個性「煙」の救煙レスキューヒーロー   作:ウルトラエックス

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善悪全面戦争ワンズ・ジャスティス 郡訝山荘

蛇腔病院への奇襲作戦とまったく同じ刻。

和歌山県・奥深き山中にそびえる超常解放戦線の本拠地、群訝(ぐんが)山荘。

木々に囲まれた豪奢な館の内部では、幹部や指揮官クラスのヴィランたちが一堂に会し、定期会議を執り行っていた。

しかし、その山荘を囲む密林には、極秘裏に配置を完了したヒーロー側の連隊が息を潜めていた。

最前線に立つのはプロヒーローたち――セメントス、ミッドナイト、ファットガム、Mt.レディ、エッジショット、シンリンカムイ、ギャングオルカ、ヨロイムシャ、ミス・ジョーク、マジェスティック、サンイーター(天喰環)、そして全国から駆けつけた手練れのヒーロー勢。

その直後方には、前線前衛を務める1年A組の上鳴電気、常闇踏陰、B組の骨抜柔造、小森希乃子。

さらに後方のバックアップ陣形には、雄英生の混成部隊が集結していた。

A組からは切島鋭児郎、耳郎響香、障子目蔵、八百万百、芦戸三奈、砂藤力道、峰田実、青山優雅、瀬呂範太、尾白猿夫。

B組からは拳藤一流、取蔭切奈、小大唯、塩崎茨、宍田獣郎太、庄田二連撃、柳レイ子、鉄哲徹鐵、黒色支配。

誰もが固唾をのんで合図を待つ。冷たい山風が木の葉を揺らす音すら、緊迫した空気のなかでは爆音のように響いていた。

 

 

 

「……始めよう」

 

最前線のセメントスが巨大な拳を地面へ叩きつけた。

 

「開けます!!!!」

 

 

 

ズガガガガガガガガガッッ!!!!

 

 

 

セメントスの個性『セメント』が発動し、山荘の巨大なコンクリート土台が一瞬にして爆発的に隆起! 館の壁面と正面入り口が丸ごと豪快に吹き飛び、内部の吹き抜け構造が露わになった!

それが、ヒーローと超常解放戦線による全面戦争の火蓋を切る激弾となった!

 

「なっ……ヒーローどもだと!?」

 

「奇襲だ! 迎撃しろ!!」

 

崩れ落ちる瓦礫の煙の中から、凄まじい怒号と共にヴィランたちが吐き出されてくる。

 

「今ここより解放を!!!! 偉大なる異能の力を世界に示せ!!」

 

山荘から溢れ出してくる異能解放軍の兵士たちは、その数およそ1000人以上。かつて秘密裏に訓練を重ね、規律と理念で強固に統率された実力者たちだ。集団で繰り出される異能の波が、山肌を削り取っていく。

 

「ひるむな! 我々の目的は敵のアジト制圧と一網打尽だ! 守るために攻めろ!!」

 

エッジショットが紙のように薄く細く変化し、音速を超えた突きで敵の前線集団を一瞬で無力化していく!

 

「シンリン! 逃げ道を塞ぐぞ!」

 

「任せろエッジショット!『ウルシ鎖牢』!!」

 

シンリンカムイの腕から伸びる巨大な木々が、潰走しようとするヴィランたちをまとめて絡め取る!

 

「巨大化して押し潰すわよ! 逃がさないわ!」

  

Mt.レディが巨大化し、圧倒的な質量で山荘の脇道を封鎖する!

 

「波浪でまとめて気絶させる!『ハイパーディープナビゲーション』!!」

 

ギャングオルカの超音波が響き渡り、押し寄せる兵士たちをまとめて脳震盪へ叩き落とす!

 

「前衛の若い芽を守るのも我らの務め!『魔法の絨毯(マジックカーペット)』!!」

 

マジェスティックが光の円盤を次々と出現させ、味方の足場を確保しながら敵の遠距離攻撃を弾き返す!

 

「わはは! 笑って戦意を喪失しなさいな!」

 

ミス・ジョークが個性を振り撒き、向かってくるヴィランたちを爆笑させて動きを止める!

