激戦の騎馬戦が終わり、スタジアムは一時、お昼の休憩時間へと入った。
お弁当を食べ終えてグラウンドに戻ると、何故か場内から割れんばかりの大歓声が沸き起こっていた。
「本場アメリカからチアガールを呼んで……って、おい、何だありゃあ!!」というプレゼント・マイク先生の困惑した実況の先、そこにいたのは――。
「どうしてこんなことになってしまったの、です……!」
なんと、ポンポンを手にしたヒーロー科A組の女子全員が、へそ出しのチアガール衣装に身を包んで赤面していた。
実はこれ、峰田くんと上鳴くんの「学校側からの要請だ」という真っ真っ赤な嘘に騙された八百万さんが、大急ぎで全員分の衣装を『創造』で作ってしまった結果だった。
「絶対、後で相澤先生にめちゃくちゃ怒られるよ……」
遠くから緑谷くんが、呆れ果てた目で峰田くんと上鳴くん(大満足でサムズアップしている)を見つめていた。
そんな中、チアガール姿の透ちゃんが「白煙くーん! 応援しちゃうぞー!」と、元気にポンポンを振りながら白煙くんの元へと駆け寄ってきた。
「ひゃ、ひゃ、葉隠さんっ!?」
目の前に現れた(衣装だけが見える)透ちゃんの、いつも以上に大胆なスタイルに、白煙くんの顔の煙が火を噴いたかのように真っ赤……ではなく、猛烈に激しく波打ち、ピンク色混じりの純白へと変わる。
「う、うわぁ……あの、すごく……すごく、可愛い、です……!」
恥ずかしさのあまり、煙をモジモジと縮こまらせながら本音をこぼす白煙くん。
すると、今まで元気いっぱいだった透ちゃんの手袋が、ピタッと動きを止めた。
「え、あ……か、可愛い……? も、もう、白煙くんのバカーっ! からかわないでよぉ!」
見えないはずの透ちゃんの顔が、今まさに真っ赤に染まっているのが空気感で伝わってくる。手袋で顔を覆ってジタバタする透ちゃんと、煙をぽわぽわと暴走させる白煙くん。まさにこれ以上ない「青春」の光景が、そこには広がっていた。
しかし、甘酸っぱい空気は、ステージ中央の巨大モニターに映し出された文字によって一瞬で消し飛んだ。
「さあお待たせをいたしました! 最終種目は、1対1のガチバトルトーナメント対決だぁあ!!」
モニターに表示された対戦カードに、スタジアム中が息を呑む。
* 第1試合:緑谷くん vs 心操くん(普通科)
* 第2試合:葉隠さん vs 八百万さん
* 第3試合:常闇くん vs 爆豪くん
* 第4試合:白煙くん vs 飯田くん
* 第5試合:障子くん vs 芦戸さん
* 第6試合:轟くん vs 瀬呂くん
* 第7試合:上鳴くん vs 切島くん
* 第8試合:麗日さん vs 発目さん(サポート科)
* 第9試合:青山くん vs 物間くん(B組)
「えっ……僕、飯田くんと……!?」
白煙くんの顔の煙が、一気に緊張の青白色へと変わる。
騎馬戦であれほど苦しめられた、あの圧倒的なエンジンによる高速移動。あのスピードを相手に、攻撃力ゼロの自分がどう戦えばいいのか。
ふと視線を感じて振り向くと、少し離れた場所に立つ飯田くんが、メガネの奥の鋭い目を白煙くんに向けていた。そして、いつものように腕を直角に激しく振りながら、真っ直ぐに歩いてくる。
「白煙くん! 君が騎馬戦で見せたあの素晴らしい機転と執念、実に見事だった! 友人と言えど、次の試合は一切の手加減なしで、全力で君を場外(アウト)に押し出させてもらうッ!!」
「うん……! 僕も、全力で勝ちに行くよ、飯田くん!」
飯田くんの真摯な言葉に、白煙くんの心の中の恐怖が消え去り、闘志の煙がメラメラと立ち上る。
隣では、透ちゃんが八百万さんを見つめ、障子くんが芦戸さんと視線を交わし、それぞれが静かに闘志を燃やしていた。
仲間から、本当のライバルへ。
自分の力を世間に示すための、本当のガチバトルが、いよいよ幕を開けようとしていた!
