那歩島駐在ヒーロー活動3日目。
南の島の眩しい日差しの中、A組のメンバーたちはそれぞれの『個性』を活かし、すっかり島民たちの暮らしに溶け込んでいた。
「上鳴ちゃ〜ん! こっちの軽トラのバッテリーもお願いできるかい!?」
「お任せあれぇい! 畑の移動もこれでバッチリだぜ! ……ハイッ、ウェイ!!」
バチバチッと心地よい電撃をバッテリーに流し込む上鳴くん。案の定、許容量を超えてアホ顔の「ウェーイ状態」になり、島のおばあちゃんたちから「あらあら可愛いわねぇ」「お礼にお芋持っていきな」と大人気だ。
一方、森の近くでは口田くんが困り顔の農家さんと向き合っていた。
「あのね……イノシシさんたち。おじいさんの畑のミカンは、みんなが心を込めて作った大切なものなんだ。あっちの奥の山に、もっと甘いヤマブドウがたくさん実ってる場所があるから……そっちで食べてもらえるかな?」
「(ブヒッ! ブヒブヒッ!)」
「うん、わかってくれてありがとう……!」
動物と話せる『生き物ボイス』で、畑を荒らす動物たちと平和的な「話し合い」による解決を果たしていく口田くん。農家のおじいさんは「言葉が通じるなんて夢みたいだぁ」と感激して口田くんの手を固く握りしめた。
山側では、昨夜の雨で起きた小さな土砂崩れの現場で青山くんと芦戸さんが大活躍していた。
「ボクの輝き(ネビルレーザー)で、塞がった巨岩をパルヴァライズ(粉砕)さ☆」
「あたしの『酸』で岩の繋ぎ目を溶かすよー! せーのっ!」
ドカンッ! ジュワァッ!
二人の鮮やかな連携で瓦礫が取り除かれると、岩の奥にぽっかりと巨大な天然の洞窟が現れた。
「わあぁっ! エンちゃん見て見て! すごい大空洞だよ!! たんけん隊みたいでワクワクしちゃう!」
「透ちゃん、危ないから急に飛び込んじゃダメだよ! でも……本当にすごい大洞窟だね」
通りかかった白煙くんと透ちゃんも目を丸くする。はしゃぐ芦戸さんと青山くん、そして透ちゃんの楽しそうな声が洞窟内に木霊していた。
その横を、猛烈な風を切って駆け抜けていく影がひとつ。
「全島パトロール完了! 異常なし!! ヒーローたるもの、いかなる緊急事態にも即座に対応できるよう、体力を万全に整えておかねばならんのだ!!」
「飯田くん、もう島を5周目だよ……!? 本当にすごい体力だね……」
白煙くんが呆れつつも感心して苦笑いを浮かべる。
事務所(宿泊施設)の受付では、八百万さんが司令塔としてテキパキと指令を出していた。
「はい、那歩島ヒーロー駐在所です! ……なるほど、南地区の荷揚げ作業ですね。では、手が空いている砂藤さんと佐藤さんに向かわせますわ! ……白煙さん、透さん、お疲れ様です! 街頭の点検、ありがとうございました」
「八百万ちゃん、すっかり頼れる所長さんだね!」
「ふふ、皆様の役に立てて光栄ですわ」
つかの間の平和と、温かい食卓
夕方、事務所の大きなウッドデッキには、島民たちから「いつもありがとう」と差し入れられた大盛りのお刺身、とれたての野菜、煮物がズラリと並べられた。
「こんなにたくさん、本当にいいのかしら……!」
「みんなが島のために一生懸命働いてくれるから、お礼だよ!」
島のおじいちゃん、おばあちゃん、そして活真くんと真幌ちゃんも笑顔で見守る中、A組21人は手を合わせた。
「「「いただきます!!!!」」」
「ん〜〜〜っ! このお魚、すっごく新鮮で美味しい!!」
「エンちゃん、これ食べてみて! お刺身絶品だよ!」
「あ、うん! 透ちゃん、ありがとう……美味しいね」
和気藹々とした笑い声が響き渡り、みんなの顔に温かい笑顔が咲く。
ヒーローとしての本当の喜び。自分たちの力で人々を助け、感謝され、笑顔を交わし合う。那歩島での日々は、彼らにとってかけがえのない宝物のような時間となっていた。
しかし――夕日があかね色から不吉な群青色へと染まり始める。
平和の崩壊――ナイン一味上陸
ゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!