 

「武人として、この一戦に命を賭す!!」

 

ヨロイムシャが刀を閃かせ、迫るヴィランの武器を砕いていく!

 

「脂肪で全部受け止めるでぇ! ワイの頭越しには一歩も通さへん!」

 

ファットガムが巨大な体躯で前線を押し返し、迫る攻撃をすべて吸収していく!

 

「僕も……やるしかないんだ……!『再誕のキメラ(ハイブリッド)』!!」

 

サンイーターがタコとムール貝の再現能力で巨大な触手と盾を形成し、側道からの急襲を完璧に防ぎ止める!

プロヒーローたちの圧巻の連携。だが、超常解放戦線の層の厚さは常軌を逸していた。

 

 

 

「一匹でも多くの犬共を討てーー!!!! 散っていった同志のために!!」

 

「うおおおっ! 異能こそが人間の本質だ!!」

 

異能解放軍の指揮官たちが叫ぶと、千人を越える兵士たちが死を恐れずに猛攻を再開! 炎、氷、電撃、怪力、異形の部位――多種多様な個性が嵐のように吹き荒れ、前線のプロヒーローたちが一人、また一人と吹き飛ばされ、血を流して倒れていく!

 

「くっ……数が多すぎる! 押されているぞ!?」

 

「前線が破られる……! 上鳴、常闇! 前へ出ろ!」

 

ミッドナイトが鞭を振るいながら催眠香を撒き散らすが、風系統の異能で押し返されてしまう。

 

「任せてください……! 俺が……俺たちが壁になる!!」

 

最前線に躍り出た上鳴電気が、全身の電撃をバチバチと激しく放電させた。相手は集団、そして広域。自分が放電の避雷針となれば、広範囲の敵を一気に制圧できる!

 

「来いよヴィランども……! 俺が全部引き受けてやる!!」

 

「上鳴! 無茶はするな! 闇の力よ、我に応えよ……『黒き堕天使』!!」

 

常闇踏陰がダークシャドウを全身に纏い、滑空しながら空中から押し寄せる異能の弾幕を相殺していく!

 

「地面を泥化させて足止めするぞ! 小森さん、胞子を!」

 

「任せるノコ! むくむく菌類大発生ノコ〜〜っ!」

 

骨抜柔造が地面を柔らかい泥へ変え、そこへ小森希乃子の胞子が爆発的に菌類を繁殖させて敵の進軍スピードを劇的に削いでいく!

 

 

 

しかし、後方待機部隊の生徒たちの目にも、前線の凄惨な攻防がはっきりと焼き付いていた。

 

「プロの人が……次々とやられていく……!」

 

峰田実がガタガタと震えながら叫ぶ。

  

「怖気付いてる暇はないわ! 避難誘導と前線のバックアップ、それぞれの役割を全遂全遂ですわ!」

 

八百万百が冷や汗を流しながらも、創造の能力で防護盾や救護資材を迅速に生成していく。

 

「あいつら、マジで命懸けで突っ込んできやがる……! だが、ここで俺たちが引いたら後ろがないんだよ!」

 

切島鋭児郎が全身をカチカチに『安無嶺過留(アンブレイカブル)』化させ、拳を強く握りしめる。

 

「音波で敵の配置を察知するわ! 左の防壁の後ろに五十! 右の林の中に百!」

 

耳郎響香がイヤホンジャックを地面に突き刺し、索敵情報を前線へ飛ばす。

 

「複数腕で救護ルートを確保する! 倒れたヒーローを後方へ!」

 

障子目蔵が腕を広げて負傷者を素早くかき抱く。

 

「うちの酸で防護壁を溶かして進路を作るよ!」

 

芦戸三奈が酸を散布して敵の障害物を穿ち、

 

「甘いもの食べて出力上げるぞ! 押し返す!」

 

砂藤力道がシュガーラッシュで巨躯を膨らませる。

 

「僕は……僕は……」

 

青山優雅は迫りくる大量のヴィラン達にお腹を押さえながら恐怖で動けなくなる。

 

「テープで縛り上げて足止めだ!」

 

瀬呂範太が広範囲にテープを網の目状に張り巡らせる。

 

