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『第2試合、スタート!!』
続いてモニターに映し出されたのは、鬱蒼とした木々が立ち並ぶ模擬市街地・郊外エリア。対峙するのは、生徒たちの個性を瞬時にかき消す『抹消』の個性を持つ担任・相澤先生。そして生徒側は、A組の2大エリートである轟くんと八百万さんのペアだ。
「轟くんは『半冷半燃』の出力もすごいし、搦め手も得意だから、相澤先生相手でも正面から倒せる可能性が高いよね」
白煙くんがモニターを見つめながら言うと、隣にいる透ちゃんの手袋がどこか心配そうに揺れた。
「うーん、轟くんは大丈夫そうだけど……なんだかヤオモモ(八百万さん)、元気がないみたい。体育祭の時から実技に対してちょっと自信をなくしちゃってるっていうか……」
「そういえば透ちゃん、体育祭のトーナメントで八百万ちゃんに勝ってたわねケロ」
梅雨ちゃんの言葉に、透ちゃんは「うん、あの時は相性もあったんだけどね」と頷く。
「ヤオモモは頭が良いし強いのに、今は自分の判断に自信が持てなくなってる気がするの……」
その心配は、画面の中で的中してしまう。
相澤先生の動きは、恐ろしいほどに冷徹で迅速だった。
「うわっ、早い……!?」
白煙くんの頭の煙が驚きでピッと跳ね上がる。
轟くんが氷結を放とうとした一瞬の隙を突き、相澤先生は『抹消』で個性を封じ込めると同時に、捕縛布を使ってあっという間に彼を電柱へと吊るし上げてしまったのだ。A組屈指の実力者である轟くんが、文字通り手も足も出ずに無力化される。
一人残された八百万さんは、恐怖とプレッシャーに押しつぶされそうになりながらも、捕縛された轟くんからの叱咤を受け、必死に思考を巡らせた。
「……動いた! ヤオモモ、個性を使ってる!」
透ちゃんが声を上げる。
八百万さんは自らの『創造』の個性をフル活用し、相澤先生の視線を遮る作戦を展開。轟くんを救出した後、先生の『抹消』の瞬き(タイムリミット)を計算に入れた見事な連携プレイへと繋げた。
そして――激しい攻防の末、八百万さんが仕掛けた作戦が見事に決まり、なんと相澤先生を捕縛用の拘束具にハメることに成功したのだ。
『轟・八百万ペア、試験合格!!』
「やったあぁぁ!! 合格だよ!!」
白煙くんと透ちゃんが大喜びでハイタッチを交わす。しかし、モニターを凝視していた梅雨ちゃんが、フッと優しい表情で行った。
「……でも、最後の相澤先生、ほんの少しだけ手加減したように見えたわケロ」
「えっ、そうなの?」
白煙くんが小首を傾げる。
「ああ」と、障子くんが腕を組んで頷いた。
「わざと八百万の作戦に引っかかるような間を作っていた。きっと、彼女の『自信』を取り戻させるために、あえて考えさせる隙を与えたんだろうな」
「なるほど……! 生徒の成長のために、悪役になりきりながらもちゃんと導いてくれるなんて……やっぱり相澤先生、すごくかっこいいや!」
白煙くんの頭の煙が、担任への深い尊敬の念を込めてぽわぽわと温かく膨らんだ。
エリートコンビのドラマチックな合格にモニター室が感動に包まれる中、スピーカーから次のアナウンスが響き渡る。
『第3試合――障子 目蔵、蛙吹 梅雨ペア。準備してください』
「あ、私たちの番だわケロ」
「行ってくる」
梅雨ちゃんがトコトコと立ち上がり、障子くんも静かに拳を握りしめて歩き出す。
「障子くん、梅雨ちゃん、がんばってね!!」
「サポート科のアイテムの効果、ばっちり見せてきて!」
白煙くんと透ちゃんの熱いエールを背中に受けながら、チーム放課後の誇る索敵&機動のスペシャリストペアが、次なる試験のステージへと足を踏み出すのだった。
『第3試合、スタート!!』
フィールドは、入り組んだ暗い通路が交差する迷宮のような屋内エリア。二人の前に立ちはだかるのは、数々の凄惨な現場をくぐり抜けてきたプロヒーロー・エクトプラズム先生だ。
「さあ、来い! 若人よ!」
エクトプラズム先生が吠えると同時に、その口から大量の『分身』が吐き出され、またたく間に通路を埋め尽くしていく。
「数が多いな……! だが、引くわけにはいかない!」
