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死穢八斎會 本部突入作戦 当日
早朝、緊迫した空気のなか、警察とプロヒーロー、そしてインターン生たちが八斎會本邸を取り囲んでいた。グラントリノは塚内警部の要請により別行動。緑谷くん、切島くん、麗日さん、梅雨ちゃん、雄英最強ビッグ3、そして名だたるプロヒーローたちが一斉にその時を待つ。
「こんな朝早くから、何の用だァ!!!!」
「「「「――――――――ッッッ!?」」」」
午前8時30分。作戦開始の合図と同時に突入――しようとしたその瞬間、本邸の巨大な門が内側から吹き飛んだ。
出現したのは、八斎會の「八斎衆」の1人、活瓶力也。個性『活力吸収』によって触れた相手の活力を奪い巨大化する巨漢の男だ。
「ここはリューキュウが抑える!!」
「みんな、急いで!!」
「「「「――突入!!!!」」」」
暴れる巨漢に対し、プロヒーローのリューキュウが個性『ドラゴン』で巨大な竜と化し、真っ向から抑え込む。地上は波動ねじれ先輩、麗日さん、そしてリューキュウに任せ、サー・ナイトアイや緑谷くんをはじめとする突入部隊は一気に本邸内部へと躍り出た。
地下ルート
本邸の隠し通路から地下へと侵入した一行。
「俺は『透過』で最速最短ルートを突っ切る! 後を頼みます!」
通形ミリオ先輩が壁をすり抜け、保護対象のエリちゃんのもとへと先行する。
「スマッシュ!!」
「オラァ!!」
「ケロ。2人ともすごいわ」
地下道は、ヤクザの構成員たちと警官隊の激しい乱戦状態となっていた。治崎が分解し、修復した痕跡が生々しく残る地下の壁。エリちゃんへと続くその道を、緑谷くんのシュートスタイルと、切島くんの『硬化』が力任せに打ち破っていく。リューキュウ事務所で唯一突入班の梅雨ちゃんもついて行く。
「若の邪魔をするヒーロー共は、全員分断だァァァ!!」
「何だ!?」
「壁が!?」
「緑谷ちゃん、こっちへ!!」
しかし、突然周囲のコンクリート壁がぐにゃりと歪み、迷路のようにうねり始めた。
八斎會本部長・入中常衣の個性『擬態』。コンクリートなどの無機物に入り込み、自由自在に操作する能力だ。入中は個性を一時的にブーストする「薬」を使用し、地下道を激しく変形させてヒーローたちをバラバラに分断していく。
梅雨ちゃんが緑谷くんの身体を舌で巻いて孤立を防ぐ。
【Aルート】ファットガム、天喰環、切島くん
分断された先で、Aルートの3人は八斎衆の「盗みの3人組」と対峙する。
「ここは僕が1人で引き受ける。2人は先に行ってくれ!」
「任せたで、サンイーター!!」
「ファットガム!?」
天喰環先輩が『再現』の個性をフルに引き出し、3人を食い止めるべく孤軍奮闘を開始する。
先を急ぐファットガムと切島くんだったが、その前に立ち塞がったのは、凄まじい戦闘狂の乱波と、強力なバリアを展開する天蓋。
「矛と盾」の凶悪なコンビに対し、切島くんの『硬化』とファットガムの肉体が「盾と盾」として激突する!
【Bルート】ロックロック、イレイザーヘッド、サー・ナイトアイ
プロヒーローチームが進むBルートでは、突如としてトゥワイスが姿を現した。
「お前ら全員ぶっ殺してやる! 怖えから帰る! 行けぇマグネ、ミスター!!」
「あらぁ? ヒーローに攻め込まれているの?」
「おいおい、俺はバトル担当じゃねえぞ?」
さらにトゥワイスは自身の『分身』の個性により、八斎會の構成員だけでなく、ヴィラン連合のマグネやミスターコンプレスの分身までもを次々と生み出す。自身が増やせる限界は2人までだが、ヒーローに倒されても新しく増やして圧倒しようとする。
「ヴィラン連合!?」
「八斎會と組んでいるのか?」
プロヒーローたちも本気を出し、目まぐるしい戦闘へと突入していく。
【Cルート】緑谷くん、梅雨ちゃん
そして、最も不穏な闇が待ち受けていたのが、Cルートを進む緑谷くんと梅雨ちゃんの2人だった。
「――っ、トガヒミコ!?」
「また会いましたね緑谷くん! どんどん傷付いてワタシ好みになって!」
緑谷くんの前方に、狂気を孕んだ笑みを浮かべるトガヒミコが躍り出る。他人に変身する個性を駆使し、素早い身のこなしでナイフを突き立ててくるトガ。予測不能な動きに、緑谷くんは防戦を強いられ、苦戦を強いられていた。
「緑谷ちゃん! 今援護に――」
「――そうはいきません、ヒーロー」
梅雨ちゃんが舌を伸ばし、トガを拘束しようと地を蹴った。
