「と、轟くん……!? そのリヤカー、一体どうしたの……!?」
校舎の裏手で、緑谷くんは目の前の凄絶な光景に絶句していた。
そこにいたのは、学校の用務員室から借り出してきた巨大な木製リヤカーを引く、轟くんの姿だった。そのリヤカーの荷台には、カラフルで華やかなラッピングが施された箱や袋が、まるで崩れかけたピラミッドのように山積みになっている。
「あぁ、緑谷か。……チョコを貰う数が予想以上に多くてな。カバンに入りきらねぇから、先生に許可を貰って学校から借りてきた」
「が、学校から借りたんだ……」
轟くんは何の疑いもなく、至極真面目な顔で「リヤカー轟」と化していた。本人はただ物理的に持ち帰る手段として効率的な判断をしただけなのだが、その絵面はあまりにもシュールであり、同時に非モテ男子たちの羨望と怨嗟を煽るには十分すぎるほどの「リア充の象徴」であった。
「……これだけの量があると、お返しも大変そうだな」
「そうだな。姉さんに頼んで、いい店のスイーツでも手配してもらうとするか」
緑谷くんが苦笑いを浮かべ、轟くんが静かに頷いた――その時であった。
ドドドドドドドドドッ……!!!!
地鳴りのような足音が、校舎の角の向こうから接近してくる。空気が不穏に重く歪み、鼻を突くような男たちの汗と嫉妬の熱気が風に乗って吹き抜けた。
「「「「居たぞーーーーーーッッ!!!!」」」」
「な、なにっ!?」
緑谷くんが身構えた瞬間、校舎の影から飛び出してきたのは――峰田実を先頭に、目を血走らせた雄英生徒による「チョコ暴走集団」であった!
「轟ィィッ! 貴様一人でその量を独占するなど断じて許されん!! チョコを奪えぇぇぇッ!!」
(1. 峰田実)
「そうだ! 嫉妬と欲望の解放だ!! 俺たちにも甘い春を分け与えろォォッ!!」
(2. 上鳴電気)
「壁を作って囲い込め! 一粒残らず回収するぞ!!」
(3. 瀬呂範太)
「普通と言われ続けた俺の憤怒を喰らえ! 勝ち組から強奪してやる!!」
(4. 尾白猿夫)
「俺の砂糖(甘さ)への執着を舐めるなよ! そのリヤカーごといただく!!」
(5. 砂藤力道)
「ふははは! A組のイケメン代表がリヤカーで引きずられる滑稽な姿、拝ませてもらうよ!!」
(6. 物間寧人)
「逃がさへんよ! 俺らの分の情熱も、そこに詰まってるんやろ!!」
(7. 円場硬成)
「問答無用! これぞ虐げられし男たちの正当なる権利の行使だ!!」
(8. 回原旋)
「理由など不要! チョコが欲しい、ただそれだけの純粋な衝動だッ!!」
(9. 普通科男子生徒)
「技術の粋を集めてでも、あのリヤカーの荷物を強奪してみせる!!」
(10. サポート科男子生徒)
狂気に満ちた10人の叫びが響き渡り、暴走集団は波のように「リヤカー轟」へと襲いかかった!
「な、なんだこの集団……!? ぼ、暴徒!?」
緑谷くんが冷や汗を流しながら構えをとる中、轟くんは引きずっていたリヤカーの手押し棒をギュッと握り直し、オッドアイの瞳を鋭く光らせた。
「……オレのチョコに手を出すな。これは、貰った奴らの想いだ」
バレンタインの甘い空気は一転、理性を失った暴徒と、リヤカーを守る轟くんたちの全面戦争へと突入しようとしていた!
「な、何事……!?」
屋上で透ちゃんと甘い時間を過ごした後、トイレに立つため一旦彼女と離れていた白煙くんは、校舎の廊下に響き渡る怒号と地鳴りのような足音に目を見開いた。
「白煙!!」
「白煙くん!! こっちだ!!」
「轟くん、緑谷くん!?」
曲がり角の先から猛スピードで走ってきたのは、冷や汗を流しながらリヤカーを力任せに引く轟くんと、それを必死に護衛するように並走する緑谷くんだった。リヤカーの荷台には、崩れそうなほど山盛りのチョコレートが揺れている。
「ふ、二人とも、そのリヤカーと凄まじい荷物は一体……!?」
白煙くんが呆気にとられる暇もなく、彼らの背後から邪悪で巨大な男たちの怨嗟の叫びが廊下中に響き渡った!
