今日のインターンシップの舞台は、太平洋上に浮かぶ世界中の超一流の研究者や科学者たちが一堂に会する学術人工移動都市《I・アイランド(アイ・アイランド)》。
果てしなく広がる青い海に囲まれたその巨大都市は、日本の最高警戒レベルを誇るヴィラン収容所「タルタロス」と同等、あるいはそれ以上の最先端セキュリティシステムによって強固に守られている。
スターアンドストライプの警護ミッションとして訪れたその最先端研究施設の応接エリアで、白煙(薫)くんと透ちゃんを出迎えたのは二人の親子だった。
「初めまして! メリッサ・シールドです」
少しクセのある綺麗な金髪のロングヘアーを揺らし、知性と優しさを湛えた青緑色の瞳を輝かせて爽やかに挨拶をしたのは、美少女研究者のメリッサさん。
「……デヴィッド・シールドだ。遠いところからようこそ、日本の若いヒーローたち」
その隣で穏やかな微笑みを浮かべて佇むのは、白髪交じりの落ち着いた雰囲気を纏う紳士、デヴィッドさん。
「カオル・ハクエンです。よろしくお願いします」
「トオル・ハガクレです! お邪魔します!」
白煙くんと透ちゃんも緊張しつつ丁寧にあいさつを交わす。
「お久しぶりです、デヴィッドさん! 相変わらずお元気そうで何よりだ!」
スターアンドストライプが豪快に笑いながら、親しみを込めてデヴィッドの肩を叩いた。
「ああ、スター。君も相変わらず壮健そうで何よりだよ。……私たちの警護を引き受けてくれて感謝する」
デヴィッド・シールド。言わずと知れたオールマイトの全盛期を支えた元バディであり、あの象徴的なコスチュームをはじめとする数々の伝説的サポートアイテムを生み出した天才科学者だ。オールマイトを師と仰ぐスターさんから見ても、彼は心から尊敬に値する偉大な存在だった。
「さて、本日の警護任務について説明しておこう。今日はデヴィッドさんの重要な依頼者たちが、新たに開発された最先端のサポートアイテムの視察と商談に来ることになっている」
スターさんが表情を引き締め、背後のモニターに施設の構造図を映し出しながら説明を加える。
「デヴィッドさんのサポートアイテムが見られるなんて……! それって実質、世界一の技術が集まったアイテムってことですか!?」
透ちゃんが期待に胸を膨らませ、姿は見えずとも目を輝かせているのが伝わってくる。
「はっはっはっ。世界一なんて大袈裟なものではないよ、ハガクレさん。私はただ、ヒーローたちが少しでも安全に、そして一人でも多くの人々を救えるような『役に立つモノ』を創りたいだけさ」
謙遜しながらも、自身の開発思想を優しく語るデヴィッドさん。その真摯で温かい眼差しに、白煙くんは心からの敬意を抱いた。
(自分の才能を誇るわけでもなく、ただ『誰かの役に立ちたい』という純粋な想いで世界最高峰の技術を生み出し続けているんだ……。オールマイトの背中を支え続けた人の言葉は、重みが違うな……)
「……かっこいい……!! 本物の天才って、こういう人のことを言うんだね……!」
白煙くんが素直な感嘆の声を漏らすと、メリッサさんは誇らしそうに微笑み、デヴィッドさんも少し照れくさそうに目元を和ませた。
世界最高のセキュリティを誇る海の上の人工都市で、新たな出会いと緊迫の警護任務が静かに始まろうとしていた。
「メリッサちゃん! 私、トオルって言うの! よろしくね!!」
「うん、よろしくねトオルちゃん! 日本の学生ヒーローとこうしてお話しできるなんて、すごく嬉しいわ!」
同年代ということもあり、透ちゃんとメリッサさんは出会って数分で意気投合していた。姿は見えずともテンション高く跳ね回る透ちゃんの雰囲気に、メリッサさんも楽しそうに目を細めている。
「そういえばトオルちゃん、さっきからハクエンくんとすごく仲良しだけど……もしかして二人は……?」
メリッサさんが悪戯っぽく微笑みながら尋ねると、透ちゃんは待ってましたとばかりに胸(の空間)を張った。
「ふふ〜ん! エンちゃんは私の彼氏! とびきり優しくてかっこいいボーイフレンドだよ!」
「ええっ、彼氏!? すごーい、いいなぁ〜!! 私は研究に没頭してばかりだから羨ましい! それに……うちのパパだったら、私に彼氏ができたら泣いて反対しそうだもの!」
