個性「煙」の救煙レスキューヒーロー   作:ウルトラエックス

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合同戦闘訓練 第五試合 緑谷くん大暴走

「デクくん!!」

 

遠くで叫ぶ麗日さんの悲鳴のような声が、崩壊する建物の爆音を突き抜けて聞こえた。

 

「麗日さん……!? 待って、飛び出しちゃダメだ!!」

 

白煙くんが制止する間もなく、麗日さんは黒い鞭が荒れ狂う暴風の中心へと一直線に飛び出していった。あまりにも危険すぎる。四方八方に撒き散らされる巨大な瓦礫と、意思を持った大蛇のようにのたくる漆黒の帯。触れれば一瞬で肉体を打ち砕く威力が、演習場全体を破壊尽くそうとしていた。

 

「エンちゃん、どうしよう……! 先生たちのアナウンスも聞こえないし、このままじゃ緑谷くんも麗日さんも危険だよ……!」

 

見えない透ちゃんの腕が、不安と焦燥でぎゅっと白煙くんの肩を締めつける。

 

「試合と授業は、いつだってやり直せる……! でも、仲間のピンチは今救わなきゃダメだ! 緑谷くんの救出に向かおう、透ちゃん!!」

 

「うんっ!!」

 

迷いを捨てた白煙くんは、背中に透ちゃんをしっかりとおんぶした。そのまま自身の足元を濃密な煙に変流させ、噴射の推進力で爆風の中へと躍り出た!

頭上から降り注ぐコンクリートの巨塊と、空を切り裂く黒い鞭。白煙くんは全身の大部分を煙化させながら、一直線に空中のふたりを目指す。

 

 

ドカッ! バギィッ!

 

 

黒い鞭が白煙くんの胴体を幾度となく捉えるが、そのたびに煙の粒子となって受け流す。物理攻撃をすり抜ける白煙くんの個性が、この地獄のような状況下で最強の盾となっていた。

 

「透ちゃん、僕の背中から離れないで! 破片のガードは任せたよ!」

 

「任せてエンちゃん! 虎さん流・ガードっ!!」

 

白煙くんの背中にしがみついた透ちゃんは、煙化できない自身の身を守りつつ、白煙くんの頭上に降りかかる細かな瓦礫を必死の拳と腕で弾き飛ばす。

煙を吹き出しながら必死に空中を駆け上がり、ようやくお茶子ちゃんと緑谷くんの元へと到達した。

 

「麗日さん!! 緑谷くんの様子はどうなんですか!!」

 

白煙くんが大声で問いかけると、緑谷くんの身体を懸命に抱きかかえていたお茶子ちゃんが、涙を浮かべながら叫び返した。

 

「デクくんの意思やない……! 個性が完全に暴走しとるんや!!」

 

「止まら……ない……っ! 身体が……みんな、離れてくれ……ッ!!」

 

緑谷くんは激しく苦悶の表情を浮かべ、必死に右腕を抑え込もうとしていた。しかし、その全身から溢れ出る黒い鞭は、彼の意志を完全に無視して周囲を破壊し続けている。眼光は焦燥と恐怖で赤く血走り、力みすぎた腕からは血が滲み出ていた。

 

(自分の意思で止められないなら……意識そのものを絶つしかない!!)

 

白煙くんの目が鋭く光る。

 

「緊急事態だ……! 緑谷くん、申し訳ないけれど眠ってもらうよ!」

 

白煙くんはおんぶした透ちゃんを落とさないよう固く支えながら、自身の腕を緑谷くんの顔面ギリギリまで突き出した。そして、掌から特製の麻酔成分を極限まで濃縮した『濃厚麻酔煙』を、爆発的な勢いで噴射した!

 

シュアアアアッ――!!

 

「がはっ……!? 煙……っ!?」

 

お茶子ちゃんに直撃しないよう精密にコントロールされた麻酔煙が、緑谷くんの鼻と口を完璧に包み込む。

 

「デクくん……!」

 

「頼む……効いてくれ……っ!」

 

白煙くんの祈るような叫びとともに、麻酔成分が緑谷くんの気道を巡る。暴れまわっていた緑谷くんの瞳から徐々に光が失われ、その全身の強張りが解けていった。

 

「……あ……が……っ」

 

ガクリと首が落ち、緑谷くんが意識を失う。

それと同時に、演習場を崩壊させていた凶悪な黒い鞭たちが、まるで影が消えるように一瞬で霧散していった。

静寂が戻る演習場。

お茶子ちゃんの腕の中でぐったりと眠る緑谷くんを見届け、白煙くんと透ちゃんは大きく安堵の息を吐き出した。

 