突如として、南の沖合から不気味な地鳴りが島全体を揺らした。
「な……なに!? 地震……!?」
「いや、違う……海の方からだ!」
白煙くんが素早く立ち上がり、海を見つめる。
夕闇が迫る海上。静かだった水平線を切り裂くように、漆黒の巨大な船影が那歩島の港へと一直線に迫っていた。
ドゴォォォォンッ!!!!
凄まじい爆発音とともに、港の防波堤が一瞬で木っ端微塵に砕け散る!
悲鳴を上げて逃げ惑う島民たち。平和だった南の島が一瞬にして、黒煙と悲鳴が渦巻く地獄絵図へと変貌した。
「なっ……何が起きているんだ!?」
「ヴィラン……!? こんな平和な島に!?」
白煙くんの瞳が警戒で険しく引き締まり、全身から瞬時に戦闘態勢の煙が立ち上る。透ちゃんも即座に白煙くんの隣に寄り添い、身構えた。
煙の中から悠々と姿を現したのは、凄まじい威圧感を放つ男――ナイン。
そして、その背後に控えるキメラ、スライス、マミー。
「……見つけたぞ。我が悲願を叶える『力』が、この島にある」
ナインの冷徹な声が風に乗って響き渡る。
A組の面々が築き上げた温かく平和な日常は、容赦なく押し寄せた絶対的な悪意によって、残酷に打ち砕かれようとしていた。
港の崩壊と遮断された連絡
ドガァァァンッ!!
那歩島の港で上がった爆煙が、茜色の空を黒く塗りつぶしていった。
ナインの指先から放たれた高出力のビームと、キメラの口から放たれた破壊光線が、港に停泊していたフェリー――A組が島へ渡る際に乗ってきた大型船を、一瞬で真っ二つに切り裂いた。爆発の連鎖は港に並んでいた島民たちの漁船までをも飲み込み、水面を真っ赤な炎で包み込んでいく。
チリリリリリンッ!!
「那歩島ヒーロー駐在所です……! えッ、港で爆発!? 船が全部……!?」
受話器を握る八百万さんの顔から急速に血の気が引いていった。
「みんな、緊急事態ですわ!! 港にヴィランが出現! 船が破壊されました!」
「船が……!? 島から出られないってこと!?」
緑谷くんの表情が一変する。事務所内に走る激しい緊張。
その直後――ドドンッ!! と島の中央にそびえ立つ電波塔が倒壊した。キメラの放った一撃が通信局を木っ端微塵に砕いたのだ。八百万の手の中の受話器から、ツーーー……と無機質な音が空しく響く。
「固定電話も……スマホの電波も切れましたわ……! 本土への連絡手段が完全に断たれました!」
「孤立した……ってことかよ。面白ぇ……!」
部屋の隅で前髪を払った爆豪くんの瞳に、獰猛な殺気が宿る。
キメラの凶暴と尾白の孤独な闘い
通信局の瓦礫の中、煙を上げて立ち上る巨躯――キメラが地響きのような低音で笑った。
「ハッ、これで外部への救援は絶たれた。大人しくナイン様に島を捧げな」
「そうはいかない!!」
瓦礫を蹴って飛び出したのはパトロール中の普通に強い尾白くんと常闇くんだ!
常闇くんの『ダークシャドウ』が巨大な爪を繰り出し、キメラの顔面へ襲いかかる。だが、キメラの強靭な皮膚はダークシャドウの打撃をものともせず、太い腕を振るって黒影を吹き飛ばした。
「グアッ……! 固い……! 物理打撃が通用せん!」
「常闇くん、通信が死んだ! この状況を事務所のみんなに知らせなきゃダメだ! 君の『ダークシャドウ』の飛行能力で急報告に向かってくれ!」
尾白くんが武道家の構えを取り、キメラの正面に立ちはだかる。
「だが尾白! 貴様一人でこの怪物を抑え込むのは死地へ飛び込むようなものだぞ!」
「大丈夫、時間を稼ぐだけなら僕の武術でやれる! 行ってくれ、常闇くん!!」
「……無念! 持ちこたえてくれよ、尾白!!」
黒影に身を包んだ常闇くんが一直線に空へ飛び立つ。
一人残された尾白くんは、目の前の圧倒的な「暴力」を見つめ、静かに呼吸を整えた。
(ビビるな……僕の鍛え上げてきた身体と尻尾は、どんな強敵が相手でも隙を作らないためにある……!)
「フン、足止め気取りかよサルが!」
キメラが地面を削りながら突進してくる。尾白くんは寸前で身を翻し、しなやかな足さばきで巨体のかわしざまに、太い尻尾で相手の膝裏へ強烈なローキックを叩き込んだ!
ガシィンッ!
