これは作者が絶対に書きたかった1番の物語です
これを書くために今までの物語を書いてきたぐらいの熱意です
理由はA組全員活躍出来る唯一の劇場版だから
最終回ネタも使った大盤振る舞いです
いつもより長編です
よろしくお願いします
英雄南海滞在ヒーローズ・ライジング 開幕
【プロローグ:闇を裂く烈火と、密やかに蠢く陰謀】
闇夜を切り裂く重厚な排気音。一台の大型コンテナトラックが、漆黒のハイウェイを猛スピードで疾走していた。
コンテナの奥深く、冷たい金属のケースに収められているのは、ヴィラン連合が秘密裏に運搬する「とある実験体」――。
だが、その隠密輸送は完璧ではなかった。
事前に送られてきた**「匿名の密告」**によって、その輸送ルートはプロヒーロー側に完全に筒抜けとなっていたのだ。
「逃がさんぞ、悪党ども……!」
夜空を焦がす爆炎とともに、ビルボードチャートNo.1ヒーロー、エンデヴァーが降臨する。彼の両足から噴射される超高熱の炎が重力を置き去りにし、トラックの頭上へと一瞬で肉薄した。
さらに上空からは強固なバリアの盾を展開するクラフト、そして迅速なレスキューとサポートをこなすウォッシュなど、トップテンに名を連ねる精鋭ヒーローたちが続々と包囲網を形成していく。
「チッ、嗅ぎつけて来やがったか……! 予定より早すぎるだろ!」
トラックの助手席から顔を出したスピナーが忌々しそうに毒づき、ハンドルを強引に切る。
「ウォッシュ! クラフト! 路面を固め、逃走経路を遮断しろ!」
「ウオウオ〜ッ!(任せろ!)」
「『シールド・ウォール』!」
クラフトが放った透過する光の盾が高速道路の足場を固め、ウォッシュの高圧放水がトラックのタイヤをすくい上げる。逃げ場を失った大型コンテナトラックは、けたたましい摩擦音を立てて横転、爆音とともに激しく横滑りして停止した。
激しい煙と火花の中から、ゆっくりと姿を現したのは――蒼い炎を全身に纏った男、荼毘だった。
「やあやあ、お出ましだな……『No.1ヒーロー』エンデヴァー。」
荼毘の歪んだ笑みが、暗闇の中で青く不気味に浮かび上がる。
その姿を目にした瞬間、エンデヴァーの胸中に沸き立つのは烈火のごとき怒りと、どこか底知れぬ胸騒ぎだった。
(……この男、恐怖も焦りも感じていない。何かを企んでいる……!)
「企みもろとも焼き尽くすのみ! 『ヘルスパイダー』!!」
エンデヴァーの指先から、高密度の赤熱した炎の熱線が幾筋も放たれ、夜の闇を鋭く切り裂く。
だが、荼毘は嘲笑うかのように手を掲げ、それを上回る圧倒的な火力の蒼炎を解き放った。
「ハハッ! 熱いねぇ、エンデヴァー! だが……俺の火炎の熱さを忘れたわけじゃねえだろ!?」
ゴォッ!! と凄まじい爆風が吹き荒れ、赤と青、二つの極限の火炎が空中衝突する。
衝撃波で高速道路の防音壁が粉々に砕け散り、周囲の空間が一瞬で灼熱の炉へと変貌した。
エンデヴァーは蒼炎の熱圧を強引に押し返しつつ、眼前の荼毘の動きに違和感を覚える。
(重みがない……? 攻撃の踏み込みが浅い……まさか、時間を稼いでいるのか!?)
