しばらくイチャイチャはありません(泣)
善悪全面戦争ワンズ・ジャスティス 蛇腔病院
3月下旬。
ついに運命の「Xデー」が訪れた。
舞台は、京都府蛇腔市(じゃくうし)に位置する巨大医療施設――蛇腔病院。
その敷地を取り囲むように、警察の車両と全国から招集されたプロヒーローの精鋭たちが密かに包囲網を敷いていた。
「エンちゃん……」
待機エリアの物陰で、透ちゃんの声が小さく震えていた。
アメリカでの壮絶な戦いをくぐり抜けてきた彼女であっても、この空気の重さは異質だった。全国から集まったプロヒーローたちのピリついた気迫と、これから始まる未曾有の決戦の予感が、冷たい春風に乗って肌を刺す。
「大丈夫だよ、透ちゃん」
白煙くんはチェストアーマーのベルトをしっかりと締め直し、透ちゃんの震える手をそっと包み込んだ。その手のひらは温かく、力強い。
「僕たちの任された仕事は、病院内にいる患者さんや医療従事者のみなさんを安全に避難させることだ。メインのヴィラン鎮圧は、プロヒーローの先輩たちが全員で当たってくれる。落ち着いて、僕たちのやるべきことに集中しよう」
「……うん! うんっ……! 私、頑張るよ……!」
白煙くんの温もりに触れ、透ちゃんは深呼吸をして意を決するように頷いた。
後方支援・避難誘導チームとして配置された雄英高校1年A組のメンバー――緑谷出久、爆豪勝己、轟焦凍、麗日お茶子、飯田天哉、蛙吹梅雨、口田甲司、そして白煙薫と葉隠透。誰もが固い決意を胸に、病院の白亜の病棟を見上げていた。
そして、A組の担任プロヒーロー相澤先生はグッと拳を握りしめ、白煙くんと視線を交わす。
(白煙がクリスマスに根津校長へ渡してくれたあのノート……! あれがあったからこそ、ヒーロー側は後手に回らず、先手を打ってこの大捜索作戦を立てることができた。絶対に、この作戦を成功させて見せる……!)
――運命の刻限が訪れた。
包囲網の先頭に立つのは、現ナンバーワンヒーロー・エンデヴァー。その全身から猛烈なヘルフレイムの炎が吹き上がる!
「全隊、突入を開始せよ!! 狙うは地下研究施設! ドクターおよび死柄木弔の確保だ!!」
エンデヴァーの疾風のような咆哮と共に、トップヒーローたちが一斉に病院敷地内へと雪崩れ込んだ!
「後れを取るなよ小僧ども! 雑魚脳無なんぞ蹴散らして一番乗りで乗り込んでやる!!」
ウサギの如き爆発的な脚力で先陣を切るナンバーファイブヒーロー・ミルコ!
「市民の安全第一! 我々が前面に立ち、あらゆる攻撃をブロックする!!」
盾の能力を全開にし、豪快に構えをとるナンバーシックスヒーロー・クラスト!
「相澤、マイク! 地下への最短ルートは確保した! ドクターの個性を消しながら一気に詰めろ!」
「分かってるぜロックロック! 叫びまくって雑魚の鼓膜ごと脳揺らしてやるからなァッ!」
ロックロックの指示に、プレゼント・マイクがハイテンションな叫びで応え、相澤消太(イレイザー・ヘッド)は鋭い眼光で赤い瞳を光らせる。
「……13号、エクトプラズム! 上層階の避難誘導と散発的な抵抗の排除を頼む!」
「承知いたしました! 13号先生、我々も迅速に参りましょう!」
「はい! 患者のみなさんを一人残さず安全な場所へとお連れします!」
エクトプラズムが大量の分身を生み出して館内へと散らばり、13号が巨大な宇宙服のような姿で避難経路を確保していく。
「ブルンブルン! 泡の力で清掃兼避難誘導!! ウォッシュにお任せあれー!!」
「テレパス送信! 全ヒーローおよび避難誘導班、各フロアの避難状況をリアルタイムで共有します! 無理な突入は避け、指示に従ってください!」
ウォッシュが泡を撒き散らしながら患者たちを優しく包み込み、プッシーキャッツのマンダレイが全域へ『テレパス』で的確な避難指示を飛ばす!
