個性「煙」の救煙レスキューヒーロー   作:ウルトラエックス

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英雄南海滞在ヒーローズ・ライジング その5 助っ人の黒煙

停電の暗闇と、消えかける命

雷の影響で全土が漆黒に包まれた那歩島。

ヒーロー事務所の内部は、異様な緊張感と重苦しい沈黙に支配されていた。

 

「耳郎さん、上鳴さん……申し訳ありませんが、もう1パック頼めますかしら……!」

 

「何とか、するよ……!」

 

「おう……任せとけ……! 『帯電』……ッ!」

 

八百万が限界ギリギリの体力を削って連続創造した巨大バッテリーさんへ、上鳴くんと耳郎さんが残された体力を振り絞って電力を流し込む。かすかな明かりが灯る室内には、避難を完了した島民たちが身を寄せ合っていた。不安に震える幼い子どもたちのために、島のおばあちゃんたちが身を寄せ合って温かい雑炊を作り、互いを励まし合っている。

 

 

 

 

救護スペースでは、命がけで戦った者たちが横たわっていた。

キメラの猛攻を耐え抜いた砂藤くんと尾白くんは、全身に包帯を巻きながらも意識を取り戻していた。しかし、最前線で肉体を削られた者たちのダメージは深刻だった。

 

「……緑谷お兄ちゃん、爆豪お兄さん、障子お兄さん……!」

 

活真くんが涙をボロボロとこぼしながら、倒れる3人に手をかざした。

 

個性を限界まで絞り出す『細胞活性化』――。その温かな光が包み込むと、胸を深く損傷していた障子くん、そして全身を焼かれた緑谷くんと爆豪くんが、かすかに息を吹き返し、うっすらと目を開けた。

 

「活真……くん……。みんな……無事……かい……?」

 

「チッ……気絶させられてたってのか……俺が……!」

 

しかし、どれだけ活真くんが力を尽くしても、どうにもならない「絶望」が部屋の奥に横たわっていた。

 

 

 

 

 

「エンちゃん!! お願い、目を開けて!! エンちゃんっ!!」

 

透ちゃんの悲痛な叫びが救護室に木霊する。

簡易ベッドに横たわる白煙くんの左脇腹には、ナインのビームによって穿たれた凄惨な貫通孔が開いていた。最新の緊急医療キットを全て使い切り、梅雨ちゃんと透ちゃんが必死に止血と圧迫を続けているものの、ガーゼは瞬く間に赤黒く染まっていく。

 

「そんな……血が止まらない……! 医療用ゲルも、輸液パックも……もう全部使い切っちゃったわ……っ」

 

「嫌だ……嫌だよエンちゃん……!! 私を置いていかないで……!!」

 

個性を奪われ、無防備な生の肉体を撃ち抜かれた白煙くん。命の灯火は、今にも消え去ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

怪我人以外のA組メンバーが、消えかけの灯りの下に集まった。

八百万さん、上鳴くん、耳郎さんはエネルギー切れで倒れ込むように横になり、尾白くん、砂藤くん、峰田くんは傷口に包帯を巻いて痛みに耐えている。

口田くん、瀬呂くん、轟くん、常闇くんのコスチュームもボロボロで、比較的動けるのは切島くん、青山くん、麗日さん、芦戸さんくらいだった。

満身創痍の仲間たちを見渡し、クラス委員長の飯田くんが、震える拳を強く握りしめた。

 

「全員、よく聞いてくれ。……ライフラインはすべて破壊された。通信局も、港の船も失われ、本土への連絡手段はない。……プロヒーローの援軍は、来ない」

 

重い言葉が、全員の胸にドスンと圧しかかる。

 

「完全に……孤立した。この島を守れるのは、……今ここにいる、僕たち1年A組だけだ」

 

「そんな……プロも来ないなんて……」

 

「白煙の命だって……もう1時間もたないかもしれないんだぞ……!?」

 

