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「さあ第二回戦第三試合! 宿命の対決、緑谷 vs 轟ーーーッ!!! START!!! 」
プレゼント・マイク先生の絶叫がスタジアムを激しく揺らし、観客席からは地鳴りのような大歓声が沸き起こっていた。間違いなく今大会のハイライトとなるであろう、天才と狂戦士の激突。誰もがその一瞬に目を奪われていた。
その喧騒から遠く離れた、静かな保健室。
カーテンの隙間から柔らかな光が差し込むベッドの上で、白煙くんは障害物となる煙をすべて使い果たし、無防備な素顔のままぐっすりと眠りに就いていた。本人は全く自覚していないが、それは誰もが見惚れてしまうほどの綺麗な美少年だった。
「ふふふ、まさかあの煙の坊やがこんなに男前だったなんてねぇ。怪我人の手当てをして、おまけに目の保養までさせてもらえるんだから、ババアへの最高のご褒美だよ」
リカバリーガールはすっかり上機嫌で、カルテをめくりながら鼻歌を交じりに笑っている。
そのベッドの傍らには、透ちゃんが静かに腰掛けていた。
「……ん……すぴー……すぴー……」
小さく寝息を立てる白煙くんの姿を見つめ、透ちゃんはそっと手を伸ばした。いつもならもくもくと顔を覆っている煙がない。むき出しになった、さらさらとした綺麗な銀髪に指先で触れ、愛おしそうに何度も優しく撫でる。
「エンちゃん、すっごく……かっこよかったよ……」
誰もが圧倒される爆豪くんの暴虐に、一歩も引かずに立ち向かった。あの巨大な拳。みんなに追いつきたいともがいた、あの真っ直ぐな勇気。
髪を撫でながら、透ちゃんの脳裏にこれまでの思い出が走馬灯のように駆け巡っていく。
初めて会ったのは、雄英高校の入学試験の時だった。
「あ、あの、ごめんね! ぶつかっちゃって……!」
「ううん、私こそごめんね! お互い、見えない個性だもんね!」
姿が見えない自分と、顔が見えない彼。どこか似た者同士のような境遇に、最初から不思議なほど波長が合った。
それから、オールマイトの戦闘訓練で初めてペアを組んで、お互いに緊張してガチガチになりながら作戦を立てたこと。
怖くて、本気で死ぬかと思ったUSJのヴィラン襲来。
その後も、授業や演習で行く手を阻まれては、お互いに失敗ばかりで、放課後の教室で「またダメだったね」「次は頑張ろうね」って落ち込んで、励まし合って……。
いつも隣には、不器用だけど、どこまでも優しい彼がいた。
(あ……ダメだ、私……)
そう思った瞬間、見えないはずの透ちゃんの顔が、チアガール衣装のとき以上に、人生で一番の熱量を持って真っ赤に染まっていくのが分かった。
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられるように痛い。
――とくん、とくん、とくん……。
静かな保健室に響いてしまうんじゃないかと思うほど、心臓の音がうるさく、激しく高鳴り続けて止まらない。
(私……白煙くんに「可愛い」って言われたり、手を握られただけで、こんな……。嘘、私ってこんなにチョロかったの!?)
恥ずかしさのあまり、両手で顔を覆ってベッドの横でジタバタとのたうち回る透ちゃん。けれど同時に、彼女は心から安堵してもいた。
(……でも、本当に良かった。今ほど、自分が『透明化』の個性で良かったって思ったことはないよぉ……! こんな真っ赤な顔、絶対に誰にも見せられないもんっ……!!)
そんな初々しい様子を、温かいお茶をすすりながら眺めていたリカバリーガールが、ふっと目を細めて笑う。
「やれやれ、青春だねぇ……」
――ドゴォオオオオオオオオオンッッッ!!!!
