「第一種目通過、上位42名! このメンバーで次の第二種目に進んでもらうッ!」
ミッドナイト先生の宣言により、あの大勢いた参加者から人数が一気に絞り込まれた。残ったのはヒーロー科A組・B組の面々、そして普通科の一部の強者たちだ。
注目の第二種目は――『騎馬戦』。
2人から4人で自由に騎馬を組み、制限時間内に敵のハチマキを奪い合うポイント制のバトルだ。各自に予選の順位に応じたポイントが割り振られているのだが……。
「そして1位の者が獲得するポイントは――1000万!!!」
「い、いっせんまぁあああーーーッッ!!???」
スタジアム中が騒然となる。つまり、あの緑谷くんのハチマキさえ奪えば、誰であっても一発でトップに躍り出ることができるのだ。
一瞬にして、会場にいる全員の目がギラリと飢えた狼のように緑谷くんへと向けられた。文字通り、全員が緑谷くんの敵になった瞬間だった。
「チーム結成の時間は15分! 各自交渉を始めて!」
ミッドナイト先生の合図とともに、一斉に周囲が動き出す。
案の定、狙われまくることが確定している緑谷くんの周りからは、蜘蛛の子を散らすように人が離れ、彼はあっという間にひとりぼっちになってしまった。
(み、緑谷くん……。助けに行ってあげたい、けど……!)
白煙くんの顔の煙がオロオロと頼りなく揺れる。
(僕じゃあ、圧倒的に戦力不足だよ……。物理攻撃をすり抜けられても、攻撃力は完全にゼロだもん。足を引っ張っちゃうよ……!)
自分の無力さに縮こまりそうになったその時、肩をポンと叩かれた。
「白煙。俺たちと組まないか」
「そうだよ白煙くん! ここはやっぱり、この3人でしょ!」
振り返ると、そこには頼もしすぎる障子くんと、手袋を元気いっぱいに振る透ちゃんの姿があった。
「障子くん! 葉隠さん!」
「お前たちの個性は、この乱戦でこそ真価を発揮する。それに、気心の知れた者同士の方が連携も取りやすい」
「うんうん! それにね、障子くんが上に乗る『騎手』になれば、6本の腕をフルに使ってハチマキを守れるし、奪えるし、絶対に最強だよ!」
透ちゃんのアイデアに、白煙くんの顔の煙も「おおーっ! それは凄い!」とパッと輝いた。さっそく、障子くんを上に乗せる形で、白煙くんと透ちゃんが下で馬を組もうとしたのだが……。
「う、動かない……」
「重い……重すぎるよぉ、障子くん……!」
ズーーン……。
ガッシリとした大柄な体格に加え、複数の複製腕を持つ障子くんの体重は、ヒョロヒョロの白煙くんと小柄な透ちゃんにはあまりにも過酷だった。煙をフルパワー使って僅かな時間をほんの少ししか浮かすことが出来ない。結局長く持ち上げることができず、2人は地面に膝をついて、久しぶりにどんよりと暗い灰色のオーラを背負って落ち込んでしまった。パワー不足という悲しい現実。
「すまない、俺の体重を考慮していなかった……」
申し訳なさそうにする障子くんに、白煙くんは慌てて顔の煙を白く戻して首を振った。
「ううん、僕たちの筋力不足だよ! だったら……僕が上(騎手)に乗るよ!」
結果として、配置はすぐに決まった。
前馬として、圧倒的なタフさとパワーで突進を受け止める障子くん。
後ろでしっかりと支え、死角をサポートする透ちゃん。
そして騎手として上に乗るのは、身体を軽量化して負担を極限まで減らした白煙くんだ。
「よし、配置は完璧だね! チーム名は、放課後の特訓を一緒に頑張った記念で『チーム放課後』で行こう!」
透ちゃんが嬉しそうに提案する。
「『チーム放課後』……うん、すごく良い名前だね!」
白煙くんの顔の煙が、決意とワクワク感でぽわぽわと純白に膨らんだ。
緑谷くんの1000万ポイントを巡り、周囲には爆豪くんや轟くんといったバケモノたちが殺気立って牙を剥いている。けれど、今の白煙くんには恐れるものはなかった。
信頼できる仲間と共に、特訓の成果をぶつける時。チーム放課後の、熱い下克上の戦いが幕を開ける!
