個性「煙」の救煙レスキューヒーロー   作:ウルトラエックス

7 / 10
屋内戦闘訓練 白煙くん葉隠さんVS轟くん障子くん

「……5分間の作戦タイム、スタートだ!」

 

オールマイト先生のアナウンスが響き、薫と透ちゃんは作戦室へと入った。だが、ふたりの間には重苦しい沈黙が流れていた。

 

「ねえ、白煙くん……相手の轟くんって、どんな個性なのかな?」

 

透ちゃんの手袋が、不安そうにおずおずと差し出される。薫は顔の灰色の煙を一層どんよりと波立たせながら、がっくりと肩を落とした。

 

「……知ってる。僕、彼のこと知ってるんだ、葉隠さん。中学は別々だったんだけど、他校の僕らの耳にまで噂が届くくらい有名だったんだよ。ものすごい氷を操る、化け物級の天才がいるって……」

 

薫は頭を抱え、最悪の未来をシミュレーションし始めた。

 

「僕の予想を言っていい、葉隠さん? ……まず、訓練開始のブザーが鳴るよね。そしたら轟くんがビル全体を一瞬で凍らせて、僕らの動きを止めるんだ。そこに、あの握力540キロの障子くんがやってきて、身動きの取れない僕らをドゴォンって殴って2人とも気絶。はい、訓練終了。所要時間、多分1分……」

 

「わあああ! 具体的かつリアルで怖いよぉ!!」

 

透ちゃんの手袋が頭を抱えて激しく左右に振られる。

 

「私もね、私が完全に裸になって潜入しても、障子くんの『複製腕』の耳に足音で気づかれて、背後からドカンとやられる未来しか見えなかったの……!」

 

お互いに最悪の予想が見事に一致してしまい、ふたりは作戦室の隅っこで体育座りをしてズーッと落ち込み始めた。灰色の煙が部屋の隅に淀んでいく。

その時、透ちゃんがハッと何かに気づいたように手袋をポンと叩いた。

 

「……待って。でも、白煙くんの個性って、物理攻撃をすり抜けるんだよね? 障子くんに殴られても、すり抜ければ気絶はしないんじゃない?」

 

「あ……うん、そうなんだけどね。全身を完全に煙化していればすり抜けるんだけど……不意を突かれたり、動揺して個性の維持が解けちゃうと、普通に当たっちゃうんだ」

 

薫は少し恥ずかしそうに、自分の首元に手を当てた。

 

「例えば、今みたいにすごく緊張してたり、急に強い風が来たりすると……ほら、こんな風に」

 

薫がわざと個性の出力を一瞬だけ緩めると、顔を覆っていた白い煙が、ふわりと風に払われるように薄くなった。

 

「あ……」

 

透ちゃんの手袋が、ぴきりと空中で静止した。

煙の隙間から一瞬だけ露わになったのは、透き通るような白い肌、流れるような美しい銀髪、そして緊張に少し潤んだ、吸い込まれそうな金色の瞳。それは、絵画から抜け出してきたかのような、とんでもない美少年の素顔だった。

 

「……っ!?」

 

「わっ、ごめん! すぐ戻すね!」

 

薫が慌てて個性を入れ直すと、ボフッと再びいつもの白い煙が顔を覆った。

しかし、透ちゃんは別の意味で完全に固まっていた。姿は見えないが、今彼女の顔が真っ赤に変色しているのが空気で分かるほどだ。

 

(な、ななな、何いまの美少年!? 煙の中身、あんなにカッコよかったの!? 少女漫画!? 少女漫画が雄英に転校してきたの!?)と、心の中で大パニックを起こしている。

 

「は、葉隠さん……? どうしたの? やっぱり僕らの作戦、こんなので大丈夫かなって呆れちゃった……?」

 

自分の素顔の破壊力に1ミリも気づいていない薫は、手袋がカチコチに固まっているのを見て、オロオロと顔の煙を右往左往させていた。

顔が見えない少年と、姿が見えない少女。

ラブコメの波動と絶望的な戦力差がごちゃ混ぜになったまま、非情にも作戦タイム終了のブザーが鳴り響くのだった。

 

「――屋内対人戦闘訓練、スタート!!」

 

オールマイト先生の開始アナウンスが響き渡ると同時に、薫は意を決して透ちゃんに向き合った。

 