障子くんは『複製腕』をフルに展開し、圧倒的なパワーで迫り来る分身を次々と殴り倒していく。その頼もしい背中を追いかけるように、梅雨ちゃんも地面を力強く蹴り上げた。
「私の番ねケロ!」
サポート科に改良してもらった特製の強化ブーツが重低音を響かせ、エクトプラズム先生の分身の頭部を正確に捉えて粉砕していく。
モニター室で見る限り、二人の猛攻は先生の分身の軍勢と互角に渡り合っているように見えた。しかし、画面を凝視していた緑谷くんの表情は硬い。
「……一見、押し込んでいるように見えるけど、実はかなり危険な状態だよ」
緑谷くんがノートを握りしめながら、深刻な声で解説を始める。
「蛙吹さんは身軽で、強化ブーツのおかげでさらにスピードと跳躍力が上がっている。逆に障子くんは、パワーと索敵能力はトップクラスだけど、どうしても体が重くてスピードの面では遅れをとってしまうんだ。個々の戦闘力は上がっているのに、二人の『スピードの差』のせいで、思った以上にチームワークが噛み合っていないんだよ……!」
そのズレは、実戦の渦中にいる二人自身が一番痛感していた。
分身を倒すたびに、二人の距離がわずかに開き、お互いのカバーが遅れる。プロの絶え間ない波状攻撃の中で、その小さなタイムラグは致命的だった。
「すまない、梅雨ちゃん……! 俺の足が追いつかず、君の連携のテンポを乱してしまっている!」
障子くんが悔しげに声を絞り出す。
「良いのよ、障子ちゃん」
梅雨ちゃんは息を切らしながらも、冷静に周囲を見回した。
「これもきっと、私たちの個性の弱点を見抜いた先生の狙いね」
放課後の時間に、チーム放課後のメンバーで何度も何度もシミュレーションと特訓を重ねてきた。お互いの特徴は知り尽くしているはずだった。それでも、本物のプロヒーローが本気で仕掛けてくる実戦のプレッシャーの中では、特訓通りにはいかない現実が突きつけられる。
そこへ、さらなる絶望が二人を襲った。
「試練の時は終わった! これぞプロの領域だ!」
エクトプラズム先生の本体が雄叫びをあげると、すべての分身が一つに溶け合い、通路の天井に届かんばかりの『巨大な分身』へと変貌したのだ。圧倒的な質量が、二人をまとめて踏み潰そうと迫る。
だが、障子くんはその巨大な足陰から、すべての腕を耳に変えてかすかな音を拾い上げた。
「梅雨ちゃん! 奴の本体はあの巨大分身の影、ゲートの直前にいる!」
「了解よ、障子ちゃん!」
障子くんがその巨体を生かし、盾となって巨大分身の踏みつけをその身で受け止める。その一瞬の隙を見逃さず、梅雨ちゃんは自慢の跳躍力で障子くんの肩を踏み台にし、弾丸のように虚空を舞った。強化ブーツの推進力も加わり、風を切るようなスピードで巨大分身をすり抜ける。
「捕まえたわケロ!!」
着地の勢いのまま、梅雨ちゃんは相澤先生から預かっていた捕縛布をエクトプラズム先生の本体へ見事に巻き付け、その自由を完全に奪った。
『障子・蛙吹ペア、試験合格!!』
ゲートの向こうから戻ってきた二人は、合格したものの、どこか浮かない表情をしていた。特訓の成果を完璧に出し切れず、スピードのズレを突かれたという不完全燃焼感が残っていたからだ。
「……すまない、完璧な連携とは言えなかった」
俯く障子くんに、拘束を解かれたエクトプラズム先生が歩み寄り、フッと目を細めた。
「何を言うか。自分たちのズレを瞬時に自覚し、その場で役割を切り替えて勝利を掴み取った。素晴らしい判断力だ。合格の味はどうだ?」
先生からの予期せぬお褒めの言葉に、二人の表情がパッと明るくなる。
「あ、ありがとうございます……!」と、二人がホッとして喜びかけたその瞬間、エクトプラズム先生はビシッと指を突きつけた。
「だが!! もしも気が緩んでいたら減点していた!! 実戦ならそこで命を落としているぞ。合格したからと安心せず、授業が終わるまでは気を引き締め直すことだ!」
「は、はい……! ケロ!」
「わ、分かりました!」
プロならではの鋭い指摘に、梅雨ちゃんと障子くんは背筋をピシッと伸ばした。
モニター室の白煙くんたちも「プロの世界はどこまでも厳しいなぁ……」と感心しつつも、見事にプロの壁を越えた二人の生還を、心からの拍手で迎えるのだった。