切島くんが悔しさに歯をくいしばり、麗日さんは涙をこぼした。通信も届かず、仲間は重体、敵は複数の個性を持つ怪物。絶望の暗雲が、一人ひとりの心を押し潰そうとしていた。

その時――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カチャン……。

 

重い事務所の引き戸が、静かに開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼します」

 

静寂を切り裂いて届いたその声に、全員の時が止まる。

 

「「「……………は?」」」

 

そこに立っていたのは――

白煙くんと同じ、白く透き通るような肌。

同じ美しい顔立ち、同じ身長、同じ体格。

だが、全身から揺らめくのは、不気味で禍々しい「漆黒の煙」だった。

煙のヴェールを少しだけ解いた『黒煙』が、呆然とするA組の面々の前へ悠然と歩みを進めてきた。

 

「な……白煙……くん……!?」

 

「バカな……! 白煙はあっちのベッドで……!」

 

混乱する飯田くんや轟くんたちが一斉に身構える中、黒煙は周囲の警戒など一顧だにせず、一直線に奥の救護スペースへと向かう。

 

「エンちゃん……?」

 

血に濡れた手袋を抱え、涙目で見上げる透ちゃんの前で、黒煙はピタリと足を止めた。

 

「お久しぶりです、透さん。泣かないでください。私が来たからには、もう大丈夫ですよ」

 

黒煙は優しく笑いかけると、倒れる白煙くんの悲惨な傷口を見下ろし、その瞳に冷酷で昏い殺意を宿らせた。

 

「……ナイン、本当に容赦なくやってくれましたね。私の『半身』をここまで痛めつけるなんて」

 

黒煙は自身の掌を、白煙くんの貫通した左脇腹へとゆっくりかざした。

 

「おい貴様! 何者だ!! 白煙くんに何をするつもりだ!?」

 

「下がれ、蛙吹、葉隠……!」

 

飯田くんが叫び、轟くんが右手に氷結を宿す。しかし、黒煙はチラリと振り返り、冷ややかな視線を投げかけた。

 

「静かにしてください。今から彼に……奪われた『煙』と、私の『生命力』を直接流し込んで繋ぎ止めます。……彼を助けたくないんですか?」

 

黒煙の手元から、濃厚な黒煙が白煙くんの傷口へと吸い込まれるように流れ込み始めた。傷口の細胞が蠢き、激しい流血がピタリと止まっていく。

 

「……あ……エンちゃんの顔色が……!」

 

透ちゃんが息を呑む。白煙くんの胸が、ゆっくりと、しかし確かな力強さで上下し始めた。

 

「言ったでしょう、プロヒーローの助けなんていりません。私たちで……あのナインという害虫を叩き潰します」

 

白煙くんと同じ顔をした不敵な悪魔が、暗闇の中で妖しく微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

「私の名前は黒煙。以後お見知りおきを」

 

傷口を塞ぎ終えた黒煙は、ゆっくりと立ち上がると、胸に手を当てて優雅に一礼した。その立ち振る舞いは、まるで洗練された優秀な執事か、あるいは完璧な秘書のようだった。

 

「に、似てる……」

 

「ってか、髪型と雰囲気が少し違うだけで、まんま白煙くんだよね!?」

 

「白煙が儚げな美少年なら、この黒煙って子は……なんていうか、危険な色気のある魔少年って感じ……!?」

 

麗日さん、芦戸さん、耳郎さんが、白煙くんのベッドと黒煙を交互に見比べながらヒソヒソと声を漏らす。

 

「あらかじめ言っておきますが、私はヒーローの味方ではありません。透さんの味方です」

 

黒煙はスッと目を細め、静かだが拒絶を許さない冷徹な声で告げた。

 

「ヴィランじゃん!!」

 

「えっ、でも葉隠の味方なの……?」

 

「要するに……葉隠だけのヒーロー、ってことか……?」

 

峰田くん、砂藤くん、轟くんがそれぞれ困惑気味に顔を見合わせる。

 

「あっ、黒煙くん……!!」

 

「テメェ、どのツラ下げて来やがった!!!!」

 