「位置について……用意、START!!!」
ミッドナイト先生の合図とともに、第二種目・騎馬戦がド派手に開幕した!
直後、予想通りフィールド内の全騎馬が、1000万ポイントを持つ緑谷くんのチーム(麗日さん、常闇くん、サポート科の発目さん)目がけて一斉に殺到する。
それを迎え撃つ他のチームも、そうそうたる面々だ。
圧倒的な個性のバランスを誇る轟くんチーム(飯田くん、上鳴くん、八百万さん)。
殺気全開でトップを狙う爆豪くんチーム(切島くん、瀬呂くん、芦戸さん)。
さらには、何やら不穏な空気を纏う普通科の心操くんチーム(尾白くん、青山くん、B組男子)など、各所で激しいハチマキの奪い合いが勃発した。
そんな大混戦の中、フィールドの少し離れた場所で、白煙くんたち「チーム放課後」はグッと体制を低くしていた。
「みんなの機動力は凄まじいね……。僕たちじゃあ、正面から追いかけっこをしてもスピード負けしちゃうよ」
白煙くんの顔の煙が、冷静に状況を分析してぽわぽわと揺れる。
「ああ、ここは下手に動き回るより、体力を温存して近寄ってきた敵を確実に迎撃する戦略が最善だ」と前馬の障子くん。
「うん、待ち構え作戦で行こう! 誰か来たら、私の『見えないサポート』と白煙くんの『すり抜け』でびっくりさせてハチマキを奪っちゃうんだから!」
後ろの透ちゃんの手袋が、やる気満々でキュッと握られる。
じっと機を窺う3人。その時、激しい乱戦をかき分けて、ひとつの騎馬が「チーム放課後」のポイントを狙って突進してきた。
「見つけたぞ、白煙!確実にポイントを奪いに行くぜ!」
立ち塞がったのは、耳郎さん、口田くん、砂藤くん、そして上に乗る峰田くんのチームだ!
砂藤くんの怪力と口田くんの突進力、そして耳郎くんの音響攻撃による強力な布陣。さらに騎手の峰田くんは、頭から不気味な紫色の「もぎもぎ(葡萄)」を両手に構え、ニヤリと不敵な笑みを浮かべている。
「さあ、お前たちのハチマキ、もぎもぎさせてもらうぜぇええ!!」
「ひえっ、来た……!」
白煙くんは一瞬身構えるが、すぐに放課後の特訓を思い出して顔の煙をキリッと引き締めた。
「障子くん、葉隠さん、来るよ! 僕たちの特訓の成果、見せてやろう!」
チーム放課後の初陣。耳郎さんたち強敵チームを相手に、3人の固い絆とユニークな個性を掛け合わせた、大番狂わせの防衛戦がいま始まった!
「くらえッ! もぎもぎラッシュ!!」
騎手の峰田くんが、頭から引き剥がした紫色の球体を次々と投げつけてくる。だが、軽量化して上に乗る白煙くんには当たらない。
スカッ、スカッ……!
「うお、すり抜けやがった!? お前それ、めちゃくちゃズルいだろ!」
「それを言うなら、峰田くんのハチマキのほうがズルいよぉ!」
白煙くんが手を伸ばして峰田くんのハチマキを奪おうとしたが、そのハチマキは峰田くん自身の「もぎもぎ」で頭にガッチリとくっつけられていた。引っ張ってもビクともしない、完璧な防犯対策だ。
「ヒヒッ! これも作戦じゃーい!」
「うう、本当にセコいよぉ……!」
白煙くんの顔の煙が悔しさでモジモジと波打つ。お互いに攻撃が通らず、決定打に欠ける泥仕合の様相を呈していた。
「白煙くん、峰田くんに構ってちゃダメ! 横、横を見てーーーッ!!」
後ろの透ちゃんが悲鳴のような声を上げた。
次の瞬間、フィールドの向こうから、凄まじい地響きと風圧がこちらに向かって押し寄せてくる。
「どいてくれぇええええ!!!」
見ると、轟くんチームの冷徹な氷結と、爆豪くんチームの猛烈な爆撃から、必死の形相で逃げ回っている緑谷くんチーム(1000万ポイント)が、猛スピードでこちらへ突っ込んできているではないか!