「ふぅ……間一髪……だったね……」

 

「うん……エンちゃん、すごかったよ……!」

 

背中で透ちゃんが白煙くんの首にぎゅっと抱きつき、危機を乗り越えた安堵と信頼の温もりが、冬の冷たい空気の中に静かに伝わっていった。

 

 

 

 

暗く、どこまでも静かな漆黒の空間。

そこは現実でも、単なる夢でもなかった。白煙くんの麻酔煙によって意識を失った緑谷出久の、精神の深層――『ワン・フォー・オール(OFA)』の内部世界だった。

 

「おうおうおう!! 一体何をやらかしてくれてんだ、坊主!!」

 

静破を切り裂いて響いたのは、荒々しくもどこか温かみのある男の声だった。

立ち込める光の靄の中に浮かび上がったのは、二人の男のシルエット。首元に荒々しい皮の襟を巻いた大柄な男と、ハイネックのコートを着込み、口元を布で覆ったシャープな男。OFAの歴史を繋いできた5代目継承者・万縄大悟と、6代目継承者・煙(エン)だった。

 

「少し落ち着いてください、万縄先輩。この子も混乱しているでしょう」

 

「落ち着いていられるかよ、煙! 俺の『黒鞭』があんな暴れ方しちまってよ! 坊主も周りの連中も肝を冷やしたろ!」

 

緑谷くんは必死に二人に言葉を返そうとした。

 

(万縄さん……煙さん……! 僕は……さっきの力は一体……!?)

 

しかし、声が出ない。それどころか、己の顔に手をやると、口そのものが存在していなかった。言葉を発することも、叫ぶことも許されない異様な空間。

 

「―――ッ!? ――、―――ッ!」

 

「あぁ? なんだ……あ、お口が無いな。言葉が出ねえのか」

 

万縄が大きな手を頭の後ろに回して苦笑いを浮かべた。

 

「まだ意思疎通の段階としては時期が早すぎるんすよ。この子の心が焦り、OFAの中のエネルギーが爆発して意図せず引き出されてしまった……。だから『面影』の形すらまともに保てていないんです」

 

煙が静かに息を吐きながら、冷徹かつ客観的に現状を分析する。その瞳には、後輩である緑谷くんへの深い気遣いと心配の色が宿っていた。

 

「時間がありません。この空間もじきに途切れる。さっさと『個性』の説明を済ませましょう、先輩」

 

「おお、そうだな! 分かったよ煙。……おい坊主、よく聞け!」

 

万縄が胸を張り、自信満々に不敵な笑みを浮かべた。

 

「さっき暴走した俺の個性は『黒鞭』だ! 身体から黒い帯を放ち、物を掴んだり移動に使う……まあ、めちゃくちゃ良い個性だ! だがな、OFAの中で長い年月をかけて蓄えられた分、俺の現役時代とは比べものにならんほど出力が跳ね上がってやがる。強い感情(怒りや焦り)で使おうとすれば、さっきみたいに呑み込まれるぞ!」

 

「そして、僕の個性は『煙幕』だ」

 

煙がコートの襟を正しながら、自身の腕から微かな白い煙を漂わせた。

 

「身体から視界を遮る煙を吐き出す……それだけの力さ。……正直言って、君のクラスメイトにいる白煙薫くんの『煙』の個性の下位互換だよ。あの子のように身体そのものを煙に変えて攻撃をすり抜けることもできなければ、麻酔成分を混ぜるような器用なこともできない。ただの煙だ」

 

煙は自嘲気味に目を細めたが、その言葉には決して自棄ではなく、確かな自負が含まれていた。

 

「だけどね、使い方次第だ。戦場での目くらましや隠密、味方の脱出……単体では地味な力でも、OFAの圧倒的なパワーや他の個性と組み合わせれば、無限の選択肢が生まれる」

 

(黒鞭……そして煙幕……! 先代たちの『個性』が、僕の中で芽吹いている……!?)

