全員ライバルです!
USJの襲撃事件から数日後。A組の教室に、体中に包帯をこれでもかと巻きつけた、まるでミイラのような男が姿を現した。
「相澤先生……!!」
教壇に立ったその姿に、クラス中から心配と驚愕の叫びが上がる。プロ根性で早すぎる復帰を果たした相澤先生は、包帯の隙間から鋭い眼光を覗かせながら、いつもと変わらない低い声で告げた。
「俺の安否はどうでもいい。それより、戦いはまだ終わっていない。お前たちには、さらに大きな『脅威』が迫っている」
「き、今日の今日でまたヴィランですかぁぁぁーーーッッ!!???」
相澤先生の「戦い」「脅威」という不穏なワードに反応し、白煙くんの顔の煙が恐怖で一瞬にして真っ灰色に変色、タコ足のように教室中にブワブワと爆発した。
「落ち着けー! 白煙くん、まだそうと決まったわけじゃないから! 深呼吸してー!」
隣の透ちゃんの手袋が、白煙くんの肩をガシガシと揺らしながら必死に宥めている。
そんな2人の慌ただしいやり取りを、少し離れた席から見ていた麗日さんが、ふふっと微笑んだ。
「白煙くんと葉隠さん、なんかUSJの後から一段と仲良くなっとるねぇ。微笑ましいわぁ」
「……いや、ヴィランではない」
相澤先生が冷徹に白煙くんのパニックを切り裂いた。
「――雄英高校体育祭が迫っている」
「「「おおおおお大イベントキターーー!!!???」」」
教室が一気に大歓声に包まれた。ヴィラン襲撃の直後で中止かと思いきや、これこそが雄英が安全だと世間に示すためのビッグイベント。しかも、ここで活躍すれば、日本中の大手ヒーロー事務所のプロから直々にスカウトが来る、人生の超重要ステージだ。
「た、体育祭……。日本中が注目するんだよね。どうしよう、僕、緊張で今から頭の煙が全部抜けちゃいそうだよ……」
白煙くんの顔の煙がシワシワと萎んでいく。
「何言ってるの白煙くん! 大チャンスじゃん! 私、いっぱーい活躍して絶対有名なヒーロー事務所から声かけてもらうんだから!」
やる気マックスの透ちゃんの手袋が、空に向かって力強く突き上げられる。
そんな中、白煙くんと透ちゃんは、隣の席で静かに腕を組んでいる障子くんを見つめた。
「でも、やっぱり障子くんみたいな、佇まいだけで『頼れるプロ』って感じがするカッコいい人は目立つだろうなぁ。羨ましいな」
「ねー! 障子くん、すっごくガッシリしてて、ヒーローとしての説得力が不戦勝レベルだもん!」
2人から真っ直ぐな尊敬の眼差しを向けられた障子くんは、一瞬だけ目をごくごくと泳がせ、触手の一本で気恥ずかしそうに頭を掻いた。
「……そうか。あまりそういうことを直接言われたことがないから、何と言っていいか分からないな……」
あの冷静沈着な障子くんが、マスクの奥でほんのりと耳を赤くして照れている。どうやら、放課後の特訓を経て、この3人の絆はかなり深まっているようだ。
「あれ……? 白煙くんに葉隠さん、それに障子くんも?」
その様子を後ろから見ていた出久が、ノートを片手に目を丸くした。
「いつの間にか、3人ともすごく仲良くなってる……! お互いの個性の特徴もよく理解し合ってるみたいだし、どんな特訓をしたんだろう……?」
出久が持ち前のオタク分析モードでブツブツと呟く中、白煙くんの顔の煙は、仲間への信頼でぽわぽわと温かい本来の白色に戻っていた。
ヴィランへの恐怖を乗り越え、次なるステージは全校生徒がライバルとなる「体育祭」。
一歩ずつ、けれど確実に成長している白煙くんたちの、新たな挑戦が始まろうとしていた。
雄英体育祭までの、残り2週間。
白煙くん、透ちゃん、障子くんの3人は、授業を受け、食堂(ランチラッシュの美味しい給食)で一緒にご飯を食べ、放課後には体育館ガンマへと直行する――そんな濃密なルーティンを繰り返していた。
特訓の内容は、USJでの反省を活かしたより実践的なものになっていた。
白煙くんの課題は**「勇気を持って避けない特訓」**。
向かってくる攻撃に対して、恐怖でパニックにならず、あえてその場に留まって個性の煙で物理攻撃をすり抜けさせる練習だ。
「ひえええ……ッ!」と最初は目を瞑っていた白煙くんだったが、障子くんの拳を何度も「すり抜ける」うちに、徐々にその精度と勇気を身につけていった。
逆に、透ちゃんの課題は**「勇気を出して避ける特訓」**。
透明化しているとはいえ、敵の広範囲攻撃や不意打ちには当たってしまう。障子くんの複数の触手から放たれる攻撃を、ギリギリの見極めでかわすフットワークを叩き込まれていた。
そして、この特訓は障子くんにとっても大きな実りがあった。
「俺も、普段の生活で『本気で人を攻撃する』なんて機会はそうそうないからな。だが、お前はどれだけ本気で殴ってもすり抜けて傷つかない。技の出力を試すには、これ以上ない最高の相手だ」
6本の腕を器用に動かしながらそう言う障子くんに、白煙くんの顔の煙が自虐的にぽわぽわと揺れた。
「あはは……つまり僕、最高のサンドバッグってことだね!」
「「そういう言い方はやめなさい(やめろ)!!」」
「ひゃいっ!」
透ちゃんの手袋がパチンと白煙くんの肩を叩き、障子くんからも鋭いツッコミが飛ぶ。せっかく2人が白煙くんの個性の凄さを褒めていたのに、安定の超ネガティブ思考を発動した白煙くんは、「ご、ごめんなさい……!」と顔の煙をちんまりと縮めて猛反省するのだった。
変わろうとしているのは、彼らだけではない。
爆豪くんは一人静かに爆発の出力を高め、轟くんは己の氷結の精度をさらに研ぎ澄ます。緑谷くんもオールマイトに見守られながら、海岸で「ワン・フォー・オール」をコントロールするための特訓に明け暮れていた。
A組の誰もが、USJで味わったあの悔しさと恐怖をバネに、自分たちの力で血の滲むような努力を重ねていたのだ。
みんながそれぞれの想いを胸に、限界の先へと手を伸ばし続けた14日間。
――そして、ついに。
「お待たせしました視聴者の皆様!!! ヒーロー界の卵たちが、年に一度のガチンコで互いを喰らい合う大舞台!!」
実況のプレゼント・マイクの爆音ボイスが、超満員のスタジアムに響き渡る。
地鳴りのような大歓声と、無数のカメラのフラッシュ。
全国民の視線が注がれる中、いよいよ、運命の雄英高校体育祭の幕が、厳かに、そしてド派手に切って落とされた!!!!
出来るかぎり、体育祭はオリジナル展開にしました
次回からよろしくお願いします