「くっ……固い……ッ! 鍛錬の重みが違う……!」
尾白くんの足に激痛が走る。力と耐久力では絶望的な差。それでも尾白くんは瞳から光を消さず、ヒット&アウェイの泥臭い孤独の闘いへ身を投じていった。
飯田の迅速な采配
常闇くんからの報せを受けた事務所では、学年委員長の飯田くんが即座に立ち上がり、凄まじい気迫で指示を飛ばした!
「状況は最悪だが、我々はヒーローだ! 四手に分かれて迅速に行動する!!」
「爆豪くん、上鳴くん、切島くんチームは港のヴィランを直接叩け! 敵の主力の足止めを頼む!」
「言われなくても叩き潰してやるよ!!」
「おう! 任せろ飯田!」
「八百万くん、耳郎くん、芦戸くんチームは本部で物資の補給と全域の状況把握を!」
「了解ですわ!」
「轟くん、砂藤くん、常闇くん、瀬呂くんチームは、孤軍奮闘している尾白くんの救出と救援に向かってくれ!」
「分かった。今すぐ行く」
「そして麗日くん、口田くん、白煙くん、葉隠さんチームは島民の皆様を安全な高地・避難所へ誘電・避難させろ!!」
「了解!!」
白煙くんは瞬時に手元を煙化させ、隣の透ちゃんと強く頷き合った。
(尾白くん、爆豪くんたち……無事でいてくれ……! 僕たちは僕たちの責任を果たす!)
一方、山道の避難経路を確保しようとしていた青山くんと峰田くんの前に、全身に包暗を纏った男――マミーが立ち塞がっていた。
「ククク……無駄な足掻きだ。この包帯の餌食となれ」
マミーの手から無数の包帯が生き物のように伸び、周囲の巨大な岩を絡め取って二人へ投げつけてくる!
「ひぇぇぇぇッ!? 岩が飛んできたぁぁッ!」
「恐れることはないよ峰田くん! ボクの洗練された輝きで……『ネビルレーザー』ッ☆」
青山くんが腰のベルトから閃光を解き放ち、飛来する岩石を次々と粉砕していく!
「すごいぞ青山! その調子でアイツを蜂の巣にしてくれぇ!」
「ま、任せて……ッ! ボクの……輝きは……ッ! ッくあぁぁぁッ!?」
連射の限界を超えたその瞬間、青山くんが突然激しく腹を押さえて地面に崩れ落ちた。
「あ、青山ぁぁー!? どうしたんだよ急にッ!?」
「お、お腹が……お腹が痛い……ッ! レーザーの撃ちすぎで……お腹が壊れたぁぁぁッ……!!」
「この土壇場で下痢かよぉぉぉぉぉッ!? 冗談だろオイィィッ!?」
「ククク……愚かな」
マミーの不気味な包帯が、お腹を押さえて悶絶する青山くんと、絶望に白目をむく峰田くんへ向けて、容赦なく襲いかかろうとしていた――!
「ククク……逃げ場はない。我が包帯の軍勢に呑み込まれるがいい」
マミーの手元から放たれた不気味な包帯が、生き物のように空を舞う。個性の名称は『木乃伊化(マミー)』。意志を持った包帯を対象に巻き付け、意識を奪って自由自在なミイラ(手下)として操る恐ろしい力だ。
お腹を押さえてうずくまる青山くんと、絶望に顔を歪ませる峰田くんへ包帯が迫ったその時――
「退いてろ雑魚どもがァ!!」
ドガァァンッ!! 爆風とともに上空から飛び込んできたのは爆豪くん、切島くん、上鳴くんの3人だった!
「青山! 峰田! 無事か!?」
「切島ぁぁ! 助けてぇぇッ!」
だが、マミーは不敵に笑う。無数に枝分かれした包帯が、隙を突いて援軍の3人へ怒涛のように襲いかかった。
「なっ……動きが早――っ!?」
「しまっ……身体が……硬化が間に合わねぇ……!」
巻き付けられた瞬間、包帯から怪しい呪力が伝わり、切島くんと上鳴のくん瞳から光が消える。二人の体が意図に反して動き出し、峰田くんたちへ拳を向け始めた。
「ククク……ヒーロー同士で潰し合うがいい」
「ひえぇぇッ! 切島と上鳴がミイラになっちゃったぁぁッ! 大ピンチだよぉぉッ!」
「チッ……鬱陶しいマネすんじゃねぇ!!」
自らにも巻き付こうとした包帯を、爆豪くんは眉ひとつ動かさずに見つめた。自身の掌を胸元へ向け、超高濃度の硝煙を圧縮させる。
「『手加減』なんて言葉、俺の辞書にねぇんだよ!!」
ドガァァァァンッッ!!!!