「あはは! デヴィッドさん、すごく優しそうだもんね!」
キャッキャと弾む女子トーク。恋バナに国境は無い。その横で白煙くんは「ボーイフレンドって面と向かって言われるとやっぱり恥ずかしいな……」と顔を真っ赤にして頭を掻いていた。
「はっはっは、仲良くなるのが早くて何よりだ!」
スターアンドストライプが二人の会話を微笑ましく見守った後、表情をキリッと引き締めて前を歩き出した。
「さて! 今日きみたちをここに連れてきたのは、もちろんシールド親子の護衛任務のためだけではない。これからの君たちのヒーロー活動……そして世界中の人の未来に役立つ、世界最先端のサポートアイテムを見てもらうためでもある!」
自動ドアが開き、広がっていたのはまるで未来都市のような展示展示ショールームだった。壁一面に整然と並べられたのは、最新技術の結晶であるプロ仕様の特殊ギアや高密度の装備群。
「うわぁぁ……すごっ、何これ! 浮いてる!?」
「エンちゃん見て見て! この手袋、触ったものの形に合わせて変形するよ! おもしろーい!」
最新技術の数々に、白煙くんと透ちゃんはすっかり目を輝かせてはしゃいでいた。実際に体験できるサンプルアイテムを手にとり、ヒーローとしての実用性を確かめながら好奇心を爆発させる。
そんな中、白煙くんの足がガラスケースの前でぴたりと止まった。
ケースの中で怪しく、しかし力強く青白い熱気を放ちながら赤く燃え盛る特殊な鉱石。
「んん……? 燃え続ける、特殊燃焼素材……『ネオ石炭』? なになに……『極小の質量で通常の燃料の数千倍の熱エネルギーを発生させ、排熱を特殊な気体として連続放出する新素材』……!?」
白煙くんの瞳に、激しい閃光が走った。
(これだ……! 自分の心臓や血管に負荷をかけて血液を加速させる『赤煙』は危険すぎる。だけど、この『ネオ石炭』の熱量と排熱システムを外部エンジンとしてヒーローコスチュームに組み込めれば……僕の肉体を削ることなく、高密度の『赤煙』を人工的に生成・循環させられるんじゃないか!?)
『赤煙』の完成形へのピースが見えた瞬間だった。白煙くんは興奮気味に値札のプレートへと目をやる。
「これがあれば僕の新しい技が……! お値段はええと、一、十、百、千、万、十万、百万、千万、一億、十億……じ、十億ドルーーー!?!?」
日本円にして千億円を軽々と超える途方もない数字に、白煙くんの顔から一瞬で血の気が引いた。
「だ、駄目だ買えない〜〜〜!! 国家予算レベルじゃないかこんなの〜〜〜ッ!!」
白煙くんが頭を抱えて撃沈している様子を、少し離れた場所からメリッサさんが青緑色の瞳を輝かせながら、じっと見つめていた。
(ハクエンくん……自分の個性の特性と、あの新素材の反応効率を一瞬で見抜いたんだ……。それに、何か新しい発想をしている……?)
研究者としての鋭いインスピレーションが、メリッサさんの胸の中で静かに燃え上がり始めていた。
「ハクエンくん、トオルちゃん! よかったら二人の『個性』のこと、詳しく教えてくれないかしら? もしかしたら、私の技術でサポートアイテムの提案ができるかもしれないわ!」
「せ、世界レベルの提案!!」
「ありがたいねー、エンちゃん!!」
メリッサさんが目を輝かせ、手元のタブレット端末を構えながら身を乗り出してきた。
「じゃあ、僕から。僕の個性は『煙(けむり)』。自分の身体を可変の煙に変化させられるんだ。気体化している間は物理攻撃をすり抜けられるし、外部の爆煙や有害な毒煙を吸い込んで、自分の力に変換して無害化吸引することもできるよ」
「わあ、素晴らしいわ! 実質的な物理無効と環境クリーニングを兼ね備えた個性ね! 煙人間なんて、論文では読んだことがあるけれど直接見るのは初めて!」
メリッサさんの言葉に照れつつ、白煙くんが微笑む。続いて、透ちゃんが元気いっぱいにアピールした。
「次は私! 私の個性は『透明化』! 生まれつき身体が光を透過・屈折させていて見えないの! 集中的に光を屈折させて、眩しい閃光を出したり、以前はヴィランのビーム攻撃を曲げて反射させたこともあるよ!」
「すっごーい! ステルスだけじゃなくて光の屈折操作まで!? 透明人間は科学者にとっても永遠のロマンなのよ! 光学迷彩の限界を超える可能性を秘めているわ!」
