雄英高校3日目。
朝のホームルーム、相澤先生の「学級委員長を決める」という言葉で、教室は一気に活気づいた。
投票の結果、緑谷くんたちの推薦もあり、誰もが認める真面目な飯田くんが委員長に決定した。
「みんな、期待に応えるべく精一杯務めさせてもらう!」
飯田くんがいつものチョップを交えて宣言し、白煙くんの顔の煙も祝福するようにぽわぽわと揺れる。
そして次の授業は、待ちに待った「演習場での救助訓練」。
前回の訓練でコスチュームがボロボロになってしまった緑谷くんは体操服、白煙くんや他のA組メンバーはそれぞれお気に入りのヒーローコスチュームに身を包み、専用の移動バスへと乗り込んだ。
「それにしても、雄英高校って本当に広いよね……。敷地内にバスが走ってるなんてさ」
白煙くんが窓の外を見つめながら呟くと、隣の葉隠さんの手袋が「ねー!」と大きく同意する。
バスの車内では、自然とみんなの「個性」についての話し合いが始まった。
「爆豪は強いけど、あのキレやすさじゃ人気は出なさそうだよな」と切島くんや砂藤くんがズバズバと言う。
それを見た緑谷くんは(かっちゃんがあんな風にいじられてる……!)と、雄英のクラスメイトたちの肝の据わりっぷりに心底驚いていた。
バスが到着したのは、巨大なドーム状の訓練施設、通称**「USJ(ウソの災害や事故ルーム)」**。
そこには、相澤先生の他に、宇宙服のようなコスチュームを身にまとったスペースヒーロー・13号先生が待っていた。
「あ、13号先生……! 本物だ……っ!」
憧れのヒーローを目の前にして、白煙くんの顔の白い煙がボフッ! と大爆発した。自身のコスチュームのモチーフにもした、大好きなレスキューのプロだ。
白煙くんは13号先生の前に駆け寄ると、煙をこれでもかとホクホク波立たせながら挨拶をした。
「13号先生! 先生のブラックホールを使った命を救うレスキュー、いつも動画で見て勉強しています! 本当に、本当に素晴らしいヒーローです……!」
一息に熱弁する白煙くんの後ろ姿を見て、麗日さんと葉隠さんは顔を見合わせた(葉隠さんは気配だけだが)。
「……白煙くん、オールマイトの話をするときの緑谷くんと、完全にシンクロしとるね」
「うん、オタク特有の早口になってる! 2人とも、憧れのヒーローへの熱量がそっくり!」
麗日さんと葉隠さんがクスクスと笑う中、13号先生は「ありがとう。君のコスチュームも、実にレスキュー向きの良いデザインだね」と優しく返してくれた。白煙くんの煙は、嬉しさのあまり頭上へぽわぽわと高く舞い上がる。
しかし、この時のA組の誰もが、まだ気づいていなかった。
この平和な救助訓練の場に、本物の「悪意」がすぐそこまで迫っていることを――。
「私の個性『ブラックホール』は、どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます。歩き方を一歩間違えれば、人を容易に殺めてしまう力です」
13号先生の言葉に、さっきまで浮かれていた白煙くんの顔の煙が、ピタッと静止した。出久たちA組の面々も、背筋を正して真剣な眼差しを向ける。
「皆さんの個性も同じです。一歩間違えれば人を傷つける狂器となる。……ですが、この授業を機に学んでほしい。君たちの力は『人を傷つけるため』にあるのではない。『人を救うため』にあるのだと!」
その言葉が胸に深く突き刺さり、白煙くんは真っ先に全力で拍手を送った。頭上の煙が、感動と決意でぽわぽわと温かく波打つ。
「カッコいい……!」
それに続くように、クラス全体からも「うおおお!」と大きな拍手と歓声が沸き起こり、USJのドーム内は熱い連帯感に包まれた。
だが――その盛り上がりを切り裂くように、中央の広場の空間が、ぐにゃりと奇妙に歪んだ。
「――っ! 一歩にまとまって動くな! 13号、生徒を守れ!」
相澤先生が鋭い声を張り上げ、ゴーグルを装着する。
歪んだ黒い霧の中から、不気味な足音とともに、見たこともない風貌の男たちが次々と姿を現したのだ。その数、数十人。明らかに尋常ではない雰囲気が広場を埋め尽くしていく。
「え……? あれって、入試の時みたいな『ヴィラン役』のロボットですか……? それとも実践形式の演習……?」
白煙くんがオロオロと顔の煙を左右に揺らしながら尋ねた。
「動くな……! あれは、本物のヴィランだ!」
相澤先生の冷徹な一言が響いた瞬間、白煙くんの顔の煙は、恐怖で一瞬にしてどんよりとした完全な灰色に変色した。昔の火事を思い出して、圧倒的な「悪意」の気配が肌を刺す。ガタガタと震え出す白煙くんの袖。