「な、なんだってーーーッ!?」
峰田くんの目が飛び出る。
「白煙、衝撃に備えろ!」
前馬の障子くんが6本の腕をクロスさせ、ガシッと地面を踏み締める。
逃げる緑谷くんチーム、それを追う轟くんたち、そして足止めを喰らっていた白煙くんチームと峰田くんチームが、一箇所のエリアで激突する――!
1000万ポイントを巻き込んだ、大混乱の三つ巴(みつどもえ)の戦いへと、一気に突入した!!!!
「うおおおお! 1000万ポイントが目の前にッ!!」
峰田くんが目を血走らせて緑谷くんに手を伸ばす。
しかし、白煙くんの頭の煙は、パニックを通り越して急速に冷えていた。
(待って……1000万は欲しいけど、もし今ここで僕たちが取ったら、あの爆豪くんや轟くん、全員から一斉に命を狙われることになる……! 今の僕たちじゃ、守りきれない!)
「障子くん、逃げる! ターゲットは僕らじゃない!」
「了解した」
「それと、障子くんの複製腕で峰田くんチームを掴んで、緑谷くんの方に投げて(押し出して)!」
「……そうか、囮(おとり)にする!」
障子くんの無数の腕が、峰田くんチームの馬の脚をガシッと掴み、突っ込んできた緑谷くんチームの進路へと力任せに押し出した。
「ええっ!? 峰田くん!?」
「ぎゃああああ! 白煙、障子、覚えてろーーーッ!!」
完全にバランスを崩した峰田くんチームが緑谷くんチームと正面衝突し、もみ合いになる。その大混乱の隙を突いて、「チーム放課後」は鮮やかに三つ巴の死地から脱出することに成功した。
ハチマキは守りきった。しかし、激しい乱戦から一歩引いたところで、透ちゃんが焦った声を出す。
「白煙くん、これからどうする? ハチマキは守れたけど、これじゃあ点数が増えないよ……!」
「考え中! だけど、守ってるだけじゃ予選落ちは確実だよね……」
白煙くんの顔の煙が、焦りで小さくちりちりと爆発する。
その時、前馬の障子くんが、静かだが重みのある声で言った。
「白煙、提案がある」
「障子くん?」
「このままでは何も変わらない。ならば、何もしないより行動して後悔する方がマシだ」
「……うん、僕もそう思う。やるなら、上を狙いに行かなきゃ!」
「誰もが今、1000万に目を奪われて警戒し、あえて戦いを避けている最強のチームがある」
白煙くんの煙が、ハッと鋭い形に変わった。
「……轟くんチーム!」
「ああ。白煙、お前の『すり抜け』と『軽量化』なら、彼らの鉄壁の防御を抜けてハチマキを取れる可能性がある。そして葉隠」
「私?」
「お前は、この作戦の『最終手段(切り札)』だ」
透ちゃんの手袋が、一瞬驚いたように固まり、次の瞬間、覚悟を決めたようにギチッと握られた。
「……分かった! 私に任せて!」
「チーム放課後、目標変更!」
白煙くんの顔の煙が、放課後の特訓の成果を全てぶつけるべく、純白の闘志に染まる。
「目指すは、最強の轟チームだ!!」
3人の絆が、ついに最強の天才へと牙を剥く!
「……何故か轟は左の炎を使わない。屋内戦闘訓練、救助訓練、ヴィラン襲来、今日のレースでもずっとそうだ」
前馬の障子くんの冷静な指摘に、白煙くんと透ちゃんがハッと息を呑む。
「それじゃあ、左側から攻めるんだね!」
「そうだ葉隠。スピード勝負では飯田に勝てないが、個性勝負なら白煙が有利だ」
「うん、僕のすり抜けなら、相手の防御を通り抜けられる!」
「そして相手は4人に対して、こちらは3人。馬としての機動力は劣るが、その分のバランスは俺1人のパワーで支えきれる。だが、轟たちは4人だ」
「そっか。人数が多いぶん、一瞬でも誰かのバランスが崩れたら、3人で支えるのは大変だ!」
透ちゃんがポンと手を叩く。
飯田くん、上鳴くん、八百万さん。
3人とも個性はすごいけど、身体能力はごく普通の高校生だ。
「上鳴は敵味方に影響が出る個性だから無視して構わない。狙いは飯田と八百万。俺の複製腕と葉隠の透明化でバランスを揺さぶる。そして――」
白煙くんの顔の煙が、かつてないほど鋭くキリッと引き締まった。
「……僕が轟くんのハチマキを、取る!」
チーム放課後、最強攻略の作戦決定!