「隙を見せるな! 拳で打倒す!」

 

尾白猿夫もしなやかな尻尾で迫る刺客を薙ぎ払う。 

 

 

 

 

B組の面々も負けてはいない。

 

「A組だけにいい格好させないよ! B組も指揮を執る!」

 

拳藤一流が巨大化した拳で突風を巻き起こし、

 

「トカゲのシッポ切りで撹乱するわ! 敵の視界を奪う!」

 

取蔭切奈が全身を細かく分離させて敵陣の頭上を飛び回る。

 

「小さくして……大きく叩き潰す!」

 

小大唯が個性の『サイズ』で瓦礫を巨大化させて落とし、

 

「主の御名において……蔓の結界を!」

 

塩崎茨が頭髪のツルを巨大な網のように広げて何十人もの兵士を一網打尽にする。

 

「ウオオオッ! 獣化して散らし叩く!」

 

宍田獣郎太が巨獣となって敵陣へ突撃し、

 

「『二連撃』で威力を倍加させる!」

 

庄田二連撃が衝撃を加算して敵を吹っ飛ばす。

 

「ポルターガイストで武器を奪うわ!」

 

柳レイ子が宙に浮かかせた無数のナイフや瓦礫で牽制し、

 

「固くなって正面突破だァッ! 切島に負けてられん!」

 

鉄哲徹鐵が全身を金属化させて弾丸の雨を正面から弾き返し、

 

「影の中に潜んで……足元から奇襲!」

 

黒色支配が影から影へ移動して敵の指揮官を失神させていく。

 

「「「「うおおおおおおおおっっ!!!!」」」」

 

プロヒーローと雄英生たちが一体となり、怒濤の勢いで押し寄せる千人のヴィランと真っ向からぶつかり合う。

勝利か、それとも破滅か。

和歌山の深山は、叫びと爆音、そして血と鉄の匂いが充満する凄絶な大戦場と化していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

群訝山荘の外で激しい戦闘の爆風と歓声が響き渡り始めた、まさにその瞬間。

山荘の奥深く、誰も立ち入らない静寂に包まれた薄暗い回廊で、もう一つの凄絶な戦いの火蓋が切られようとしていた。

ナンバーツーヒーロー・ホークス。

その鋭利な赤羽の数本が、刃となってトゥワイス――仁重倍河原の首元と関節を完璧に抑え込み、完全にその自由を奪っていた。

 

「……どうなってんだよ」

 

トゥワイスの口から、掠れた声が漏れ出た。

面の下の瞳は、目の前で静かに羽を揺らす「仲間」のはずだった男を、信じられないという思いで見つめている。

 

「…………」

 

「なァ! 説明してくれよ、ホークス!! なんでお前が……なんでお前が俺に刃を向けてんだよ!!」

 

混乱とショックで体を激しく震わせるトゥワイス。

だが、ホークスの表情には一片の感情も浮かんではいなかった。黄金の瞳は冷たく、どこまでも冷徹に、プロとしての使命だけを宿して眼下の男を見下ろしている。

 

 

「……最初からですよ、分倍河原さん。私はあなたを常にマークしていた」

 

「おい! おいって、なァ!? ジョークだろ!? また俺を騙してんのか!? なぁッ!?」

 

「ジョークではありません。あなたの個性『2倍』は、一人で一国を滅ぼし得る。この戦争において、あなたを最初に無力化すること……それが私の最優先任務です」

 

突きつけられた残酷な事実。

トゥワイスの脳裏に、怒涛のように過ちの記憶が蘇る。

 

「またかよォオオォ……また俺かよォッ!!」

 

胸を掻きむしるような悲鳴が廊下に響き渡る。

かつて、治崎率いる『死穢八斎會』を不用意に連合のアジトへ引き入れ、大切な仲間であったマグネを死の危険に晒してしまった過去。あの時は間一髪のところで黒煙が割り込み、彼女の命を救ってくれた。

 

『また俺が……俺が余計なことをしたから……仲間を危険に晒しちまった……!!』

 

悔恨と絶望が、トゥワイスの心をズタズタに引き裂いていく。

ホークスが自分に歩み寄ってくれた時、誰も信じようとしなかった彼を、自分だけは必死にかばった。

 

