「……ここが、1-A」
大きな扉を見上げ、薫、透、出久、お茶子の4人は緊張の面持ちで教室へと足を踏み入れた。
しかし、教室に一歩入った瞬間、そこはすでに一触即発の空気に包まれていた。
「机に足をかけるな! 雄英の先輩方や机の製作者に申し訳ないと思わないのか!?」
「思わねえよ。てめーどこ中だよ、端役が」
黒髪でメガネをかけた生真面目そうな男子生徒が、ツンツンした爆発頭の男子生徒に、チョップのような激しい身振りを交えて抗議している。対する爆発頭の少年は、不遜極まりない態度で睨み返していた。
(うわぁ……怖そうな人だな。ちょっと苦手なタイプかも……)
薫の顔の白い煙が、引いていくように少し小さく萎む。 その横で、出久が「ひっ……!」と小さく悲鳴をあげた。
「緑谷くん、知り合い?」
薫が小声で尋ねると、出久はガチガチに震えながら頷いた。
「う、うん……幼馴染の、かっちゃん(爆豪勝己)なんだ……」
(かっちゃん、か。とにかく近づかないでおこう……。逆にあのメガネの人は、すごく委員長っぽいというか、真面目な人なんだろうな)
そんな薫の思考を遮るように、メガネの少年――飯田天哉がこちらに気づき、大股で歩み寄ってきた。
「君たちは! ……いや、申し訳ない! 僕は私立聡明中学校の――」
「あ、入試の時の! 私は麗日お茶子! よろしくね!」
「僕は白煙薫です。よろしく」
「私は葉隠透! よろしくね!」
お互いに名前を交わすと、飯田は薫の顔をじっと見つめ、「常時発動型の個性か! 管理が大変そうだが、実に個性的で素晴らしい!」と、これまた真面目すぎる感想を述べてくれた。
「あ、みんなは『白煙くん』って呼んで。僕も『飯田くん』って呼ぶね」
「ああ、よろしく頼む、白煙くん!」
「よろしくね、白煙くん!」
お茶子と透も笑顔で応じる。自己紹介を交わすうちに、少しずつ張り詰めていた緊張が解け、4人の距離が縮まっていくのを感じて薫はホッとした。透の制服の袖が嬉しそうに揺れるのを見て、薫の煙もぽわぽわと丸く穏やかな形になる。
その時だった。
「――友達ごっこしたいなら他所へ行け」
「「「「えっ?」」」」
地を這うような低い声が聞こえ、全員が振り返る。そこには、教室の入り口の床に転がる、黄色い不審な物体があった。
(……え? なんで寝袋……?)
薫の顔の煙が、困惑でハテナマークのようにひん曲がる。寝袋の中からズリズリと這い出てきたのは、ボサボサの黒髪に、ひどく徹夜明けのような目をたずさえた冴えない男の人だった。
「ここは……ヒーロー科だぞ」
男は寝袋から立ち上がると、だるそうに全員を見据えた。
「担任の相澤消太だ。よろしく」
「「「担任ーーー!?」」」
教室中に驚愕のツッコミが響き渡る。波乱に満ちた雄英高校生活が、ついに幕を開けようとしていた。
「はい、静かになるまで4.6秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠くね」
相澤先生は気怠げにそう言うと、寝袋から完全に抜け出した。
「今日、入学式は?」
麗日さんがおそるおそる尋ねると、相澤先生は面倒くさそうに首を振った。
「ヒーロー科にそんな呑気な行事はない。雄英の売りは『自由』な校風。そしてそれは、先生(こっち)側もまた然り。……ここは雄英、なんでもありのヒーロー教育機関だ」
相澤先生はポケットから、藍色の体操服を無造作に取り出した。
「これ着てさっさとグラウンドへ出ろ」
グラウンドに集められたA組の面々に、相澤先生から告げられたのは『個性把握テスト』の実施だった。中学までの「個性使用禁止」の体力測定ではなく、己の個性を最大限に生かした計測。
そこまでは良かった。だが、相澤先生の口から信じられない言葉が飛び出す。
「トータル成績最下位の者は、見込み無しとして**『除籍』**処分とする」
「「「えええええーーーっ!?」」」
その瞬間、出久の顔からスーッと血の気が引いて青ざめていった。個性をコントロールできず、使えば自爆してしまう出久にとって、「個性をフルに使うテスト」はあまりにも致命的だ。
そして出久の隣では――。
モフッ……モフフッ。
「わ、わ、わわわ、除籍……!?」
薫の顔を覆う煙が、緊張と恐怖のあまり、みるみるうちに黒に近い灰色へと変色し、激しく揺れ動いていた。風に煽られた時ほどではないが、明らかにメンタルが限界を迎えている。
「白煙くん、大丈夫!? 煙の色が大変なことになってるよ!」
出久が自分の恐怖をそっちのけで、慌てて薫の肩を揺さぶる。
「み、緑谷くん……僕、実戦試験も最後はポイント稼げてないし、体力にも自信ないよ……。初日で除籍されたらどうしよう……」
「大、大丈夫だよ! 白煙くんのすり抜ける個性、すごく強いし、工夫次第で絶対いい記録が出るよ! 僕だって……僕だって頑張るから、一緒に残ろう!」
「緑谷くん……っ。うん、そうだね、お互い頑張ろうね……!」
励まし合う男子二人を見て、少し離れたところにいた麗日さんと透が顔を見合わせた。
「白煙くん、素顔は見えないのに、今すっごく焦ってるの分かりやすいね」
麗日さんがクスクスと笑うと、透の制服の袖が同意するようにぽんぽんと跳ねる。
「ねー! 感情に合わせて煙の色が変わるの、可愛くって分かりやすいよね!」
当の薫はそれどころではないが、灰色の煙の中から必死に右手を突き出した。それに気づいた出久、麗日さん、そして透も、それぞれの右手を重ねるようにして宙へ掲げる。
「「「「が、がんばろー……!」」」」
少し緊張で震えながらも、4人の心は一つになった。波乱の個性把握テストが、今始まる。
緑谷くんと白煙くんは色々似ています
緊張ぎみ、ヒーロー好き
そして誰かを助ける時は考えるより先に、身体が勝手に動きます