個性「煙」の救煙レスキューヒーロー   作:ウルトラエックス

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英雄育成機関 雄英 A組みんなの再会

職場体験が明け、久しぶりに戻ってきた雄英高校の1年A組の教室は、いつも以上の喧騒に包まれていた。

 

「ぶふっ……!! ギャハハハハハ!! 爆豪、その髪型何だよ!!」

 

「おいおいマジかよ! カッチカチの七三分けじゃねえか!!」

 

教室の中心で切島くんと瀬呂くんが大爆笑している。その視線の先にいる爆豪くんは、あのNo.4ヒーロー・ベストジーニストの容赦ない矯正(仕業)によって、いつもの爆発ヘアーをカチカチの七三分けに固められていた。

 

「笑うな殺すぞ……! 洗っても戻んねえんだよクソが!!」

と青筋を立ててプルプル震えている爆豪くんだが、その髪型のせいでいつもの威圧感が完全にギャグになっている。

そんな爆笑の渦から少し離れた席では、チーム放課後のメンバーが久しぶりの再会を果たしていた。

 

「あ、エンちゃん! お疲れ様! ――ねえ、話題はやっぱりアレだよね!」

 

透ちゃん(の手袋)が、席に着くやいなや白煙くんに詰め寄る。

話題はもちろん、保須市の大災害で見せた白煙くんのテレビデビューだ。

 

「本当に驚いたわ。白煙ちゃん、すっかり全国区の有名人ケロ」

 

「お、おねむで寝てたから、テレビに映ってたなんて全然気づかなかったんだよぉ……」

 

頭の煙を恥ずかしそうにきゅっと縮める白煙くんに、障子くんが大きな複製腕をそっと肩に置いた。

 

「ニュースで見ても、かなり緊迫した状況だった。あの炎の中に飛び込んで子供を救う姿……お前は俺たちの誇りだ、ケムリン」

 

「う、うぅ……またまたー! みんなのほうが絶対にすごい経験してきたよー!」

 

顔を真っ赤にして(煙をピンク色に染めて)照れまくる白煙くん。障子くんはそれを見て、「はは、こういうところが白煙らしいな」とマスクの奥で優しく目を細めていた。

 

「そういうみんなは、どんな一週間だったの?」

 

白煙くんが尋ねると、梅雨ちゃんが人差し指を顎に当てて「そうね……」と語り始めた。

 

「私は主に、船上でのトレーニングと海上のパトロールをしていたの。……あと、不審船を見つけて『密航者』を捕まえたわケロ」

 

「「「すごくない!?!?!?」」」

 

白煙くん、透ちゃん、障子くんの3人の声が見事にハモった。

 

「み、密航者!? フィクションじゃなくて、現実にそんなことあるんだ……恐ろしいなぁ……」

 

白煙くんの頭の煙が恐怖でブルブルと震える。梅雨ちゃんは初陣にして、すでに本物の犯罪者を逮捕するという特大の手柄を挙げていたのだ。

一方、ガンヘッドさんのところへ行っていた透ちゃんはというと……。

 

「私はね、麗日さんと一緒に、ガンヘッド・マーシャルアーツを骨の髄まで叩き込まれてきたよ!」

 

シュッシュッと、見えない拳で鋭いシャドーボクシングを披露する透ちゃん。麗日さんと共に、可愛い女子高生の中に何かが目覚めてしまったらしい。

 

「ふふふ……今なら、エンちゃんを狙う悪いヴィランとか、変なお邪魔虫(※主に芸能事務所や俗物的なファン)を、一瞬でしばき倒せる自信があるよ!」

 

姿は見えないが、透ちゃんの背後から格闘家特有の凄まじい覇気(オーラ)が立ち上っているのを、白煙くんは確かに感じていた。

 

 

 

その時、教室の大型モニターに、保須市の事件の続報が流れた。

ニュースでは「エンデヴァーによるヒーロー殺しステイン捕獲」と大々的に報じられている。

けれど、それが「偽りの真実」であることを、白煙くんは知らない。実際には、緑谷くん、飯田くん、轟くんの3人が命懸けで戦って掴んだ勝利なのだ。彼らが大人の事情で沈黙を守っている姿を遠くから見つめ、白煙くんは心の中で(みんな、本当にかっこいいよ……)と、静かに彼らの勇気を称えていた。