その時、保健室の窓ガラスがガタガタと激しく震えた。スタジアムの方から、これまでとは明らかに次元の違う、大気を引き裂くような凄まじい衝撃波と爆音、そして急激な熱風が吹き込んできたのだ。
二回戦第三試合、緑谷くんと轟くんの死闘が、ついに決着を向けたらしい。
遠くのスタジアムから、スピーカーを通じてプレゼント・マイク先生の、喉を枯らさんばかりの驚愕の実況解説が響いてきた。
『な……何だあありゃあ最初から最後まで規格外!!! 互いの全てをぶつけ合った超絶大激突!!! 勝者、轟焦凍ーーーッ!!!!!』
「あ……緑谷くんと轟くんの試合、終わったみたい……」
透ちゃんがハッと我に返り、窓の外の空を見上げる。スタジアムの上空には、凄まじい氷の破片と炎の熱気が混ざり合った、巨大な白い水蒸気の雲がもくもくと立ち上っていた。
轟くんが、ついに「左の炎」を使ったのだ。
圧倒的な強者たちの激闘の終わりを告げるアナウンスを聞きながら、透ちゃんはもう一度、すやすやと眠る白煙くんの寝顔に視線を戻した。
みんなが限界を超えて進んでいく。
この熱い体育祭の舞台で、「チーム放課後」の物語もまた、次なるステップへと向かおうとしていた。
「続いて第二回戦第四試合! 切島 vs 物間ーーーッ!!」
スタジアムでは、切島くんと物間くんの激しい泥仕合が始まっていた。物間くんは切島くんの『硬化』をコピーし、「ハハハ! 君の自慢の盾も、僕にかかればこの通りさ!」と挑発する。しかし、物間くんは決定的なことを見くびっていた。それは、USJのヴィラン襲来という本物の死線をくぐり抜けて磨き上げられた、切島くんの「絶対に折れない勝利への根性と執念」だ。
ガチィイン! と硬化同士の拳がぶつかり合う中、最後は男気のラッシュで圧倒した切島くんが見事勝利を収めた。
その頃、保健室では――。
「……ん……っ」
白煙くんの長い睫毛が揺れ、ゆっくりと目が開いた。
「あ、起きた!?」
視線を動かすと、すぐ目の前に透ちゃんの手袋があった。顔は見えないはずなのに、じっと自分を見つめてくれていたのだと、何となく空気で分かった。
目が合った(気がした)瞬間、透ちゃんの手袋がビクッと跳ねて、もじもじと照れだす。
「あ、あのね、さっきの試合……すっごくかっこよかったよ、エンちゃん!」
「えっ……あ、ありがとう……って、ええっ!? エンちゃん!?」
白煙くんは、その新しいあだ名に驚きつつも、顔の煙がない代わりに耳まで真っ赤にして嬉しそうに微笑んだ。
「あだ名、嬉しいな……。じゃあ、僕も……『はーちゃん』って呼んでもいい……?」
その瞬間だった。
透ちゃんの手袋がピタッと硬直したかと思うと、胸のあたり(心臓)を両手でギュッと押さえたまま、借りてきた猫のように微動だにせず固まってしまった。
「おやまあ、坊やの天然の破壊力は凄まじいねぇ。完全にキャパオーバーで気絶寸前だよ」
リカバリーガールが呆れつつもニヤニヤしながら解説する。あまりの照れくささに透ちゃんが消滅しそうになっていたため、紆余曲折を経て、最終的に「透ちゃん」と呼ぶことで落ち着いた。
そうしているうちに、白煙くんの体力が回復し、いつものように顔の周りにもこもこと白い煙のエネルギーが戻ってきた。端正な素顔が徐々に煙の中に隠れていく。
「ああっ……! 戻っちゃった……」
「坊や、なんだか勿体無いねぇ。せっかくの男前が隠れちまうなんて」
なぜか透ちゃんとリカバリーガールの二人が、心底名残惜しそうに「勿体無い」とため息をついた。白煙くんは「え? 何がですか?」と不思議そうに首を傾げるばかり。
体調も万全になり、二人はスタジアムのA組観客席へと戻ることにした。
廊下を歩く間、白煙くんは無意識のうちに、ごく自然に透ちゃんの温かい手(手袋)を握っていた。透ちゃんも拒むことなく、その手をきゅっと握り返す。
「切島くんと物間くんの試合、どうなったかな?」
「きっと切島くんが勝ってるよ!」
そんな会話をしながら観客席の扉を開けると、待っていたA組の女子メンバーが一斉に白煙くんを振り返った。そして、煙に覆われた彼の顔を見るなり、
「ああっ! 白煙くん、もう煙が戻っちゃったのね……!」
「勿体無い……! あの美少年っぷりをもう一度拝みたかったのに……!」
と、八百万さんや麗日さんたちが口々に「勿体無いコール」を始めた。
さらにその奥では、峰田くんが血涙を流さんばかりの形相で、地を這うような声で呪詛を吐いていた。
「許せねえ……! あのモヤモヤ野郎、あんな反則級の顔を煙の下に隠し持ってやがったのか……! しかも葉隠に看病されてただと!? 爆豪、なんで完全にトドメを刺さなかったんだよチクショウオオオオ!!」
「えっ……? 一体何があったの……?」
白煙くんは、いつも以上に激しい周囲の反応と、峰田くんの理不尽な怒りの理由が全く分からず、頭の煙をぽわぽわと困惑の形に歪ませるのだった。
ボツになった、はーちゃん呼び
実は白煙くん葉隠さん、どちらも呼べます
はくえん かおる
はがくれ とおる
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