人類最強の敵、テストの時間だぜ!
期末実技試験 A組VS雄英高校先生方
期末テストに向けて、1年A組の全員がなりふり構わず机に向かっていた。
それはチーム放課後も同じだ。訓練場で身体を動かして個性の応用を特訓した後は、全員でラウンジに集まり、あの手この手で脳内をレスキュー仕様に変換しながら必死にペンを走らせる日々が続いた。
他のクラスメイトたちも、それぞれサバイバルを開始している。
筆記に強い不安を残す上鳴くん、耳郎さん、芦戸さん、瀬呂くん、尾白くんの5人は、学年トップの八百万さんの自宅へ。お呼ばれした先が想像を絶する「上級国民の家(大豪邸)」だったため、勉強を始める前からお嬢様空間の格差に完全に圧倒されていた。
一方で、切島くんはファミレスで爆豪くんに捕まり、「あァ!? 何でこんな簡単な公式が解ぶんねえんだクソ髪ィ!!」と怒鳴られ、周囲に平謝りしながら命懸けの猛勉強を強いられている。
元から成績上位の緑谷くん、飯田くん、轟くんの3人は、図書館で静かにこれまでの復習を重ね、そして――なぜか意外と座学の成績が良い峰田くんは、一人余裕の表情で「おいおい、赤点取ったら合宿居残りだぞ〜?」とみんなをニヤニヤと煽り倒していた。
そんな怒涛の1週間が過ぎ去り、ついに筆記試験当日。
カリカリと鉛筆の音だけが響く張り詰めた時間の後、教壇に立った相澤先生がパサリと最後の答案用紙を回収した。
「――そこまでだ」
「……ふぅあぁぁぁぁ……っ!!」
その瞬間、教室中に安堵の溜息が漏れる。白煙くんも、頭の煙をへにょりと脱力させて机に突っ伏した。英語のテスト中、脳内で何度も「Help me!」と叫ぶ外国人を救助した甲斐あって、なんとか赤点は回避できた手応えがあった。
だが、本当の地獄はここからだった。
ヒーローコスチュームに着替えて演習場へと集まったA組の前に、相澤先生をはじめとするプロヒーローの教師陣がズラリと姿を現す。
「入試や体育祭みたいな巨大ロボット相手でしょ! 楽勝楽勝!」
「合宿行ってタコ焼きパーティーだー!」
上鳴くんと芦戸さんがお気楽にハイタッチを交わす中、白煙くんは頭の煙をピシッと尖らせて、ステージの上を見つめた。
「……あの、なんだか先生方の数が多くないですか?」
セメントス先生、ミッドナイト先生、パワーローダー先生、エクトプラズム先生、相澤先生、スナイプ先生、そして職場体験のニュースを心配してくれていた13号先生に、根津校長先生、プレゼント・マイク先生まで揃っている。
「今回の実技試験だが……お前たちの予想とは大きく異なる」
相澤先生の鋭い眼光が一同を射抜く。
「諸般の事情により、試験内容を変更する。ここからは――生徒2人1組のペアとなり、そこにいる教師1人と実戦形式で対決してもらう」
「えええええっ!? 先生と直接対決!?」
白煙くんの頭の煙が驚きでポワンと大きく爆発し、隣の透ちゃんの手袋もあわあわと宙を舞う。
「想定以上だな……。ロボット相手とは訳が違うぞ」
障子くんが複数の腕を固く握り締め、梅雨ちゃんも「本当に意地悪ケロ……」と表情を引き締めた。
「そして――当然、俺たちもお前たちに合わせた相応のハンデは背負うが……。あの人のハンデは、これでも足りんくらいだろうな」
ズシーン、と地面を揺らす重厚な足音が響く。
地を割るような圧倒的なプレッシャーと共に、演習場の奥からその男が現れた。
「私が!!! 敵(ヴィラン)役として立ち塞がろう!!!」
マントを翻し、圧倒的な威圧感と笑顔を湛えて現れたのは、最強のナンバーワンヒーロー、オールマイト!!!!
