「もう大丈夫。私が来た!」
地鳴りのような爆音とともにUSJの扉が吹き飛び、ついに平和の象徴・オールマイトが姿を現した。いつもの笑顔は消え失せ、怒りで全身から凄まじいオーラを放っている。
オールマイトは目にも留まらぬ速さで広場へ突撃すると、脳無の手からボロボロになった相澤先生を救出し、13号先生たちのいる入口へと瞬時に送り届けた。
「す、すごい……! オールマイトが来てくれた……!!」
「これで助かったんだね……!」
広場を圧倒する圧倒的な安心感に、白煙くんの顔の煙はホクホクとした本来の白色を取り戻し、透ちゃんの手袋も歓天喜地でぶんぶんと振られる。
「よし、今のうちに僕たちも安全な入り口の方へ逃げよう、葉隠さん!」
「うんっ、急ごう!」
2人が回れ右をして走り出そうとしたその時、横から轟くんの冷徹な声が遮った。
「……迂闊に動くな。まだ終わってねぇ」
直後、ズゴオオオオン!!! と大気が爆ぜるような音が響き渡る。
中央広場では、オールマイトの放つ超パワーの拳と、脳無の怪力が真っ向から衝突し、周囲のコンクリートを文字通り粉々に粉砕していた。息をつく暇もない、世界のトップ同士のガチンコ勝負だ。
「ひえええ……ッ!」
その凄まじい衝撃波に身をすくませた瞬間、白煙くんと透ちゃんの目の前の空間が、ぐにゃりと黒く歪んだ。
「――これ以上の妨害はさせません」
「ぎゃあああああああーーーッッ!!!???」
目の前に突如として現れた黒霧に、白煙くんは今日一番の、いや、人生最大級の悲鳴を上げて飛び上がった。顔の煙がタコ足どころか、イソギンチャクのように全方位へブワブワと爆発し、あまりの恐怖に透ちゃんの後ろへと完全に隠れてガタガタと震え出す。よっぽど、心臓が飛び出るほど驚いたらしい。
しかし、黒霧の黄色い眼光は、白煙くんたちを完全に素通りしていた。
「……」
黒霧は、自分とシルエットの似ている白煙くんの存在など1ミリも気留める様子もなく、そのままオールマイトの背後へとワープゲートを開き、脳無のサポートへと回ってしまった。
「……む、無視された……。戦力外通告だ……」
白煙くんの顔の煙は、一瞬にして絶望を通り越した漆黒の灰色に染まり、地面にへばりつくようにシュウウウ……と萎んでしまった。本気で落ち込んでいる。
だが、戦場は白煙くんのメンタルを置き去りにして、一気にクライマックスへと加速していく。
黒霧のワープと脳無の連携により、あのオールマイトがじわじわと体勢を崩され、脳無の指がその脇腹へと食い込んでいく。平和の象徴の、まさかのピンチ。
「オールマイトーーー!!」
緑谷くんが、自身の足が壊れるのも厭わずに狂気的なスピードで広場へと飛び出した。
「邪魔だデクがぁあ!!!」
「そこをどけ、霧野郎」
ドガアアアアン!!!
突如として巻き起こった大爆発が黒霧の本体を捉え、同時に地面から伸びた巨大な氷結が、脳無の半身を完全に凍りつかせた。
「かっちゃん! 轟くん!」
さらにそこへ切島くんも割って入り、ヴィランの包囲網を力技でこじ開ける。
窮地に陥った最高峰のヒーローを救うため、ついにA組の「最強格」たちが戦線へと集結した。
オールマイトと、未来のヒーローたち。
USJの命運を賭けた、本当の最終決戦(クライマックス)が、今まさに始まろうとしていた。
「これが……トップの、世界……ッ!!」
白煙くんが顔の煙を激しく揺らしながら見つめる先で、戦いは信じられない次元へと突入していた。
傷つき、限界を迎えていたはずのオールマイトが、全盛期をも超えるような凄まじいラッシュを脳無に叩き込む。
「プロとは、いつだって命を賭して、綺麗事を実践するお仕事さ!!」
一撃一撃が嵐のような風圧を生み出し、USJの空気が爆ぜる。そして、渾身の力を込めたアッパーカットが脳無の巨体を捉えた。
「――プルス・ウルトラアアアアッ!!!」
ドゴオオオオオン!!!
