「……エンちゃん、さっきの本当にめちゃくちゃ怖かったんだからね!?」
訓練が終わり、牢獄から解放された仲間たちが集まる中、透ちゃんが見えない手で白煙くんの腕をペチペチと叩いた。
「黒煙を真似してみたんだ。それに、物間くんの煽りに本気で怒ったのは本当だし……」
白煙くんは苦笑いを浮かべながら、少しバツの悪そうな顔で頬を掻く。すると、透ちゃんが急に声を弾ませ、見えない体をくねらせた。
「でもね……正直ゾクゾクしちゃった! あの闇に落ちかけた魔少年っぽいエンちゃんもすっごくアリ……!! なんか私の中で新しい扉が開いちゃいそう!!」
「お願いだからその扉は閉じてね。僕はいつもの優しい透ちゃんが好きだから、あまりそういうダークなのは好きじゃな――」
「いつもの透です!! 今のはナシでお願いエンちゃん!!」
透ちゃんが慌てて両手をブンブンと振る。白煙くんの「いつもの透ちゃんが好き」という言葉のストレートさに照れつつも、開かしかけた怪しい扉は速やかに木っ端微塵に砕け散ったのだった。
そんな二人のやり取りの横で、A組・B組の面々、そして教員陣が緑谷くんを囲んでいた。相澤先生の目が、疲弊した緑谷くんを鋭く射抜く。
「……言いたいことは山ほどあるが、緑谷、お前のは一体何なんだ」
「えっと、その……僕にもよく分からなくて……急に身体の中から溢れ出してしまって……」
緑谷くんは冷や汗を滝のように流しながら、必死に言葉を濁す。『ワン・フォー・オール』の秘密を守るため、脳内はフル回転だった。
「というか……そもそも、僕たちって緑谷くんの個性の名前自体を知らないよね?」
白煙くんの純粋な素朴な疑問が、静かな場に響き渡った。
「え」
緑谷くんの動きがピタリと止まる。
「そういえばそうだな。爆破とか半冷半燃とか、みんな大体知ってるけど」と瀬呂くん。
「うちもデクくんの個性の正式名称って聞いたことないかも」と麗日さん。
「なんだ? 個性届にはなんて書いて提出してあるんだ?」と相澤先生までもが首を傾げる。
(マズいマズいマズいマズいマズいマズい!!!!)
緑谷くんの心臓が早鐘を打つ。個性の名称を追求されれば、オールマイトから継承したという秘密に不自然な辻褄合わせが必要になってしまう。助けを求めるようにチラリとオールマイトへ視線を送ると――
(あばばばばばばばばばばばば!!??)
当のオールマイトもガタガタと全身を震わせ、冷や汗を吹き出しながら目を泳がせていた。かつての平和の象徴とは思えないほどの狼狽ぶりである。
その絶体絶命の空気を切り裂いたのは、意外な人物の乱暴な怒号だった。
「ハッ! クソデクの個性の名前なんざどうでもいいだろ!! どんな力だろうが、俺が一番上で全部叩き潰すことに変わりねえんだよ!!」
腕を組み、三白眼を苛立つように鋭く光らせる爆豪。
唯一『ワン・フォー・オール』の秘密を共有している彼なりの、あまりにも乱暴で完璧な助け舟だった。
「……まあ、爆豪の言う通り、個性の詳細な解明は追々やるとして、まずは保健室で検査だな」
(あ、危なかった……)
(ありがとう、爆豪少年……)
相澤先生の追求が逸れ、緑谷くんとオールマイトは胸を撫で下ろした。
(白煙の指摘はあたりめーだろうが!!偽の個性名ぐらい考えとけ、クソナード!!)
