轟くん
瀬呂くん
峰田くん
「――うおおおおおッッ!!! 神が!! 神が俺たちに奇跡の職場(楽園)を与えてくださったァァァッッ!!!」
雄英高校1年A組の宿舎『ハイツ・アライアンス』のリビングに、地を車輪が這うような、しかし魂をすべて滾(たぎ)らせた凄まじい絶叫が響き渡った。
叫んでいたのは、仮免許証を握りしめ、目が血走るほどに興奮した峰田くんだ。
その横では、普段はラフで冷静な瀬呂範太クンも、なぜか両肘からテープをシャカシャカと高速射出しながら、見たこともないほどの熱い脳波を放っていた。
「おい峰田、落ち着け! だけど……分かる、分かるぞその気持ち!! 今回の合同インターンの依頼書、まさか全国のトップ地下アイドルが一堂に会する一大決戦――『全日本アイドル・グランプリ』の舞台裏の護衛任務だなんてよォォォッッ!!」
「そうだろ瀬呂ォ! 今をときめく絶対的センターのあの子や、あのロリ系アイドルの生歌を最前列で警護できるんだぞ! これはもはや任務じゃない、神への謁見だァァアアアッッッ!!!(血の涙)」
二人の圧倒的な「アイドルオタク」としての邪念と熱量に、リビングの空気は一瞬にして謎の熱気に包まれていた。
「……? アイドル、グランプリ……? 瀬呂、峰田、お前たちは何の話をしているんだ?」
その混沌の渦の中心で、左右非対称の髪を持つ少年――焦くんが、首を傾げて天然100%の疑問の脳波を放っていた。
現在ナンバーワンヒーロー・エンデヴァーの元で幼少期から英才教育しか受けてこなかった彼には、『アイドル』というポップカルチャーの概念が1ミリも存在していなかったのだ。
「あはは……。僕も、あんまりテレビを見ないから、アイドルのことってよく分からないんだよね」
白煙くんも頭の煙を揺らしながら、少し困ったように綻ばせて苦笑いしていた。
瀬呂くんと峰田くんの脳内から漏れ出る「推しへの愛(邪念)」のノイズが凄まじすぎて、少し眩暈を覚えるほどだった。
「――騒ぐな、合理的じゃない」
ガチャリ、とリビングの扉が開き、担任の相澤先生が冷淡に告げた。
「今回の任務は、ただのイベント警備ではない。公安委員会を通じて、そのアイドル大会の主催者宛てに『大会を中止しなければ、ステージごと観客もろとも爆破・粉砕する』という、悪質な【連続爆破脅迫状】が届いた。……相手の個性の詳細、および爆弾の設置場所は不明。お前たち4人には、都内のドーム会場に潜入し、その脅迫ヴィランの犯行を未然に阻止(ホールド)してもらう」
相澤先生の、プロとしてのシリアスな説明。
「瀬呂、峰田、お前たちのその『現場の地理に詳しい(オタク知識)』知識と、轟の火力、それから白煙の救助が必要だ。……気張ってこい」
「「「「はいッ!!」」」」
「よし行くぞお前らァ!! 脅迫ヴィランのクソ野郎、俺たちの聖域を汚す奴は、俺のテープでグルグル巻きのミイラにしてドナドナしてやるからなァァッ!!」
「絶対の死刑だァァッ!!」
鼻息を荒くしてコスチュームに着替える瀬呂・峰田コンビ。
「……よく分からないが、爆破テロの阻止だな。任せておけ、全力でいく」
右側の氷結と左側の赫き炎の出力を静かに確認する、真面目な轟くん。
「うん、僕も万が一に備えるよ」
不屈の闘志を青い瞳に宿す僕。
こうして、【アイドルへの熱量が130万ボルト超えのオタク組】と、【アイドルのことが1ミリも分からない真面目・天然組】という、テンションの差がありすぎる前代未聞のチグハグ凸凹チームによる、都内アイドル護衛ミッションの幕が、騒がしくも熱く切って落とされるのだった。
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数時間後。
僕たち4人を乗せたプロの車両が到着したのは、超満員の観客で溢れ返る、都内の巨大ドーム会場のバックステージだった。
「うおおおおおっ!! 本物の衣装の匂い! 楽屋の前の空気!! すれ違うアイドルたちの私服姿ァァァッッッ!!!」
峰田くんがアジトへの突入時以上のスピードでステップを踏み、瀬呂くんも「おい、あそこにいるの今期覇権のグループのセンターだぞ……! 生きててよかった……!」と壁に手をついて感動に打ち震えていた。
「……白煙、あそこにいる女の子たちは、なぜみんな一様に同じような短いスカートを穿いて、同じような髪型で、同じようなステップを踏んでいるんだ? 伝統芸能のルールか?」
轟くんが真剣な顔で僕の耳元で質問を飛ばしてくる。
「あはは……、あれはね、轟くん。グループアイドルっていってね……」と、僕が一生懸命に轟くんに現代日本のアイドル文化をレクチャーしている間も、瀬呂くんと峰田くんはステージの袖へと急いでいた。
ブゥゥゥゥゥゥ―――ッッッ!!!
