那歩島駐在ヒーロー2日目――
白煙&葉隠ペアのレスキュー活動2日目
活動開始後、白煙くんと透ちゃんはペアを組み、島民の困りごとや救助要請の対応に当たっていた。
「白煙ちゃん、葉隠ちゃん! こっちの温室の屋根の補修、手伝ってもらえるかい?」
「はい、お任せください!」
白煙くんは自身の煙を浮遊・高密度化させて高所の足場を作り、作業をサポート。透ちゃんはその俊敏な動きで手際よく工具や資材を運び、島のおじいちゃんやおばあちゃんたちを笑顔にしていく。
「ふぅ……! おじいちゃん、これで屋根はバッチリだよ!」
「ありがとうねぇ、二人とも。仲良く助け合って、まるで本当の夫婦みたいだねぇ」
「「えっ!?」」
おじいちゃんの温かい一言に、白煙くんも見えない透ちゃんも同時に顔を真っ赤にする。
「お、おじいさん! 僕たちはまだ高校生ですし、その……!いやでも、お付き合いはしてます……」
「あ、あははは! おじいちゃんったら〜! お付き合いはしてるけど、まだそこまでは……ねぇ、エンちゃん!?」
「ま、まだって言わないで透ちゃん! 僕の心臓が持たないよ……!」
島民との穏やかで温かい交流。ヒーローとしての本当の喜びを噛み締めながら、平和な時間が過ぎていく。
そんな中、緑谷くんやお茶子ちゃんたちの前に、島に住む幼い姉弟・真幌ちゃんと活真くんが現れる。
「ヒーローなんて信用できない! 活真、あんな奴らの真似しちゃダメ!」
「真幌お姉ちゃん……」
真幌ちゃんは少し生意気にハッキリと言い放ち、弟の活真くんはヒーローに憧れつつも、緑谷くんたちの後ろに少し怯えながら隠れていた。
「真幌ちゃん、そんなこと言わないで。……君たち二人を守るのも、僕たちヒーローの仕事だからね」
緑谷くんはしゃがみ込み、活真くんの目線に合わせて優しく微笑みかけた。活真くんの瞳が、かすかに期待と憧れで揺れる。
那歩島の穏やかな風が流れる2日目の午後。
昨日までのドタバタな雑用ラッシュも一巡し、緑谷くん、麗日さん、そして白煙くんと透ちゃんの4人は、島の中央にある緑豊かな高台の公園で、活真くん・真幌ちゃんの姉弟と向き合っていた。
しかし、場の空気はどこか気まずい。
「……やっぱり、お化けね」
真幌ちゃんがポツリとつぶやき、活真くんの前に立ちはだかるようにして白煙くんと透ちゃんを指差した。
「えっ!?」
「手袋と服だけが浮いてるお姉ちゃんと、顔が煙になって見えないお兄ちゃん……! 雄英のヒーローって聞いたから期待したのに――お化けじゃん!」
「「お、お化けぇぇぇーーーっ!?」」
がっくーーーんと大きなショックを受け、白煙くんと透ちゃんは同時に膝をつき、芝生の上で丸くなって体育座りを決めた。
文化祭でエリちゃんと出会った時もお化け扱いされた。
2人ともお子さまにはお化けにされる。
「何で子ども相手には毎回お化けなの……っ!?」
「私だってお化けじゃないもん! 体育祭の時だってちゃんとチアガール姿見せたもん〜〜!!」
「あはは……ふたりとも、どんまい……」
白煙くんと透ちゃんはどんよりしながら体育座りになる。
緑谷くんが苦笑しながら二人の背中をさする。子どもならではの素直すぎる(そして容赦ない)言葉に撃沈した二人をなだめるのに必死だ。
「真幌お姉ちゃん、そんなこと言っちゃダメだよ! ヒーローなんだから!」
姉の服の裾をキュッと握りしめ、活真くんが小さな声を上げた。その瞳には、ヒーローに対する熱い憧れの光が宿っている。
「僕……ヒーローになりたいんだ。緑谷お兄ちゃんや、白煙お兄ちゃんたちみたいに、強くて格好いいヒーローに……!」
「ダメ!!」
真幌ちゃんが振り返り、活真くんの肩を強く掴んで叫んだ。その声は少し震えている。
「ヒーローなんてダメ! 傷ついて、痛い目にあって……ッ! 活真の『個性』だって、そんな戦うためのものじゃないでしょ!? 私は……活真に危ない目にあってほしくないの!」
「真幌ちゃん……」
麗日さんが胸を痛めるように抱きかかえる仕草をした。
お茶子ちゃん自身、実家の建設会社を助けるためにヒーローを目指しているからこそ、「家族を想う気持ち」の深さを誰よりも理解できる。ヒーローへの憧れと、弟を守りたい姉の強い愛情。どちらの気持ちも本物だからこそ、緑谷くんもどう言葉をかけていいのか困り果ててしまっていた。