爆豪くんが怒るのも無理無かった。
宴の始まり
緊張の糸が切れたグラウンドに、クラス委員長の飯田くんが両腕をロボットのように激しく上下させながら割り込んできた。
「さあ! 合同訓練という過酷な試練を乗り越え、互いの成長を確かめ合えた良き日だ! これより、A組・B組合同の『お疲れ様会』を開催しようではないか!!」
「おー! いいね飯田ちゃん!」
「B組の連中も寮に呼んじゃおうぜ!」
切島や上鳴が歓声を上げ、文化祭以来の賑やかな空気に包まれる。互いに拳を交わし、アンチ策を張り巡らせ、泥臭く戦い抜いたからこそ、そこにはクラスの垣根を越えた確かなリスペクトが生まれていた。
「物間くんも、さっきはちょっと言いすぎちゃったけど、一緒にお菓子食べようね!」
「ふん……A組の食べ物など……もぐ。……美味しいじゃないか……」
透ちゃんに誘われ、渋々ジュースを手に取る物間くん。その横で白煙くんも優しく微笑んでいた。
冬の冷たい風が吹き抜ける演習場から、温かい料理と笑顔が待つハイアライザ(寮)へ。
1年A組・B組合同お疲れ様パーティ!
雄英高校A組男子寮の共用スペース。机には大量のピザやジュース、大鍋の特製鍋料理がズラリと並び、41人の熱気で溢れかえっている。
【挨拶とカンパイ!】
飯田天哉:「これより! 激闘を繰り広げた両クラスの健闘を称え、合同お疲れ様会を執り行う! 互いに高め合ったこの絆を糧に、更なる高みへ――更に向こうへ!」
拳藤一流:「はいはい飯田くん、挨拶が長い! 料理が冷めちゃうでしょ。B組のみんなも今日は無礼講よ!」
緑谷出久:「拳藤さん、飯田くん、二人ともありがとう! それじゃあ……みんな、かんぱーい!」
全員:「かんぱーい!!!」
切島鋭児郎:「いや〜第1試合の宍田のパワー、マジで男らしかったぜ! プレッシャーハンパなかった!」
宍田獣郎太:「ハッハッハ! 切島君の『安無嶺過』の硬度も実に見事でしたぞ! 互いに譲らぬ熱いぶつかり合いでした!」
上鳴電気:「俺なんて塩崎ちゃんに一瞬で束縛されて即終了だからな! あのツルツルワイヤー(植物)どうなってんだよ!」
塩崎茨:「神の御心です。不浄な電撃を浄化させていただいただけのこと……心静かにお祈りを捧げましょう。」
口田甲司:「う、ウロコくんの『飛鱗』……動物たちもびっくりするくらい速くてすごかったよ……。」
鱗飛竜:「フッ、口田の虫を使った索敵も見事だった。次は負けんぞ。」
八百万百:「第2試合の拳藤さんの判断力、本当に勉強になりましたわ。私、もっと視野を広げなければ……!」
常闇踏陰:「黒色……深淵の闇を操る貴様の執念、見事だった。だが、次は我らの闇が勝つ。」
黒色支配:「ククク……光あるところに影あり。常闇……お前との闇の共鳴、最高にゾクゾクしたぜ……!」
青山優雅:「ボクの輝き(ネビルレーザー)も、影の中に消されちゃってショックだったよ☆」
飯田天哉:「第3試合の骨抜くんの『柔化』! 地面を沼に変える柔軟な発想、まさにヒーローのそれであった!」
骨抜柔造:「やめてくれよ飯田ちゃん、推薦組として必死だっただけだって。君のあの爆速のレシプロターボには肝を冷やしたよ。」
尾白猿夫:「回原くんの『旋回』のドリルパンチも手ごわかったな……尻尾のガードが追いつかなかった。」
回原旋:「尾白の武術のキレこそヤバいだろ。派手さはないが一番隙がないタイプだ。」