 

 

 

 

「――あ、そうそう! 僕のところのバックドラフトさん、本当にすごかったんだよ!」

 

白煙くんは気を取り直して、キラキラと目を輝かせながら職場体験の思い出を語り始めた。

 

「両手からすごい勢いで放水してね、サイドキックの皆さんも一瞬で消火班とか医療班に分かれて動くんだ! それでね……最終日にバックドラフトさんと約束したんだ。今度、チーム放課後のみんなも事務所に連れてきていいよって!」

 

「本当に!?」

 

「嬉しいケロ!」

 

笑顔を咲かせ、身振り手振りで楽しそうに話す白煙くん。

けれど――一緒に話を聞いていた透ちゃん、障子くん、梅雨ちゃんの3人は、白煙くんの「ある部分」に目が釘付けになっていた。

 

(……エンちゃんの手……)

 

(肌が、あちこち荒れてるな……)

 

一生懸命に動く白煙くんの手のひらや指先には、初日や3日目に何度も繰り返したロープワーク、重い機材の搬送、そして訓練用マネキンをボロボロになるまで巻き直したことによる、無数の小さな擦り傷や、痛々しい肌荒れの跡が残っていたのだ。

テレビで華やかに報道され、今はこうして笑顔で話しているけれど、この1週間、彼がどれほど過酷な環境で、どれほど必死に泥臭く努力してきたのか。その傷跡が、何よりも雄弁に物語っていた。

 

(本当に……本当に大変だったんだね、エンちゃん……!)

 

透ちゃんは胸の奥がキュッと締め付けられるような愛おしさと切なさを覚えながら、語りを終えてふぅと息をついた白煙くんの手を、今度は教室のみんなにバレないよう、机の下でぎゅっと、優しく包み込むように握りしめるのだった。

 

 

 

 

 

「よーい、スタート!!」

 

オールマイト先生の豪快な合図とともに、午前中の授業『障害物競走』のレースが幕を開けた。

結果から言うと、白煙くんの順位は下から数えた方が早いほうだった。

 

(うわぁ、緑谷くん……グラントリノさんのところで、すっごくパワーアップしてる……!)

 

縦横無尽に跳び回り、圧倒的なスピードで1位をもぎ取った緑谷くんの姿に、白煙くんはただただ「すごいなぁ」と感嘆するばかり。身体を煙にすれば障害物はすり抜けられるものの、純粋な移動スピードという点では、まだまだ課題が山積みだった。

しかし、本当に恐ろしいのは午後の授業だった。

教室の教壇に立った相澤先生から、非情な宣告が下される。

 

「一週間後には、期末テストがある。筆記と実技、両方だ。赤点を取った奴は、夏休みの林間合宿には行けず、学校で地獄の補習だからな」

 

「ひえぇぇ……っ」

 

その瞬間、白煙くんの頭の煙が絶望でフニャフニャと萎み、テンションはガタ落ちになった。

白煙くんは決して不真面目なわけではない。むしろ授業はいつも真剣に聞いている。……のだが、とにかく座学の成績が良くないのだ。

職場体験で救助用具の名前をあっさり覚えたように、自分の『興味のあること(主にレスキュー関係)』なら驚異的な速度で吸収できる。しかし、興味のない数式や文法になると、脳が受け付けず全く覚えられなくなってしまう致命的な弱点があった。

 

「ケロ。これは、本格的に不味いわね……」

 

「うん!エンちゃんを補習居残りにさせるわけにはいかないよ!」

 

 

 

 

放課後、白煙くんの赤点危機を察知した透ちゃん、障子くん、梅雨ちゃんの3人は、すぐさま作戦会議室(いつもの教室の隅)でテスト対策勉強会を開始した。

 

「白煙。お前はレスキューのことなら一瞬で覚えられる。なら、すべての教科を『レスキュー関係』に脳内変換すればいい」

 

障子くんの的確なアドバイスに、白煙くんは目を丸くした。

 

「脳内変換……?」

 

「そうよ。例えば国語の長文読解は『被災者の心の声を正確に読み解く訓練』。数学の計算は『崩落寸前のビルで、あと何分で全員を救出できるかのタイムリミット計算』ケロ」

 