その時、体育座りからすっと立ち上がった人物がいた。
白煙くんと透ちゃんだ。ショックから見事に復活した二人の表情(と空気)には、温かいお兄さん・お姉さんとしての優しさが満ちていた。
「活真くん」
白煙くんがしゃがみ込み、活真くんと目を合わせる。
「ヒーローを目指すのは、すごく素敵なことだよ。自分の『個性』で誰かを助けたいって思う気持ちは、何よりも尊いんだから」
「でもね」と、今度は透ちゃんが真幌ちゃんの隣に寄り添うようにしゃがみ込んだ。
「お姉ちゃんの言うことも、絶対に正しいよ。真幌ちゃんはね、活真くんのことが大好きで、大切だからこそ、傷ついてほしくなくて必死に止めているの。その優しさを、嫌がっちゃダメだよ」
「……う」
活真くんが言葉を詰まらせ、真幌ちゃんもぎゅっと唇を噛みしめる。
「君たちは、まだとっても小さい」
白煙くんの瞳が、冬のひだまりのように柔らかく細められた。
「だからね、無理に早く大人になろうとしなくていいんだよ。困ったことや怖いことがあったら、島の大人のみんなを頼っていい。おじいちゃんもおばあちゃんも、みんな君たちを愛してくれてる。……それに」
白煙くんは胸を張り、隣の透ちゃんと顔を見合わせた。
「いまはこの島に、僕たち『ヒーロー』がいる。君たちが傷つく前に、僕たちが絶対に守るから。だから、今は安心して、子どもらしく笑っていてほしいんだ」
「うんっ! 私たちを頼ってね!」
白煙くんと透ちゃんは、そっと手を伸ばし、活真くんと真幌ちゃんの頭を優しく撫でた。
その瞬間――。
風がふっと吹き抜け、白煙くんの顔を覆っていた煙が綺麗に凪ぎ、透ちゃんの光の屈折が一瞬だけ解けた。
「「え……!?」」
活真くんと真幌ちゃんは息を呑んだ。
ほんの一瞬、コンマ数秒の間だけ見えたのは――
白く透明感のある肌をした儚くも凛々しい美少年と、弾けるような笑顔を浮かべた息を呑むほど可愛い美少女の素顔だった。
「……かっこいい……」
「……すごく、綺麗な、お姉ちゃん……」
ポカンと口を開ける幼い姉弟。
「ふふ、お化け疑惑はこれで解決したかな?」
白煙くんが照れくさそうに笑うと、透ちゃんも「ね! お化けじゃないでしょ〜!」と誇らしげに胸を張った。
真幌ちゃんの張っていた心のバリアが、少しだけ解けていく。頼もしくて優しいA組のヒーローたちは、確実にこの那歩島の人々の心へ、温かい光を届けていたのだった。
夜。
白煙くんと透ちゃんは島のパトロールしながらデートしていた。
恋人繋ぎで手を繋ぎながら散歩する。
「南の島は星が綺麗だねー」
「そうだね。満天の星空は初めて見た」
都会では見ることは無い満天の星空。
海から聞こえる浪の音。
畑から聞こえる虫の音。
世界に、2人っきり。
そう感じてしまうほどだ。
「エンちゃん、将来はこういうところで生活してみたい?」
「うーん、島民のみなさんは優しいし、自然はとても綺麗だからきっと楽しいと思う。でも、今はレスキューヒーローが僕の1番の夢だから、まだまだ先の話かな」
「老後の楽しみってやつだね!!私はエンちゃんと一緒ならどこでもいいよ!!」
「ありがとう透ちゃん。僕も透ちゃんと一緒ならどこでもいいよ」
「えへへ〜」
白煙くんと透ちゃんはイチャイチャしながら夜のパトロールを続けるのであった。
漆黒の夜――支配者ナインの侵攻と狂乱の強奪
那歩島に穏やかな夜が訪れていた頃、日本本土の闇の中では、血と絶望に塗れた猛威が静かに解き放たれていた。
激しい暴風雨が吹き荒れる真夜中の廃港。
一般人の悲鳴とヒーローの警告音とヴィランの怒号が飛び交う中、複数のプロヒーローと武装ヴィランのグループが、突如現れた4人の異形集団――ナイン一味に包囲されていた。
「何だアイツらは……!? ヒーローもヴィランも関係ねぇだと!?」
「ひ、ひぃっ……逃げろ! 奴ら、人間じゃない!!」
「ウダウダとうるさい害虫どもだねぇ」
鋭い爪を鳴らし、赤い髪を刃物のように翻す女ヴィラン・スライス。彼女の髪から放たれる無数の刃が夜風を切り裂き、立ちはだかるヴィランたちの弾丸やヒーローの拘束具を瞬く間に肉片のごとく細切れにしていく。
「ふん……我らの悲願、ナイン様の理想の領域に届くための供物となれ」