その瞬間、ドーム全体に、地鳴りのような数万人のファンの大歓声と共に、運命のアイドル・グランプリの開幕を告げる爆音のホーンが鳴り響いた。
きらめくサイリウムの光の海の裏側で、爆破テロを企む脅迫ヴィランのドス黒い悪意の脳波が、僕たちのすぐ足元から、不気味に、確実に、拍動を強め始めていた――。
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「おい、そこなァァッ!! スケッチブックの文字のフォントが数ミリ細ぇんだよ! 推しへの愛がボケるだろうがッ!!」
「な、何だとテメェ、この手作り感がいいんじゃねえかッ!」
ドーム会場の裏導線、関係者以外立ち入り禁止の薄暗い搬入路で、僕たち4人が最初に対峙したのは、不審者ではなく、物凄い熱量で推しグッズを掲げていた熱狂的な男性3人組だった。
「待て、お前らが持ってるそれ、今期限定のプレミアタオル……!! お前ら、ガチの古参か!?」
瀬呂くんが鋭く見抜く。
「おうよ! 俺たちはあの子が地下のキャパ50人のハコにいた頃から、ずーっと最前列で支え続けてきたんだよ!!」
その熱いオタクの誇りを感じ取った瞬間、峰田くんと瀬呂くんの目が血走り、「同志よォォォッッ!!!(ガシッ)」と、不審者チェックの任務を忘れて、その3人組と涙ながらに熱い握手を交わして意意気投合していた。
(……見回り開始3分で、完全にオタクの社交場になってるよ)
白煙くんは、隣でポカンとしている轟くんと共に、苦笑いを浮かべるしかなかった。
しかし、その直後、楽屋の扉の隙間から、一人の少女(トップアイドル)が、今にも泣き出しそうに佇んでいるのを捉えた。
「……私、もう、歌うのが怖いの。脅迫状のせいだけじゃない。私がメジャーに行けば行くほど、みんなが遠くなって……何のために仕事をし続けているのか、分からなくなっちゃって……っ」
ステージに上がる直前、プレッシャーと孤独に押し潰されそうになって震える彼女。
プロの大人たちすら声をかけあぐねるその瞬間、鋼の枷を外したかのように一歩前へ踏み出したのは、他でもない峰田くんだった。
「――何を弱気になってんだよ、お姉さん!!!」
峰田くんが、自分の頭のもぎもぎを握りしめ、かつてないほど真っ直ぐな、熱い瞳でアイドルを見上げた。
「お姉さんが地下にいた頃も、ドームに立った今も、オイラたちのやることは一つだけだ! お姉さんがステージの上で一瞬でも笑ってくれるなら、オイラたちは地獄の果てまで声の限りコールを送り続ける! 遠くなったんじゃねえ、オイラたちはお姉さんの背中を、もっと高い宇宙のてっぺんまで押し上げるためにここにいんだよォォォッッ!!」
峰田くんの、邪念を120%越えた、ファンとしての本気の『熱い想い』。
その言葉に、アイドルの瞳にじわりと熱い涙が浮かび、彼女は「……うん! 私、歌うよ!!」と、最高の笑顔を取り戻してステージへと駆け上がっていった。
「……峰田、お前、今のは少し格好よかったぞ」
轟くんが真面目な顔で感心し、僕も「うん、本当のヒーローみたいだね」と本当の地声で微笑んだ。峰田くんは「へへ、男には引けねえ夜があるんだよ……」と鼻の下を擦っていたが、瀬呂くんに「おい、鼻血出てるぞ」とツッコまれていた。
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ブゥゥゥゥゥゥ―――ッッッ!!!
