洸汰くんとの再会、そして宿舎の温かな時間
文化祭の熱狂から数日後。1年A組のハイツ・アライアンス(寮)に、懐かしいお客様がやってきた。夏合宿でお世話になったプロヒーローチーム「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ」の面々だ。
そして、その傍らには小さな男の子――洸汰くんの姿もあった。
「洸汰くん!!」
緑谷くんが目を輝かせて駆け寄ると、洸汰くんは少し照れくさそうに帽子のツバをぐっと深めにかぶり直した。しかし、その表情は以前の頑なな態度が嘘のように柔らかく、どこか嬉しそうだ。
「……文化祭のビデオ、見たよ。緑谷にいちゃん、すごくカッコよかった」
ボソリと呟かれた小さな言葉に、緑谷くんの顔が一気にほころぶ。ふたりの再会を、プッシーキャッツのメンバーも温かい笑顔で見守っていた。
一緒に観る「ヒーロービルボードチャートJP」
その日の夕方。A組のコモンスペースやそれぞれの自室では、テレビで生放送されている注目の番組『ヒーロービルボードチャートJP 下半期』にみんなの視線が集まっていた。
白煙くんの部屋では、二人で仲良くソファに並んでテレビ画面を見つめる白煙くんと透ちゃんの姿があった。
「エンちゃん、始まったよ! 日本のトップ10ヒーローの発表!」
「ううん、ドキドキするね……! オールマイトが引退してから初めてのビルボードチャートだもんね」
画面越しにアナウンサーの熱い実況が響き渡り、会場のボルテージが上がっていく。
* 第10位:リューキュウ
「あ、梅雨ちゃんや麗日さんがインターンでお世話になったリューキュウさんだ! ドラゴンの個性、やっぱり迫力あるなぁ」
* 第9位:ヨロイムシャ
「歴戦の重鎮さんだね。うーん、私はあんまり詳しく知らないかも……」
* 第8位:ウォッシュ
「あ! 洗濯機モチーフのウォッシュさん! 子供たちに大人気なんだよね。レスキュー特化で本当にかっこいい!」
* 第7位:シンリンカムイ
画面を見ながら白煙くんが少し申し訳なさそうに頭をかく。「神野区の事件のとき、僕(黒煙)と戦ったらしいんだ……本当にご迷惑をおかけしました……」
* 第6位:クラスト
「盾の個性のクラストさん! いつ見ても熱い涙を流してて熱血だよね!」
* 第5位:ミルコ
「うわぁ、兎の個性のミルコさん! すごい躍動感……僕、初めて見たかも」
* 第4位:エッジショット
白煙くんが再び肩をすくめる。「あ、エッジショットさん……この方にも神野区で僕が(黒煙が)戦ったみたいで……すみません……」「エンちゃん、エンちゃんが謝ることじゃないよ~!」と透ちゃんが優しく肩を叩く。
トップ3の発表と、新時代の予感
そして番組はいよいよ、トップ3の発表へと移り変わる。
* 第3位:ベストジーニスト
オール・フォー・ワンとの死闘で重傷を負い、未だに長期休業中。ステージに本人の姿はなく、会場には静かな緊張が走る。
* 第2位:ホークス
背中に大きな剛翼を持つ、弱冠22歳の若き天才ヒーロー。
「22歳で日本2位なんて……すごすぎるよ。僕たちのたった6歳上だなんて、信じられないな……」白煙くんは画面に映るホークスの余裕ある立ち振る舞いに、心から感嘆の声を漏らした。
* 第1位:エンデヴァー
そして、堂々の1位として壇上に立ったのは轟くんの父親、エンデヴァー。
オールマイト不在の今、名実ともに頂点に立った男だ。
「轟くんのお父さんだ……。体育祭でも圧倒的だったし、ずっとオールマイトを超えようと努力し続けていた人。やっぱりすごい存在感だな……」
番組が終了した直後――画面の向こうでは、大きな動きが起こっていた。
壇上で2位のホークスが、1位になったばかりのエンデヴァーへ異例の「チームアップ」を要請したのだ。
「九州(福岡)の方で、不穏な噂やヴィランの目撃情報が相次いでいましてね。新ナンバーワン、俺と組んで一肌脱いでくれませんか?」
不敵に笑うホークスと、それに応じるエンデヴァー。