「「「「チョコを寄越せーーーー!!!!」」」」
「わあああああーっ!?」
目を血走らせた雄英男子生徒たちの暴走集団が、鬼の形相で廊下を埋め尽くしながら迫ってくる!
「白煙くん! このままでは巻き込まれてしまう! 一緒に逃げよう!」
「走るぞ」
「ええっ!? 僕まで!?」
白煙くんは訳も分からぬまま、二人と肩を並べて走り出した。リヤカーの車輪がガタガタと悲鳴を上げる中、轟くんは至極真面目な顔で首をかしげる。
「何故か分からないが、アイツらから必死に追いかけられている……。俺は何か変なことでもしたか? 学校から正式に許可を貰ってリヤカーを借りてきただけなんだが……」
「完全にソレ(リヤカー山盛りのチョコ)が原因だよ轟くん!! みんな、そのチョコを狙ってるんだよ!!」
緑谷くんの必死なツッコミが廊下に虚しく響く。天然すぎる轟くんは、「自分が100個以上のチョコをリヤカーで運んでいる姿」が非モテ男子たちの嫉妬の導火線に爆薬を投げつけたのだという事実に、全く気づいていなかった。
「逃がすかぁぁぁッ! 白煙! 貴様は透ちゃんという最高の彼女がいながら、さらに89個も感謝チョコを貰うとは何事だァッ!!」
(1. 峰田実)
「白煙! その美顔と爽やかさで世の中の甘みを独占するな! 一個寄越せぇぇッ!」
(2. 上鳴電気)
「リヤカーの車輪にテープを巻き付けて止めてやる! チョコは山分けだ!!」
(3. 瀬呂範太)
「白煙くん、君のレスキュー技術は尊敬するが、バレンタインの格差だけは許容できない!!」
(4. 尾白猿夫)
「甘い匂いが充満してんだよ! 俺の筋肉にそのカカオを補給させろッ!!」
(5. 砂藤力道)
「ふははは! 緑谷! 君の分析ノートのお礼チョコも、僕が美味しくいただくよ!!」
(6. 物間寧人)
「逃げ足だけは速いなぁ! だが俺らの怨念からは逃げられへんで!!」
(7. 円場硬成)
「高速回転でリヤカーの進路を塞ぐ! 勝ち組どもを追い詰めろ!!」
(8. 回原旋)
「勉強もヒーロー科も充実してるお前たちに、これ以上の贅沢はさせない!!」
(9. 普通科男子生徒)
「あのリヤカーの重量バランスを崩せば、チョコが散らばるはずだ! 狙え!!」
(10. サポート科男子生徒)
狂気に染まった10人の叫びが怒涛のように押し寄せる!
「白煙くん、君の『煙』で煙幕を張れる!?」
「張れるよ。緑谷くんも『煙』を出せるよね? あの暴走の後、個性を制御するために絶対に訓練しているでしょ? なんたって、努力を惜しまない緑谷くんだから」
「(バ、バレてる……!! でも、今は仕方ない!!)」
「「せぇー、の!!!!」」
ダブル煙幕。
チョコ暴走集団を煙で覆い隠す。
「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオーーッッッ!!!!」」」」
「突破してくる!!」
「くっ……! 轟くん、リヤカーを引いたままじゃ振り切れないよ!」
「だが、このチョコを渡すわけにはいかん。女子たちの想いを踏みにじるわけにはいかねぇんだ……!」
轟くんのどこまでも真面目な正義感が、奇しくも暴走集団の炎に油を注ぎ続ける!
理性を失った男たちの暴走と、リヤカーを守り抜こうとする三人――雄英校舎を舞台にした不条理なるバレンタイン大追走劇は、さらに激しさを増していく!
「死ねやァァァァァッッ!!!!」
ドッガァァァァァンッッ!!!!
廊下の先で爆発的な推進熱と爆風が吹き荒れ、迫り来ていた暴走集団の先頭集団が一瞬で空へと散っていった!