角取ポニー:「私ノ『角砲』、最後ニ全員運べて最高デシタ! イエイ!」
障子目蔵:「ポニーさんの機動力と仲間を活かす判断力、見事だった。」
蛙吹梅雨:「椿ちゃん(円場くん)の『空気の壁』も地味に嫌だったわ。ケロ。」
円場硬成:「地味って言うな! 蛙吹さんの舌のリーチとスピードの方がよっぽど凶悪だったわ!」
瀬呂範太:「で、第4試合の爆豪無双な! 俺のテープアシストからの爆豪の突撃、超決まってただろ!」
峰田実:「俺のもぎもぎ拘束も忘れるなよ! あのB組の美女(取蔭)を俺の球で……グフフ!」
鎌切尖:「調子に乗るなよモグリ(峰田)! 次やり合ったらその頭のブドウ全部切り刻んでやる!」
泡瀬洋雪:「鎌切、落ち着けって。しかし爆豪の野郎、拘束された状態からあそこまで巻き返すとはな……。」
凡戸固次郎:「ボ、ボンドで固めたのに……一瞬の隙を突かれた……。」
取蔭切奈:「あ〜あ、完全にアタシの作戦負け! 爆豪勝己、アンタ本当に嫌な男ね(褒め言葉)!」
爆豪勝己:「ハッ! 当たり前だクソどもが! 俺はいつでも『完勝』しか狙ってねえんだよ!!」
麗日お茶子:「第5試合は本当に色んなことが起きすぎたわ〜! でもデクくんが無事で本当によかった!」
心操人使:「……緑谷、お前のあの暴走した黒い奴、あれは何だったんだ。……まあ、聞いても答えなさそうだが。」
緑谷出久:「う、うん……ごめん心操くん。でも、心操くんの『ペルソナコード』を使った声の誘導、本当に凄かったよ!」
庄田二連撃:「白煙くんと葉隠さんの暗闇での隠密連携……完全に一本取られましたぞ。」
柳レイコ:「あの麻酔煙……不意打ちとして完璧すぎて……意識が飛んだわ……。」
小大唯:「……ん。(強かった)」
白煙薫:「みんな無事でよかったよ。物間くんも、さっきは本気で脅かすようなこと言ってごめんね。」
葉隠透:「物間くんも言い過ぎたからおあいこ!」
物間寧人:「フ……フン! 謝るくらいなら最初からやるんじゃないよ! 僕はB組の主役として当然の主張をしたまでさ! ……まあ、君のあの黒い煙の圧力は少しだけ認めてあげなくもないけれどね!」
砂藤力道:「はいはい物間、美味いケーキ焼いたから食って黙っとけ!」
轟焦凍:「なあ物間、このそばも食うか? 温かいぞ。」
物間寧人:「……もぐ。な、なぜA組のケーキやそばはこんなにクオリティが高いんだ……悔しい……!」
【パーティーの盛り上がりと締め】
耳郎響香:「ちょっと上鳴! ケーキ一人で二個も取らないでよ!」
芦戸三奈:「あはは! ほらほら、B組のみんなもジャンジャン食べて踊ろうよ〜!」
佐藤・吹出漫我:「(言葉のフキダシを頭上に浮かべて)『超・美味(ウマ)い!!』」
角取ポニー:「Party Timeネ! 楽しくなってきちゃった!」
相澤消太:「(部屋の隅で寝袋に入りながら)……騒ぐのはいいが、22時には撤収して各自部屋に戻れよ。明日は座学だ。」
ブラドキング:「相澤、今日くらい固いこと言うな! ほら、B組の成長ぶりを肴に一杯やるぞ!」
相澤消太:「……はぁ。まったく、どっちのクラスも手がかかる……。」
41人それぞれの歓声と笑い声が交錯し、A組とB組の夜は賑やかに更けていく。
1年A組とB組の成長を刻んだ合同訓練は、賑やかな打ち上げの笑い声とともに、温かな幕を閉じるのだった。
原作でも緑谷くんの個性の正式名称を指摘する場面は無かったはずです
多分