「「白煙お兄ちゃん!!」」
「お久しぶり。ひなたちゃん、あおいちゃん」
ひなたちゃん。
あおいちゃん。
白煙くんは、かつてバックドラフト事務所の職場体験で火災で取り残されていた双子の姉妹を救っていた。
白煙くんがヴィランに誘拐された時も、双子の姉妹がテレビのインタビューを受けていて白煙くんの無事を願っていた。
「2人とも、ヒーロー達は病院で悪い人がいるって連絡があったから避難してね。お母様もお願いします」
「「うん!!」」
「ありがとうございます。何か悪い事が起こっているようですが、あなたなら子どもたちは安心出来ます」
「はい、お任せください」
白煙くんは双子の姉妹と母親を連れて病院から離れて行く。
「病院内の人間全員の避難、および安全確保を開始!! 一人たりとも逃がすな、そして一人たりとも死なせるな!!」
プロヒーローたちの怒濤の連携と圧倒的な圧迫感。
病院の地下深く――人知れず凶悪な『脳無』の育成と、死柄木弔への『オール・フォー・ワン』の個性移植手術を進めていたドクターは、突如として破られたモニターの群れと警報の嵐に、目を飛び出させて狂乱の絶叫を上げた!
「ぎょえええええええ!?!?!?!? 一体何が起きているんじゃあああ!? なぜここがバレた!? なぜヒーローどもがこんな大人数で一度になだれ込んでくるんじゃあああッッ!?」
白煙くんが託した一冊のノートが手繰り寄せた絶大なる先制攻撃。
ヒーロー対ヴィラン、歴史に刻まれる全面戦争の火蓋が、いま激しく切り落とされた!
「ひいぃぃぃっ! なぜじゃ、なぜなんじゃあああ!!」
ドクター――殻木球大(がらききゅうだい)は、乱れた白髪を振り乱しながら、地下研究施設の入り口へ通じる極秘通路を無様に這い進んでいた。
背後からはプロヒーローたちの爆音と、ミルコの足蹴りによって破砕される重厚な防壁の破壊音が轟いている。心臓が早鐘のように打ち鳴らされ、老いた肉体に冷や汗が滝のように流れ落ちていた。
走る頭の中で、ドクターは数日前に黒煙と交わした会話を血走った目で思い返していた。
『ドクター、潜入捜査で得た情報によりますと……ヒーロー達は4月1日に総力を挙げて結集し、一斉ガサ入れを行うと思われます』
漆黒の外套を揺らし、恭しく頭を下げて報告してきた黒煙の姿。
『ぬははは! 4月1日だと!? 愚かめが! 4月初頭には死柄木の手術はとっくに終わっておるわ! ならばこうしよう……死柄木弔は決戦の数日前に別のダミー施設へ輸送しておくわい。そうとは知らず、4月1日に総力を挙げてこの平凡な病院に踏み込んできたヒーローどもの、唖然とした間抜けなツラを見てやるわ! ハッハッハッハ!!』
黒煙の報告を完璧に真に受け、自らの裏をかく策に酔いしれていたドクター。
「騙されよったな、黒煙……! 忌々しいヒーローどもめ、4月1日だと思って高くくっておったら……がはっ、ゲホッ!!」
必死に逃げ惑うドクターは、己の策略が見事にヒーロー側を出し抜いたと疑っていなかった。
しかし――これこそが、黒煙の仕掛けた最大の罠だったのだ。
正確には、「ヒーローが黒煙を騙した」のではなく、「黒煙がドクターを最初から完璧にハメていた」のである。
黒煙にとって、目の前で惨めに逃げ回るドクターは、等しく排除すべき「敵」に過ぎなかった。