だが、その進路を遮るように、どこからともなくドス黒い煙が床から噴き上がった。
冷気を孕んだ、粘り気のある漆黒の煙。
その煙は目の前でゆらりと形を変え、仮面を被った1人の少年の姿へと収束していく。
「――嘘……」
梅雨ちゃんは空中から着地した勢いのまま、完全にその場に立ち止まってしまった。
あまりの衝撃に、戦場であることすら忘れて、その丸い瞳が激しく小刻みに震える。
それは、忘れもしない。
神野区の夜、今は無きバックドラフト事務所が命懸けで探し出し、白煙くんの体を乗っ取り、自分たちを窮地に陥れた最悪のヴィラン。
そして何より、透ちゃんが命を懸けて白煙くんの体から引き剥がし、完全に消滅したはずの――『黒煙』そのものだった。
黒い煙をゆったりと肩からたなびかせながら仮面を外して、暗い瞳が凍りつくような冷たさで梅雨ちゃんを見つめる。
「お久しぶりです、フロッピー様。……お元気そうで、何よりです」
黒煙が、静かに、そして恭しく一礼した。
救うための光の裏で、大切な人を脅かす全てを排除しようとする闇の少年が、ついに梅雨ちゃんたちの前にその姿を現したのだった。
衝撃の真実
「白煙、ちゃん……?」
震える声でその名を呼んだ梅雨ちゃんに対し、黒い少年は首を横に振った。
「ホワイトとは違いますよ。現在、ホワイトは救助活動の真っ最中ですから」
そう言って黒煙がスマートフォンの画面を提示する。
『おはようございます! レポーターの田中です! 今日は新しいヒーロー事務所の取材です。なんと、あのプッシーキャッツが都内でレスキュー活動を始めるそうです。早速インタビューを行いたいと思います!』
『ねぇねぇエンちゃん、テレビ来てるよ!!』
『今それどころじゃないよ透ちゃん〜!?消火、消火ー!!』
そこには、都内の演習場でプッシーキャッツや透ちゃんと共に、元気に走り回って消火・救助活動を行う白煙くんの姿が映し出されていた。しかも、テレビ番組の「生放送」の映像だ。
「白煙ちゃん、じゃない!? あなたはあの時、確かに消えたはず……!」
神野区の夜、透ちゃんが黒煙の闇を暴き、白煙くんの心を取り戻したのを、バックドラフトや梅雨ちゃん、障子くん自身がこの目で確認していた。それなのに、なぜ目の前に彼が存在するのか。
「精神が入れ替わりましたが、私はホワイトの中で眠るように残っていました。ホワイトが病院から退院し、体調が万全に回復したことで、連動して私の『存在の総量』も回復し、外へ這い出せるようになった……ということです」
有り得ないと梅雨ちゃんは戦慄する。それなら、白煙くんと黒煙は光と闇として、完全に一心同体のまま存在し続けていることになる。
「梅雨ちゃん、遊ぼー!」
「ケロ!?」
感傷に浸る隙を与えることなく、トガヒミコがナイフを構えて梅雨ちゃんへと襲いかかった。
「蛙吹さん!!」
緑谷くんが「ワン・フォー・オール」を発動して割り込み、梅雨ちゃんをトガの刃から引き剥がす。そして、油断なくドス黒い煙を漂わせる黒煙へと視線を向けた。
「ほ、本当に白煙くんと同じだ……。個性だけでなく、見た目や声まで……!」
「デク様とは初対面ですね。では改めて自己紹介を。ヴィラン連合の黒煙と申します。以後お見知りおきを」
黒煙は闇をまとった冷徹な笑みを浮かべ、緑谷くんと対峙した。
Aルート:限界を超えた『盾』と、最強の『矛』
その頃、別の通路ではファットガムと切島くんが、八斎衆の乱波および天蓋と死闘を繰り広げていた。
「オラオラオラァ!!」
「〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!」
乱波の繰り出す、オールマイトに匹敵する超高速・超重圧の拳撃のラッシュ。切島くんは最大硬化の必殺技『安無嶺過武瑠(アンブレイカブル)』で応戦するが、あまりの暴力の前に「硬化」が粉々に砕け散ってしまった。
(痛い……いつ以来だ、この痛みは……)
肉体の破壊と共に、かつてのトラウマが蘇り、切島くんの心が敗北に屈しかける。一瞬の戦線離脱。
ファットガムがすぐさま盾となって切島くんをかばうが、天蓋が展開する完璧なバリアによって反撃のルートを塞がれてしまう。乱波の容赦ないラッシュを全身で受け止め続けるファットガム。このままだと、蓄積した衝撃を撃ち返す前に肉体が限界を迎えてしまう。
その窮地を救ったのは、再び立ち上がった切島くんだった。
(何のために、俺は強くなると誓ったんだ……!!)