「第一試合――START!!!」
プレゼント・マイク先生の号令とともに、ついに最終種目のトーナメントが幕を開けた。
初戦は、予選1位の緑谷くんと、普通科から這い上がってきた不気味な男・心操くんの対決。
誰もがヒーロー科A組の緑谷くんが圧倒すると思ったその瞬間、心操くんの何気ない問いかけに緑谷くんが口を開いた。途端、緑谷くんの身体がピクッと硬直する。
「つ、強い……! 一言喋っただけで、完全に動きが止まっちゃった……!」
観客席で見守る白煙くんの顔の煙が、恐怖でちりちりと縮こまる。心操くんの個性は、自分の問いかけに答えさせた相手を意のままに操る『洗脳』だったのだ。
騎馬戦で普通に強い尾白くんが、何故か心操くんの言いなりになって、ガチバトルを辞退した理由。
ガチバトルの勝敗の条件はシンプル。相手を「戦闘不能」にするか、「ステージ場外」に出すこと。
「……後ろを向いて、ステージの外へ歩け」
心操くんの冷酷な命令に従い、緑谷くんは虚ろな目のまま、自ら場外に向かってトコトコと歩き出してしまった。
「嘘……緑谷くん、負けちゃうよ! このままじゃ出ちゃう!」
透ちゃんが思わず手袋をギュッと握りしめる。白煙くんも生唾を飲み込み、顔の煙をハラハラと波立たせた。あと一歩で完全に場外、というその絶体絶命の瞬間――。
――ドゴォオオオンッ!!!
緑谷くんが己の指を凄まじいパワーでへし折り、その激痛と衝撃の風圧で自ら洗脳を打ち破ったのだ!
「うわああ、やったぁあ!」と白煙くんの煙がパッと歓喜の白に弾ける。
正気に戻った緑谷くんは、心操くんの必死の抵抗を力強く押し返し、最後は見事な背負い投げで彼をステージの外へと投げ飛ばした。
「心操くん場外! 緑谷クン、二回戦進出ーーー!!」
会場が割れんばかりの歓声に包まれる中、白煙くんは息を吐き出しながら、冷や汗混じりの煙をぽわぽわと揺らした。
(やっぱり緑谷くんは……つ、強い。あの状況から自分の力で逆転しちゃうなんて……!)
圧倒的な強さを見せつけた緑谷くんの背中に大きな刺激を受けつつも、白煙くんは自分の右手の拳をギュッと握りしめた。
第一試合から、一瞬も目が離せない限界突破のバトル。次は第2試合、葉隠さんと八百万さんの対決だ。チーム放課後の絆を胸に戦う透ちゃんの姿を見届けるため、白煙くんはステージへ熱い視線を送るのだった。
「第二試合――もうすぐ始まるぜ!!リスナー諸君は楽しみにしてな!!」
プレゼント・マイク先生の絶叫が響き渡る直前、ステージの袖では、透ちゃんが小刻みにガタガタと震えていた。
「うぅ、やっぱり正面切っての1対1は緊張するよぉ……! 八百万さん、めちゃくちゃ強いもん……」
いつも元気な透ちゃんが珍しく弱気になっているのを見て、白煙くんの顔の煙が優しく揺れる。白煙くんはそっと手を伸ばし、透ちゃんの手袋をきゅっと包み込むように握りしめた。
「葉隠さん。僕、攻撃力はないから気の利いたアドバイスはできないし……こんなことしか出来ないけど、がんばって!」
その瞬間、透ちゃんの心がキュンと大きく跳ね上がった。
(……もう、白煙くんはいつでも、どこまでも優しいんだから……!)
見えないはずの顔が、一気にチアガール衣装のとき以上に真っ赤に染まっていく。けれど、握られた手の温かさから、無限の勇気が湧き上がってくるのを感じていた。
「――うん! よーし、やるぞーーーっっ!!」
一転してテンションMAXになった透ちゃんは、ブンブンと拳を振り回しながら、自信満々でステージ中央へと飛び出していった。
「第2試合、試合開始(レディ)……ゴー!!」
ゴングの音と同時に、八百万さんが素早く自身の肌から特殊な機械を『創造』し始めた。
「葉隠さん、申し訳ありませんが対策は講じてありますわ!」
現れたのは――サーモグラフゴーグル(熱感知ゴーグル)!
透明化していても体温までは隠せない。レンズの向こうで、透ちゃんの体の輪郭がハッキリと赤く浮かび上がる。居場所が丸わかりになった!
「見えましたわ!」
「ひえっ!でも、負けないんだからぁあ!」
居直った透ちゃんは、恐れることなく八百万さんの懐へと一気に飛び込んだ。
「うりゃうりゃうりゃうりゃーーーッ!!」
目にも留まらぬ速さで両手から繰り出される猛烈な突っ張りパンチ!
その必死で、かつ力強い連続攻撃の勢いは、サーモグラフゴーグル越しに見ると、まるで放課後の特訓相手だった**「障子くん」の怒涛のラッシュ**を彷彿とさせるものがあった。
「くっ……なんという手数……!」
予想以上のパワーと勢いに押され、八百万さんはすぐさま大きな盾を創造して防戦一方になる。
「うりゃあーーーっ!!」
透ちゃんは攻めの手を緩めない。盾の隙間をすり抜けるようにして八百万さんの顔面に飛びかかると、なんと力技でそのサーモグラフゴーグルをガシッと奪い取った。そしてそのまま、思い切りステージの場外へと投げ捨てたのだ!
