていた。
「また会おう!! 日本のヤングヒーローたち!!」
白い歯を見せてサムズアップを決めるスターさん。だが、その去り際の口元にはどこか意味深な笑みが浮かんでいた。
(……なんだろう、この嫌な予感。どこかで見たことがあるような……そうだ、雄英の相澤先生が『合理的虚偽』を仕掛ける時の、あの嫌〜な顔にそっくりだ……)
白煙くんが冷や汗を拭っていると、隣で両親が楽しそうに手荷物を整え始めていた。
「薫ちゃん、すぐにまた会えるからねー!!」
「……母さん、さっき事務所で言ってた『あの計画』……本当にやるつもりなの?」
「もちろん!! パパと話し合って、もう手配も済ませちゃったわよ!」
お母さんはノリノリでウィンクしてみせる。対照的に、白煙くんは「はぁ……」と生気を失った顔で頭を抱えた。
「はぁ〜……日本に帰ってから、A組のみんなにどんな顔されるか……間違いなく大騒ぎになって驚かれるよ……」
「ハッハッハ! それもヒーローとしての貴重な経験だ! 堂々と胸を張っていけ!」
肩をぽんと叩いて胸を張るお父さん。白煙くんは「他人事だと思って……」と心の中で小さく毒づいた。
「それじゃあ、透ちゃん。うちの不器用な薫ちゃんをよろしくお願いね!」
「はい、お義母さま! しっかり手綱を握っておきます!」
「お、お義母さまぁ!?」
白煙くんのお母さんのノリノリな呼びかけに、透ちゃんが満面(の空気)で元気に答える。その絶妙なやり取りに、白煙くんの顔は瞬時に真っ赤に染まった。
「ちょっと透ちゃん、乗っからないでよ……! 恥ずかしすぎるって……!」
「えへへ、いいじゃないエンちゃん! 家族が増えたみたいで嬉しいよ!」
空港のゲートをくぐる二人を、両親とスターさんが温かい(そして少し企みを含んだ)眼差しで見送る。
波乱に満ちたアメリカの旅を終え、日本の空へと旅立つ二人。だが白煙くんの胸騒ぎ通り、帰国後のハイツ・アライアンスには、更なる大混乱と衝撃の展開が待ち受けていたのだった。
成田空港からバスに揺られ、久しぶりに足を踏み入れた雄英高校A組の寮「ハイツ・アライアンス」。
エントランスの重い扉を開けた瞬間、あたたかな熱気と賑やかな声が二人を迎えた。
「白煙! 葉隠! お帰り!! 無事だったか!?」
「急にアメリカに行くなんて言うから心配したぞ! トラブルに巻き込まれたんじゃないだろうな!?」
切島くんと上鳴くんが真っ先に駆け寄ってくる。その後ろから芦戸さんや耳郎さん、飯田くんたちも次々と集まってきた。
「アメリカはどうだった!? 本場のハンバーガー食べた!?」
「自由の女神、やっぱりデカかったのかい!?」
「ウィ☆ 僕へのお土産は最高級のチーズかな……?⭐︎」
矢継ぎ早に投げかけられる質問に、白煙くんと透ちゃんは苦笑いを浮かべながら荷物を降ろした。
「みんな、心配かけてごめんね。トラブルっていうか……まあ、色々とすごい体験をしてきたよ」
「うん! アメリカのスケール、本当に凄かったんだから!」
透ちゃんが手振り身振りを交えて答えていると、人集りの隙間から、ドス黒いオーラを纏った小さな影がずるりと這い出てきた。
「おい……白煙……葉隠……」
両目を真っ赤に血走らせ、目角から血の涙を流した峰田くんが、阿修羅のごとき憤怒の相で二人を睨みつけている。
「実家に挨拶に行ったのかァ……!? 彼女を両親に紹介したのかァァ……!? まさかそのまま学生結婚の約束まで取り付けてきたんじゃねえだろうなあああッッ!? 許さん……許さんぞリア充共!! 聖なる夜を乗り越え、次はアメリカで愛を深めたんだろ!? リア充ぶっ潰す!! リア充ぶっ潰すマンとなってお前らを爆破してやるぅぅぅッ!!」
「み、峰田くん……!? 落ち着いて、血の涙が出てるよ! 怖いから!!」
白煙くんが思わず半歩後退りする。あまりの執念とキモさに、女子メンバーは即座に距離を取り、周りの男子メンバーもドン引きで距離を取った。
「白煙、お前が力を付けて来ているのは嬉しいが、俺はお前を追いかけるのが大変だ」
障子くんが腕を組んで複雑そうにしている。
「障子くんもすごいよ!! あれ? そういえば……緑谷くんの姿が見当たらないね?」
「轟くんや爆豪くんも居ないみたいだけど……どこか行ってるの?」