衝撃波と共に、あの無敵の怪物がドームの天井を突き破り、遥か彼方の空へと吹き飛んでいった。圧倒的な完全勝利。
さらにそこへ、委員長の飯田くんが走らせた救援――校長先生をはじめとする雄英のプロヒーロー教師陣が文字通り壁をぶち破って一斉に突入してきた。
「チッ……! なんだよ、これ……! 全然、弱ってないじゃないか……!」
計画を完全に狂わされた死柄木弔は、悔しそうに首をボリボリと掻きむしりながら、黒霧のワープゲートへと体を沈めていく。
その間際、黒霧は広場から消え去る直前、土砂ゾーンの隅っこで魂が抜けたようにズーーーンと漆黒の灰色に染まりきっている白煙くんの姿を、一瞬だけじっと見つめた。
(……最後まで、実に奇妙な少年でしたね)
そんな呆れとも哀れみとも取れる視線を残し、黒霧は闇の中に消えていった。
残されたヴィランの残党たちは、プロヒーローたちの圧倒的な実力によって一網打尽にされ、次々と捕縛されていく。傷ついたオールマイトや相澤先生、13号先生はすぐに救急搬送され、出久たちA組のメンバーも警察の誘導に従って、安全な避難経路へと移動を開始した。
USJの外へ出ると、張り詰めていた緊張が解けたクラスメイトたちが、お互いの無事を喜び合っていた。
「爆豪も切島も、本当に強かったんだな!」
「緑谷たちの水上ステージのハメ技も凄かったぜ!」
みんなが口々に、本物のヴィランを撃破した手柄を称え合っている。
特に尾白くんは孤立無援のなか、たくさんのヴィランを倒したようだ。
そんなお祭り騒ぎのような輪の少し後ろで、白煙くんと透ちゃんは、絵に描いたような五月雨前線のごとくどんよりとしたオーラを背負って立ち尽くしていた。
「……ねえ、白煙くん」
「……うん、葉隠さん」
「今回の襲撃で、ヴィランを1人も倒してないの、私たちだけだね……」
「うん……本気で、一回も攻撃すらしてないよね……」
2人の心は、今や完全にボロボロだった。
爆豪くんや切島くんはもちろん、あの怖がりな峰田くんですらヴィランを倒して大活躍したというのに、自分たちはただ轟くんに泣きついて守られただけ。
「特に、あの霧の人……」
白煙くんの顔の煙が、恥ずかしさと情けなさでシュウシュウと頼りなく消え入りそうになる。
「僕、あんなに近くにいたのに、存在すら気づかれないレベルでスルーされたよ……。能力だって、あっちの方が完全な上位互換だし……。僕、ただの『劣化版・黒霧』だよぉ……」
「白煙くん、そんなことないよぉ……!」と言いつつも、自分も何もできなかった透ちゃんの手袋がガクッと膝に落ちる。2人は完全に自信を喪失し、夕暮れの地面を見つめて落ち込んでいた。
そんな2人の哀愁漂う背中を、じっと見つめている大きな影があった。6本の腕を静かに組み、マスクの奥の目で2人の悔しさを見届けていた障子くんだ。
一同が解散となり、放課後の雄英高校へと戻ってきた際、障子くんはドサドサと落ち込む白煙くんと透ちゃんの前に、そっと歩み寄った。
「白煙、葉隠」
「あ、障子くん……。ごめんね、僕たち全然役に立てなくて……」
顔を伏せる白煙くんに、障子くんは首を横に振った。
「気にするな。お前たちの隠密の連携自体は間違っていなかった。ただ、実戦での戦闘経験と、個性の出力が足りなかっただけだ」
障子くんは触手の一本を2人の前に差し出し、静かに、けれど力強く微笑んだ。
「……もし、悔しいと思うなら。今日の放課後、俺と一緒に特訓(自主練)をしないか? お前たちの個性の強さは、俺が一番よく知っている」
「障子くん……!」
その温かい救いの手に、白煙くんの顔の煙が、まるで雲が晴れるようにパッと鮮やかな白色へと戻っていった。透ちゃんの手袋も、嬉しそうに胸の前でギュッと握られる。
本当の戦場を知り、自分の弱さを知ったからこそ、ここから強くなればいい。頼もしすぎるクラスメイトの提案に、2人の瞳には、次へと進むための新たな炎が静かに灯るのだった。
障子くんが仲間になりました
白煙くん葉隠さんにとってはサブタイトルの英雄降臨です
この小説では白煙くん葉隠さんを見守るレギュラーです
原作終盤がカッコよすぎたので、序盤からどんどん登場させます