爆音のファンファーレと共に、遂に『全日本アイドル・グランプリ』の幕が上がった。
スタジアムを埋め尽くす数万人のサイリウムの光の海。地鳴りのような歓声が響く中、ステージの袖で、瀬呂くんと峰田くんは、公式のペンライトを両手に4本ずつ挟んで、凄まじい速度で振り回していた。
「「――『オイ! オイ! 超絶可愛い、お姉さんーーーッッ!!!』」」
完璧なキレと、一糸乱れぬオタクコール(オタ芸)を炸裂させる二人。
「……白煙、あの二人はなぜ、これほどまでに肉体の限界を超えて腕を振り、声を枯らしているんだ?」
轟クンが爆音の中で僕に聞く。
「あはは……。僕にもよく分からないけど、轟くん。……あの二人の放っている『情熱』だけは、僕たちのプルスウルトラの時と同じ、本物の熱量だよ」
僕が素顔の瞳を少し細めて微笑むと、轟くんも「……そうか。ならば俺も、あの情熱に敬意を表そう」と、静かにステージを見つめていた。
しかし、その最高潮の熱狂を、最悪の『爆裂』のノイズがブチ破った。
ドガァァァァァァンッッ!!!!
ステージの床が突然爆発し、黒煙が立ち上る。
「キャアアアッ!?」とアイドルたちが悲鳴を上げて後退する中、煙の向こうから、全身に爆発の火花を纏った男が乱入してきた。
その男の顔を見た瞬間、瀬呂くんと峰田くんが息を呑んだ。
「お前……! さっき搬入路で一緒に八ツ橋を食った、あの古参の3人組の1人じゃねえか!!」
「そうだァァッ!!」
爆裂ヴィランと化したそのファンは、血走った目でステージのアイドルを睨みつけ、狂ったように叫んだ。
「あの子は地下にいた頃、俺たちだけのものだったんだ!! なのにメジャーに行って、こんな大勢の男共の前で笑顔を振り撒きやがって! 許せねえ、あの子をみんなに渡すくらいなら、俺だけのものにするために、このステージごと爆破して連れ去ってやるゥゥッ!!」
歪んだ、独占欲という名の最悪の悪意。
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「――ふざけるな。……テメェは、ファンじゃねえ」
瀬呂くんの声から、すべてのラフさが消え去り、極限の怒りが爆発した。
「ファンってのはなぁ……! 推しの幸せを、一番に祈る奴のことを言うんだよォォォッッ!!!」
「そうだそうだ! お前のそれはただのストーカーだギルティだ大爆発しろォォォッッ!!!」
「「――推しのステージを汚すクソ野郎は、絶対に許さねえええええッッッ!!!!」」
シュバババババババッ!!!
瀬呂くんの両肘から放たれた大量のテープが、爆破の火花を散らそうとしたヴィランの腕を瞬時にグルグル巻きにして完全封殺。そこへ、峰田くんが「これでも喰らえ、ファンとしての怒りの鉄槌ィィッ!」と、頭のもぎもぎ粘着球をヴィランの顔面にクリーンヒットさせた。
「ぶふぇっ!?」と怯んだヴィランを、二人は「推しへのコールを邪魔すんなァァッ!」と、怒涛のパンチとキックでボコボコにし、一瞬にしてステージの床へ叩き伏せて沈黙させた。
「二人とも強いけど、ここステージの上だよ!?」
数万人の観客が「え? なにこれ? 演出?」とポカンと口を開けてステージを見つめている。
このままではテロ未遂として大会が大パニックになってしまう。
(――僕たちで、この状況を完璧にコントロールするんだ!)