すると、その震える手を、隣にいた透ちゃんの手袋がぎゅっと力強く握りしめた。
「白煙くん、大丈夫……っ! 私がついてるから……っ!」
透ちゃんの手も、実は冷たく震えていた。それでも、お互いを支え合うように細い指先を絡める。その隣では、出久も冷や汗を流しながら、奥歯を噛み締めて前方を睨みつけていた。全員の肌に、痛いほどの緊張が走る。
中央の霧の中から、最後にゆっくりと歩み出てきた男。
体中にいくつもの「不気味な手」を纏い、ボサボサの髪の隙間から、爛れたような赤い瞳を光らせる男。
「……オールマイトはいないのか。苦労して集団(ヴィラン)をこんなに連れてきたというのに……」
カサカサとした不快な声で呟く、ヴィラン連合のボス――死柄木弔。
平和な授業の場は一瞬にして、少年少女たちの命を脅かす本物の「戦場」へと変貌してしまった。
「生徒は任せたぞ、13号!」
相澤先生はそう言い残すと、単身で広場のヴィランたちの中へと飛び込んでいった。押し寄せる悪党どもを、合理的な体術と個性「抹消」で次々とねじ伏せていく。
「皆さんはこちらへ! 急いで避難を!」
13号先生の誘導に従い、出久たちA組のメンバーは一斉に出口のゲートへと走り出した。
しかし、その目の前の空間がぐにゃりと歪み、黒いモヤのようなヴィラン――黒霧が立ちはだかった。
「……ッ、前を塞がれた!?」
足を止める一同。その時、黒霧の姿を見た透ちゃんが、思わず白煙くんの顔を見つめた。
「え、ええっ!? 何かあのヴィラン……白煙くんにそっくりじゃん! 煙仲間!?」
「確かに……! 霧というか、煙というか、全体のシルエットがすごく白煙くんに似てる……!」
緑谷くんも冷や汗を流しながら、2人の姿を見比べる。
「ええええっ!? ぼ、僕、あんなに禍々しくてカッコよくないよぉ!」
白煙くんの顔の煙が、動揺のあまりタコ足のように四方八方に吹き出した。
実はその瞬間、黒霧の方も、一瞬だけ白煙くんの姿を見て(……同類、か……?)と内心で目を丸くしていた。それくらい、気体を纏う者同士、奇妙なシンクロ感があったのだ。
だが、黒霧はすぐに冷徹なヴィランの眼光に戻った。
「私たちの目的は、平和の象徴・オールマイトの死。君たちをここで蹂躙させてもらう」
「させるかよぉッ!!」
爆豪くんと切島くんが猛然と飛びかかり、黒霧の首元へ強烈な爆破と硬化パンチを叩き込む。しかし、その攻撃は黒い霧をスカリとすり抜けるだけで、一切のダメージを与えられない。
「しまっ……物理が無効!?」
「私の個性は『ワープゲート』。さあ、散らばり、苦しみ、息絶えなさい!」
黒霧の身体が大きく広がり、A組のメンバー全員を包み込むように闇が広がった。
「うわああああっ!?」
視界が真っ暗になったかと思うと、次の瞬間、白煙くんの身体は硬いコンクリートの地面へと叩きつけられていた。
「いったた……。……え? ここは、どこ……?」
顔の煙をハタハタと揺らしながら周囲を見渡すと、そこはUSJ内の「土砂ゾーン」のようだった。
「キャッ! ……うう、白煙くん、いる!?」
すぐ近くで透ちゃんの手袋がパタパタと動いている。幸い、あのワープの中でも2人は離れ離れにならずに済んだようだ。
「葉隠さん! よかった、無事だね……って、うわあああ!?」
ホッとしたのも束の間、周囲の瓦礫の影から、ガタガタと不気味な足音が響き始めた。
現れたのは、ナイフや金属バット、改造銃などを手にした、見るからに凶悪なヴィランたちの集団だった。彼らは2人の姿を見下ろし、下卑た笑みを浮かべてニヤついている。
「ヒャハハ! ガキが2人だけかよ!」
「片方はただの手袋で、もう片方はケムリ野郎か? 楽勝だな!」
包囲網が狭まっていく。白煙くんの顔の煙は、恐怖で完全にどんよりとした灰色に染まってしまった。
(みんなと離されちゃった……。相手は本物の悪党で、しかもこんなに大勢……。あのボスや霧の人の態度から見ても、彼らは本気で雄英高校をめちゃくちゃにする気だ……!)
「どうしよう、白煙くん……!」
透ちゃんの手袋が、白煙くんの消防士防護服の袖をぎゅっと掴んで震える。
先生たちは遠く、周りは敵だらけ。実戦経験ゼロの2人に、容赦のない本物の悪意が襲いかかる。まさに、絶体絶命の大ピンチが幕を開けようとしていた。
白煙くんにそっくりのヴィラン黒霧
それとも、ヴィラン黒霧にそっくりの白煙くん?
2人の関係は八斎會のお話以降かな
そんな大したことじゃないので気にしないでください