「なるほど……! それならイメージできるかも!」

 

さらに、白煙くんが最も苦手とする英語の教科書を開きながら、透ちゃんが身乗り出して拳を握る。

 

「特に英語はね、『目の前で怪我をして困っている外国人の命を救うため』って考えるの! “Help me!”って言われた時に、ちゃんと英語で声をかけて安心させてあげなきゃダメでしょ?」

 

「外国の人を助けるため……! 英語、がんばる!!」

 

モチベーションの塊となった白煙くんの頭の煙が、やる気満々の一番熱い形へとモコモコ膨らみ、ペンを握る手に力がこもる。

筆記の目処が立ったところで、話題はもう一つの難関『実技試験』へと移った。

 

「去年の実技試験は、入試の時みたいな『巨大ロボット相手の模擬市街地戦』だったらしいわね」

 

梅雨ちゃんが人差し指を顎に当てて、冷静に分析する。

 

「でも、私たちは体育祭のロボット演習で、もう巨大ロボットとは戦っているわケロ。相澤先生が、それと全く同じ内容を出すかしら?」

 

「出さない!!」

 

透ちゃんがビシッと自分のノートを指差して宣言した。姿は見えないが、その口調には絶対の確信がある。

 

「相澤先生だもん! 私たちの裏をかくような、もっと意地悪で、もっと実践的な試験を絶対に用意してるに決まってるよ!」

 

「確かに、その可能性は高いな……」と障子くんも頷く。

相手がどんな試験を仕掛けてきても、初見で対応できなければ即赤点。レスキュー特化のチーム放課後が、どんな戦闘や特殊環境にも適応するためにはどうすればいいか。

 

「……よし! 何が来ても対策できるように、みんなのヒーローコスチュームを少しだけ改造してもらおう!」

 

白煙くんの提案に、みんなの目が輝いた。

 

「それは名案ね」

 

「ちょうど新しい機能が欲しかったところだ」

 

「じゃあ決まり! サポート科の発目さんのところにお邪魔しに行こう!」

 

筆記への活路を見出し、実技への次なる一手を決めたチーム放課後の4人は、ワクワクした表情で、怪しい爆発音が響くサポート科の工房へと向かって歩き出すのだった。

 

 

 

 

 

「ベイビーたち! 私の愛しいベイビーたちを求めてやって来たのですね!!」

 

サポート科の工房の扉を開けた瞬間、ゴーグルをかけた発目明さんが、機械のパーツを両手に持ったまま凄まじい勢いで突進してきた。

相変わらずのハイテンション。そして、相変わらず工房の奥からは「ドカーン!!」と何かが爆発したような不穏な音が響き、あたりに猛烈な黒煙が立ち込めている。

 

「うわっ、煙がすごい!」

 

「げほっ、げほっ……あ、そうだ、僕が吸い取ります!」

 

白煙くんは即座に個性を発動し、工房内に充満した有害な黒煙を胸いっぱいに勢いよく吸い込んでいった。みるみるうちに空気は澄み渡り、視界がクリアになっていく。

 

(……エンちゃん、優秀な掃除機……ううん、超高性能な空気清浄機みたい……)

 

透ちゃんがふとそんなことを考えていると、工房の奥からサポート科主任のパワーローダー先生が顔を出し、目を輝かせて白煙くんの手をがっしりと握った。

 

「君ッ! 1年A組の白煙くんだね! 頼む、職場体験と言わず、今日から毎日ここにいてくれんか!? 発目の爆発のせいでこちとら毎日煙まみれなんだ!!」

 

「え、ええ〜っ!?」と困惑する白煙くんに、みんなは思わずクスリと笑ってしまった。

ひとまず落ち着いたところで、本題であるヒーローコスチュームの改造の相談が始まる。

 

 

 

 

まずは白煙くん。

 

「バックドラフトさんのところで学んだんです。現場で即座に応急処置ができるように、このあたりに『簡易救急キット』を小分けにして収納できる、防水仕様の専用ポケットをいくつか追加してほしくて。それと、頭の煙をもっと応用して戦えるように、煙の出力を調整できるような『強化手袋』が欲しいです!」

 