周囲を見回した透ちゃんの疑問に、八百万さんがティーカップを手に優しく微笑みながら答えてくれた。
「お二人とも、インターンですわ。緑谷さん、爆豪さん、轟さんの3人は、新ナンバーワンヒーローであるエンデヴァーさんの事務所へ研修に向かわれましたの」
「エンデヴァーさんのところか……! あの3人なら、きっとものすごい勢いで強くなって戻ってくるんだろうなぁ」
白煙くんは同期たちの貪欲な姿勢に刺激を受けつつも、長旅の疲労がじわじわと身体を蝕んでいるのを感じていた。
数日後。
「ふぁあ……まだちょっと時差ボケが抜けないよ、エンちゃん〜……」
「そうだね……アメリカと日本じゃ昼夜が真逆だったからね」
寮のソファで、白煙くんと透ちゃんが並んで小さく欠伸を噛み殺していた。ようやく体のリズムが戻りつつあったその時、白煙くんのスマホがブブッと震えた。
画面に表示されたのは『父さん』の文字。
「……父さんからだ」
【父】:薫、今いいか?
【薫】:何、父さん?
【父】:雄英高校との話し合いが終わったぞ。スターが待ってる!
【薫】:いや、なんか……ものすごく嫌な予感がするんだけど……
【父】:はっはっはっ! 楽しみにしていろ!
【薫】:はっはっはっ、じゃないよ! 一体何の話!?
【父】:準備が出来たら、メッセージをくれ。すぐに向かわせる。
やり取りを終えた白煙くんは、画面を見つめたまま「はぁぁぁ……」と魂が抜け出たような溜息を吐いた。
「透ちゃん……例の件、雄英側の許可が下りちゃったって……」
「えっ……!? スターさんのあの提案、本当にやるんだ……!?」
白煙くんはすっかり諦めモードで天を仰ぎ、透ちゃんは未だに事態のスケールの大きさに理解が追いつかず、透明な手をわちゃわちゃと動かすことしかできないのだった。
1月中旬。
3学期初日。冬の静けさが残る雄英高校1年A組の教室に、久々に生徒全員が顔を揃えていた。
「では、これから向かう各自のインターン先について報告し合い、互いの志を高め合おうではないか!」
委員長の飯田くんが、いつものように腕を直角に振り下ろしながらクラス全体へ呼びかける。
* 芦戸さん&青山くん:具足ヒーロー「ヨロイムシャ」
* 尾白くん&砂藤くん:ライオンヒーロー「シシド」
* 耳郎さん&障子くん:鯱ヒーロー「ギャングオルカ」
* 上鳴くん&瀬呂くん&峰田くん:マウントレディ、シンリンカムイ、エッジショットの結成したチーム事務所
* 飯田くん:保須市のノーマルヒーロー「マニュアル」
* 口田くん:洗濯ヒーロー「ウォッシュ」
* 常闇くん:ナンバー2ヒーロー「ホークス」
* 切島くん:関西の「ファットガム」
* 麗日さん&梅雨ちゃん:ドラグーンヒーロー「リューキュウ」
* 八百万さん:魔法ヒーロー「マジェスティック」
「みんな、名だたるトップヒーローのもとへ行くんだね! 頼もしいよ!」
緑谷くんがノートにペンを走らせながら目を輝かせる。そんな熱気の中で、白煙くんが静かに手を挙げた。
「あの……僕と透ちゃんは、アメリカのインターンに行きます」
「行きまーす!!」
「「「またァァァ!?!?!?」」」
教室中にA組全員の大絶叫が響き渡り、窓ガラスがガタガタと揺れた。
「ア、アメリカぁぁぁ!?」
緑谷くんがひっくり返りそうな声で仰天する。
「アメリカか。時差に気をつけろよ」
轟くんが相変わらずのマイペースさで頷く。
「おいコラ白煙ェ!! 正月早々姿消したと思ったらアメリカだと!? テメェ何企んでやがる勝手な真似すんじゃねぇぞッ!!」
爆豪くんが机を叩いて跳ね起き、掌で爆破をバチバチと鳴らす。才能マンの勘なのか、白煙くんが何か大きなことを行動していることに警戒している。エンデヴァー事務所でのインターンに集中していた彼ら3人は、白煙くんたちの正月の一件を知らなかったため、怒涛の展開にパニック状態だ。
「ば、爆豪くん!? 企むってより巻き込まれているんだよ!? ああっヤバい、約束の時間だ! 詳しい事情は帰ったら絶対説明するから! みんな、行ってきます!」
「相澤先生、行ってきまーす!!」
「おう。怪我だけはするなよ」
教卓で寝袋にくるまっていた相澤先生が、億劫そうに片手を挙げる。
シュンッ……!
