一方、爆煙と衝撃波が荒れ狂う別区画――。
「(そこだ……ッ!!)」
声を奪われた絶体絶命の状況下にあっても、スターアンドストライプの闘志は一切潰えていなかった。彼女は激しい交戦の最中、改造人間『アンデッド』の挙動と空間の歪みを克明に観察し続けていたのだ。
怪物の胸の中央――歪に肥大化した肉体の隙間から、紫色の発光器官が蠢いている。あの器官が鼓動する瞬間に合わせ、広域概念遮断個性『消音(サイレンス)』の音波が放出されている。
(音波の発生源……そこを断てば、声は戻る!!)
スターさんはアンデッドが振り下ろした巨木のような腕を、自身の右腕で強引に受け止めた。
ガキィィィンッッ!!
衝撃で足元の鋼鉄の床が砕け散り、彼女の腕の皮膚が裂けて血が跳ねる。だが、スターさんの瞳にブレはない。衝撃を逃がすことなく耐え切った瞬間、左手の指先を槍のように鋭く研ぎ澄まし、アンデッドの胸の中央――紫色の発光器官へと真っ直ぐに突き刺した!
ズブシャァァッッ!!
「Booooooo!?!?」
「――ッッ!!」
生々しい肉を貫き、核となる発光器官を根こそぎ破壊する。
その瞬間、周囲を包み込んでいた不気味な無音の領域が、ガラスが割れるような音と共に崩壊した。空気の振動が戻り、静寂が破られる。
「……ふぅ。吸える大気があるというのは、実に素晴らしいな」
スターさんは呼吸を整え、ゆっくりと息を吐き出した。胸を貫かれ、生体液を撒き散らしながらも、アンデッドの脳组织が露出した頭部がグニャリと歪み、不気味に蠢く。
「だ……マ……れ……ゴ……ガガッ……」
核を破壊されてなお死なず、裂けた口から途切れ途切れの言語を発しながら爪を立てて襲いかかってくる怪物。その執念深さと異形ぶりに、スターさんは冷ややかな、しかしどこか憐れむような視線を向けた。
「大した改造人間だ。……それほどの力と執念があれば、正当なヒーローとして正式に世界へ招待されたものを」
スターさんは大きく片腕を掲げ、天を突いた。声を奪われていたアメリカの象徴が、いま堂々と宣言を放つ!
「『新秩序(ニューオーダー)』――!! 『私は今この瞬間、オールマイトをも超える!!』」
ドドドドドドドッ……!!
世界そのものが変貌を遂げる。スターさんの肉体が、黄金色の圧倒的なオーラに包まれ、測定不能なほどの高密度なエネルギーを纏い上げた。空間を歪めるほどの圧倒的な質量。概念操作によって一時的に付与された、超常を超えた絶対的強化!
「Boooooooッッ!!!!」
アンデッドが残された全個性を暴走させ、津波のような圧力を放って突進する。だが、スターさんは逃げない。一歩を踏み出し、世界を穿つ右拳を叩きつけた!
「デトロイト、スマッシューーーーーッッ!!!!」
ズドォォォォォォォォォンッッ!!!!
爆発的な衝撃波が施設を突き抜け、太平洋の海面を数百メートルに渡って真っ二つに割り裂いた!
アンデッドの肥大化した紫黒色の肉体は、殴り合いすら許されず、分子レベルで霧散するように爆散。後に残されたのは、吹き荒れる暴風と静寂だけだった。
「……ふぅ。手応えの浅い相手だったな」
マントを激しくなびかせ、スターさんは腕の血を払う。
そして、すぐさま視線を巡らせた。視線の先は、白煙くんと透ちゃんがシールド親子を守るために向かった応接エリアの方角。そこからは、いまなお凶悪な磁力波と、爆発的な『赤い蒸気』の放熱音が響き渡っている。
「さて……向こうはどうなった? ヤングヒーローたち、持ちこたえていてくれよ――!」
ボォォォォォンッッ!!
機関車のような重厚な排熱音と共に、紅蓮の蒸気を吹き上げる白煙くんが戦場へと躍り出た。その姿はまさに、激走する焔の鉄骨。
「ごめん、透ちゃん!! 遅れた!!」
「全然!! 待ってたよ、私のヒーロー!!」
姿は見えずとも、透ちゃんの声には絶対の信頼と歓喜が満ちていた。満身創痍でありながら、その構えに一切の迷いはない。
「ハッ……ハッハッハ! 蒸気を吐き出すカラクリを背負ったところで何が変わる!! 姿を変えようが、何度来ても結果は同じだァッ!!」
怒気と執念に顔を歪めたウォルフラムが、右腕の『個性増幅装置』を全開で過熱させる!
