個性「煙」の救煙レスキューヒーロー   作:ウルトラエックス

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屋内戦闘訓練 緑谷くんVS爆豪くん

雄英高校2日目。

昨日の一件で「初日から除籍されることはない」と分かったものの、雄英のカリキュラムは今日も容赦なく生徒たちに襲いかかった。

午前:通常授業(英語)

午前の座学は、ボイスヒーロー・プレゼント・マイク先生による英語の授業だ。

 

「Hey Everybody!! 準備はいいかぁ!? この英文の主語はどこだぁー!?」

 

教室中に響き渡る大音量の中、薫の席の周りには、どんよりとした濃い白色の煙がぐるぐると渦巻いていた。

 

(ええっと、主語がこれだから、和訳すると……いや、英訳に直すときは語順が逆になって……あ、あれ? ごちゃごちゃになってきた……!)

 

薫の顔の煙が、混乱を示すように矢印型になったり、ハテナマークになったりして激しく形を変える。

その様子を見て、近くの席の出久、麗日さん、飯田くんは「あ、白煙くん完全にフリーズしてる」とすぐに察した。

すると、隣の席から「白煙くん、そこはね……」と小声が聞こえた。

見ると、教科書の上に宙に浮いたシャープペンがトントンと文字を指し示している。葉隠さんがこっそりヒントを出してくれているのだ。

 

(あ、葉隠さん……! ありがとう……っ!)

 

薫は心の中で涙を流しながらノートに書き写す。

そう、薫は決して天才肌ではない。勉強は得意な方ではなく、分かるものは分かるし、分からないものはトコトン分からないという、ごく普通の男の子だった。それでも「みんなより少し遅れても、絶対に諦めずにがんばる」のが、薫の隠れた強みでもあった。

午後:ヒーロー基礎学

そして午後。待ちに待った「ヒーロー基礎学」の時間。

 

「――私が!! 普通にドアから来る!!」

 

バァン! と勢いよく扉を開けて入ってきたのは、昨日校舎の陰で見かけた、あのナンバーワンヒーロー・オールマイトだった。

 

「「「うおおおおおーーーっ!! 本当にオールマイトだ!!!」」」

 

教室中が割れんばかりの歓声に包まれる。本物のトップヒーローの圧倒的なオーラに、クラスの興奮は最高潮だ。

そして、人一倍ピュアな薫の興奮もまた、限界突破していた。

 

ボフゥッ!!!

 

「うわあああ!? 白煙くんが爆発した!?」

 

興奮のあまり、薫の顔からものすごい量の白い煙が文字通り「ボフッ」と噴き出し、一瞬で教室の天井付近を真っ白に埋め尽くしてしまったのだ。

 

「す、すみません……っ! 興奮すると煙の風量調整が効かなくなっちゃって……!」

 

薫が平謝りしながら慌てて窓を開け、教室を換気する羽目になる。出久たちが「大丈夫、大丈夫だから!」と笑いながら手伝ってくれ、オールマイトも「ハハハ! 凄まじい熱意だ、白煙少年!」と豪快に笑い飛ばしてくれた。

 

ヒーローコスチューム、お披露目

 

「さあ、今日はこれを行うぞ! 『戦闘訓練』だ!!」

 

オールマイトの合図とともに、壁からそれぞれの出席番号のBOXがせり出す。事前に入稿していたデザインをもとに作られた、ファン自慢の「ヒーローコスチューム」だ。

着替えを終え、訓練場へと続く暗い通路を歩いていく生徒たち。

光の差し込む出口へ向かう中、それぞれの個性が詰まった衣装がお披露目されていく。

薫のヒーローコスチュームは、オレンジとネイビーを基調とした、消防士の防護服をスマートにアレンジしたデザインだった。

全身の煙化をサポートするための特殊繊維で作られており、背中には煙の放出量を調整するノズルが備わっている。そして胸元には、大きくデザインされた**「火気厳禁」**のマーク。

 

「わあ、白煙くんのコスチューム、すごく頼もしい! 本当にレスキューヒーローって感じだね!」

 

完全透明の状態で、グローブとブーツだけを身にまとった葉隠さんが、薫の隣で嬉しそうに声を弾ませた。

 