「「「――き、消えたァァァ!?!?!?」」」
白煙くんと透ちゃんの姿が、空間ごと切り取られたかのように一瞬で教室から消失した。残されたA組の面々は、ぽかんと口を開けて空になった空間を見つめるしかなかった。
視界が歪んだと思った次の瞬間。冷たい日本の冬の空気は消え去り、エアコンの効いた豪奢で広大な部屋――スターアンドストライプ事務所の最上階へと、二人は立っていた。
「ハッハッハ! また会ったな、カオル・ハクエン、トオル・ハガクレ!!」
「ス、スターさん……どうも、お邪魔します……」
瞬間移動。
何を言っているのか分からないと思うが、僕自身も全く理解が追いついていない。
日本からアメリカという太平洋を越える超長距離の移動を可能にしたのは、スターさんの知り合いヒーローによる恐ろしい個性だった。
『アメリカにもワープ個性のヒーローは居る。しかし、メディアにも一切出ない。存在すら公表されていない』
『スター。契約終了だ。我は消える』
『ありがとうアンノウン』
日本の公安ヒーローと同じ存在で、白煙くんと透ちゃんの存在そのものを強制的にアメリカへと転送したのだ。
(移動できる人数や回数に上限があるとは言っていたけど……日本からアメリカの超遠距離を可能にするなんて、めちゃくちゃな個性だ……)
白煙くんは目眩を覚えながら、冷や汗を拭った。
「エンちゃん、本当に一瞬でアメリカに着いちゃったね……!」
透ちゃんも手元を見つめながら唖然としている。
「さあヤングヒーローたち! このアメリカで君たちの『上限』を極限まで引き上げる特訓を始めるぞ!!」
スターアンドストライプが豪快にマントを翻す。相澤先生の「合理的虚偽」すら生ぬるい、規格外すぎるアメリカインターンシップが、いま幕を開けたのだった。
まさかのアメリカナンバーワンヒーロー事務所でのインターン。
事の発端を思い返せば、雄英高校の根津校長は「ハッハッハ! 世界トップのヒーローから直々の指名かい? 貴重な体験だ、面倒な手続きは大人に任せて思いきって活動するといいさ!!」と上機嫌で許可を出してくれた。
相澤先生も「……向こうでスターの規格外さに流されるなよ。ひよっこヒーローとしてしっかり働いてこい」と、呆れつつも背中を押してくれたのだ。
そうして始まった、アメリカ軍の最精鋭基地を併設したスターアンドストライプ事務所での本格的な合同特訓。
「たあっ!!」
「良いぞ、インビジブルガール! だが踏み込みの速さに固執するな。パワー不足は予測と経験、そして『間合い』でカバーしろ! きみは視えない。その圧倒的なステルス性を『ヒット&アウェイ』に極限まで活かせれば、どんな怪物相手でも優位に立てる!」
「はいッッッ!! 教官!!」
汗だくになった透ちゃんが対峙しているのは、星条旗のワッペンを胸につけたアメリカ陸軍特殊部隊の格闘教官たちだ。彼らは異能(個性)を持たない肉体のプロ中のプロ。気配、足音、筋肉のわずかな弛緩から敵の動きを予知する戦術の鬼たちである。
「攻撃する時間と、息を潜める時間を身体で覚えろ! 姿が見えないからと連撃を焦るな。敵が警戒し、視界の焦点を絞る時間をギリギリまで粘れ。そして――敵の集中力が途切れて『ふっ』と息を吐くその僅かな隙間に、確実に急所を穿つ!」
「はいッッッ!!」
透ちゃんの格闘術は、確実に進化の系統樹を辿っていた。
1年最初の職場体験では、武闘派ヒーロー・ガンヘッドから学んだ身を守るための基礎格闘術。
夏の林間合宿では、ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツの虎による地獄のブートキャンプで叩き込まれた、身体の柔軟性を最大限に活かす可動域の拡張。
そして今、アメリカの大地で修得しつつあるのは、自身の姿が見えない特性を極限まで引き出す「暗殺術(プロ・ステルス)」レベルのヒット&アウェイ。
目に見えない死角から、完璧なタイミングで放たれる拳。透ちゃんは一歩一歩、確実に頼もしい「ヒーロー」へと変貌を遂げていた。
一方、広大な訓練場の別区画。
「――くっ……『赤煙(セキエン)』!!」
シュウゥゥゥッ……!