「エンちゃんの足手まといには……絶対にならない!!」
「僕だって、透ちゃんの足手まといになんてならない!!」
二人の声が重なった瞬間、世界が加速した。
「『赤煙スマッシュ』――ッッ!!」
ズドォォォォンッッ!!
「グハッ……!?!?」
『赤煙・改』の排熱推進力を上乗せした白煙くんの突進パンチが、ウォルフラムの胸甲を真っ芯で打ち抜く! 増幅装置の重厚なバリアごと弾き飛ばされ、ヴィランの巨躯が壁を打ち砕いて吹き飛んだ。
「な……何なんだ……その、ふざけた力は……!? さっきまでのヘタレが……急に何を持ち出してきたァッ!!」
血を吐きながら立ち上がるウォルフラムの瞳に、初めて狼狽と恐怖の色が混じり始める。白煙くんは真っ赤に燃え上がる拳を見つめ、力強く言い放った。
「これは僕だけの力じゃない……! メリッサさんが繋いでくれた技術と、透ちゃんが諦めずに戦ってくれた覚悟……みんなの力だ!!」
白煙くんは胸のチェストアーマーから噴き出す熱量を限界まで体内に取り込み、両腕の煙へ「圧縮」していく。
(逃がさない……高密度のエネルギーを、全てこの一撃に「凝縮」する……!)
シュウゥゥゥゥッ……ッッ!!
両腕を覆う煙が、果物のように熟した真っ赤から、もはや太陽を思わせるほど高熱の朱赤へと変色していく。頭部の排熱ダクトからは「ポッポーッ!!」と、限界突破を告げる激しい蒸気が天空へ向かって噴出された。
(マ……マズイ……ッ!! こいつ、あの一撃でオレを殺す気か……!?)
ウォルフラムの本能が警鐘を鳴らし、全身の毛髪が逆立つ。増幅された『金属操作』を暴走させ、周囲の鉄骨や防壁パネル、マシーンの残骸数千個を一箇所に集積! ビルの一画を丸ごと塞ぐほどの超巨大な「極厚鋼鉄多層爆撃盾」を形成し、自身の前に展開した!
「死ねぇぇぇガキ共ォォォッッ!! デスメタルバーストォォォッッ!!」
完璧な要塞。誰もが倒れる絶対攻撃と誰も穿てぬはずの絶対防御。
だが――ヒーローは、その上を越えていく!
「――**『赤煙ホワイトスマッシュ』**ッッ!!!!」
ドドォォォォォォォォンッッ!!!!
極限まで凝縮された赤い煙の巨大拳が、超高圧の推進力を伴って正面から激突! 物理を超えた熱量と破壊力が、ウォルフラムの誇る極厚の金属盾を、まるで熱したナイフがバターを割くように真っ二つにブチ破った!
「なっ……盾が……破られ――!?」
衝撃波で吹き飛ぶウォルフラムの視界に、一瞬の閃光が走る。
「――軟体パーンチ!!」
光を屈折させ、影すら残さぬ完璧なステルスで潜み込んでいた透ちゃんが、跳躍! 軟体可動域を活かしたしなやかかつ重厚な一撃が、ウォルフラムの右腕――すべての元凶である『個性増幅装置』へ正確無比に叩き込まれた!
バリィィィンッッ!!