メリッサさんは大興奮でペンを走らせる。
「二人は普段、どんなヒーロー活動を目指しているの?」
「僕は……レスキューヒーローだよ。人を助けられる存在になりたい」
「エンちゃんは凄いの! 消防やプロのレスキューヒーローからも大絶賛されるくらい、的確で優しいレスキューヒーローなんだから!」
「そんなことないよ、透ちゃんこそ現場での避難誘導や隠密行動がすごくて、いつも助けられてる」
「ふふ、本当にお互いを尊重し合っていて、素敵なパートナーね」
微笑ましく二人を見つめていたメリッサさんだったが、ふと先ほど白煙くんが展示ケースの前で悔しがっていた姿を思い出し、首をかしげた。
「そういえばハクエンくん。さっき高額な新素材のアイテムを見ていたけれど……何か技術的に悩んでいることでもあるの?」
「ああ……うん。実は、新しい技の開発が上手くいってなくて……」
白煙くんが言葉を濁すと、透ちゃんが手振り身振りを交えて代わりに説明を始めた。
「エンちゃんね、いまパワーアップのための地獄の特訓をしてるの!」
「どんな感じの特訓なの?」
「『心臓』の鼓動を極限まで速めて、血液循環を無理やり加速させるんだ。そうすると肉体が熱を帯びて、身体から圧倒的な密度の『赤い煙』が噴き出して全能力が段違いになる。それが一応の完成形なんだけど……」
「でも!! それをやると自分の寿命を削るドーピングになっちゃうから、絶対にダメー!!って私が止めてるの!」
透ちゃんがぷくーっと頬を膨らませる(気配を出す)と、メリッサさんは顎に手を当てて深く深く考察し始めた。
「……まるで、機関車ね」
「機関車?」
「機関車って……社会科や歴史の教科書に載っていた、あの古い乗り物のこと?」
透ちゃんと白煙くんが顔を見合わせる。メリッサさんはタブレットを操作し、アーカイブから古い蒸気機関車の走行動画を二人に提示した。黒い鉄の巨躯が、激しい蒸気と黒煙を撒き散らしながら爆進していく映像だ。
「そう、石炭を燃やして水を沸騰させ、その高圧蒸気の力で巨大な車輪を回す『蒸気機関』。煙突からは力強い煙が吐き出されているでしょう?……ハクエンくんの言っている原理にそっくりだわ」
「本当だ……! 高熱を生み出して、その排熱と圧力でエンジンを回して煙を出す……僕のやりたいことにそっくりだ!」
白煙くんの瞳に閃光が走る。
「自分の『心臓』を無理やり過熱させるから身体が壊れるんだ。それなら……心臓の代わりになって高熱と圧力を生み出してくれる『外部エンジン』があればいい!」
「そう! だからハクエンくんは、さっき超高熱を生み出す新素材を見ていたのね! 自分の肉体を壊さずに、外部のサポートギアで『高圧蒸気炉』を構築する……! これなら寿命を縮めずに『赤煙』と同等以上のパワーを引き出せるはずよ!」
「なるほど……!! 科学の力で僕の個性を補完するんだ!!」
白煙くん、透ちゃん、メリッサさんの3人は興奮気味にアイデアを出し合い、熱い議論を交わした。解決の糸口が見え、最高の空気に包まれた――その瞬間。
――ウゥゥゥゥゥン! ウゥゥゥゥゥン!
真っ赤な警告灯が室内を染め上げ、耳を刺すような警報音が鳴り響いた!
『緊急警告。第一層防壁のセキュリティが何者かによって破られました。全職員は速やかに指定の避難シェルターへ避難してください』
『繰り返す。高度な個性を所持したヴィラン群の侵入可能性、極めて大――』
「ヴィランだと!?」
「バカな……!? ここは日本の最高セキュリティ刑務所『タルタロス』にも匹敵する、世界一の防衛システムを誇る人工都市だぞ!?」
スターアンドストライプが瞬時に戦闘態勢へ入り、デヴィッド・シールドは信じられないといった様子で蒼白になった。
未来への希望が拓けた直後、平和な人工都市《I・アイランド》は突如として戦場へと変貌を遂げるのだった。
劇場版第1弾はやらないと言ったな
あれは本当です
でも、両親がアメリカにいる伏線は家庭訪問で用意していたし、アメリカ関係の事件といえば劇場版第1弾。
結局、書くことになりました
今作は劇場版第1弾オマージュです
変更点
・原作の時系列が進んでます
・オールマイトのところをスターアンドストライプ
・A組のところを白煙くんと透ちゃんのみ