日本のヒーロー界のトップ2が、舞台を福岡へと移し、新たな嵐の渦中へと踏み出そうとしていた。
世間が新体制に沸き立つその裏で、時代の歯車は静かに、しかし確実に激しく狂い始めていた――。
破滅の爪痕と、暗躍する影
福岡県博多――。
九州の空気を切り裂くように聳え立つ超高層ビルの下、エンデヴァーとホークスは街の喧騒から少し離れた焼き鳥屋の個室にいた。
香ばしいタレの香りが漂う店内。最初のうちは、若きナンバーツー・ホークスの軽妙な雑談と、それを苦々しく聞く新ナンバーワン・エンデヴァーという構図だった。しかし、運ばれてきた焼き鳥に手を付けた頃、ホークスの表情からふっと軽薄さが消える。
「……本題に入りましょうか。最近、日本各地で『脳無』の目撃する噂が絶えないでしょう?」
「噂は知っている。だが、どれも都市伝説の域を出ん低級なものばかりだ」
「ええ。誰かがわざと噂を流して、世間を攪乱しようとしている……最初はそう思ってたんです。でもね」
ホークスは眉をひそめ、困ったような、どこか底冷えするような顔を見せた。
「……一部の噂だけ、どうも気になるんですよね。噂にしては妙に信憑性が高い。だから俺、自分で確かめに行ったんです。そしたら……本当に、実際に脳無が一体だけ居ました」
「……何だと?」
エンデヴァーの目つきが変わる。神野の事件で壊滅したはずのヴィラン連合、そして脳無の影。
「捕獲には成功しました。しかし、その脳無、俺たちが知ってるような意思のない人形じゃなかった。まるで……俺たちプロヒーローの出方を試すように、あるいは何かを警告しているような――」
――ドォォォォォォンッ!!!!
ホークスの言葉を遮るように、空を揺るがす凄まじい爆発音が轟いた。
二人が飛び出した目線の先、博多のシンボルである超高層ビルの上層部が、巨大な衝撃によって激しく吹き飛んでいた。
煙の巻き起こる空に現れたのは、これまでの脳無とは明らかに一線を画す異形――自立思考を持ち、言葉を喋る**「ハイエンド脳無」**だった!
「強イ奴ハ何処ダ……! 俺ト戦エ……!」
「ハッ、噂を言えば何とやらだ! 行くぞホークス!」
「了解! 俺はビルの避難誘導と救助へ回ります!」
激突するナンバーワンとハイエンド脳無。エンデヴァーの圧倒的な熱量が夜空を焦がし、ホークスの『剛翼』から放たれる千本の羽が、崩落する瓦礫から人々を間一髪で救い出していく。
だが、ハイエンドは己の肉体から、無数の「量産型脳無」を生み出し、街へと解き放った!
「くっ……! 救助と同時に、あいつらの処理も――!」
ホークスが背中の羽を全開にし、量産型脳無を撃退すべく音速の踏み出しを見せようとした、まさにその瞬間。
ビルの陰から、空間を塗りつぶすような漆黒の煙が沸き立ち、ホークスの視界を遮った。
「――初めまして、ナンバーツーヒーロー・ホークス様」
闇の中からヌッと現れたのは、黒い雄英高校の制服の少年。
その姿は、雄英高校の白煙くんと瓜二つでありながら、全身から放たれるのは狂気すら孕んだ圧倒的な冷気。
「……ッ!?」
ホークスは空中ピタリと足を止め、鋭い視線を黒煙へと向けた。
「……おたく、どちらさん?」
「黒煙と申します。以後お見知りおきを」
黒煙は優雅に胸に手を当て、深々と一礼してみせた。その背後では、ハイエンドとエンデヴァーの激しい死闘の炎が燃え盛っている。
「……君か。泥花市あたりで怪しい動きをしてるっていう、ウワサの『影』は。こんなところで何してるのかな? 俺は今、すこぶる忙しいんだけど」
ホークスが牽制するように数本の羽を黒煙の首元へ滑らせる。
しかし黒煙は、仮面の奥で不敵に目を細めると、低く滑らかな声で呟いた。
「なに、邪魔をしに来たわけではありませんよ。……ただ、あちらの『最高傑作(ハイエンド)』のテストプレイを、特等席で見学させてもらおうと思いましてね」
黒煙の目的は一体何なのか。
そして、激化する福岡の地で、エンデヴァーとホークスはこの絶望的な状況を打ち破ることができるのか――!
黒煙、乱入