それぞれの夜
死穢八斎會の激闘が幕を閉じ、すっかり夜も更けた頃。
病院での最低限の検査と処置を終えた緑谷くん、切島くん、麗日さん、梅雨ちゃんの4人は、疲れ果てた身体を引きずりながら、雄英高校の宿舎「ハイツ・アライアンス」へと帰宅した。
「みんな……!!」
扉を開けた瞬間、待ち構えていたA組の面々が一斉に駆け寄ってくる。
治崎たちの起こした大事件は、すでにテレビのニュースで大々的に報じられており、残された生徒たちは生きた心地がしていなかったのだ。
「無事だったかおい! ニュース見てマジで心臓止まるかと思ったぞ!」
上鳴くんが悲鳴のような声を上げ、峰田くんも涙目で後に続く。
「緑谷に切島ァ! お前ら神野区の時もそうだけど、いっつも大事件のド真ん中にいやがって! 心配かけやがってコノヤロー!」
彼らの無茶を本気で心配する言葉が、疲弊した4人の心にしみていく。
「みんな、ただいま……心配かけてごめんね」
緑谷くんが無理に笑顔を作ると、砂藤くんが「まずはこれ食って元気出せ!」と、特製の甘いスイーツを差し出してくれた。さらに八百万さんからも、「心身を落ち着かせる効果のあるハーブティーですわ。今夜はこれを飲んでゆっくり休んでください」と、温かいカップが差し渡される。
「………………ケッ」
そんな温かい輪から少し離れた場所では、爆豪くんが相変わらず不機嫌そうに壁に背を預けていた。自身はまだインターンが決まっていない焦りや苛立ち、そして何より、またしても命懸けの現場でボロボロになって帰ってきた緑谷くんたちの姿が、彼のプライドを逆撫でしているのは一目瞭然だった。
同時刻――。
瀕死のサー・ナイトアイの命を繋ぎ止めた白煙くんと透ちゃんは、未だに大病院のカンファレンスルームにいた。
「なるほど……あの瞬間、煙の個性を微細にコントロールして気道を確保しつつ、血圧を維持したわけか。実に見事な初期トリアージだ」
そう言って白煙くんを大絶賛したのは、病院のベテラン医師だった。彼は白煙くんの師匠であるバックドラフトさんの古い知り合いらしく、「さすが、アイツの弟子だな。お前さんがいなければ、ナイトアイは病院に辿り着く前に確実に心停止していたよ」と、我が事のように誇らしげに笑ってくれた。
さらに、病室の前では通形ミリオ先輩からも、深く頭を下げられた。
「白煙くん、葉隠さん……! サーを、俺の、俺たちの先生を救ってくれて……本当に、本当にありがとう……!!」
個性を失い、自身も傷だらけのはずのミリオ先輩が、涙を流しながら何度も何度も感謝を伝えてくる。その強い想いに触れ、白煙くんたちは「ヒーローを救えて本当によかった」と、心の底から救助の喜びを噛みしめるのだった。おかげでナイトアイの容態も、少しずつではあるが確実に回復へと向かっている。
「エリちゃんは……」
「しばらくは様子見だ。巻き戻しが発生すれば、抹消で消す。お前も休め白煙」
「はい……!!」
一方、救出されたエリちゃんは、未だに高い熱を出して深い眠りの中にいた。
彼女の『巻き戻し』の個性が、またいつ暴走するか分からない危険な状態であるため、個性を強制的に抹消できる相澤先生(イレイザーヘッド)が、しばらく彼女の側につきっきりで看病することになった。
気がつけば、時計の針は深夜を回っていた。
今から雄英の寮に戻るには遅すぎるということで、病院側の計らいにより、医局の仮眠室を一部屋借りて一晩泊まらせてもらえることになった。
当然、白煙くんと透ちゃんの2人きりの部屋。
フローリングの床には、布団が2つ綺麗に並べて敷かれている。
普段なら「透ちゃんと2人きりで雑魚寝なんて……!」と、白煙くんの頭から白い煙が爆発しかねないシチュエーションだったが、今日ばかりは羞恥心よりも先に、限界を超えた肉体の疲労が襲ってきた。
「透ちゃん、おやすみ……」
「うん、おやすみ、エンちゃん」
白煙くんは布団に入るやいなや、文字通り一瞬で意識を失い、泥のような深い眠りへと落ちていった。
静かになった部屋に、規則正しい白煙くんの寝息だけが響く。
(エンちゃん、起きてる?)
(……すぅ……すぅ〜……)
(………………ヨシ)
隣の布団で寝ていた透ちゃんは、しばらくじっとしていたが、そっと自分の布団から抜け出した。そして、気配を殺したまま、白煙くんの敷布団の方へと潜り込んでいく。
(ちょっぴり……ほんのちょっぴり、邪な気持ちはあるんだけどね……!)
見えない顔を少し赤らめながら、透ちゃんは白煙くんの背中にそっと身体を寄せた。
今日一日、血と硝煙の匂いがする戦場の中で、誰よりも必死に命を救おうと戦っていた白煙くん。その身体から伝わってくる確かで優しい暖かさは、透ちゃんの張り詰めていた心をこの上なく安心させてくれた。
「エンちゃん、大好きだよ」
小さく呟き、白煙くんの温もりを抱きしめながら、透ちゃんもまた、幸せな眠りへと就くのだった。
「――ッッッ!?!?!?!?」
――翌朝、目が覚めた白煙くんが、腕の中に「いるはずのない透明な温もり」を感じて、心臓が止まるほどめちゃくちゃにびっくりするのは、言うまでもない。