「ああっ!? ゴーグルが!」
視界を失った八百万さんは、焦って体勢を立て直し、もう一度サーモグラフゴーグルを創造しようと自身の腕に意識を集中させる。
しかし、何も出ない。
「……しまっ……!? 脂質が……足りませんわ……!」
ロボット地獄、騎馬戦、チアガール衣装、サーモグラフゴーグル、そして今の盾の創造。一日中、個性を使い続けていた八百万さんの身体は、すでに深刻なエネルギー不足(カロリー切れ)に陥っていたのだ。
「そこだぁあ! とりゃああーーーッ!!」
その一瞬の隙を見逃さず、透ちゃんが八百万さんの身体を正面から思いっきりハグするように押し出す!
「きゃああっ!?」
バランスを崩した八百万さんの足が、ステージの白線の外へと踏み出した。
「八百万百、場外!! 勝者、葉隠透ーーーッ!!!」
「やったああああああーーーー!!!」
透ちゃんが手袋を大きく突き上げて大ジャンプ!
観客席で見守っていた白煙くんも、「葉隠さん、すごいっ、すごいよぉおお!」と、顔の煙を大爆発させて大喜び。隣の障子くんも「ああ、あの特訓の成果が活きたな」と満足げに頷いていた。
最強の一角である八百万さんを破るという大金星。
「チーム放課後」の絆が生んだ2連勝に、会場はさらなる大歓声で包まれるのだった。
「続いて第三試合――START!!!」
プレゼント・マイク先生の合図とともに、スタジアムに爆音が轟いた。
コート中央に立つのは、闇の化身たる常闇くんと、歩く火薬庫・爆豪くん。
「いけ、ダークシャドウ!」
常闇くんの影から、鋭い爪を持ったダークシャドウが飛び出す。騎馬戦のとき、あの鉄壁の防御で緑谷くんをサポートしていた頼もしすぎる相棒だ。
(常闇くんのダークシャドウは本当に強いなぁ。正面から勝てる人なんて、そうそういないよ……)
白煙くんがそう思いながら戦いを見守っていた、その時だった。
――ドガアアアアアン!!!
爆豪くんが手のひらから特大の爆炎を放った瞬間、ダークシャドウが「ギャアアアッ! 眩しいッ、力が出ないぃい!」と、まるで縮むように小さくなって悲鳴を上げた。
「ええっ!?嘘、光に弱いの!?」
白煙くんの顔の煙が、驚きで丸く跳ね上がる。あんなに圧倒的な強さを誇る常闇くんに、まさか「光」という意外すぎる弱点があったなんて、白煙くんは想像すらしていなかった。
そして、弱点を見抜いた爆豪くんの、容赦のない「悪魔のような猛攻(ラッシュ)」が始まった。
「死ねやァアアア!!!」
閃光と爆風が、容赦なく常闇くんとダークシャドウを襲う。
ドガバキィイン! ドゴォオン!! とステージが削れるほどの連続爆破が叩きつけられ、常闇くんの身体が激しく揺さぶられる。
「ひ、ひえぇええ……ッ!!」
観客席の白煙くんは、あまりの恐ろしさに顔の煙を限界まで小さく縮こまらせ、完全にドン引きしていた。
(ば、爆豪くん、怖すぎるよぉ……! 容赦がなさすぎる、見てるだけでめちゃくちゃ痛そう……っ!)
どんなに攻撃されても、常闇くんはプライドを胸に必死に耐えようとしていた。けれど、相棒のダークシャドウが完全に光で無力化され、爆豪くんの圧倒的な破壊力の前に、なす術なくステージの端へと追い詰められていく。
最後は、強烈な爆煙とともに常闇くんが地面に膝をつき、試合終了が宣言された。
「常闇踏陰、戦闘不能(ギブアップ)! 勝者、爆豪勝己ーーーッ!!」
「ハァ、ハァ……!」
硝煙の煙を揺らしながら、狂戦士のような鋭い眼光で勝ち名乗りを上げる爆豪くん。それを見た白煙くんは、自分の顔の煙が恐怖でヒエヒエの青色に染まるのを感じていた。
(明らかな『弱点』があるって、こういうガチバトルだと本当に致命的なんだ……)
常闇くんの敗北を見て、白煙くんは背筋が寒くなった。
なぜなら、次の第四試合は――「白煙くん vs 飯田くん」。
そして、白煙くんの天敵もまた、騎馬戦のときに味わったあの強烈な「爆風」や「風の圧力」なのだ。もし飯田くんの超高速移動が、凄まじい「風」を巻き起こして突っ込んできたら……?
「次は……僕の番だ……」
ゴクリ、と息を呑む白煙くん。
恐怖で震えそうになる足を押さえつけ、白煙くんはゆっくりと、闘志の煙を体に纏わせながらステージへと歩き出すのだった。
ちなみに、八百万さんがチアガール衣装を『創造』していなかったら、葉隠さんは負けていました。
八百万さんの敗因は峰田くんと上鳴くんです。