『ホークスが怪しまれて孤立してる……誰かが信じてあげないと! 誰かが信じて抱きしめてあげねえと、可哀想だろッ!!』

 

そうやって純粋に人を信じ、差し伸べた温かい手。

ホークスは、トゥワイスの持つその「仲間を想う優しさ」「底抜けの善良さ」を、冷酷かつ徹底的に利用して潜入捜査を進めてきたのだ。

 

「……『ありがとう』。……そう言ったよな、お前……! 俺が信じたから……俺が案内したから……お前はここに入り込めたんだよな……!?」

 

トゥワイスの目から、ボロボロと大きな涙が溢れ出た。面を濡らし、床へと滴り落ちていく。

 

「これが……これがヒーローかよォッ! 人の気持ちを踏みにじって、笑って裏切るのが……お前らの言う『正義』なのかよォオオッ!!」

 

「……やめろ」

 

ホークスの眉が、わずかに痛みに歪んだ。背中の赤羽が、微かに小刻みに震える。

 

「なァ! 答えろよホークスッ!!」

 

「やめてくれ、分倍河原さん……! これ以上、私にあなたを傷つけさせないでくれ……! あなたは根っからの悪人じゃない。罪を償えば、やり直せるはずだ! 私はあなたと戦いたくないんだ!」

 

ホークスの叫びは、本心だった。

泥の中に咲いた毒花のようなヴィラン連合において、あまりにも純粋で、あまりにも優しすぎた男。できれば殺したくはない。生かして拘束し、光の世界へ引き戻したかった。

だが――トゥワイスにとって、その情け容赦のない「慈悲」こそが、何よりも惨い侮辱だった。

 

「そりゃてめェの都合だろ!!!!」

 

ドッッ!!

トゥワイスの全身から、爆発的な泥状の物質が噴出し始めた!

 

「俺は……俺はもう俺のことなんかどうでもいいんだよ!!!! 俺がどうなったっていい! 仲間を……俺を信じてくれたあの人たちを……今度こそ俺が守るんだよォォッ!!」

 

「しまっ――」

 

ホークスが羽を閃かせるよりも速く、泥の中から「トゥワイス」が、もう一人、さらに一人と増殖していく!

 

「うあああああッ!」

「ホークスを殺せ!」

「仲間を守れ!!」

「信頼してくれた!」

「屑野郎!」

 

増えていく分身たち。

その誰もが、面の下でボロボロと大粒の涙を流しながら、血吐くような叫びを上げてホークスへと襲いかかってくる。

自分の身などどうなってもいい。ただ、自分が招いた破滅から「仲間」を守るためだけに、男は泣きながら己の魂を削り、無限の増殖を開始した。

 

「……すまない」

 

ホークスは目をつむり、心の中の「人間としての情」を完全に殺した。

赤羽の一本一本を極限まで研ぎ澄まし、真紅の刃と化した翼を振るう。

泣き叫ぶ分身たちが、次々と赤羽によって切り裂かれ、泥となって崩れ落ちていく。

暗い廊下に舞い散る血と赤い羽根、そして泥の破片。

ヒーローとしての絶対的な大義と、ヴィランの不器用で切なすぎる愛が激突する、悲しき死闘が静かに加速していった。

 

 

 

トゥワイスの個性『2倍』――それはイメージが具体的であるほど強固な分身を生み出すが、増殖を重ね、元となるイメージが曖昧になればなるほど、分身の耐久力は著しく低下していく。

 

「速……すぎる……」

 

トゥワイスの血走った目が、視界を赤く染め上げる風切り音を捉えきれずに揺れた。

 

 

 

シュバババババッ!!