「ありがとう、葉隠さん。僕の個性は炎の消火はできるけど、熱されすぎると黒煙になっちゃうからね。まさに『火災厳禁』の仕様なんだ」

 

お互いのコスチューム姿(葉隠さんはほぼ見えないが)を確認し合い、少し照れくさそうに笑い合うふたり。

通路を抜けた先には、アメコミ風のスーツに身を包んだ出久や、甲冑姿の飯田くん、そしてどこか不穏なオーラを放つ爆豪くんの姿があった。

 

「形から入るのも大切なことだ。少年少女よ! これから君たちは――『ヒーロー』だ!!」

 

オールマイトの力強い声が響く。

それぞれの理想を身にまとったA組の、本当のヒーロー教育が幕を開ける。

 

 

「さあ! 服装が整ったら、屋内対人戦闘訓練だ!」

 

オールマイトの案内でたどり着いたのは、数々のビルが並ぶ演習場だった。

訓練開始を前に、それぞれコスチューム姿を見せ合う一同。薫は出久の姿を見て、顔の白い煙をホクホクと嬉しそうに波打たせた。

 

「緑谷くん、そのコスチューム、すごく良いね! オールマイト先生みたいでかっこいいよ!」

 

「ほんと! らしさが出とる!」

 

麗日さんもニコニコと同意する。

 

「あ、ありがとう……! ちょっと恥ずかしいけど、そう言ってもらえると嬉しいな」

 

出久は赤面しつつも、自分のコスチュームを褒め合える仲間がいることに感激していた。

 

「白煙くんの消防士さんのも、すっごく実戦的でプロっぽいよね!」

 

今度は、声のする方――手袋と靴だけが宙に浮いている場所から、透ちゃんの明るい声が響いた。

 

「ありがとう、葉隠さん。……あ、そういえば葉隠さんのコスチュームって……手袋と靴だけ? もしかして、服も透明になってるのかな……?」

 

薫が素朴な疑問を口にすると、葉隠さんの制服の袖……ではなく、浮いている手袋がぶんぶんと横に振られた。

 

「ううん、丸裸だよ!」

 

「まるはだ……っ、ぶふぉっ!?」

 

薫の顔から、動揺のあまり凄まじい量の白い煙がボフッと音を立てて噴き出した。物理攻撃が無効な薫だが、思春期の男子高校生としてのメンタルは無効化できなかったらしい。慌てて手袋で顔を隠す葉隠さんの気配を感じて、薫の煙はさらに真っ赤……にはなれないので、大混乱で千切れそうに揺れていた。

 

「ゲフン! では説明する!」

 

どこかから取り出した分厚いカンペ(虎の巻)を堂々と見ながら、オールマイト先生が解説を始めた。

 

「状況設定は、ヴィランが核兵器をアジトのどこかに隠したというもの! 訓練は2対2のヒーローvsヴィランだ! 舞台は屋内、5階建てのビル!」

 

「ヒーロー側は制限時間内に、ヴィランを捕獲するか、はりぼて爆弾を回収(タッチ)すれば勝ち!」

 

「ヴィラン側は時間内に、ヒーローを捕獲するか、はりぼて爆弾を死守すれば勝ちだ!」

 

ルールが説明され、チームを決めるくじ引きが行われた。

そして、記念すべき最初の対戦カードがオールマイトの口から告げられる。

 

「最初の組み合わせは……これだ!!」

 

* ヒーローチーム: 緑谷出久 & 麗日お茶子

* ヴィランチーム: 爆豪勝己 & 飯田天哉

 

「えっ……!?」

 

出久の身体が強張る。初戦から、あの因縁の幼馴染・爆豪くんとの直接対決になってしまったのだ。モニター室に移動する間も、爆豪くんの纏うピリピリとした殺気は増していくばかりだった。

他の生徒たちはモニター室の画面の前に集まり、ビルの内部を映し出すカメラを見つめる。

 

「緑谷くん、麗日さん、がんばれ……!」

 

薫はモニターを見上げながら、小声でエールを送った。入試からずっと一緒に頑張ってきた2人だ。無事に勝ってほしいという気持ちが強い。

 