 

言葉が出ない緑谷くんは、溢れ出る驚きと重圧に目を見開いた。万縄と煙、二人の歴戦のヒーローが、まっすぐな視線で緑谷くんを見つめ返す。

 

「暴走させたことを恐れるな。心をコントロールしろ。怒りで力を振るうな。……俺たちの個性を、手足のように使いこなしてみせろ!」

 

「君は一人じゃない。歴代の継承者全員が、君の中にいるんだからね。……ワン・フォー・オールを頼んだよ、緑谷出久くん」

 

二人の姿が光の粒子となって徐々に薄れていく。

万縄の力強い力瘤と、煙の優しくも力強い眼差し。その残光を目に焼き付けながら、緑谷くんの意識は再び現実に引き戻されていくのだった。

 

 

 

 

「はっ……!!」

 

緑谷くんが弾かれたように目を覚ました。荒い呼吸とともに目を見開くと、目の前には心配そうに顔を覗き込ませるお茶子ちゃんと白煙くん、そして透ちゃんの姿があった。

 

「デクくん、気付いた!?」

 

「良かった……! 息が整ったみたいで本当に安心したよ」

 

「おーい、大丈夫? 気分悪くない?」

 

「麗日さん……白煙くん、葉隠さん……。僕、一体……」

 

状況を呑み込めず戸惑う緑谷くんだったが、白煙くんの麻酔煙が綺麗に抜けたことで、瞳にはしっかりと理性が戻っていた。

だが、安堵の時間は一瞬で切り裂かれる。

 

 

 

「ハハハッ!! 隙だらけだよA組ィ! まだ試合は終わっちゃいない!!」

 

崩れた瓦礫の上から、物間くんが高笑いとともに飛び出した。その手には、小大さんの髪の毛から『コピー』した個性『サイズ』の力が宿っている。物間くんは手に持った小石ほどの建物の破片を、一直線に4人へ向けて投げつけた!

 

「くらえ!」

 

シュッ、と放たれた破片が、空中でお茶子ちゃんたちの頭上に迫った瞬間――ドゴォン! と超巨大なコンクリート塊へと膨張した! 圧倒的な質量の落石攻撃!

 

「透ちゃん、気を付けて!!」

 

「分かっ――」

 

白煙くんの声に重なるように響いた言葉に、透ちゃんが思わず返事をしようと口を開き――その動きがピタリと硬直した。

白煙くんの声ではない。首元に『ペルソナコード』を装着し、物間くんの影から姿を現した心操くんの『洗脳』だ!

 

(しまっ……透ちゃん、今の返事は洗脳だ……!)

 

「えいっ!」

 

白煙くんは瞬時に手元を煙に変え、透ちゃんの背中へぽんと軽く、しかし確実な衝撃を与えた。体育祭で緑谷くんが見せたように、強い物理的ショックで脳の支配を弾き飛ばす!

 

「ハッ……! あ、あれ……?」

 

(透ちゃん、落ち着いて! 今の心操くんの洗脳だよ!)

 

(ご、ごめんねエンちゃん! 助かったよー!)

 

正気を取り戻した透ちゃんが必死に口を押し当て、身をすくめる。間一髪で手繰り寄せた危機。白煙くんはお茶子ちゃんと緑谷くんに向けて、素早く無言のハンドサインと強い眼光を送った。

 

(相手は物間くんと心操くんの2人のみ! 緑谷くん、心操くんをお願いできるかい!?)

 

(任せて、白煙くん! 心操くんとは僕がもう一度決着をつける!)

 

(ウチは無重力(ゼログラビティ)で、気絶している小大さん、柳さん、庄田くんの3人を急いで檻へ運ぶわ!)

 

(頼んだよ、麗日さん!)

 

意思共有は一瞬。お茶子ちゃんは気絶したB組の3人を浮遊させて牢獄エリアへと走り出し、緑谷くんは自身のトラウマを払拭するように、気迫に満ちた跳躍で心操くんの懐へ飛び込んだ!

残されたのは、不気味に笑う物間くんと、白煙くん・透ちゃんのペア。

 

(僕と透ちゃんで、物間くんを倒す!)

 

(うん! 一緒に行こう、エンちゃん!!)

 

声は出さない。けれど、しっかりと交わし合った視線の中に確固たる絆があった。

白煙くんが全身から一気に白い煙を吐き出し、演習場の一角を濃密な視界不良地帯へと変貌させる。物間くんが「くっ……また煙か!」と周囲を警戒し、掴み取った『サイズ』の個性で巨大な瓦礫の盾を作り上げた。

しかし、その防壁は無意味だった。

白煙くんが煙の推進力を利用して真っ正面から突撃し、物間くんの視界を真っ白に染め上げる。




原作と違って、5代目だけでなく6代目の個性も解禁しました
6代目は煙幕の個性です
個性は世代を重ねるごとに強くなっています
そのため、同じ煙の個性でも白煙くんのほうが6代目より出来ることが多くなっています
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