黒煙の脳内にある絶対的な優先順位――それはただ一つ、ホワイトの愛する存在であり、この世界で唯一護るべき「葉隠透の絶対的な安全」である。
透さんの未来を脅かす脅威の順位において、1番目は世界を支配させようとするオール・フォー・ワン。そして、2番目に仕留めるべき危険人物こそが、狂気の技術で脳無を生み出し、死柄木を最強の怪物へと改造しているこのドクターだったのだ。
ホワイトが根津校長へノートを託すことを予想し、黒煙がドクターに偽の期日(4月1日)を掴ませることで、ドクターの警戒を限界まで解き、一番油断している「3月下旬」にヒーローの全戦力をぶち込む――。
「あり得ん……! あり得んぞ!! 4月1日のはずじゃ! 忌々しいヒーローどもがなぜ今ここに集結しておる!? なぜこの地下施設の位置をこれほど正確に把握しておるんじゃあああッ!?」
カプセルの中で眠る未完成の死柄木弔を守るため、ドクターは激しい恐怖と焦燥感に歯茎から血を滲ませながら、緊急起動ボタンへとしがみつくように手を伸ばすのだった。
「出よ! 目覚めよ! わしの愛しき最高傑作……ハイエンド達よォォォッッ!!!!」
ドクターの狂気に満ちた絶叫と共に、地下研究室の深部に並ぶ巨大な培養液カプセルが内側から次々と粉砕された!
ドッカァァァンッ! バシャァァァンッ!!
濁った培養液が激しく飛散し、その中から異形にして圧倒的な圧迫感を放つ複数の超高級脳無――「ハイエンド」たちが立ち上がる! それぞれが独自の思考能力と複数の強大な「個性」を宿した、殺戮の完成形である。
「ガアアアアアッ!」
「肉……殺ス……!」
「させんぞ!! 脳無どもめ、一歩も通さん!!」
ナンバーワンヒーロー・エンデヴァーの全身から溢れ出るヘルフレイムが、地下施設を灼熱の業火で包み込む!
「相澤! 奴らの『個性』を片っ端から消せ! マイク、音波で距離を取らせろ!」
「分かってる! だが数が多い……! 一瞬でも視線を外せば一気に間合いを詰められるぞ!」
相澤先生が髪を逆立て、赤い瞳でハイエンドたちの挙動を凝視する! だが、ハイエンド達は自律した戦闘知能を持ち、視線を切らせようと四方から死角を突いて襲いかかってくる!
「イエァァァッ! 脳みそ丸出しの怪物ども! 俺のボイスで吹き飛びなァァッ!!」
プレゼント・マイクの超高音の音波衝撃波が地下の空間を激しく振動させ、ハイエンドの頭部を直接打ち叩く!
「持ちこたえろ! 盾の真骨頂を見せてやる!! シュートシールドッッ!!」
クラストが自身の腕から無数の硬質化プレートを射出し、襲いかかるハイエンドの鋭利な爪を正面から受け止める! 衝撃で床が炸裂するが、クラストは血を吐きながらも踏みとどまり、後方の仲間を守り抜く!
「ハッ……ハッ……! 頼む、耐えてくれハイエンド達よ! ほんの少し……あと少しの時間でいいんじゃ!!」
凄絶な激闘の余波で揺れる研究室の奥で、ドクターは血走った目をカプセルの中央へと向け、狂ったように叫び続けていた。
「起きろ! 起きろォォッ、死柄木弔ぁぁぁッッ!!!!」
ドクターの額からは滝のような汗が吹き出し、指先はキーボードの上で激しく震えていた。
白煙のノートと黒煙の偽情報によってもたらされた、計算外すぎるヒーローの強襲。死柄木弔の体にオール・フォー・ワンの個性を移植・定着させるための手術は、まだ完全に完了していない!