「飯田くんも爆豪くんも強そうだもんね。どっちのチームも怪我なくがんばってほしいな!」

 

透ちゃんも浮いている手袋を胸の前で握りしめ、両方のチームを純粋に応援していた。

ヴィランチームの2人がビル内に配置され、ヒーローチームの2人が窓から潜入を開始する。

 

「屋内対人戦闘訓練……スタート!!」

 

オールマイトの合図とともに、出久たちの運命を賭けた、激動の初戦の火蓋が切って落とされた。

 

 

5分間の作戦タイムが終了し、ついに屋内対人戦闘訓練が始まった。

ビル内に潜入した緑谷くんと麗日さんだったが、次の瞬間、モニターの画面が激しく揺れた。角から現れた爆豪くんが、挨拶代わりに強烈な爆破を繰り出したのだ。

 

「うわっ、いきなり仕掛けた! 早い……!」

 

薫の顔の煙が、驚きでピシッと硬直する。

しかし、緑谷くんは爆豪くんの動きを読んで見事に対処し、背負い投げで一本取ってみせた。それを機に、麗日さんは作戦通り二手に分かれ、はりぼて爆弾がある5階へと駆け上がっていく。

 

「爆豪くん、めちゃくちゃキレてるね……」

 

モニター越しにも伝わってくる爆豪くんの凄まじい怒気に、薫は顔の煙をきゅっと縮こまらせた。

 

「ほんとだ、悪役(ヴィラン)がめちゃくちゃ様になってるよ!」

 

隣で透ちゃんの手袋がブルブルと震える。

制限時間は15分。

緑谷くんは狭い通路を逃げながら、執拗に追ってくる爆豪くんの猛攻を必死に対処していた。一方、5階にたどり着いた麗日さんは、爆弾を死守する飯田くんと対峙する。お互いに個性を活かせる、有利な状況を作り出していた。

 

(どちらのチームも、次の出方次第で圧倒的に有利になる。どう動くんだろう……?)

 

クラス中が固唾を飲んで画面を見守っていた、その時だった。

 

『溜まってんだよ……この籠手(サポーター)には、俺の汗がよぉ!』

 

爆豪くんが不敵に笑い、巨大な手榴弾型の籠手のレバーに指をかける。オールマイト先生が慌てて「爆豪少年、止めろー!」と通信で叫んだが、もう遅かった。

 

ドガァァァァァン!!!!!!

 

すさまじい大爆発の光がモニターを真っ白に染め、次の瞬間、頑丈な屋内ビルの壁が、まるで紙細工のように吹き飛んで半壊した。

 

「キャーッ! あわわ、わわわ……っ!」

 

あまりの衝撃に、透ちゃんの手袋が頭を抱えるように浮き上がる。

しかし、半壊して黒煙を上げるビルを見た瞬間、薫の様子が一変した。

 

「あ……あ、あ……」

 

薫の顔を覆う白い煙が、一瞬にして禍々しい**「黒煙」**へと変色し、身体がガタガタと激しく震え出したのだ。

 

「白煙くん!? どうしたの、大丈夫!?」

 

異変に気づいた透ちゃんが、心配そうに薫の肩に手を置く。

薫は激しく震える身体を必死に抑え、黒い煙の隙間から、引きつった声で言葉を絞り出した。

 

「あ、あはは……ごめん、大丈夫。ちょっとね、昔……僕の家が、大きな火事になっちゃったことがあってさ……。その時のことを、ちょっと思い出しちゃって……あはは……」

 

無理に作った、乾いた半笑いの声。

だが、その言葉を聞いた瞬間、周囲にいたA組の仲間たち、そしてオールマイト先生の表情が凍りついた。

物理無効の個性を持つ薫が、なぜ「風」だけでなく「火災」をそれほどまでに恐れ、コスチュームに「火気厳禁」と刻んでいたのか。その重すぎる理由が全員に伝わってしまったのだ。

 

「……白煙、少年……」

 

オールマイト先生が悲痛そうに呟く。

「あはは……」という薫の引きつった笑い声だけが、静まり返ったモニター室に虚しく響く。全然笑えないその過去に、室内の空気はちょっぴり重く、痛切なものへと変わっていった。