その時、活真くんの治癒を受けて立ち上がった緑谷くんと爆豪くんが救護スペースから姿を現した。爆豪くんの額には青筋が浮かび上がっている。麗日さんが心配して声をかける。

 

「デクくん、爆豪くん! 動いて大丈夫なん!? 傷は……」

 

「大丈夫だよ、麗日さん。活真くんのおかげで……」

 

緑谷くんはお腹をさすりながら、警戒の眼差しを黒煙へと向けた。

 

「みなさん、いろいろと思うところがあるのは承知の上です。ですが今は、あのヴィランどもについてです。私が知る限りの情報を共有し、対策を講じましょう」

 

黒煙は感情を押し殺した淡々とした口調で、息を呑むA組の面々へ説明を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「リーダーのナイン。彼はオール・フォー・ワンと同じ『個性を奪う個性』を持っています。ヴィラン連合から脱走後、彼は一般人、ヒーロー、ヴィランから『衝撃波を放つ個性』『指先からビームを撃ち出す個性』『バリアを張る個性』『背中から龍のような使い魔を出す個性』、そして『A型の細胞活性化』を奪い取りました」

 

「オール・フォー・ワンと同じ……!?」

 

緑谷くんの拳が固く握りしめられる。オールマイトの宿敵の影が重なり、A組全員に重苦しい緊張が走った。

 

「彼の真の目的は、そこにいる活真くんです。彼が宿す『B型の細胞活性化の個性』。現在、ナインは奪ったホワイトの『煙』の力で肉体の崩壊を無理やり抑え込んでいますが、個性を重ねて使えば使うほど、細胞が破壊されていく。彼の肉体と複数の個性が噛み合っていないんですよ。例えば、体調が崩れる(●●●●●●)、あるいは肉体が破損する(●●●●●●●)など。貴方がたもそのような人を見たことありませんか?」

 

生徒達全員を見る黒煙。

図星を突かれた生徒達(●)は一瞬だけ顔面蒼白になった。

緑谷くんと■■くん。

黒煙はその一瞬を見逃さず、目を閉じて話を再開する。

 

「話を戻しましょう……ナインはいわば命懸けのヴィランです。追い詰められた死に体のヴィランほど、恐ろしいものはありませんよ。……それは、守るべきものがあるヒーローも同様でしょうが」

 

黒煙の昏い瞳が、チリッとA組一同を射抜く。

 

「そして、ナインに付き従う2人の部下。女性のスライスと、異形型のキメラです。スライスは硬化した長髪ですべてを切り裂く近〜中距離のスペシャリスト。キメラは圧倒的な肉体性能に加え、口から強力な火炎を放ちます。何より彼は凄惨な実戦経験を積み上げてきた猛者。一筋縄ではいきません」

 

「………………キメラは、俺が戦う」

 

奥のベッドから、体中に重厚な包帯を巻きつけた障子くんが、静かに立ち上がった。

 

「障子くん……! まだ動いちゃダメだよ!」

 

口田くんが慌てて寄り添い、悲鳴のような声で心配する。だが、障子くんの瞳には、傷つけられた誇りと、仲間のために戦う強い意志の炎が激しく燃え盛っていた。

 

「奴の言った『迫害』も『差別』も……俺は知っている。だからこそ、逃げるわけにはいかない。俺たちの絆が、首輪なんかじゃないと……あの怪物に証明してみせる」

 

「……いい目だ。言葉だけでなく、背中で語る姿は嫌いじゃありませんよ」

 

黒煙はフッと口角を上げると、見えない透ちゃんへと視線を向けた。

 

「さて、透さん。準備はいいですか?……あなたの平和を汚した害虫どもを、徹底的に駆除しに行きましょう」

 

「テメェが仕切んなァ、白煙もどきが!!!!」

 

「ちょっ、かっちゃん!?」

 

絶望の夜を越え、傷だらけのヒーローたちと漆黒の異分子・黒煙による、那歩島最終決戦の幕が切って落とされようとしていた。




黒煙参戦!!
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