「倒れない」ことは、それだけで強い。かつて爆豪くんが認めてくれた言葉を胸に、切島くんは砕けた肉体のままで再び乱波の前に立ちはだかり、その連打を耐え抜いてみせた。
ボロボロになり、ついに限界を迎えて崩れ落ちる切島くん。しかし、彼が稼いだ時間によって、ファットガムの「脂肪」には乱波の全攻撃エネルギーが完全に蓄えられていた。
「レッドライオット……お前が繋いでくれた漢気、無駄にはせん!!」
スリムな戦闘特化の姿へと変貌したファットガムの右拳に、全てのエネルギーが収束する。
天蓋の最強バリア、そして乱波の渾身の一撃を、ファットガムの放った『最強の矛』がすべてを巻き込んで木っ端微塵に吹き飛ばした。
劇的なる、ヒーロー側の勝利だった。
Bルート:プロの圧倒的な実力
一方、Bルートを進むロックロックやサー・ナイトアイたち。
「おいおい、何人いるんだよこいつらは!」
トゥワイスが作り出すヤクザの複製体に加え、ヴィラン連合のマグネやミスターコンプレスの分身までもが彼らに襲いかかる。分身とはいえ個性の能力は本物であり、厄介極まりない。
だが、プロヒーローの、特にナイトアイの実力は次元が違った。
一切の無駄のない動きで、敵の未来の動きを完璧に読み、寸分狂わぬ精度で重い『超質量印』を叩き込んで分身を泥のように消し去っていく。
「うーん、ここまで、ね」
「だから、バトル担当じゃねえんだよ俺は」
「ありがとう! ごめんな! ふざけんなクソヤクザ! 全然話が違うじゃねえか! 撤退だ撤退!」
想定外のプロの強さに、トゥワイスは文句を喚き散らしながら逃走を開始する。その様子を壁の中から見ていた入中は、「ヴィラン連合のどいつもこいつも、やはりイカれている……!」と激しい苛立ちと共に愚痴をこぼしていた。
Cルート:交錯する意志
「トガヒミコ様。ヒーローの主力(通形ミリオ)が、間もなく『核(エリ)』に接触します。八斎會との繋がりは、我々の目的においてここまでです」
黒煙がスッと背後に現れ、トガに状況を告げた。
「えー、もうそんな時間? じゃあね、梅雨ちゃん、緑谷くん! また遊びましょう!」
トガは名残惜しそうにナイフを収めると、トゥワイスたちと合流するために身軽な動きで闇の中へと消えていった。
残されたのは、緑谷くんと梅雨ちゃん。そして、静かに佇む黒煙だけ。
「フロッピー様、デク様。出口はこちらです。この通路を力尽くで真っ直ぐ進めば、治崎のもとへと辿り着けますよ。では……」
黒煙が自ら道を示し、煙となって立ち去ろうとする。
「待って!!」
たまらず梅雨ちゃんが叫んだ。
「あなた……黒煙は、白煙ちゃんと同じ存在なんでしょう!? 白煙ちゃんは命懸けで人を救う優しい子よ! だったらあなたも、人々を守るヒーローになれないの!?」
梅雨ちゃんの悲痛な問いかけに、黒煙は一度だけ足を止め、ゆっくりと振り返った。
その漆黒の瞳は、どこまでも冷たく、そして狂おしいほど純粋だった。
「言ったはずです、私はホワイトではないと。私はヒーローの味方ではありませんし、有象無象の『人々』とやらの命にも、これっぽっちの興味もありません」
黒煙の身体が、さらさらとドス黒い粒子へと溶けていく。
「私が守り、生かすのは――世界でただ一人。『葉隠透』、彼女だけです。……それでは」
そう言い残し、黒煙の姿は完全に霧散し、現場から気配を消した。
「……っ……」
梅雨ちゃんはあまりのショックに、その場に立ちすくんで唇を噛みしめる。同じ顔、同じ声でありながら、白煙くんとは全く異なる「闇」を孕んだ黒煙の存在に、胸が張り裂けそうだった。
「蛙吹さん、切り替えよう……! 今は一刻も早く、エリちゃんを救い出さなきゃいけないんだ!」
緑谷くんが梅雨ちゃんの肩を優しく叩き、強い眼光で前を見据えた。
「……ええ。そうね……!」
梅雨ちゃんは涙を堪えて強く頷き、緑谷くんと共に、治崎が待つ最深部へと向かって一気に駆け出した。
黒煙くんの存在がついにバレました。
黒煙くんの目的は『葉隠透』を守ること。それ以外はどうでもいいのです。みんなを救う白煙くんとは違います。