「白煙か」
突進してきた「チーム放課後」を視界に捉え、轟くんのオッドアイが冷徹に光る。
「轟くん、覚悟ーー!」
「無駄だ」
轟くんが右手を振り下ろし、地を這う凶悪な氷結で足場を凍らせようとする。しかし!
「対策済ッ!」
白煙くんがあらかじめ自分の煙を足元へ送り、障子くんの足を包み込んでいた。煙の浮力を一瞬だけ爆発させることで、障子くんの巨体がフワリと宙に浮く!
屋内戦闘訓練でも同じことをした再現だ。
(チームを決めるときに、この浮遊は実験済みなんだから!)
「……! 俺の左側を……!」
轟くんの死角である左側へ、障子くんが猛然と回り込む。
「炎を出しても、僕の煙なら窒息消火できるよ!」
「チッ、飯田!」
「任せろ、轟く――何ッ!?」
レシプロバーストを発動しようとした飯田くんの足に、障子くんの複数の複製腕がヘビのように絡みついた! 圧倒的な高速スピードに強引に捕まり、その動きを止めるだけのパワーが、今の障子くんならできる!
「きゃあ!?」
「八百万!?」
「うりゃあーー! 見えない位置からの、こしょこしょ攻撃ーー!」
「お、おやめになって……っ、あははっ!?」
どこからともなく伸びてきた透ちゃんの「見えない手」が、騎馬の土台である八百万さんの脇腹を猛烈にアタック!
どんなに個々の実力が最強でも、今作ったばかりの即席チーム。こっちは2週間、放課後にずっと一緒に泥臭い特訓を重ねてきた「チーム放課後」の絆だぞ!
「くらえーー! もふもふ煙ーーー!!」
白煙くんが自身の顔の煙を一気に増幅させ、轟くんの顔面をすっぽりと覆い隠した。
「なっ……!? 前が……!」
視覚ゼロ! 煙に巻かれた轟くんは何も見えない。けれど、煙の主である白煙くんには、その奥にあるハチマキの位置がハッキリと見えていた。
「もらったぁああ!!」
白煙くんの細い手が、轟くんの首からハチマキを鮮やかに引き抜いた!
「障子くん、撤退!!」
「おう!」
「させるか、飯田!」
轟くんが叫ぶが、飯田くんは苦渋の表情で叫び返す。
「すまない轟くん! 障子くんは……自分の複製腕を絡めたまま、引きちぎって逃げた……っ!」
「……くそっ!」
ハチマキを奪われ、生まれて初めてと言っていいほど激しく悔しがる轟くん。
バックステップで距離を取る白煙くんの手には、確かに高ポイントのハチマキが握られていた。
白煙くん、障子くん、葉隠さん。
チーム放課後、最強の天才チームを相手に、見事な大勝利だ!
「タイムアップ!! そこまでーーーッ!!!」
ミッドナイト先生の鞭の音が響き渡る。
作戦通り、その後は障子くんの鉄壁の防御と白煙くんのすり抜けで時間内まで完璧に逃げ切り、チーム放課後は上位での予選通過を確定させた。
「よしっ!」
白煙くんの顔の煙が、嬉しさでこれ以上ないほどぽわぽわと丸く広がる。
「うん、やったね!」
透ちゃんの手袋がバンザイの形になる。
「ああ、完璧な作戦勝ちだ」
障子くんも、ちぎれた腕を再生させながら満足そうに目を細めた。
「「「やったーーー!!!!」」」
スタジアムの大歓声に包まれながら、3人は最高の笑顔(白煙くんと透ちゃんは隠れているけれど)で、ガシッと勝利のハイタッチを交わすのだった。