ヒーローたちとヴィラン連合の激しい攻防が繰り広げられるその隙を突いて――壊れたコンテナの陰から、静かに「異形」の影たちが動き出していた。
「……首尾は上々だ。ヒーローどもが足止めされているうちに撤退する」
低く響く重厚な声。ヴィランの集団――狼男のようなキメラ、赤の長髪スライスたちが、厳重にロックされた「実験体」を開封すると、ある男が生命維持装置のマスクを着けて眠っていた。
狼男が生命維持装置のスイッチを押すと、男の眼が開く。
実験体の名はナイン。
ナインは状況を確認後、ヴィランの集団と共に暗闇の中へと滑り込むように姿を消していく。
彼らの目的は、この実験体を回収し、さらなる究極の力を手に入れること。ヒーローとヴィラン連合の衝突すらも、彼らにとっては都合のいい「煙幕」に過ぎなかった。
そして、ナインたちが完全に気配を消したその瞬間――。
「がはっ……ふふ、時間稼ぎとしては十分だったな……」
エンデヴァーの「プロミネンスバーン」の威圧に押され、灼熱の渦に飲み込まれた荼毘の体が、唐突にドロッと崩れ始めた。
皮膚が灰色の泥のように溶け落ち、その中から現れたのは――。
「……なっ!? 泥……!?」
「大成功!いや、大失敗!?荷物の中身が人間だったなんて聞いてないぞ!!」
遠くの影からトゥワイスの声が聞こえる。
現場にいたスピナーも、荼毘も、トラックを運転していたヴィランも――その全員が、トゥワイスの『2倍』によって作られた偽物の分身だったのだ。
「チッ……全員分身か……! 本体と『本命』を取り逃がしたか!」
エンデヴァーは拳を強く握りしめ、悔しさから激しい炎を爆ぜさせた。
現場から少し離れた高層ビルの屋上。
冷たい冬の夜風が吹き抜ける中、眼下で上がる爆煙と炎を静かに見下ろす一つの影があった。
全身を覆う漆黒の煙――黒煙である。
「……ヴィランの一味が『実験体(ナイン)』を手に入れましたか。ヴィラン連合を囮にし、ヒーローの目を逸らす……見事な手際です」
黒煙は胸元から取り出した特殊な暗号通信機を起動し、静かに耳へと当てた。画面の向こうで繋がっているのは、プロヒーローNo.2・ホークス。
『――やあ黒煙くん。君の密告通りトラックは押さえたが……まんまと本命(ナイン)には逃げられちゃったよ。まさか連合が全員トゥワイスの分身だったとはね』
ホークスの軽快だが、どこか緊張感を孕んだ声が響く。
「申し訳ありません、ホークス様。……ですが、これで確信に変わりました。彼らが狙っているのは『ヒーロー』でもなく『ヴィラン連合』でもなく、もっと根深い……個性社会への憤怒と思われます」
黒煙の瞳が、煙の奥で険しく細められる。
「この静けさは、嵐の前の静けさに過ぎません。これから起きることは……ただの事件ではなく、大災害の前哨戦……非常に厄介なことになりそうです」
『……大災害の前哨戦、か。君がそこまで言うなら、相当ヤバい奴らだね。……了解、公安側にも警戒レベルを引き上げさせておくよ。君も無理はしないでくれ』
「はい。……私も、私の守るべき場所の警戒レベルを上げます」
通信を切り、黒煙は深々と息を吐いた。
頭に浮かぶのは、大切な透さんの笑顔。
(不吉な予感……念のためにナイン一味を追跡しますか…)
黒煙の身体が黒い煙となって夜空へ溶け込み、物語は彼らが赴く運命の離島・**「那歩島」**へと繋がっていくのだった――。
「うわあぁぁ〜〜っ! 海だーーーっ!!」
冬の寒さが嘘のように暖かい南の離島・那歩島。フェリーから降り立った途端、透ちゃんが青く透き通る海に向かって両手を広げて大歓声を上げた。
「本当に綺麗なところだね……。ここが僕たちの新しい活動拠点なんだ」
潮風に銀髪を揺らせながら、白煙くんが荷物を抱えて笑顔を浮かべる。1年A組の21人は、育成プロジェクトの一環として、駐在ヒーローが不在となったこの那歩島で「全員で島を守り、島民の暮らしを助ける」という校外ヒーロー活動を開始することになっていた。
「よし! 校外ヒーロー活動『育成プロジェクト』、本日よりスタートだ! 我々はプロの代理として、この島の人々の力にならねばならない! みんな、各自の担当場所で全力を尽くそう!」
飯田くんの熱い発声に、全員が「おーっ!」と拳を突き上げる。
南の島のヒーロー事務所、開店!
