「第二試合――START!!!」
「モブがぁ……!!」
爆豪くんの目が狂暴に細まる。どこかデク(緑谷くん)に似た、泥臭く泥にまみれても諦めない白煙くんの雰囲気が、どうしようもなく爆豪くんの癪に障っていた。
ガッ、と爆豪くんが地を蹴り、一瞬でゼロ距離まで肉薄する。
躊躇のない速攻爆破!
――チュドォオン!!!
「痛いっ!」
まともに直撃を食らった白煙くんがお腹を押さえる。爆破の炎そのものは、自身の煙で包み込んで一瞬で『消火』できる。けれど、爆発がもたらす凄まじい「風圧の衝撃」までは無効化できない。実体のあるお腹に、確かなダメージが突き刺さる。
「オラオラオラオラッッッ!!」
「ひぃぃぃーっ!?」
爆豪くんの容赦のない追撃のラッシュが始まる。爆炎を消しても消しても、衝撃で白煙くんの身体は内側から傷付いていく。必死に避けて走るが、爆豪くんの空中を跳ぶような機動力は遥かに上だ。
ドカッ! バキッ! と容赦のない直撃が続くたび、白煙くんの身体から放たれる白い煙の量がどんどん減り、防戦のためのキャパシティが削られていく。
そして、二人の激突によって生じた凄まじい量の「爆煙」が、あちこちのステージ外、果てはスタジアムの観客席までモクモクと広がっていった。
「ゲホゲホ! おいおい爆豪ォ! 煙があたり一面に広がって客席や解説席までゲホゲホ……やりすぎだろーがっ!?」
プレゼント・マイク先生の解説も咳き込むほどの、異常な視界不良。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
ステージ中央、白煙くんはボロボロになって立っていた。
ついに個性の限界を迎え、頭と顔以外の煙が完全に消え去り、むき出しになったボロボロの体操服と傷だらけの肌が露出している。
「白煙くん……っ」
観客席で、透ちゃんが今にも泣きそうな声をあげる。
「がんばれ……!」
「気をしっかり持つんだ、白煙くん!」
「特訓の成果を思い出せ、白煙!!」
緑谷くん、麗日さん、飯田くん、そして障子くんが、祈るように拳を握りしめて見守る。
「白煙くん、今なら降参(ギブアップ)しても良いわ。これ以上は……」
見かねたミッドナイト先生が鞭を構え、試合を止めようとした。
でも。
「まだ……大丈夫、です……!」
白煙くんは、絶対に首を横に振らなかった。
あの放課後、みんなと約束したんだ。勇気を持つって決めたから。
怖いからって、ここで降参なんて、もう絶対にしない。
「ハッ、ならいいぜ。サンドバッグにしてやる」
爆豪くんのやる気スイッチがMAXに入る。掌の爆破はどんどん過激になり、ステージの床がバリバリと音を立てて砕け、壊れていく。それに伴い、スタジアムを埋め尽くす黒い爆煙もさらに濃くなっていく。
「避ける、すり抜ける、逃げ、る……!」
白煙くんは完全に防戦一方。フルパワーで残った煙を絞り出し、必死にステージを走り回っている。
……けれど、何かがおかしい。
体力を消耗し、個性の限界を迎えているはずなのに、何故か少しずつ、白煙くんの身体の煙の「容量」が増えてきているのだ。
(何故か分からない……でも、これはチャンスだ……!!)