「定着率……80%……!? たったの80%じゃと!? 冗談ではない! 今目覚めさせれば、肉体の崩壊リスクがあまりにも高すぎる! だが……だが今起こさねば、ここで全てが終わってしまうんじゃあああッッ!!」
狂乱するドクターの背後――その頭上の天井が、爆発的な衝撃と共に一瞬で粉砕された!
「逃がさねぇぞ、ジジイッ!! ルナアークッッ!!!!」
回転する鋭利な脚力が空気を裂き、ミルコの必殺の一撃が研究室の巨大な制御装置と培養設備を容赦なく叩き潰す!
バリバリバリッ!! ズガガガガガッ!!
爆発する機械群、跳ね飛ぶガラスの破片、そして吹き荒れる衝撃波。
「ひぎゃああああああっっ!? わしの研究が! 死柄木の手術器械がぁぁぁっ!!」
ドクターが顔を覆って悲鳴を上げる。
その破壊の渦中、着地したミルコの全身の産毛が一斉に逆立った。
(……な、なんだ……この胸のザワつきは……!?)
『兎』の個性がもたらす、研ぎ澄まされた野生の超感覚と生存本能。それがミルコの脳裏に、かつてない猛烈な警鐘(アラーモ)を打ち鳴らしていた。
(冷や汗が止まらねぇ……! ドクドクと心臓が破裂しそうだ……! ヤバい……ヤバすぎるぞ!! こいつはハイエンドなんて目じゃねぇ! 目の前にあるこのカプセルの中身……あのヴィラン(死柄木弔)だけは、絶対にここから出しちゃいけねぇぇぇッッ!!!!)
野生の勘が告げる「絶対的な死」の予感。
ミルコは全身の筋肉を限界まで膨張させ、赤い瞳に狂暴なまでの決意を宿し、カプセルの中の死柄木弔へ向けて跳躍した!
ミルコの放った渾身の蹴撃によって培養カプセルは完全に破壊され、液体と共に吐き出された死柄木弔の身体は、冷たい床の上に打ち捨てられた。
心電図のフラットな電子音が無機質に響き渡る。
呼吸はなく、脈拍もない。オール・フォー・ワンの膨大な負荷に耐えかねた肉体は定着率80%のまま途絶え、死柄木弔は完全に仮死状態に陥っていた。
「ハッ……ハッ……! やった……息が……ねえ……?」
ミルコは肩を大きく上下させ、荒い息を吐きながら膝をついた。直前まで全身を支配していた「死」への恐怖と生存本能の警鐘が、静かに引いていくのを感じる。
同時に、地上と地下を埋め尽くしていた激闘も終わりを告げようとしていた。
「これで……終わりだァァッ!!」
エンデヴァーの放つ『プロミネンスバーン』の超高温の炎が、最後まで抗っていたハイエンドの肉体を細胞レベルで焼き尽くす! 相澤消太(イレイザー・ヘッド)の消滅の視線と、プレゼント・マイクの超振動音波、クラストの決死の防御陣形が噛み合い、一時は猛威を振るった最強の脳無たち「ハイエンド」も、一頭、また一頭と物言わぬ肉塊となって床に崩れ落ちていった。
「ひ……ひぃぃぃっ……! わしの最高傑作たちが……死柄木が……! そんな……そんなバカなことがあってたまるかあああッ!!」
泣き叫び、地面を這い回って逃げようとするドクター(殻木球大)。だが、その首元にはロックロックの『鍵』と、相澤の捕縛布が容赦なく巻き付いた。
「動くな、ドクター。貴様の狂気の人体実験も、これで年貢の納め時だ」
「がはっ……息が……! 離せ! 死柄木を起こせ! わしの夢が……オール・フォー・ワンの悲願がぁぁっ!」
拘束され、絶望に顔を歪めるドクター。
1年A組の生徒たちが進めていた地上・病院内の避難誘導も完璧に完了。
白煙くんが根津校長へ託した『ノート』と、黒煙がドクターに仕掛けた『偽の情報』――二重の策略によってヒーロー側が得た完璧な先手は、見事に結実した。
病院の完全包囲。
ハイエンドの全滅。
ドクターの身柄確保。
そして、悪の象徴となり得る死柄木弔の仮死と停止。
誰もが、プロヒーローたちの作戦が完全に成功を収めたのだと確信していた。
安堵の空気が、地下施設と無線の向こうのヒーローたちに伝波していく。