「「「ぎゃああああああああああ!?!?」」」
「か、かっちゃん!?」
緑谷くんが目を丸くして叫ぶ。煙の中から仁王立ちで現れたのは、両手からバチバチと凶悪な爆花を散らし、般若のような表情を浮かべた爆豪くんだった。
「あぁん!? デク、何なんだコイツらは!! 廊下でぞろぞろ這い回りやがって、邪魔だ殺すぞッ!!」
人生初のバレンタインチョコを77個も貰い、内心の緊張と照れくささを必死に隠そうと苛立っていた爆豪くんにとって、この暴徒の接近は絶好の格好の標的だった。襲いかかってきた暴徒たちを容赦なく返り討ちにし、廊下には煙と伸びた男子生徒たちが転がっている。
そこへ、非常用の腕章を腕に巻き、両足を超高速で回転させた学級委員長が颯爽と滑り込んできた。
「みんな、大丈夫か!! 主犯は峰田くんだ!! 彼は欲望に呑まれ、他科の生徒まで巻き込んで校内の治安を乱している!!」
「そうなのか、飯田」
「飯田くん!! 状況を把握してくれて助かるよ!」
合流した飯田くんの言葉に、リヤカーの取っ手を握りしめた轟くんが素直に納得し、緑谷くんも心強そうに頷く。白煙くんも安堵の息を吐きながら、チェストアーマーの安全装置を確認した。
だが――返り討ちに遭おうと、主犯が割り出されようと、理性を失った男たちの衝動は勢いを増すばかりだった!
「「「「チョコーーーーーーッッ!!!!」」」」
倒れた仲間を踏み越え、さらに数を増した「チョコ暴走集団」が地鳴りのような足音と共に押し寄せてくる!
「爆豪の爆風くらいで俺たちの嫉妬(カカオ)への執着が消えると思うなよォォッ!」
(1. 峰田実)
「白煙! お前だけ葉隠とイチャイチャしてチョコまで貰うなんて不公平だ! 分配しろ!」
(2. 上鳴電気)
「飯田委員長! 今日ばかりは校則よりも欲望だ! チョコを力で勝ち取る!!」
(3. 瀬呂範太)
「普通と言われ続けた俺の憤怒は、爆豪くんの爆発よりも熱いんだよッ!」
(4. 尾白猿夫)
「砂糖(糖分)の補給なくしてヒーロー活動はできん! そのリヤカーを渡せぇぇッ!」
(5. 砂藤力道)
「ふははは! A組の精鋭が揃おうと関係ない! 数の暴力で圧迫してやるよ!!」
(6. 物間寧人)
「空気の壁で逃げ場を無くしたる! 腹括ってチョコ置いていき!!」
(7. 円場硬成)
「旋回力で防衛線を突破する! 勝ち組の栄光を打ち砕け!!」
(8. 回原旋)
「ヒーロー科のリア充どもに、普通科の意地と底力を見せてやる!!」
(9. 普通科男子生徒)
「あのリヤカーの車輪を壊せば足止めできる! 射出装置、ターゲットロック!!」
(10. サポート科男子生徒)
10人の咆哮が重なり合い、廊下の空気を力任せに震わせる!
「チッ……鬱陶しい雑魚どもが群がりやがって……全員纏めて吹き飛ばすぞッ!!」
爆豪くんが凶悪な笑みを浮かべて前に出ると、飯田くんも腕を大きく振って制止と防衛の構えをとる。
「待て爆豪くん! 校内での大規模な戦闘は不可だ! 我々は轟くんのリヤカーのチョコを守りつつ、峰田くんの暴走を鎮圧する!」
「了解!」
「分かった」
「俺に命令すんなァ!!」
「もし、ブラックが見てたらカオスですね、と哀れに思っているなぁ……」
リヤカーを護る轟くん、緑谷くん、白煙くん、そして飯田くんと爆豪くん。雄英1年A組の男たちの、バレンタインの甘さをかけた混沌の防衛戦が、ついに本格開戦した!
「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーッッッ!!」」」」
「透ちゃんのチョコだけは……絶対に奪われたくないよ!!」
白煙くんがチェストアーマーをぎゅっと握りしめ、強い眼差しで叫んだ。
胸のポケットには、屋上で透ちゃんから手渡された世界に一つだけの『大本命チョコ』が大切にしまわれている。透ちゃんがどれほどの想いを込めて、どれほど練習を重ねて作ってくれたかを知っているからこそ、これだけは万が一にも他人に渡すわけにはいかなかった。
「それは当たり前の気持ちだ、白煙くん!! 乙女の真心と純情を踏みにじる行為など、学級委員長として、何より一人の漢として断じて容認できん!!」
飯田くんが両腕をロボットのように激しく上下させながら、熱く同調する。
「僕たちも協力するよ! 白煙くんの想いも、透ちゃんの想いも……そして轟くんが貰ったみんなの感謝も、全部僕たちが守り抜いてみせる!!」
「さっさと死ねェ雑魚どもォ!!」
緑谷くんがグッと拳を握りしめ、足元に『ワン・フォー・オール』の小さな緑の放電を走らせた。
白煙くん、飯田くん、緑谷くん、リヤカーを護る轟くん。そして暴れ回る爆豪くん。A組の誇りと絆を胸に、一丸となって防衛陣形を組む。
――その時であった。
騒がしかった暴走集団の勢いが、ピタリと止まった。
「……下がっていろ、同志諸君」
地を這うような重低音が廊下に響く。
人垣が左右に割れ、そこからゆっくりと歩み出てきたのは――峰田実であった。
普段のコミカルな雰囲気は微塵もない。その身に纏うのは、童貞(非モテ)たちの積年の怨念と激しい嫉妬が凝縮された、目に見えるほどにドス黒く禍々しい覇気のオーラ。頭髪のブドウ(もぎたて)が怨念の炎で赤黒く揺らめいているようにすら見えた。
「代弁者……ッ!!」
「俺たちの……俺たちの希望の光、代弁者様ァァァッッ!!」
狂乱する暴走集団は、もはや峰田くんをただの生徒ではなく、虐げられし非モテたちの救世主・神として崇め奉っていた。
「白煙……。お前が透ちゃんを大切に思っている気持ち……実に素晴らしい。だがな、世界はあまりにも不平等だ!!」
峰田くんが指を突きつけ、血の涙を流しながら咆哮する!