「葉隠さん、作戦なんだけど……。僕がおんぶして、そのまま煙になって上空へ浮遊する。これが僕の、精一杯思いつける作戦なんだ」

 

薫の提案はシンプルだが合理的だった。物理無効化の煙になってしまえば、床から来る攻撃も、軽量化して浮かび上がることで回避できる。

しかし、おんぶという密着度の高い提案。本来なら恥ずかしがるはずの透ちゃんだったが、その浮いている手袋は機械のようにコクコクと頷くだけだった。

 

「う、うん。白煙くんの言う通りにする。イエス、オールオッケー」

 

「えっ、あ、ありがと……?」

 

実は透ちゃん、先ほど一瞬だけ見えた薫の「銀髪・金眼の美少年」の素顔が脳裏からまったく離れず、完全にキャパオーバーを起こしていたのだ。頭の中がピンク色の煙で満たされている透ちゃんは、ただのイエスマンと化していた。

薫は透ちゃんを背中に背負うと、全身をブワッと完全な「煙」へと変化させ、ふわりと天井近くまで浮かび上がった。

 

直後――ピキピキピキィィイイン!!!

 

凄まじい轟音と共に、ビルの床、壁、天井のすべてが一瞬にして分厚い氷に覆い尽くされた。作戦室のドアの隙間から冷気が吹き込み、ビル全体が巨大な氷の城へと変貌する。

 

(予想通りだ……! 轟くん、ビル全体を凍らせたんだ……!)

 

あまりの威力に薫の煙がヒヤリと震える。

しかし、モニター室のオールマイト先生から「ヴィランチーム勝利」のアナウンスは流れない。足場を失わせたはずのヒーローチームが、まだどこかで生きていると判断されたのだ。

 

『轟、奴らまだ動けるぞ。氷の拘束に引っかかってない』

 

『……そうか。障子、索敵を頼む』

 

無線から漏れ聞こえるヴィランチームの会話。

予測を外された轟くんの指示を受け、6本腕のパワータイプ・障子くんが、不気味な足音を立ててヒーローの捜索へと動き出した。

カツン、カツンと氷を踏みしめる音が響く中、薫は透ちゃんを背負ったまま、自身の出す白い煙に身を隠しながらゆっくりと廊下を移動していた。

氷に閉ざされたビル内は息が白くなるほど極寒だったが、透ちゃんは寒さを感じていなかった。

 

(……あれ? 煙の中って、なんだか意外と温かいなぁ……)

 

衣服を脱いでいる透ちゃんにとって、薫の「煙」はまるで温かい毛布のように優しく身体を包み込んでくれていた。おまけに背中に感じる薫の感触に、姿は見えないが彼女の顔は再び沸騰寸前だった。

 

「葉隠さん、次の作戦するよ」

 

薫が小声で囁いた。

 

「ただ逃げているだけじゃ、轟くんと障子くん相手にあのはりぼて爆弾には触れない。ここで確実にヴィランチームの1人を捕獲しないと、実力のある2人がかり相手に勝機はないんだ。……幸い、障子くんは僕の『物理攻撃無効化』の個性をまだ知らないはず。僕が囮になって、障子くんにわざと殴らせる。その隙に、背中の葉隠さんがヴィラン捕獲用テープで、障子くんを捕まえるんだ。葉隠さんに負担をかけるけど、出来そう……?」

 

「うん……! 任せて、白煙くん!」

 

ようやく正気に戻った透ちゃんの手袋が、薫の肩をぎゅっと掴む。

ゆっくり、ゆっくりと、煙を漂わせながら角を曲がる。

その先には、何本もの触手を周囲に伸ばし、全神経を集中させて索敵している障子くんの巨大な背中があった。

薫はゴクリと唾を飲み込み、顔の白い煙を戦闘モードへと波打たせる。

 

「……いくよ、葉隠さん。作戦、開始!」

 

煙の身体が、障子くんの死角から一気に滑り出した!