至近距離での自爆。自らの身体を強引に爆風で吹き飛ばすことで、巻き付いた包帯を一瞬で焼きちぎり、強制脱出してみせたのだ。
「なっ……己の身を爆破して脱出だと……!?」
衝撃に目を見開くマミーの視界。煙を切り裂いて肉薄したのは、鬼神のごとき形相の爆豪くん。
「死ねやァァァッ!! 『A-P shot(ショット)』ッ!!」
収束された貫通爆破の連弾が、マミーの胸元を撃ち抜く。圧倒的な火力と殺意の前に、マミーは吐破とともに吹っ飛び、背後の巨岩に深く埋もれて白目を剥いて倒れ伏した。操られていた切島たちの包帯が力無く解け落ちていく。
一方、山間部の森林地帯では――。
「ガハハハハッ!! どうしたヒーロー! その程度の力でこの俺を抑え込むつもりだったのか!?」
ズドォォォォンッ!!
孤独に戦い続けていた尾白くんの身体が、キメラの太い尻尾の一撃を受けて激しく宙を舞い、大木を数本なぎ倒しながら吹き飛んだ。
「ぐふっ……はぁ……はぁ……っ!」
血を吐きながら倒れる尾白の元へ、轟くん、飯田くん、砂藤くん、常闇くんが駆けつける。
「尾白!!」
「しっかりしろ、尾白くん!」
「気をつけろ……ッ! アイツは……ただのパワフルなヴィランじゃない……実戦経験が……違いすぎる……ッ!」
尾白くんの言葉通り、キメラは歴戦の怪物だった。
砂藤くんが砂糖を摂取して『シュガーラッシュ』で殴りかかれば、その超怪力を肉厚な皮ふで受け止め、即座に爪で切り裂く。飯田くんの『レシプロバースト』の超スピードに対しても、百戦錬磨の直感で軌道を読み、火炎放射の息吹で退路を焼き払う。轟くんの『半冷半燃』の巨大な氷結すらも、口からの光線で一瞬で蒸発させてみせた。
どのような個性の攻めてに対しても、長年の戦闘経験と圧倒的なスペックで全てを叩き潰す。絶望的な実力差だった。
「そこまでだ――ッ!!」
爆破の音を聞きつけ、援軍として駆けつけた障子くんが、複製腕を大きく広げて突進した。
「ぬ……? お前は……」
キメラが障子くんの姿を捉えた瞬間、その獣の瞳に昏い復讐の炎が灯った。同じ「異形型」の身体。人間の規格から外れ、世間から異物として扱われてきた身体構造。
「……ハッ! 素晴らしい見た目だな小僧!! お前も……その醜いおぞましい姿のせいで、親や周囲を恨んだことが一度はあるだろう!!」
「ぐあああッ!?」
「無いとは言わせんぞ同胞ォ!!」
キメラの爪が障子くんの複製腕を容赦なく掴み、力任せに捻り上げた!
バキッ!! バリバリバリッ!!
筋肉と骨が激しく断裂する凄惨な音が響く。キメラは障子くんの悲鳴を嘲笑うように、その複製腕を生きたまま力任せに引きちぎっていく。
「がああああああッ!! ぐぁっ……!!」
噴き出す鮮血。生身をちぎられる凄絶な激痛に、障子くんの巨体が激しく痙攣する。
「俺たち異形型は迫害対象だ!! どこへ行こうと差別され、石を投げられ、攻撃される!! なぜその力を使って人間どもに復讐せん!? なぜヒーロー気取りで奴らに従っている!!」
「それでも……ッ!!」
激痛で視界が真っ赤に染まる中、障子くんは血の涙を流しながら、残された腕でキメラの腕を固く握り返した。
「それでも……俺を『障子』と呼び、受け入れ、認めてくれた……大切な友達がいるんだ……!!」
「ぬかせえぇぇッ!!」
キメラの顔が凶悪に歪み、障子くんを地面へ激しく叩きつけた。
「それは首尾良く飼い慣らされたペットの扱いだ!! 哀れな奴め、目を覚ませ!!」
「が……あぁぁぁあるッ!!」
ドスッ! とキメラの太い足が障子くんの胸板を踏みつける。肋骨が折れる嫌な音が響き、障子の口から大量の血が溢れ出した。
「「「障子ーーーっ!!」」」
轟くんたちの悲痛な叫びが森にこだまする。重体となり、白目を剥きかける障子くん。しかし、彼の握りしめた拳だけは、仲間を守るという強い意志を宿したまま、決して解けることはなかった。
障子くんは今回、裏主人公です
キメラとの対決です