「うわあぁぁ~! 木の温もりがすごい! まさに南の島のアジトって感じだね、エンちゃん!」
「うん、すごく素敵な建物だね。ここを僕たちの『那歩島ヒーロー駐在所』にするんだね」
青い海と空に挟まれた、少し古びた木造の宿泊施設。フェリーを降りたA組21人は、潮風が吹き抜ける大きなウッドデッキに荷物を降ろした。今日からここが、彼らの生活拠点であり、ヒーロー事務所だ。
「よし全員! 駐在所として機能させるため、速やかに清掃および看板の設置に取りかかるぞ! 八百万くん、受付カウンターの準備を頼む!」
飯田の熱い指示のもと、全員で一斉に模様替えが始まった。
「作戦名『那歩島を笑顔に!』ね! 私、看板描くの手伝うよ~!」
透ちゃんが見えない体を弾ませながら絵の具を準備し、白煙くんは煙の足場で天井の掃除や高い場所の棚作りをサポートしていく。
「エンちゃん、そっちの棚、もう少し右! そうそう、バッチリ!」
「ふふ、ありがとう透ちゃん。……なんだかみんなで新しいお店を開くみたいで楽しいね」
「うんっ! ヒーローのお仕事だけど、みんなと暮らす合宿みたいでワクワクしちゃう!」
看板が掲げられ、黒電話がポツンと1台、受付カウンターに設置された。
――チリリリリリン!!
「あっ! 電話鳴った! 第1号だよ!」
緑谷が慌てて受話器を取る。
「はい! こちら那歩島ヒーロー駐在所です!」
『あ、もしもし? おばあちゃんだんだけどねぇ、畑のトラクターがぬかるみにはまっちゃってねぇ……』
「はい! すぐに向かいます!」
それを皮切りに、電話のベルは鳴り止まなくなった。
しかし、持ち込まれる依頼は「迷子の猫探し」「高所の電球交換」「畑の収穫手伝い」「荷物運び」と、およそヴィラン退治とは程遠い「ボランティア活動」や雑用ばかり。
「おい……なんだこの生ぬるいおままごとはよぉ……」
部屋の隅で腕を組み、額にピキピキと青筋を立てていた爆豪が、受話器を置いた緑谷を睨みつける。
「かっちゃん、おばあちゃんのトラクターが――」
「知るかア!! ヴィランが出るまで、テメェらが勝手にやってろ!!!!」
ドガーン! と足元のパイプ椅子を蹴り飛ばし、爆豪はそのまま2階の自室へ閉じこもってしまった。即リタイアである。
「あはは……爆豪くんらしいね……」
「まあまあデクくん、爆豪くんは放っておいて、うちたちで順番に行こう!」
緑谷くんは麗日さんと共に向かう。
本州は12月の冬真っ只中だが、那歩島は日差しが暖かく、年中温暖な気候。ビーチには冬休みを利用した観光客や島の人々が集まり、賑わいを見せていた。
「すごいね……本当に冬なのかな? 水着の人もいっぱいいるよ」
白煙くんがパラソルの下で汗を拭うと、隣の透ちゃんが麦わら帽子を揺らした。
「南の島最高~! あ、エンちゃん、私の水着姿は見えないけど、サンダルと麦わら帽子のコーデどうかな!?」
「すごく可愛いよ! 姿が見えなくても、透ちゃんが楽しそうなのが伝わってきて……胸がキュンとする」
「も〜! エンちゃんってばサラッとそういうこと言うんだから~!」
そんな和やかなビーチの監視台に立っていたのは、障子くんだった。
「…………」
強い日差しを浴びながら、個性『複製腕』でいくつもの耳と目を生成し、広い海全体を死角なく見渡している。その立ち姿はまさにベテランのライフガードそのもの。
(複製腕による視覚・聴覚の拡張……広範囲の海洋監視には最適の環境だ。溺者や危険生物の接近も即座に察知できる)
「障子くん、すごく似合ってるね! 頼もしすぎるよ!」
「障子くんがいれば即対応出来るねー!」
「ああ。島の人々が安心して海を楽しめるなら、本望だ」
その直後、波打ち際から離れた沖合で水しぶきが上がった!