 

薫は全身の煙を周囲の冷気に溶け込ませるようにして、背中の透ちゃんと共に、ふわふわと障子くんの背後へと肉薄した。

完璧な奇襲――のはずだった。

 

「そこか!」

 

「えっ!?」

 

突如、障子くんの触手の先端に「目」がいくつも形成され、ギロリと真後ろの空中に浮かぶ煙を捉えたのだ。彼の個性「複製腕」は、耳だけでなく目も複製できる。死角など最初から存在しなかった。

 

「はあああッ!!」

 

振り返りざまに放たれる、質量540kgの破壊力を秘めた6本腕の猛烈な一斉パンチ!

 

「しまっ……!」

 

薫はとっさに意識を集中させ、全身を完全な煙へと変えた。ドガガガガアン!と拳が空気を切り裂く。

物理無効化のおかげで直撃は免れたものの、あまりの風圧に個性の維持が揺らぎ、拳の風が顔のすぐ横をすり抜けていった。

 

(ひ、ヒヤリとした……! 今、ちょっとだけかすった気がする……っ!)

 

心臓が跳ね上がる薫。一方で、手応えが一切なかった障子くんも「なに……!? 拳がすり抜けた!?」と目を見開いて驚愕している。

 

「今だよ、葉隠さんっ!」

 

「いっけえええーーー!!」

 

薫の合図とともに、おんぶされた透ちゃんの手が、障子くんの太い腕目掛けてヴィラン捕獲用テープを力いっぱい巻き付けた。ぐるぐると腕を縛り上げ、身動きを封じることに成功する。

 

「やったぁ!」

 

透ちゃんが歓声をあげたのも束の間、障子くんは冷静にその「縛られた腕」を注視した。

 

「……なるほど。だが、俺のこの腕は『複製』したものだ」

 

直後、障子くんがふんぬと力を込めると、テープが巻かれていた触手そのものがシュウゥゥと霧のように消滅した。そして、何事もなかったかのように新しい腕が瞬時に生えてくる。捕獲テープは虚しく床にポロリと落ちた。

 

「そんなのありぃいいーーー!?」

 

透ちゃんの絶望の悲鳴がビル内にこだまする。

 

「作戦失敗だ、逃げるよ!!」

 

薫は顔の煙を全開にして周囲を真っ白な目くらましで覆うと、透ちゃんをおんぶしたまま全力の煙化で廊下を猛ダッシュした。

 

「待て!」

 

背後からは、氷を力強く踏みしめながら障子くんが凄まじいスピードで追いかけてくる。

 

「白煙くんごめーーーん! 私のせいで……!」

 

「ううん、葉隠さんは悪くないよ! 雄英の個性の使いこなし、やっぱりみんな一筋縄じゃいかないよ……っ」

 

必死に角を曲がり、障子くんを振り切ろうとしたふたり。しかし、曲がったその瞬間に、廊下の空気が一気にマイナス数十度まで急降下した。

 

「……そこまでだ」

 

目の前に立ちはだかっていたのは、右半身から冷気を立ち上らせ、冷徹な瞳で見下ろしている轟くんだった。

前には圧倒的な氷の天才。後ろからは、すぐそこまで迫るパワータイプの障子くん。挟み撃ちだ。

このまま戦闘になれば、自分はすり抜けられても、生身の透ちゃんが轟くんの氷結に巻き込まれるか、障子くんの怪力に晒されて確実に大怪我をしてしまう。

 

(葉隠さんが、危ない……!)

 

薫は透ちゃんを庇うように一歩前へ出ると、顔の白い煙を大きく揺らしながら、両手をこれ以上ないほど高く突き上げた。

 

「こ、降参します!! 僕たちの負けです、降参!!」

 

直後、ブーーーッと演習場に終了のブザーが鳴り響く。

 

『そこまでぇええ!! ヴィランチーム……勝利ィィイイ!!!』

 

モニター室のオールマイト先生の豪快な声が響き渡った。

結果は完敗。けれど、強敵を前にしてもお互いを思いやり、最後は仲間を守るために迷わず降参を選んだ薫と透。

悔しさと安堵が入り混じる中、2人の初めての戦闘訓練は、こうして幕を閉じたのだった。

 

 




白煙くんの素顔
銀髪金眼の美少年
ただし、本人は全くの無自覚
その理由は少し先の本編にて

ヒロインの葉隠さんが原作美少女だったので、オリジナル主人公もまた美少年になりました
イメージはfgoのギャラハッド
あくまで作者のイメージなので、皆さんは自由に想像してください
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。