白煙くんの全身から、脈動するような禍々しい赤い煙が吹き出す。だが次の瞬間――。
「げほっ! ゲホッ……ハァ、ハァッ……!!」
白煙くんは膝をつき、激しく咳き込んだ。胸を強く打たれたような圧迫感と、全身の血管が焼き切れるような灼熱感が襲いかかる。
(……くそっ、やっぱりそう簡単にはいかないか……!)
『赤煙』。
かつて黒煙(ブラック)が白煙くんと初めて交戦した際、爆発的な戦闘力を生み出すために使用していた身体強化術だ。黒煙から共有された記憶を頼りに、その原理を解明し、再現しようと試みていた。
己の肉体を文字通り赤い煙で燃やし、その熱量で能力を引き上げる。自分で細胞を燃やして煙を出し、その高負荷の煙を再び吸い込んでエネルギーとして循環させる。黒煙と合体した際に行った『循環』を、今度は自分一人の生体機能だけで行おうという過酷な試みだった。
しかし、実際に自分の身体で再現してみて、白煙くんは血の気が引く思いがした。
(黒煙の記憶の中じゃ『覚悟が足りない』なんて言ってたけど……これ、心臓の鼓動を極限まで速めて、血液循環を無理やり加速させてるんだよ!? つまり細胞を前借りで使い潰す、寿命を縮めるような危険すぎるドーピングじゃないか……!!)
原理は完全に理解できた。成功すれば全技の威力が倍増し、スピードも段違いになる。
だが、これは自身の未来と肉体を破壊する諸刃の剣だ。順調に技術を伸ばす透ちゃんと対照的に、白煙くんは壁にぶち当たり、苦戦を強いられていた。
「……というわけなんだよね。心臓への負荷が凄まじくて……」
夕方の休憩時間。プロテインを飲みながら、白煙くんが解説すると――。
「エンちゃん、それは絶対にダメえええええ!!!!」
透ちゃんの姿はないものの、猛烈な勢いで両腕を大きく「×」の形に振っている気配がビンビンに伝わってきた。
「だよねー……あはは」
白煙くんは苦笑いしながら頭を掻いた。大好きな彼女に本気で怒られ、心配されるのはどこか心苦しくも温かい。
「自分の身体を傷つけるような強くなり方は絶対に許さないからね! 命を削って強くなったって、誰も嬉しくないんだから!」
「うん、分かってるよ透ちゃん。ありがとう。……でもね、この『循環させて爆発的なエネルギーを生む』っていう原理自体は、すごく理にかなっているんだ」
白煙くんは自分の掌を見つめ、金色の瞳に不屈の光を宿した。
「寿命を削るんじゃなくて、外部の熱量や空気圧を利用するとか……心臓じゃなくて別の形で『エンジン』を作る。黒煙のやり方をそのまま使うんじゃなくて、僕なりの『命を削らない赤煙』に改造してみせるよ」
「……本当? 絶対に無理はしない?」
「約束するよ。僕は透ちゃんと一緒に、生きてヒーローになるんだから」
沈むアメリカの夕日の中、互いの絆を確認し合う二人。
白煙くんのみが知る3ヶ月後の大災害に向けて、若きヒーローたちはそれぞれのやり方で、確実に強くなっていた。
日本とアメリカの移動方法はアンノウンがすげー頑張ったと思ってください
アメリカにもワープ個性居るよなー多分、きっと。絶対公表しないけど。