「なるほど、レスキューと戦闘のハイブリッドですね! 素晴らしいベイビーの予感です!」

 

 

 

 

次に透ちゃんが手を挙げた。

 

「私はね、自分の『透明化』の個性の解釈をもう少し広げたいの! いまはコスチューム(手袋と靴)を脱がないと完全に見えなくならないから、いっそのこと、私の個性を伝達して『コスチューム(服)ごと透明化できる特殊繊維』とかって作れないかな? ……だって、やっぱり全裸で動くのって、色々と危ないし……」

 

「「「今ごろっ!?」」」

 

白煙くん、障子くん、梅雨ちゃんの3人のツッコミが完璧にシンクロした。今までさんざん裸同然で動き回っていた透ちゃんの「今更すぎる乙女の主張」に教室の空気が和む。

 

「あ、あとね! 私もエンちゃんと同じ『強化手袋』が欲しいな! 格闘技の威力を上げたいの!」

 

「あ、お揃いだね、透ちゃん!」

 

「そ、そうだねー!!(お、お揃いー!?油断してた!!ふへへっ♪)」

 

白煙くんは純粋に「お揃い」という響きが嬉しくて、頭の煙をぽわぽわとピンク色に染めて喜んでいた。

一方の透ちゃんは好きな人とお揃いの装備になっていたことに驚く。思わぬ展開に見えない顔がふへへと笑顔になる。

 

 

 

 

 

続いて障子くん。

 

「俺は肉体の頑丈さや索敵には自信があるんだが、先日の職場体験を経て、絡め技や遠距離からの拘束に少し弱いと実感した。腕の変形を邪魔せず、相手の動きを止めるようなサポート武装が欲しい」

 

 

 

最後に梅雨ちゃん。

 

「私はカエルだから脚力が強みなの。ジャンプの着地の衝撃を和らげて、さらに次の跳躍へスムーズに繋げられるように、靴のソールを強化してほしいわケロ」

 

 

 

 

「オーケー、皆さんの要望、確かに受け取りました! では、試作品(ベイビー)のテストを兼ねて、いろいろ試してみましょう!!」

 

発目さんの合図とともに、工房に山のように積まれたサポートアイテムの試着会が始まった。

だが、そこは発目明の実験場。一筋縄ではいくはずがない。

 

――ドカーン!!

 

「うわあああ!?」

 

障子くんが「防御力特化の重装甲」を試したところ、パーツが過剰反応して勝手にフルアーマー化! ガシャガシャと身動きが取れなくなった挙句に小爆発を起こし、ロボットのようになってしまった。

 

「ふふふ、障子くん、すっごく強そう! 似合ってるよ!」と透ちゃんが大ウケしてスマホで写真を撮っている。

 

――ドカーン!!

 

今度は梅雨ちゃんが試した「遠距離用の高圧ランチャー」が暴走。

 

「失敗は成功の母! ベイビーは爆発して育つものです!」と笑う発目さんに、パワーローダー先生も「そうだ、何事もチャレンジ精神だ!」と変な方向で盛り上がっている。

そんな中、白煙くんは隅の方で見つけたあるアイテムに目を輝かせていた。

 

「あ、これ……13号先生のコスチュームに似てる……!」

 

それは、かつて試作されたレスキュー用の簡易宇宙服モデルだった。白煙くんがそれをすっぽりと体験試着してみると、煙の密閉性が完璧で、自分の個性をさらに集中させられる感覚があった。

 

「すごい……よくできてるなぁ。やっぱりプロの道具は考えられてるんだ……」

 

ヘルメットの奥で感心する白煙くんの姿は、まるで小さな宇宙飛行士のようで、見ているだけで癒される可愛らしさだった。

何度も爆発に巻き込まれ、そのたびに白煙くんが煙を吸い取り、みんなで真っ黒になりながらワイワイとアイテムを試していく。

期末テストへの不安はまだあるけれど、この最高の仲間たちとなら、どんな意地悪な試験が来ても絶対に乗り越えられる――。工房を包む賑やかな笑い声の中で、チーム放課後の絆は、また一段と強く、硬く、結ばれていくのだった。

 

 




葉隠さん魔改造その2

透明化するコスチューム(服)を着る
防御力が上がった!

手袋が強化されました
攻撃力が上がった!


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