クラストが荒い息を吐きながら豪快に笑い、プレゼント・マイクが「イエェィ!」と小さくガッツポーズを作った。
――しかし。
その完璧な「勝利」の空気は、あまりにも唐突に、冷ややかに瓦解した。
破壊されたカプセルの残骸の中。
ピクリとも動かなかった死柄木弔の指先が、わずかにピクと跳ね跳び――。
かすかな、掠れた声が、壊れた装置の隙間から漏れ出た。
「……寒い」
その一言が、地下施設の空気を一瞬で凍りつかせた。
相澤の肌が、エンデヴァーの炎が、ミルコの野生の勘が、再び凄絶なまでの戦慄に打たれる。
言葉が発せられた瞬間、仮死状態だったはずの死柄木弔の肉体から、地獄の底から湧き出るような黒い「壊滅」の波動が、静かに膨れ上がり始める。
死柄木弔の口から漏れ出たその一言は、死の淵からの生還ではなく、この世の終わりの始まりを告げる産声だった。
次の瞬間、死柄木が床に手をついた。
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガッッ!!!!
地鳴りではない。理不尽なまでの絶望の連鎖――進化を遂げた個性『崩壊』が起動したのだ。
伝播する破滅は、触れたものすべてを灰色のチリへと変えていく。
研究室の床が、壁が、天井が、数秒で砂のように崩れ去る。ガラスも、鉄骨も、ハイエンドの残骸も、すべてが崩壊の波に呑み込まれていく。
「なっ……なんだこの波はぁぁぁッ!?」
「壁が……床が溶けて……いや、粉々に砕けていく!?」
研究室が崩壊し、蛇腔病院の地下から地上へ向けて、底なしの灰色の地獄が拡散していく。
「逃げろ! 地上に退避せよ! 触れるな、伝播するぞッ!!」
エンデヴァーが足元から炎を爆発させ、間一髪で空中へと飛翔する!
「相澤! マイク! 飛べッ!」
「くそッ、足場が……足場が崩れていくぅぅっ!」
プレゼント・マイクの叫びも、地響きにかき消される。
「全員、私に乗りなさい!!」
龍の姿となったナンバーテンヒーロー・リューキュウが間一髪で飛来し、巨躯を滑り込ませた。
「リューキュウッ!」
相澤先生、プレゼント・マイク先生、エクトプラズム先生が空中へ飛び込み、リューキュウの背にしがみつく。その腕の中には、重体で動けないミルコの身体が固く抱えられていた。
しかし、崩壊の津波は容赦なくプロヒーローたちを呑み込んでいく。
「うおおおッ! 盾よ、持ちこたえろ! 仲間を行かせろォォッ!」
ナンバーシックスヒーロー・クラストが、全身から硬質化プレートを放出し、巨大な壁となって破滅の波を受け止めた。
「クラストッ! やめろ、飛び移れッ!」
相澤先生が叫ぶ。だが、クラストの足元はすでに灰へと変わり始めていた。
「相澤……! 頼んだぞ、ヒーローの未来をォォッ!!」
クラストは無骨な笑みを浮かべ、相澤たちを乗せたリューキュウを突き飛ばすように送り出すと、その全身が崩壊の波に呑み込まれ、一瞬でチリとなって消え去った。
「クラスト―――ッッ!!!!」
プレゼント・マイクの痛恨の叫びが空にこだまする。
「助けてくれーーー!!!!」
「死にたくない!!!!」
「お袋ーーーー!!!!」
全国から集結したプロヒーローたちが、病院が、そして広大な蛇腔市の街並みが、波及する『崩壊』によって次々と灰の海へと沈んでいく。
「何が起こった!?」
「建物が……街が根元から崩れてくるぞ!?」
病院から離れた街の街頭で避難誘導を行っていた後方待機チームのA組生徒たちに、見たこともない地獄の光景が襲いかかった。
「全てが崩壊していく!!!!」
緑谷出久の叫びが響く。地平線の彼方から、すべてを飲み込む灰色の津波が猛スピードで押し寄せてきていた。
「クソがぁぁッ! 立ち止まってんじゃねえ! 空へ逃げろッッ!」
爆豪勝己が両手から爆破を吹き荒らし、周囲の市民を抱え上げて上空へと跳び上がる!
