「――これより、1年A組・B組合同戦闘訓練、第4試合を開始する!!」
ブラドキング先生の怒号に近いアナウンスが、凍てつく演習場(グラウンド・γ)に響きわたる。第3試合でB組が見せた完璧な完封劇の余韻が残る中、B組陣営には確かな勝気が漂っていた。しかし、スタートラインに立つA組の4人が纏う空気は、それまでの試合と完全に一線を画していた。
中心に立つ爆豪くんの掌から、チリチリと凶暴な火花が爆ぜる。その背中を追う砂藤くん、瀬呂くん、峰田くん、青山くん。彼らの瞳には一切の迷いがなかった。
ピィィィッッッ!!
サイレンの重音と同時に、爆豪くんが爆炎を吹かして一直線に敵陣へ飛び出した。
「遅れてついて来んじゃねえぞ、クソども!!」
圧倒的な突進力。だが、B組の推薦入学者・取蔭切奈さんは冷徹に口角を上げた。
(来た……! 予想通り、頭に血ののぼりやすいアンタが単撃で突っ込んでくる! これがアンタの最大の弱点よ、爆豪勝己!)
「全員、作戦通り『爆豪殺し』発動!!」
取蔭さんの叫びとともに、彼女の全身が50以上のパーツに細かく分解された。個性『トカゲのしっぽ切り』。空中を自在に舞う手足や顔面が、多角的な弾幕となって爆豪くんの視界と鼓膜をジャミングする。
「なっ……前が見えねえ……!」
「かかったな爆豪ォ!!」
路地裏から飛び出した凡戸固次郎くんが、頭部から粘着液を大量射出する。個性『ボンド』。速乾性の高い粘性接着剤が爆豪くんの足元と両腕のガントレットにねっとりと絡みつき、その爆速の機動力を瞬時に奪い去った。
「ウオオオッ! 刻み刻んでやるぜぇ!!」
動きの止まった爆豪くんへ、全身から全身刃を突き出させた鎌切尖くんが超高速の連撃で襲いかかる。刃が爆豪くんのコスチュームを切り裂き、激しい金属音が夜気を震わせる。
さらに、退路を断とうと地面から飛び出したのは泡瀬洋雪くんだ。
「逃がさねえよ! 俺の『溶接』で、瓦礫と一緒に固まってな!!」
泡瀬くんが両手を突き出すと、爆豪くんの腕部アーマーと巨大なコンクリート片が分子レベルで結合。爆豪くんは完全に地面へと縫い付けられた。
「勝った……! A組の最大戦力を、一分足らずで無力化したわ!」
取蔭さんが浮遊する頭部で勝利を確信し、ニヤリと笑う。鎌切くんが刃を突きつけ、凡戸くんと泡瀬くんが後方から完全に退路を塞ぐ。四方八方からの完璧な連動攻撃。
だが、完全に拘束され、血を流しながらも、爆豪くんの三白眼は一切死んでいなかった。どころか、仮面の奥で凶悪な笑みを深めていく。
「ハッ……何が『爆豪殺し』だ、ダボが」
「あぁ!?」
「いつまで俺ひとりを相手にしてると思ってんだ、クソどもが」
――その瞬間、B組の頭上から眩いばかりの極彩色の光が降り注いだ!
「僕の眩いばかりの輝き! 『ネビルフラッシュバン』☆」
上空から青山優雅くんが『ネビルレーザー』を拡散射出! 強烈な閃光がB組全体の視界を瞬時に奪い、浮遊していた取蔭さんのパーツ群が光の圧力で激しく乱れる。
「目がぁあ!?」
「くそっ、他の奴らか!」
「遅えんだよB組! お前の背中は守るって言ったろ、爆豪ォ!!」
「シュガーパワー!!」
瀬呂くんが両肘から射出した『テープ』が、爆豪くんの胴体へ正確に巻きついた。瀬呂くんは脚力を踏み込み、砂藤くんは泡瀬くんが溶接した瓦礫ごと、圧倒的な腕力で強引に引きはがして安全圏へ引き戻す! 迫る鎌切くんの追撃の刃も、瀬呂くんが網目状に仕掛けたテープの障壁が完璧に受け流した。
さらに、後方から猛スピードでステップを踏み込んでくる影――峰田くんだ!