「キャーッ! 助けて! 子どもが……流されてるの!」
「ッ……! 距離約150メートル、沖合の離岸流だ!」
障子くんが即座に察知して指を指す。
「ケロ。任せて」
バシャァアン! と鋭い水音とともに跳躍したのは梅雨ちゃんだ。個性『カエル』の本領発揮である。
人間離れした美しいフォームで水面をすべるように泳ぎ、一瞬で溺れる少年の元へ到達。
「大丈夫よ、しっかり捕まってね」
しなやかな舌で少年を優しく巻き取ると、波を切り裂いてあっという間に砂浜へと連れ戻した。
「ゲホッ……ケホッ……! お姉ちゃん、ありがとう……!」
「ううん、もう一人で遠くへ行っちゃダメよ。無事でよかったわ」
「すごーい! 梅雨ちゃんカッコいいー!」
砂浜から拍手を送る透ちゃん。梅雨ちゃんは濡れた髪を払いながら、可愛らしくピースサインを作ってみせた。
その頃、ビーチの少し離れたパラソルエリアでは――。
「ヘッヘッヘ……見ろよ尾白……あのビキニのお姉さんたちを……! 南の島の開放感が、彼女たちのガードを極限までゆるくしている……!」
物陰からギラギラとした目を光らせていたのは峰田くんだった。
「峰田、僕たちはパトロール中だよ……? そんな良からぬ顔しないでよ……」
尾白くんが苦笑いしながら引き引いていると、美女グループの元へチャラそうなナンパ男たちが絡み出した。
「お姉さんたち、俺たちと遊ぼうよ~!」
「やめてください、困ります……!」
「――キタァァァアアアッ!! チャンス襲来!!」
峰田くんの脳内に電流が走る。
(ここでオイラが疾風迅雷のごとく現れ! 凶悪なナンパ男どもを撃退! 『キャーッ! 助けてくれたヒーロー様、素敵! お礼に何でもしちゃいますぅ♡』……もらったぁぁぁ!!)
「お姉さんたちに手を出すなァァッ! 邪念……いや、正義のヒーロー峰田様のお通りだぁぁっ!」
峰田くんは頭の『もぎもぎ』を高速で連打し、ナンパ男たちの足元へ弾丸のように投げつけた!
「うわっ!? なんだこの紫のブツブツ……くっついて動けねぇ!?」
「へへん! どうだマイヒーローの活躍は――」
峰田くんが鼻の下を伸ばして美女たちへ振り向こうとしたその瞬間、残りのナンパ男が怒り狂って太い腕を振り上げた。
「このガキが調子に乗るなよ!!」
「ひえっ!?」
不意を突かれた峰田くんが悲鳴を上げた瞬間――シュッ! と風を切り、しなやかな「尾」が差し込まれた。
バシィッ!!
「そこまでだ。嫌がっている人を無理に誘うのは感心しないな」
尾白くんだ。鍛え上げられた尻尾の一撃で男の拳を軽く受け流し、隙のない流れるような身こなしで男たちの体勢を崩して取り押さえた。
「うわっ、強っ……! 逃げるぞ!」
足がくっついた男を抱え、ナンパ男たちは慌てて捨て台詞を残して逃げ出していった。
「ふぅ……怪我はないかい?」
普通に強い尾白くんが爽やかに手を差し伸べると、美女たちはうっとりと頬を染めた。
「まあ……! すごい、強くてカッコいいお兄さん……!」
「助けてくれてありがとうございます! ねぇ、お礼にこの後、あっちのカフェで一緒にお茶しませんか……?」
「えっ? あ、僕ですか? 僕はヒーロー活動中なので……あはは」
照れくさそうに頭を掻く尾白くん。その横で、地べたにひざまずいた峰田くんの姿があった。
「なんでだぁぁぁぁぁッ!! 技を出したのは俺だろぉぉぉッ!? なんで尻尾(尾白)がモテてんだよぉぉぉッ!! 神様のアホーーーッ!!」
峰田くんの怒鳴り声が海の砂場に虚しく響き渡る。
「あはは……峰田くん、どんまい……」
白煙くんが遠目から哀愁漂う峰田の背中に同情の視線を送る。
透ちゃんは白煙くんの腕をギュッと抱きしめながら、クスクスと楽しそうに笑っていた。
「ふふ、那歩島の初日、いろいろあるけど平和で楽しいね、エンちゃん!」
「うん。……でも、この平和がずっと続いてくれるといいな」
白煙くんは青い空を見上げながら、胸の奥に潜むかすかな予感を感じつつ、愛おしい仲間の笑い声に包まれていた。