「――あっ!!」
客席から戦いを見ていた緑谷くんと透ちゃんが、同時にある異変に気がついた。
普通の観客には見えない。けれど、ステージを覆う濃厚な爆豪くんの「黒い爆煙」が、白煙くんの身体に吸い込まれるようにして、無意識のうちに彼の一部へと同化しているのだ。
「白煙くんは爆風には弱いけど、爆煙には強いんだ!!」
透ちゃんが叫び、緑谷くんがノートを書き殴るような勢いで目を見開く。
本来、普通の人間には呼吸困難を招く有害な黒煙。それが、同じ「煙」の個性を持つ白煙くんには、限界を超えて戦うための純粋なエネルギー(燃料)になっていた。普通の平和な生活をしていたら、絶対に気づかなかった秘められた能力。
「吸い取った煙が……僕の、力に……」
白煙くんは一大決心を固めた。今ここで、すべての勇気を振り絞る。
「僕の全力を、きみに叩きつける!!」
もこもこと、白煙くんの右手に凄まじい量の煙が集まっていく。ステージ上のすべての爆煙を掃除機のように吸い取り、それはどんどん巨大化していく。
スタジアムの半分を覆うほどの、あまりにも巨大な「煙の拳」。
そしてその強大な質量を生み出すため、白煙くんはいつも自分の顔を隠していたヘッドギア代わりの煙まで、すべて拳の力へと回した。
その瞬間。スタジアム中が一瞬、静まり返った。
『煙の中から、び、美少年が出てきたーーーッ!?!?』
プレゼント・マイク先生がマイクを引きちぎらんばかりに絶叫する。
『おいイレイザー! アイツ、あんな端正な顔をしていたのかよ!?』
『……知るか。普段から煙で隠しているからな……』
相澤先生の冷静な、しかし驚きを隠せない声。
サラリと流れる髪に、今まで隠されていた、どこか儚くも、今は強い意志を宿した凛々しい素顔。そんな周囲の狂騒すら聞こえないほど、白煙くんはただ目の前の敵に集中していた。
「がんばれーーー! エンちゃーーーん!!」
A組の面々がその素顔に驚愕する中、透ちゃんだけは、ずっと心の中で呼んでみたかった白煙くんのあだ名を、誰よりも、スタジアムの誰よりも大きな声で叫んだ。
その声に呼応するように、爆豪くんの目が、これ以上ないほど凶悪にギラリと輝いた。
「お前は……モブじゃねえな!!!!」
巨大な拳を作るために静止し、隙だらけになった白煙くんの本体を狙えば簡単に勝てる。そんな姑息な考えは、爆豪勝己という男には微塵もない。
「俺の敵だ!!!!」
爆豪くんは両手を後ろに構え、全細胞の汗を掌に集中させるように、最大級の爆破をチャージしていく。
最大火力の爆破 VS 最大容量の爆煙。
『まさに空が落ちてくるような光景だぁああ!!!』
実況の叫びをかき消すように、二つの絶対的なエネルギーが正面から衝突する。
「死ねやァァァァァァ!!!!」
「スマァァァーシュぅぅぅーーー!!!!」
(僕だってみんなのように……ヒーローになりたい。みんなの隣に立てるような、そんな小さな願いを叶えたい……!)
たったそれだけの、けれど何よりも重い願いが、白煙くんの細い身体を突き動かしていた。
――ドドズゴォオオオオオオオオオンッ!!!!!!
完全な正面衝突。
爆煙の質量と爆発の破壊力、そのパワーは完全に互角だった。
スタジアムが真っ白に爆散していく。ステージの一部は原型を留めないほど粉々に破壊され、凄まじい嵐のような爆風が会場中を吹き荒れた。
……やがて、猛烈な風によって煙が静かに引いていく。
「ハァ……ハァ……ッ!」
爆豪くんは、ステージの本当に、本当にギリギリの境界線で、足の皮一枚で踏ん張って立っていた。衣服はボロボロ、掌からは煙が上がっている。
対する白煙くんは、凄まじい衝撃でステージ遥か後方のスタジアムの壁まで吹き飛ばされ、そのまま静かに崩れ落ちて気絶していた。
ミッドナイト先生が白煙くんの容態を確認し、すぐさま鞭を掲げる。
「白煙くん、戦闘不能(ダウン)! 勝者、爆豪勝己くん!!」
割れんばかりの、地を揺るがすような大歓声。
白煙くんの身体は、すぐに駆けつけたリカバリーガールと先生方によって、急ぎ担架で保健室へと運ばれていった。
「……チッ」
爆豪くんは忌々しそうに首を振ると、一瞬だけ、白煙くんが運ばれていく担架の方を振り返った。その瞳には、さっきまでの「モブ」に対する侮蔑は一切なく、一人の『敵(ライバル)』を認めたような鋭さが残っていた。爆豪くんはそのまま、無言でステージを去っていった。
こうして、白煙薫くんの激闘の二回戦は幕を閉じた。
敗北はした。けれど、スタジアムにいた全員の胸に、あの煙の向こうにあった「勇気」と「素顔」は、深く、強く刻み込まれたのだった。
白煙くんも知らなかった「煙」の個性
戦闘や災害で起こる爆煙を吸収して、自分の力に出来る
幼い頃の火事を除き、平和な日常で暮らしていたので、白煙くんも知りませんでした
物理無効化
煙の吸収強化
チート能力ですが、白煙くん本人は戦闘ヒーローではなくてレスキューヒーローを目指しているので、実はヴィランにとってはあまり脅威にはなりません
原作の黒霧も言っていましたが、レスキューヒーローは戦闘ヒーローより戦闘力が劣っています