 

 

 

ホークスの『剛翼』から放たれる無数の赤羽は、まるで意思を持った鋭利な刃の群れだ。増え続けるトゥワイスの分身たちは、ホークスに近づくことすら許されず、触れた瞬間に「泥」となって次々と瓦解していく。音速を超える超高速の連撃。一秒間に数十もの分身が削り取られていく。

 

「投降してください、分倍河原さん。これ以上の抵抗はあなたの命を削るだけだ……! 俺は、あなたのことを……一人の人間として好きでした」

 

血と泥が散乱する廊下で、ホークスが切なく、けれど氷のように冷たい声で告げる。その言葉に、トゥワイスは壊れたように首を振った。

 

「好きだった……? ふざけるな……ふざけるなッ!! 俺の仲間は……俺の居場所は、こいつらだけなんだよッ!!!!」

 

トゥワイスの絶叫と共に、爆発的な泥の塊が床から跳ね上がった。

そこに現れたのは、死柄木弔、荼毘、マグネ、ミスター・コンプレス、トガヒミコ、スピナー――そして黒煙。

かつて自分を人間として受け入れてくれた、愛おしい仲間たちの姿をした分身群!

 

「行けぇぇぇッ! 仲間たちを守れぇぇぇッ!!」

 

しかし、その圧倒的な情念すらも、プロの冷徹な効率の前には虚しく打ち砕かれる。

 

 

 

ズババババッ!!

 

 

 

「――甘い」

 

ホークスの一閃。赤羽の嵐が回廊を駆け抜けた瞬間、死柄木も、トガも、荼毘の分身も、一瞬の爪痕すら残せずに泥の泡となって弾け飛んだ。耐久力の落ちた分身など、ホークスの刃の前には紙クズ同然だった。

 

「がはっ……! 俺は……ただ……みんなの幸せを……守りたいだけなんだよぉっ……!」

 

トゥワイスの身体が前のめりに崩れ落ちる。

無数の羽によって全身を深く切り刻まれ、大量の滑血が床を赤く染めていく。急所――ヒーローとして決して付けてはならないはずの、致命的なダメージ。

ホークスは静かに、トゥワイスの頭上へと舞い降りた。手元には、鋭利に研ぎ澄まされた一本の巨大な赤羽。

 

「……彼ら(連合)に伝えておくよ。あなたが最後まで仲間を想って戦った、立派な男だったと」

 

ホークスの瞳から感情が消える。ヒーロー社会の平和を守るため、この危険すぎる『2倍』の芽をここで完全に摘む。

刃が振り下ろされ、トゥワイスの命の灯火が消える――誰もがそう確信した、その刹那。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――させません」

 

 

シューーーッ……!!

 

回廊の影から、空間を塗りつぶすような濃厚な「漆黒の煙」が爆発的に噴き出した!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ……!?」

 

ホークスの手元から視線が遮られ、振り下ろした赤羽が空を切る。驚愕に目を剥くホークスの視界の先、漆黒の煙の中から滑り込んできたのは、他ならぬ黒煙だった。

黒煙は間一髪で血だらけのトゥワイスの身体をかき抱き、影の中へと引きずり込む。

 

「裏切ったのか……黒煙!!」

 

ホークスは戦慄した。

黒煙――彼はヒーロー側(公安)の二重スパイとして、自分と共に潜入捜査を進めていた「同類」のはずだった。なぜ今、ヴィランを助ける!?

黒煙は黒い外套を揺らし、冷徹な瞳でホークスを見据えた。

 

「勘違いしないでいただきたい。私は最初から『ヴィラン連合』を、そして彼らの絆を護る者。……裏切り者は、ハナから味方のフリをしていた貴方の方ですよ、ホークス」

 

「くッ……お前、最初から……!」

 

「……あとはお願いします、荼毘様」

 

黒煙はそう短く告げると、意識不明の重体に陥ったトゥワイスを背負い、煙の波と共に廊下の奥へ退避した。

直後――。

 

 

 

ゴオォォォォォッッ!!!!

 

 

 

黒煙が消え去った痕跡から、息をのむほど苛烈な「蒼い炎」の壁が立ち昇り、回廊全体を灼熱の地獄へと変えた。

炎の揺らめく奥から、ゆっくりと足音を響かせて歩み出てくる一人の男。

 

「ああ。よくやったぜ黒煙。……じゃあな、鷹見啓悟(たかみ けいご)」

 

立ち上る炎の陰から、荼毘が凶悪な歪んだ笑みを浮かべて呟いた。

 

「――――――は?」

 

ホークスの思考が、完全に停止した。

『鷹見啓悟』――。

それは、公安の手によって過去の経歴を完全に抹消され、この世界でごく一部の公安上層部しか知り得ない、ホークス自身の「本名」だった。

 

(なぜ……なぜコイツが俺の本名を知っている……!? どこから漏れた……公安のデータベースか……!? それとも……!)