「ガハッ……!? あ……オレの……増幅装置が……!?」
装置が粉々に粉砕され、溢れ出ていた強大な磁力が一瞬で霧散する。
「「――ダブルヒーロー、スマァァァッシュ!!」」
「ぐああああああああああああーーーーッッッ!!」
白煙くんの赤煙スマッシュの余波と、透ちゃんの必殺の一撃を同時に浴びたウォルフラムは、断末魔の悲鳴を上げながら数百メートル後方へ吹き飛び、応接エリアの最深部の壁と床に深く深くとめり込んだ。
白煙が静かに晴れていく。
白血の煙を背負った白煙くんと、凛と立ち塞がる透ちゃん。
二人の若きヒーローの絆と進化の前に、アメリカを揺るがしたスーパーヴィランは完全に敗北し、静まり返ったのだった。
激動のアメリカインターン最終日。澄み渡る青空のもと、出発の港に立ち、二人は深く頭を下げた。
「「本当にお世話になりました!!」」
白煙くんと透ちゃんの晴れやかな声が響く。
「こちらこそ、ありがとう白煙くん、透ちゃん!! 二人がいなかったら、この島も……パパも私もどうなっていたか分からないわ!」
「私の失態から始まった危機だというのに……娘を、そしてこの島を救ってくれて本当にありがとう。君たちのような若きヒーローに出会えたことは、私の人生の財産だよ」
メリッサさんが青緑色の瞳を潤ませて微笑み、デヴィッドさんも胸に手を当てて深々と感謝を述べる。
「あの……本当にこの『ネオ石炭』を組み込んだチェストアーマー、いただいてしまって良いのですか? 技術的にもコスト的にも、あまりにも凄すぎて……」
白煙くんが胸元のアタッチメントに手を置きながら恐縮すると、透ちゃんも自分の身体(の装備)をパシパシと叩きながら大きく頷いた。
「そうだよメリッサちゃん! 私の新しいヒーローコスチュームも、凄まじいことになってるんだけど!? 『軍事用超高分子繊維で補強したからミサイルの直撃でも壊れないよ』って、流石におかしくない!?」
二人の素直な驚きに、デヴィッドさんは優しく目元を緩めた。
「構わないさ、白煙くん。そのサポートアイテムは、自分の命を賭してまで誰かを護ろうとする、君のような真っ直ぐなヒーローにこそ相応しい。科学は人を助けるためにあるのだからね」
「それに透ちゃん! 透ちゃんは大切な女の子なんだから、どんな衝撃からも身体を守る頑丈なコスチュームじゃなきゃダメ!……ふふ、今度2人がアメリカに遊びに来る時は、私も素敵な彼氏を作っておくからね!」
「えっ!? め、メリッサ、や、やめてくれ! パパはまだそんな話を聞く心の準備が……!?」
メリッサさんの茶目っ気あふれる宣言に、デヴィッドさんが一瞬で顔を蒼白にして狼狽える。その微笑ましい親子のやり取りに、白煙くんと透ちゃんは思わず顔を見合わせて吹き出した。
「ハッハッハ! 相変わらず仲が良いな! 二人とも、強くなった顔つきをしている。またいつでもアメリカに遊びに来てくれ! 我が事務所はいつでも君たちを歓迎するぞ!」
「「はいッ!!」」
スターアンドストライプの豪快な言葉に、力強く頷く二人。
「よし、それじゃあそろそろ帰りの飛行機に乗ろうか、透ちゃん」
「うん!……あれ? エンちゃん、飛行場に民間機が見当たらないんだけど……?」
「え?」
白煙くんが首をかしげると、スターさんがニヤリと不敵な笑みを浮かべて親指を立てた。
「ふふっ、迎えなら既に到着しているぞ!」
スターさんが指さした滑走路の向こうから、爆音と共に姿を現したのは――漆黒のボディと凄まじい威容を誇る、アメリカ軍の最先端ステルス戦闘機だった。
「「せ、戦闘機ーーーー!?!?」」
「ハッハッハ! 行きはアンノウンの個性だったが、帰りはこれで日本まで送らせてもらう! 最高速度で送迎してやるからな!」
ガチものの軍用戦闘機。最後までアメリカのスケール感は、高校生の想像を遥かに超えて規格外だった。
「きょ、拒否権は……!?」
「あるわけないよねエンちゃん!?」
二人は引きつった顔でキャノピーの中へと押し込まれ、シートベルトを固く締め直す。
「よし、全機発進! テイクオフ!!」
ボッガァァァァァンッッ!!!!
音速を超える猛烈なGが二人の全身を襲い、戦闘機は青空を切り裂いて大空へと一直線に跳び立った!
「「ひょええええええええええーーーー!?!?」」
太平洋の上空に二人の絶叫が響き渡る。
大きな進化と最高の絆を手にしたアメリカインターン編――ここに堂々完結!
「――マイトおじさまから?」
白煙くんと透ちゃんを見送った後、メリッサさんのパソコンにメッセージが届いていた。
メッセージ内容はオールマイトから、とあるサポートアイテムの依頼。
メッセージを読んだ後、メリッサさんとデヴィットさんは研究所に籠もることになる。
これはまだ少し先のお話――。
透ちゃん魔改造その4
メリッサさん特製のヒーローコスチューム
ミサイルでも壊れない
これで透ちゃんは普通のヴィラン相手に怪我しなくなりました
アメリカ編、終わりです
想像より長くなりました
次回はバレンタイン