「みんな、私の『無重力』で浮かせるよ! 落ちてくる瓦礫に注意して!」
麗日お茶子が必死に指先を触れ合わせ、押し寄せる人々や瓦礫を次々と浮き上がらせる!
「地面に足を付けるな! 大氷壁で高さを稼ぐ!!」
轟焦凍が右手から巨大な氷の山を即座に隆起させ、避難しきれていない市民を氷の上へと押し上げる!
「レシプロターボッ! 一人でも多く高台へ運ぶ!!」
飯田天哉が音速の足で瓦礫の隙間を駆け抜け、逃げ遅れた子供たちをすくい上げる!
「ケロっ! 舌で届く範囲は全部引っ張り上げるわ!」
蛙吹梅雨ちゃんが空中からしなやかに舌を伸び縮みさせ、崩れ落ちるアスファルトから人々を救出していく!
「みんな、僕の動物たちの声を聞いて! あっちの高台へ逃げて!!」
口田甲司も鳥たちを呼び寄せ、誘導の声を張り上げる!
生徒たち全員が、絶望の波から市民を空中に運び出し、全力で死の連鎖から逃げていた。
「エン、ちゃん!!」
灰色の津波が目と鼻の先まで迫る中、透ちゃんが悲鳴のような声を上げた。地面が足元から崩れ落ちようとしている!
「透ちゃん、僕に飛び乗って!!」
白煙くんが叫ぶ! 全身から高密度の赤煙を爆発的に噴出させ、自らの身体を空中に浮上させた。
「『赤煙・改』!!『ホワイトロケット』!!『スモーク・テンタコル』!!」
白煙くんの背中から、障子くんの『複製腕』を模したいくつもの巨大な赤煙の触手が物理的な質量を持って触手のように伸び出す!
「1人でも多く市民の皆さんを……絶対に死なせはしない!!」
赤煙の触手が、崩壊の波に呑み込まれそうになっていた数知れぬ市民たちの身体を優しく、かつ強固に捉え、空中へと一気に引き揚げていく。透ちゃんを背中に乗せた白煙くんは、血を吐くような思いで赤い煙の腕を限界まで広げ、空を翔けた。
病院は消え、街は砕け、かつてない悲劇が日本を包み込んでいく。
崩壊の嵐の中心。
すべての建造物が消滅し、広大な灰色の更地と化した蛇腔病院の跡地に、一人の男がゆっくりと立ち上がった。
オール・フォー・ワンの個性を完璧に移植され、世界最強のヴィランへと変貌を遂げた死柄木弔。
白髪を風になびかせ、冷酷な瞳で遠くの空を見つめる。
胸の奥に眠る超大型ヴィランとの精神リンクを接続し、地を這うような低い声で通信を開いた。
「おいでマキア。みんなと一緒に今ここから全てを壊す」
死柄木弔の冷徹な宣告が、絶望の空気に響き渡る。
ギガントマキアが目覚め、歩み出す。
プロヒーローの破滅、街の消失、そして立ち塞がる雄英A組。
希望が灰へと変わりゆく中、絶望と狂気が支配する真の終末世界が、いま始まろうとしていた。
定着率80%はこの物語のオリジナルです
原作は75%です
少しだけ侵食しています