「轟くん、僕の煙に合わせて! 特大の演出をやるよ!」
「……了解した、白煙!」
僕は両手をサッと掲げ、煙をフワリと上空へと浮かび上がらせた。
さらに、轟クンが左半身から最大火力の『赫き炎』を空へ向けて爆発させ、一瞬にして真っ赤な美しい『花火』へとさせた。
「――全日本アイドル・グランプリの受験生の皆さん!! これこそが、本日特別に用意された、雄英高校ヒーロー科による特撮アクション・アトラクション(演出)です!!」
ドームのスピーカーを通じて数万人の観客席へと響き渡った。
「「「う、うおおおおおおおおっっっ!!! すっげぇ演出だァァァッッッ!!! カッコいい王子様ヒーロー達がヴィランを退治したぞォォオオオッッッ!!!!」」」
僕と轟くんの、完璧な『即興アドリブ・ショー』の演出により、本物のテロ未遂は「最高にエキサイティングな公式のイベント」へと完璧に塗り替えられ、ドーム全体から割れんばかりの大歓声と拍手が沸き起こった。
ステージの上のアイドルも、僕たちを見つめて「……ありがとう、ヒーローたち!」と、本日一番の、世界で一番きらめく笑顔を咲かせてみせたのだった。
バックステージの片隅で、拘束されたヴィランを引きずりながら、瀬呂くんと峰田くんは、やり切ったような顔で公式ペンライトを胸に抱きしめていた。
テンションの差がありすぎた僕たちの護衛ミッションは、最高の熱狂と、完璧なヒーローの連携によって、いよいよ運命のグランドフィナーレへと、どこまでも熱く、騒がしく、向かっていくのだった。
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「あ、ありがとう……っ! 本当に、本当にありがとうございましたぁぁぁ……っ!!」
イベントが無事に幕を閉じ、歓声の残響が響く都内ドームの楽屋裏。
先ほど僕たちの言葉でステージへと這い上がり、見事にグランプリの栄冠を掴み取ったあのトップアイドルから、手作りの可愛い色紙を手渡された瞬間、瀬呂くんと峰田くんは、床に膝をついて大号泣していた。
色紙には、可愛い特製のイラストと共に、彼女の直筆で『私の最高のヒーローたちへ!』と、一人ひとりの名前が入ったサインが綺麗に書かれていた。
「うおおおん! 家宝だ、末代までの家宝にするぞ瀬呂ォォォッッ!!」
峰田くんが色紙を額に掲げて大粒の涙をボロ泣きと流し、瀬呂くんも「俺、このサインのためなら、これからの地獄の補習授業だって100回は耐えられるわ……っ!」と、鼻をすすりながらハンカチを噛み締めていた。
その二人の、邪念を120%越えた純粋なファンの涙を、隣に立つ轟くんと共に静かに見つめていた。
「……なぁ、白煙」
轟くんが真面目な顔で、僕の耳元で本当の地声を響かせた。
「俺は、親父の背中やオールマイトの背中だけがヒーローの姿だと思っていた。だが……あの二人のように、ただ一人の女の子の笑顔のために命を懸けて声を枯らし、泥臭く戦う……。たまには、あんなヒーローの形も、悪くないな」
「うん……、そうだね、轟くん」
僕も瞳を少し細めて微笑んだ。
峰田くんたちのあの一点の曇りもない「誰かを応援する情熱」は、誰かの絶望を救う最高のヒーローの光だったのだ。
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数日後。
事件の後始末、および今回のテロ未遂を「最高のアドリブ演出」として被害ゼロで処理した功績(相澤先生からの『お小言なしの合理的処理』のA評価)を受け、僕たち4人は、グランプリの受賞記念として開催された『再びのアイドル合同大感謝祭』のステージへと、公式に招待されていた。
今回は私服姿での観客席(関係者VIP席)。
ドーム中を埋め尽くす数万人のサイリウムの光の海。