「お前たちが屋上で甘い甘い蜜月を過ごしている間、俺たちがどれほどの闇を生きてきたか分かっているのか!? チョコの格差は人生の格差! 今日、俺たちはその理不尽な世界構造に革命を起こすんだよォォッ!!」
峰田くんの演説を受け、暴走集団のテンションは限界を超えて爆発した!
「そうだ! 代弁者様の言う通りだ! 勝ち組の恋路など知るかぁッ!!」
(1. 上鳴電気)
「テープの檻で囲い込め! 一粒残らず強奪してやる!!」
(2. 瀬呂範太)
「普通と言われ続けた俺の怒り、代弁者様と共に解き放つ!!」
(3. 尾白猿夫)
「俺の筋肉が、代弁者様の革命に共鳴しているぞおおおッ!」
(4. 砂藤力道)
「ふははは! 素晴らしい演説だ代弁者! A組の絆ごと打ち砕いてくれよう!!」
(5. 物間寧人)
「代弁者様の後ろ姿に一生ついていくで! 突き進めぇぇッ!」
(6. 円場硬成)
「旋回速度最大! 代弁者様の開けた道を突破する!!」
(7. 回原旋)
「ヒーロー科の独占を許すな! チョコの平等な分配を求む!!」
(8. 普通科男子生徒)
「代弁者様のために開発したサポートアイテム、今こそ実戦投入だ!!」
(9. サポート科男子生徒)
「損益計算など知らん! 今日は情熱の暴走に身を任せるぞッ!!」
(10. 経営科男子生徒)
「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオーーッッ!!!!」」」」
邪悪なるオーラを全開にした峰田くんを筆頭に、崇拝者となった10人と大軍勢が、いよいよA組防衛線へと一直線に雪崩れ込んできた!
「ウザってえんだよクソどもがァッ!! 湧いて出てくるんじゃねえ!!」
爆豪くんが威嚇の爆煙を撒き散らすが、暴走集団の勢いは衰えるどころか、さらに押し寄せてくる。
「け、結束力が強すぎる……! 峰田くんの演説で、みんな完全に理性を失ってるんだ!」
緑谷くんが汗を流しながら構え直す。
「大混雑だ。狭い廊下で下手に強い個性を使えば、大怪我人が出る……!」
轟くんも氷結や火炎の出力を調整せざるを得ず、リヤカーを守りながらの防衛は困難を極めていた。
「くっ……このままでは突破されてしまう……!!」
飯田くんが脚のエンジンを空吹かしして肉弾壁になろうとした、その時――。
「白煙の本命チョコ、よこせぇぇぇぇぇッッ!!!!」
峰田くんの邪悪な手が伸ばされ、白煙くんのチェストアーマーのポケットから、透ちゃん特製のガス袋風ラッピングが見事に引っ張り出された!
「だ、だめーーー!!!! それだけはダメだぁぁッ!!」
白煙くんが悲痛な叫びを上げる! 峰田くんのドス黒い笑みが弾けた、まさにその瞬間だった――。
「男子共ーーーッ! 恵みのチョコだぞーーーッ!!」
廊下の天井付近から、大量の甘い香りが漂う小袋や箱が、雨あられのように降ってきた!
「あ、芦戸さん!?」
緑谷くんが仰天して声を上げる。そこへ現れたのは、A組とB組の女子生徒たち総勢であった!