「もぎもぎの恐怖を全身で味わいなァッ!!」
「わわわわっ!?」
「なんだこれ、取れねえ!?」
峰田くんが頭部の『もぎもぎ』を高速連射! 凡戸くんのボンド射出口、泡瀬くんの両手、そして鎌切くんの足元へ、寸分の狂いもなく正確に命中する。強力な粘着球によってB組3人の動作が物理的に硬直した。
「バカな……! 個々のカバー速度が早すぎる……!?」
取蔭さんが焦燥に顔を歪める。単なる「爆豪くんのワンマンチーム」ではない。爆豪くんを軸に、全員が完全に意思疎通を果たした「完成された小隊」がそこにはあった。
「遅せえんだよ、クソどもォォォ!!」
「やっちまえ爆豪!!」
「パワーマックス!!」
「援護は任せろ!!」
「ウィ☆」
自由を取り戻した爆豪が、爆炎の咆哮とともに空中に跳躍した。掌から放たれる圧倒的な熱量と風圧。ここからは、絶対王者の独壇場だった。
【1人目:凡戸固次郎】
「まずは手始めだぁ!」
「うわあああっ!?」
『もぎもぎ』で手を塞がれた凡戸くんの頭上へ、『爆速ターボ』で一瞬で回り込む。回避不能の至近距離から、手加減された精密爆破を頭部へ一撃。気を失った凡戸くんを即座に首ねっこで掴み、牢へ投げ込む!
【2人目:泡瀬洋雪】
「次ッ!」
「ーーーッ!?」
背後から必死に立て直そうとする泡瀬くんの気配を察知し、空中反転から『閃光弾(Stun Grenade)』を顔面へ炸裂させる! 視界と平衡感覚を奪われた泡瀬くんの胸元へ蹴りを叩き込み、倒れ込んだところを峰田くんが『もぎもぎ』で地表へ完全に固定。瞬時に捕縛完了!
【3人目:鎌切尖】
「暖ったまってきたァ!!」
「俺の刃を舐めるなァア!?」
「うるせぇェェッ!!」
粘着球を力任せに引きちぎり、全身の刃を狂乱のように振るう鎌切くん。だが、青山くんが放つレーザーの牽制と瀬呂くんのテープ誘導により、鎌切くんの攻撃軌道は完全に読まれていた。
爆豪くんは最小限の体さばきで刃をすり抜けると、鎌切くんの懐へ潜り込む。
「零距離――『APショット』!!」
「うぎゃああああああ!!」
「よしっ、確保!!」
ピンポイントで放たれた穿孔爆破の衝撃が鎌切くんの腹部を撃ち抜き、その巨体が崩れ落ちた。砂藤くんが鎌切くんを捕まえて牢屋に持って走る。
【4人目:取蔭切奈】
「そんな……数分で全員……!?」
一人残された取蔭さんは、全パーツを集約させて逃走を図る。しかし、逃げる先には瀬呂くんのテープ網と青山くんのレーザーポインターが完璧な包囲網を敷いていた。退路を完全に限定された取蔭さんの位置を、爆豪くんが見逃すはずもない。
「どこ見てやがる、トカゲ野郎」
「ひっ……!?」
「ハウザー……インパクトッッッ!!!!」
取蔭さんの頭上の空間を、爆豪くんの広範囲爆風が埋め尽くす。逃げ場を完全に失った全パーツが爆風の檻に閉じ込められ、一網打尽に収容された。
完勝
『B組全員、牢内に収容! タイム――3分11秒! 勝者、ぐぬぬ1年A組!!』
演習場に虚しく響く試合終了のサイレン。A組の被害、ゼロ。文字通りの「完全勝利」だった。
モニター室では、相澤先生が満足げに目を細め、オールマイトが「素晴らしい……!」と感動に震えていた。B組の生徒たちは、圧倒的な差で粉砕された現実に言葉を失っていた。
爆豪は汗を拭い、荒い息を吐きながらニヤリと不敵に口角を上げる。
「言ったろ。……ハッ、完勝だ」
差し出された爆豪くんの拳に、瀬呂くん、峰田くん、青山くんが次々と拳を強く突き合わせる。
かつて己の力のみで突っ走っていた少年は、仲間を信じ、仲間を生かし、勝利を掴み取る「完璧なヒーロー」として、圧倒的な存在感を演習場に刻みつけたのだった。
「すっごぉ……」
「カッコいい……!!」
透ちゃんは唖然として、白煙くんは目を輝かせている。
相手の猛攻を全て潰して、こちらの被害は一切無しの完全勝利。まさに理想の展開であり、ヴィランを倒すヒーローが目指すもの。
「あんな風に勝てたら、見てるこっちも気持ち良くなるね!!」
「うん。次は僕達だ。勝利パターン、敗北パターン、撤退パターン。思いつけるのは相談した通り。B組相手にどこまで出来るか。頑張ろう、透ちゃん」
「うん!!エンちゃん!!」
2勝2敗。
最後の試合は白煙くんと透ちゃんの出番だ。