 

底知れぬ恐怖と混乱がホークスの全身を支配し、指先一つ動かすことができない。

その絶望的な隙を、超高温の蒼炎が見逃すはずもなかった。

 

「ハハハハハ! 絶望した顔もイイ顔だぜ、ナンバーツー!!」

 

 

 

ズドァァァァァッッ!!!!

 

 

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

凄絶な悲鳴が、炎の渦の中に響き渡る。

翼を、皮膚を、そしてヒーローとしての誇りを焼き尽くす殺戮の蒼炎が、ナンバーツーヒーロー・ホークスを容赦なく呑み込んでいった。

 

 

 

グラグラグラグラッッ!!!!

 

 

 

蛇腔市の果てから、そして和歌山県・群訝山荘の地下深くから、日本列島そのものが悲鳴を上げるような凄絶な天動説級の地鳴りが響き渡った。

 

『おいでマキア。みんなと一緒に今ここから全てを壊す』

 

死柄木弔の覚醒と同時に放たれた精神の通信(合図)。

群訝山荘の地下深くに封印されていた巨大な山塊――超大型ヴィラン『ギガントマキア』の深紅の瞳が、暗闇の中で怪物のようにカッと見開かれた。

 

 

 

 

 

「――待ったぞ……主(しゅ)よォォォォォッッ!!!!」

 

 

 

ゴーーンッ!! ズガガガガガガガッッ!!

 

 

 

地表を突き破り、山荘の残骸と幾百の樹木を微塵に打ち砕きながら、巨躯が立ち上がる。

歩く自然災害。オール・フォー・ワンの忠実なる下僕。幾重もの『個性』を重ね掛けされ、痛みすら感じず無限のスタミナで踏み潰す、絶対的な絶望の巨神。

 

「今……今ぁぁッ! 会いに行きますぞォォォッッ!!!!」

 

 

咆哮一撃。その衝撃波だけで、山荘周辺で戦っていたヒーローもヴィランも、吹き荒れる暴風に煽られて地面を転がった。

 

「な……なんだあの大きさは……!? 山が……山が動いてるのか!?」

 

「で、でっか!!!!」

 

最前線で踏みとどまっていたセメントスとMt.レディが息をのむ。巨大化状態のMt.レディの倍以上、見上げるほどの圧倒的な巨躯が、木々を、岩石を、立ち塞がるプロヒーローたちを文字通り「虫ケラ」のように踏み潰しながら、死柄木の待つ蛇腔市へ向けて爆進を開始したのだ。

 

「止めるんだ! あの怪物を下山させるなァァッ! 街へ出されたら日本が終わるぞッ!!」

 

ファットガムとシンリンカムイが叫び、マジェスティックの魔法陣が空中に展開される。しかし、ギガントマキアは差し出されたヒーローたちの全力の攻撃や拘束を、ただの「風」のように一蹴し、一切速度を落とすことなく前進を続ける。

 

「主のもとへ……! 主の妨げとなるものすべてを……滅ぼす……!」

 

 

蛇腔市では死柄木弔による都市単位の『崩壊』。

群訝山荘ではホークスの敗北、そして止めようのない『歩く災害』ギガントマキアの進軍。

白煙くんがクリスマスに託した一冊のノートがもたらした希望の先手は、ヴィランたちの圧倒的な狂気と覚醒の前に粉砕され、世界はまさに「最悪の終末」へと突き進んでいく。




後衛のA組も突入しているのはこの物語のオリジナルです
原作では後方待機です
そして、トゥワイスは生存ルートです。


ギガントマキアは作者の推しヴィランです。巨大怪獣、巨大怪人は大好きです。特殊タグで特別な表現をしています。
ギガントマキアの専用BGMはfgoのORTシリーズです
何もかも全部、ぶっ壊すぞー。
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