「まったく……廊下の奥で何しとるんや、自分らは」
「まあ、案の定というか……おおかた暴れているとは思いましたわ」
「バレンタインにかこつけて大騒ぎして、本当に呆れたわね」
呆れ顔で腕を組む響香ちゃんや八百万さんたちヒーロー科A組女子。
「こっちにもたっぷりあるよー! 欲しいなら受け取りなさい!」
「暴走はやめて、さっさと止まりなさい!」
「特製のきのこ入りチョコもあるノコ!」
「神の恵みと赦しを受け取りなさい……」
拳藤さんや小森さん、塩崎さんたちヒーロー科B組女子も、籠に山盛りにされたチョコレートを次々と撒き散らしていく!
その瞬間、地獄の亡者と化していた暴走集団の動きがピタリと止まった。
「「「「あ、ありがたき幸せーーーーーーーッッ!!!!」」」」
「神様仏様女子様ァァッ! チョコだ! 本物の女子からのチョコだーッ!」
(1. 上鳴電気)
「やったぁぁ! テープを解いて拾い集めるぞ!!」
(2. 瀬呂範太)
「普通の俺たちにも恵みが……! 感謝感激だ!!」
(3. 尾白猿夫)
「カカオと砂糖の恵み! 筋肉が歓喜に震えている!!」
(4. 砂藤力道)
「ふははは! 美しい勝利だ! 拾え拾えぇッ!」
(5. 物間寧人)
「B組女子の愛を感じるで! 天国やぁぁ!」
(6. 円場硬成)
「回転力を活かして一番多く拾い集めてやる!!」
(7. 回原旋)
「ヒーロー科の女子は心が広い! 革命成功だ!!」
(8. 普通科男子生徒)
「きのこ入りだろうが何だろうが喜んでいただく!!」
(9. サポート科男子生徒)
「これにて本日の損益計算は大幅な黒字! 撤退だーっ!」
(10. 経営科男子生徒)
10人の咆哮と共に、あれほど凶悪だった大集団は一瞬で瓦解。落ちたチョコへ向かって群がる平和な(?)狂乱へと早変わりした。
そして、暴走の主犯格である峰田くんの目の前には、三奈ちゃんがニシシと意地悪く笑いながら立っていた。
「ほい、峰田。お前には特別にコレね」
「うへへ、やったぁぁ……! 女子からのチョコ……って、ナニコレ?」
手渡されたのは、ずっしりと重い巨大な袋。中には形が崩れたり焦げたりした、歪なチョコが大量に詰まっている。
「みんなが昨日の練習で作った『失敗作』の詰め合わせ! 捨てるのも勿体ないからあげる!」
「がはっ……失敗作……! だが、だがしかし!! 女子たちの手作りには変わりねぇぇぇッ! 失敗作でも構わねぇ!! バグバグもぐもぐ!! むしゃむしゃむしゃ!!」
峰田くんは目を血走らせたまま、奪おうとした白煙くんのチョコを放り出し(白煙くんが超スピードで無事に回収した)、袋の中に両手を突っ込んで失敗作チョコを狂ったように口へ放り込み始めた!
「み、峰田くん……チョコは一度にそんなに食べ過ぎると体に良くないよ……!?」
緑谷くんが引きつった笑顔で心配そうに声をかける。
「ウオオオオオオオオッッッ!! チョコォォッ! 甘い! 苦い! ビター! ミルク! 焦げてるけど最高だァァァッ!!」
「……全然話を聞いてないな」
呆れ果てる轟くん。
「まあまあ、貰えたんだから満足だろ! せめて後でちゃんと歯みがきしろよー」
自分も貰った友チョコをかじりながら、上鳴くんが苦笑い混じりに声をかけた。
一方その頃、騒動がすっかり収まった廊下の片隅では――。
「えへへ、無事でよかった……! エンちゃん、後でまた甘さ控えめの本命チョコ、二人で一緒に食べようねー♡」
「うん! ありがとう、透ちゃん。僕のために作ってくれた大切なチョコだから……今度は静かなところでゆっくり味わいたいな」
奪われかけた本命チョコを胸に抱きしめ、白煙くんと透ちゃんは周囲の喧騒をよそに、再びピンク色のオーラを漂わせて甘くイチャイチャしていたのであった。
「……歯が、痛い……っ」
「お馬鹿だねぇ、全く。当分の間はそのままだよ。少しは反省するんだよ」
後日。
保健室のベッドで、頬を膨らませて涙目になりながら絶叫する峰田くんの姿があった。
リカバリーガールが呆れている。
大量の砂糖とチョコを歯磨きもせずに貪り食った彼が、酷い虫歯になって自業自得の激痛に悶絶することになったのは――言うまでもない。
バレンタイン終わり!
コメディーはしばらく無くなります