僕が隣の轟くんと並んで座っているだけでも、周囲の観客から「きゃあ、あの時のアドリブの王子様よ!」と黄色い歓声が上がっていたが、瀬呂くんと峰田くんはそんな雑音すら無視して、再び両手に4本ずつのペンライトを挟んで狂ったようにオタ芸(コール)を炸裂させていた。
「「――『オイ! オイ! 今日も世界一可愛いよ、お姉さんーーーッッ!!!』」」
ステージの照明が変わり、大歓声の中でセンターに立ったあのアイドルが、マイクを握って満面の笑顔を客席へと向けた。
そして、曲が始まる直前、彼女は僕たちの座るVIP席の方向を真っ直ぐに見つめ、そのきらめく両手を大きく振って、スタジアム中に響き渡る声で、こう叫んだのだ。
「――神野の事件を乗り越えて、私に歌う勇気をくれた、私の命の恩人!! ずっとずっと、生で会いたかった私の大好きなヒーロー……!!」
「おうよォォォッッ!! 俺だろお姉さん、オイラのことだろぅ!?」
峰田くんが狂喜乱舞して立ち上がる。
しかし、彼女の口から飛び出したのは、僕たちの予想を200%裏切る、衝撃の言葉だった。
「――本当に、本当にありがとう、ヒーロー『ショート』くん!! 私、これからもずっと、ショートくんのファンだからねーーーっっっ!!!」
ピカァァァァァァァッッッ!!!
彼女がステージの上から、特大のウィンクとハートマークを放ったその視線の先。
そこには、僕の隣で、相変わらず天然100%の無防備な顔をしたまま、自分の名前を呼ばれてポカンと口を開けている、轟くんの姿があった。
「「「「――えっ!!!?」」」」
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「……? 俺、か?」
轟くんが、自分の顔を指差して不思議そうに首を傾げた。
そう、これが現代のアイドルの、最高に気まぐれで熱い真実。
彼女は体育祭のあの『赤い炎』と『白い氷』を操り、圧倒的な実力で戦い抜いた轟焦凍の姿をテレビで見て以来、密かに轟くんのガチの「大ファン(推し)」になっていたのだ。
「……なるほど。あの子も、俺の個性に共感してくれたファンというわけか。……ありがとな、お姉さん」
轟くんは真面目な顔のまま、少し照れくさそうにステージの彼女へと真っ直ぐに右手を振り返した。
その、ステージの上の両想いのような(?)まばゆいきらめきを前に。
隣にいた瀬呂くんと峰田くんの二人は、カタカタと身体を震わせ、ハイライトが完全に消え去ったサタンの形相で、目からボタボタと『血の涙』を流していた。
「……おい、峰田」
瀬呂くんが、持っていた公式ペンライトをパキィン……と握り潰しながら、乾いた声で呟いた。
「……ファンってのはなぁ、推しの選んだ男なら、たとえそれが同じクラスの天然イケメン王子だろうが、笑顔で、祝福しなきゃ……ならねえんだよなァァァッッ!!」
「そうだ……、そうだ、瀬呂ォォォッッ!!」
峰田くんが自分の頭のもぎもぎを毟り取りそうな勢いで、血の涙を流しながら大号泣した。
「推しの幸せは……オイラたちの幸せなんだよォォォッッ!! だけど……だけど、なんで轟なんだよチクショォォォ!! イケメン爆発しろ! 二人まとめて大炎上しろォォォアアアッッッ!!!!」
「「――轟ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッッッ!!! 羨ましいんだよチクショォォォオオオッッッ!!!!(血の涙の絶叫)」」
ドーム全体の地鳴りのようなファンのコールの隙間に、お下劣・邪念コンビの、男の尊厳を懸けた悲痛な断末魔の叫び声が、虚しく響き渡るのだった。
それを見た僕は「あはは……。まあ、推しの幸せが一番だもんね」と本当の地声でクスクスと笑いながら、二人のハンカチを噛み締める姿を温かく見守るのだった。
テンションの格差がありすぎた、僕たちの都内アイドル護衛ミッション。
けれど、そこには確かに、お互いの個性を認め合い、誰かの笑顔のために泥をすする、新しき時代の青い空の下へ向かって、どこまでも騒がしく、熱く、歩み出していくのだった。