「オールマイトまで……っ!!」
白煙くんは、プロの現場を知ったからこそ分かる「平和の象徴」の桁違いのオーラに息を呑んだ。
筆記を乗り越えたチーム放課後に、過去最大の試練が幕を開けようとしていた。
「実技試験、スタート!!」
プレゼント・マイクの爆音アナウンスが響き渡り、ついに過酷な期末実技試験の火蓋が切って落とされた。
最初のステージは、張り巡らされたコンクリートの建造物がそびえ立つ模擬市街地。対峙するのは、巨体を誇るセメントス先生。そして生徒側は、切島くんと砂藤くんのパワータイプコンビだ。
試験の合格条件は、先生を「捕縛」するか、もしくはステージに用意されたゲートから「脱出」すること。
モニター室の画面を食い入るように見つめるチーム放課後の面々は、開始早々、その圧倒的な実力差に息を呑んだ。
「うわぁ……セメントス先生、あのステージだと有利すぎるよ……!」
白煙くんの頭の煙が、あまりの絶望感にハラハラと揺れる。セメントス先生の個性は『セメント』。触れたコンクリートを粘土のように自在に操る能力だ。一面がコンクリートで覆われたこのステージは、先生にとって無敵の要塞も同然だった。
画面の中では、切島くんが『硬化』、砂藤くんが砂糖を摂取して『シュガードープ』を発動し、気合十分で突撃していく。しかし――。
ズゴゴゴゴゴゴッ!!!
「うおっ!? 壁がどんどん生えてくる!?」
「壊しても壊してもキリがねえぞ!」
二人が拳でコンクリートの壁をどれだけ粉砕しても、セメントス先生が地面に両手を突くだけで、それ以上の速度で新たな壁が無限に増殖し、行く手を阻んでいく。
「まさに『初見殺し』のステージねケロ」
梅雨ちゃんが顎に手を当てて冷静に呟く。
「あの二人の個性は短期決戦用のパワータイプ。時間を引き延ばされれば引き延ばされるほど、スタミナが切れて不利になっていくわ」
「そうだな」と、障子くんも複数の目で画面を見据えながら言葉を続ける。
「攻撃が届く間合いにすら入れさせてもらえない。セメントス先生は一切動かず、ただ物量で二人を押し潰そうとしている」
すると、同じくモニターを見つめていた緑谷くんが、ブツブツと呟きながら鋭い解説を付け加えた。
「セメントス先生の個性は持続力もケタ違いなんだ。切島くんたちのパワーは凄まじいけど、あの個性を相手に正面突破を挑むのは相性が悪すぎる。……この試験の本質は『プロとの戦闘』だけじゃない。自分たちの実力と状況を天秤にかけて、勝てないと踏んだらどう動くかの判断力も試されているんだよ」
「緑谷くんの解説、すごく分かりやすいなぁ……」
白煙くんは感心しながらも、画面の中の二人の突破口を必死に探した。
「……ということは、もし僕たちがあのステージだったら、正面から戦うのは避けて、透ちゃんの透明化とか僕の煙化を使って、先生に気づかれないように『隠密で逃げて脱出』を目指すのが正解なのかな?」
「そうだね! 隠れてこっそりゲートに向かった方が、絶対に合格率は高いよ!」
透ちゃんの手袋がポンと手を叩く。チーム放課後は自然と、自分たちのレスキュー・隠密の視点から試験の対策を深めていた。
しかし、画面の中の猛者二人は、最後まで己の拳を信じて突き進んだ。
だが――無情にもタイムリミットとスタミナの限界が同時に訪れる。砂糖の効き目が切れてフラフラになった砂藤くんと、硬化が維持できなくなった切島くんは、迫り来るコンクリートの波に完全に飲み込まれ、身動きを封じられてしまった。
『切島・砂藤ペア、リタイア!!』
「あちゃー……」
透ちゃんが思わず両手で顔を覆う(見えないが)。
勝者、セメントス先生。
これにより、切島くんと砂藤くんの「夏休みの地獄の補習」が一番乗りで決定してしまった。
「プロは、やっぱり容赦ないケロ……」
梅雨ちゃんの言葉に、一同の間にゴクリと緊張が走る。
圧倒的なプロの壁を突きつけられ、白煙くんの頭の煙は、次に控える自分たちの出番に向けて、キュッと戦闘モードの形に引き締まるのだった。