 

 

 

「爆豪少年! 次にそれをやったら強制終了、ヴィランチームの敗北(負け)とする!!」

 

オールマイト先生の怒声がマイクを通じて響き渡り、爆豪くんにイエローカードが出された。ビルの半壊を受け、モニター室の空気も張り詰めたままだ。

薫の顔の煙はまだ少し黒みがかった灰色のままで、透ちゃんがそっと背中をさすってくれている。

そんな中、画面の中の緑谷くんは諦めていなかった。ボロボロになりながらも、麗日さんに通信で「作戦」を伝え、再び爆豪くんに真っ向から立ち向かっていく。

 

(緑谷くん、すごいな……。あんなに怖い爆豪くんに、ボロボロになっても立ち向かっていけるなんて。僕なら……僕なら怖くて、絶対すぐに煙になって逃げ出してるよ……)

 

薫は出久の持つ「芯の強さ」に、ただただ圧倒されていた。

そして、決着の時。

緑谷くんが「個性を上空へ放つ」ことでビルを撃ち抜き、その瓦礫を利用して麗日さんがはりぼて爆弾へ突撃、見事に回収に成功した。

 

「ヒーローチーム……勝利ーーー!!」

 

オールマイト先生の声が響く。だが、画面の向こうでは、緑谷くんも麗日さんも満身創痍でその場に倒れ込んでいた。すぐにロボットの救急隊が駆けつけ、2人は保健室へと運ばれていく。

その後、モニター室で行われた反省会。

オールマイト先生が「この中で一番状況に対応できていたのは誰かな!?」と問いかけると、推薦入学の八百万百さんが真っ先に手を挙げた。

 

「それは飯田さんですわ」

 

八百万さんはそこから、飯田くんが爆弾を死守するために部屋の家具を片付け、ヒーローの個性を想定して完璧なヴィランの立ち振る舞いをしていたこと。逆に爆豪くんの私怨による暴走、緑谷くんの無茶な作戦、麗日さんの油断など、良かった点と悪かった点を理路整然と、すべて一人で解説してしまった。

 

「あ、ア、ア、ソレを全部言おうと思ってたよ……!」

 

解説の仕事を完全に奪われたオールマイト先生は、完全に口パク状態(キャパオーバー)になってしまっている。

そんな大人たちのやり取りの端っこで、薫と透ちゃんは気が気ではなかった。

 

「緑谷くんも麗日さんも、大丈夫かな……。すごい怪我だったよね……」

 

薫の顔の煙が、心配そうにゆらゆらと小さく揺れる。

 

「うん、すぐリカバリーガール先生のところに行ったけど……心配だね、白煙くん」

 

透ちゃんの手袋がシュンと下を向く。

だが――次に心配すべきは、自分たちの番だった。

 

「さあ! 次の対戦カードはこれだ!!」

 

オールマイト先生が引いたくじに書かれていた名前。

 

* ヒーローチーム: 白煙 薫 & 葉隠 透

* ヴィランチーム: 轟 焦凍 & 障子 目蔵 

 

「え……」

 

薫の顔の煙が、衝撃でピシッと完全に静止した。

ヴィランチームの顔ぶれは、あまりにも絶望的だった。

一人は、八百万さんと同じく推薦入学で入った、右半身が凍りついたような雰囲気を持つ轟くん。

そしてもう一人は、握力テストで「540kg」を叩き出した、あの巨大な6本腕の障子くんだ。

実力トップと、パワータイプの最強コンビ。

 

「……勝てる気がしない……っ」

 

薫の顔の煙が、一瞬にして絶望のどんよりとした灰色に染まり、地面に吸い込まれそうなくらいシュウウウ……と萎んでいく。

 

「ど、どうしよう白煙くん……! 私たち『見えないコンビ』なのに、相手が強すぎて別の意味で見えなくなりそうだよ……!」

 

透ちゃんの手袋も、頭を抱えてガタガタと震え出した。

あまりにも高すぎる雄英の壁。

果たして、薫と透の「見えないふたり」は、この最強のヴィランチームにどう立ち向かうのか。波乱の第2試合が、幕を開けようとしていた。

 

 

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