包帯を全身に纏った巨大な影・マミーが、不気味な声とともに手をかざす。解き放たれた無数の包帯が生き物のように蠢き、逃げ惑うプロヒーローたちを締め上げ、傀儡(かいらい)のように操って同士討ちを強制させる。
そして、圧倒的な巨躯を誇るキメラが、低く地響きのような咆哮を上げた。
「ガァァァアアアッ!! 無駄な足掻きだ。お前たちの命も『個性』も、すべてナインが新世界を創るための礎に過ぎん!」
圧倒的な肉体美と獣の爪、そして口から吐き出される破壊光線が廃港の倉庫を一瞬で灰燼に帰す。一般人も、プロヒーローたちも、惨劇に怯えたヴィランたちも、抵抗の隙すら与えられず次々と崩れ落ちていった。
煙と火炎が立ち込める戦場の中央へ、静かに歩みを進める一人の男。
黒いコートをなびかせ、背中に奇妙なカプセル装置を背負った男――ナイン。
彼の鋭い冷徹な瞳が、倒れ伏すヒーローの一人を捉える。
ナインの持つ個性ーー「相手の個性を見破る個性」
「……衝撃波を生み出す『個性』か」
「な……なに、を……っ」
恐怖に引きつるヒーローの顔面へ、ナインが静かに手をかざした。
その瞬間、手のひらからおどろおどろしい漆黒と紫の電磁波が走り、倒れたヒーローの頭部を包み込む。
「その個性、奪う価値がある……!!」
「ア……ガッ……!? ああぁぁぁぁぁぁッ―――!?」
絶叫が夜空に木霊する。
体内から大切な何かが無理やり引き剥がされ、喰らい尽くされていく激痛。それはまさに、かつて社会を裏から支配した「悪の象徴」オール・フォー・ワンそのものの狂行であった。
ナインの持つ『個性』――「個性を8つまで奪う個性」。
「ぐっ……フハハッ……! 馴染む……素晴らしい力だ」
奪い取った瞬間、ナインの全身から凄まじい圧迫感を持つ「衝撃波」が放たれ、周囲の瓦礫が木っ端微塵に吹き飛んだ。
「ナイン、経過はどうですか」
スライスが跪き、うやうやしく問いかける。
「悪くない。これで……手に入れた『個性』は積み上がった」
ナインは静かに自身の内に蓄えられた力を確認する。
* 衝撃波を放つ個性
* あらゆる攻撃を拒絶するバリアを張る個性
* 指先から高出力のビームを打ち出す個性
* 背中から巨大な龍のような使い魔を召喚し暴れさせる個性
* A型の細胞を活性化する個性
強力な個性を一般人やヒーローやヴィランから次々と奪い取り、自らの血肉としていくナイン。しかし、彼の表情には焦燥の色が強く滲んでいた。
(……くっ、身体が壊れていく……! 『細胞の壊死』が止まらない……!! この細胞活性化はA型のみ、私の細胞と合わない!!)
ナインの皮膚の端が不気味に黒ずみ、壊死が進む痛みが全身を激毒のように苛む。強力すぎる個性を複数はらむ代償として、彼の肉体は限界を迎えつつあった。
彼が真に求めているのは、破壊の力ではない。この蝕まれる肉体を完璧に再生させ、永劫の命と完全なる力を手に入れるための**「細胞活性化」**なのだ。
ナインは懐から携帯型探知デバイスを取り出した。
その画面には、日本地図の上に明滅するひとつの強いシグナルが映し出されている。
日本全国を縦断しながら「細胞活性」を持つ人間を探し求め、数多の犠牲を重ねてきた彼らにとって、その光はまさに暗闇の中に輝く唯一の希望だった。
「……探知したぞ。……この波長、間違いない。我らが求める『細胞活性』の個性を宿す者……」
ナインの指線が、地図の南端に浮かぶ小さな島――**「那歩島」**を指し示す。
「那歩島……だと? あんな辺境の離島に……」
キメラが獣の目を細め、那歩島の方角を睨みつける。
「フフ……ちょうどいいじゃないか。ヒーローの増援も届きにくい、隔離された実験場としてはお誂え向きだねぇ」
スライスが歪んだ笑みを浮かべ、刃のごとき爪を舐めた。
「行くぞ。我が悲願を成就させ、選ばれし強者のみが生き残る新世界を創るために――」
ナインが手を掲げると、背後で巨大な「龍の使い魔」が咆哮を上げ、紫色の巨大な「バリア」が嵐の夜空を覆い尽くした。
日本列島を縦断し、破壊と悲鳴の爪痕を残しながら、凶悪なるナイン一味の影は着実に、あの平和で暖かい南の島――雄英高校A組の生徒たちが待つ「那歩島」へと近づいていた。
明日訪れるであろう絶望の嵐を、那歩島の静寂な夜の海はまだ知る由もなかった――。
今作ではナインが周りの人々から個性を奪ってパワーアップしています