決戦の無人島――重なる策謀と開戦の火蓋
風が不気味に海面を渡り、波音が無人島の切り立った断崖に激しくぶつかり合う。
『旧・那歩島』――かつて人が暮らしていたものの、今や巨大な岩山と深い森林、洞窟だけが残された静寂の島。その海岸線に、黒い舟に乗った3つの影が静かに降り立った。
「ナイン、スライス、キメラ。……視界に捉えた」
山の頂上に身を潜め、小型望遠鏡を覗き込む白煙くん。黒煙から流し込まれた生命力により命を繋ぎ止め、素顔の美少年のままで鋭い眼光を放っている。
「私たちは最終防衛ライン。活真くんの個性が奪われたら……それが私たちの敗北ね」
「分かってる。活真くん、真幌ちゃん、僕たちがついてるからね」
「まあ、安心しなさい。私とホワイト、そして透さんがここにいるんです。害虫どもに指一本触れさせはしませんよ」
透ちゃんが力強く拳を握り締め、白煙くんが優しく微笑み、黒煙が不敵に口角を上げる。
「う、うん……!」
「お願い……みんな、負けないで……!」
活真くんと真幌ちゃんは、三人の背中にしがみつくようにして深く頷いた。
第一段階――分断の砲火
「――全員、配置につきましたわね。……作戦開始です!!」
山腹の遮蔽物から叫んだのは、脂質を限界まで消費し、痛々しいほど痩せ細った八百万さんだった。彼女の眼前には、全身の脂質を削り出して生み出した超巨大な「大砲」が鎮座している。
「ボクの輝きを……喰らうといいよ!! **『プルスウルトラーー、ネビルレーザー』**ッ☆!!」
「いけぇぇぇぇッ!!」
青山が腹痛の恐怖を押し殺し、全エネルギーを注ぎ込んだ極大のレーザーを放つ! 同時に、八百万の大砲から極大の榴弾が放たれ、空気を切り裂いてナイン一味の足元へ着弾した!
ドガァァァァァァンッッ!!!!
地煙が激しく吹き荒れ、足場が激しく崩落する。
「チッ……鬱陶しいハエ共が!」
「フッ、足掻きを……」
「ふん、手前たちから死にたいようだな!」
崩落した地盤とともに、スライスは深く薄暗い「大洞窟」の底へと滑落。キメラは衝撃波を避けるように横の「森林地帯」へと躍り出た。そしてナインだけが、山頂の活真くんの波長を捉え、まっすぐに山を登り始める。
作戦通り――三大ヴィランの完全分断に成功した!
「お、お腹が……もう限界だね⭐︎」
青山くんがその場に崩れ落ち、白目を剥いて吐き気と戦う。
「第一段階……成功ですわ……」
八百万さんも膝をつき、痩せこけた体で肩を激しく上下させた。
だが、山を登るナインの冷たい視線が、二人を捉える。
「……邪魔だ。消えろ」
ナインが指先を掲げ、高出力を誇る紫色のビームを二人へ向けて放とうとしたその瞬間――!
第二段階――『隕石落とし』と強靭な絆
「させねぇよッ!!」
シュパァッ!!
瀬呂の腕から放たれた『テープ』が、倒れ込む青山くんと八百万さんの腰へ寸前で巻き付き、二人を高速で引っ張り上げて間一髪でビームの軌道から退避させた!
「麗日! 今だ、行くぜ!!」
「峰田くんっ!!」
「おうよ! **『プルスウルトラーー、隕石落とし』**だぁぁぁッ!!」
上空から降ってくるのは、麗日さんが事前に『無重力(ゼログラビティ)』で浮かせ、瀬呂くんのテープで何十重にも束ね上げた何トンもの巨大な大岩の群れ!
「落ちろぉぉぉぉッ!!」
解き放たれた大岩の雨が、重力を取り戻してナインの頭上へ牙をむく! ナインが瞬時にバリアを展開して防ごうとしたその隙を突いて、峰田くんが空中で『もぎもぎ』を連弾のごとく叩きつけた!
粘着性の球体と大岩がバリアごとナインを覆い尽くし、地面へと強烈に叩き伏せる!
ドドドガァァァンッ!!
「おっしゃあぁぁッ!! 決まったぁぁッ!」
峰田くんが狂喜乱舞して拳を突き上げる。
「おえぇぇぇ……っ! げほっ、ケホッ……!」
キャパシティを遥かに超えた重量を浮かせた麗日さんが、その場にへたり込んで激しく吐瀉する。
「麗日、よく頑張った! 大手柄だぞ!」
瀬呂くんが優しく麗日さんの背中を撫で、健闘を称え合った。
だが――地響きのような不気味な爆音とともに、粘着球と大岩の山が内側から吹き飛んだ。
ボガァァァァンッ!!
「……無意味だと言ったはずだ」
紫色の衝撃波とビームを全方位に放ち、一切の傷を負わずに瓦礫の中から立ち上がるナイン。その背中から、巨大な漆黒の「龍の使い魔」が二頭、咆哮を上げながら姿を現す!
「「だぁぁぁぁぁぁっ!?!? 効いてねぇぇぇっ!?」」
絶望に顔を歪ませる麗日さんたちへ、龍の顎が迫る! 万事休すかと思われたその時――!
「デトロイト……スマッシュッッ!!!!」
「ハウザー……インパクトッッ!!!!」
ドゴォォォォォォォンッッッ!!!!
緑谷の威圧的な拳の風圧と、爆豪の全身全霊を込めた大爆風の旋風が空中から乱入! ナインの解き放った龍の使い魔を一瞬で木っ端微塵に砕き散らした!!
激しい煙と熱風が吹き荒れる中、地に舞い降りた二人の背中。
「ナイン……!!」
「テメェの相手は……俺たちだクソヤロー!!」
自らの足で立ち上がり、限界を超えて覚醒した緑谷出久と爆豪勝己。
A組最強のヒーロー二人が、魔王ナインの目の前に仁王立ちした!
漆黒の洞窟――刃と闇の熾烈なる相剋
薄暗くひんやりとした空気が漂う巨大な大洞窟。
ナインと引き剥がされ、落とし穴のような高低差からこの底へ滑落したスライスは、真っ赤な長髪を生き物のように波打たせ、殺意に満ちた瞳で目の前の3人を睨みつけた。
「フン……子供数人で私を足止めできると思っているの?」
「足止めじゃねえ! ここでお前を叩き潰す!!」
切島くんが『硬化』を発動させ、皮膚を極限まで鋭利な岩肌のように変貌させる。
「硬いわね!!」
スライスが髪を鞭のようにしならせ、千切れんばかりの刃の連閃を繰り出す。ガガガガガッ!! 火花が激しく散り、洞窟の岩壁が削れ飛ぶが、切島くんは一歩も引かずにその全撃を正面から受け止めた。
「俺を見ろ!! 仲間のところへは行かせねえ!!」
「しつこい男は嫌いよ!!」
切島くんの粘り強い防御に苛立ちを募らせるスライス。その隙を逃さず、背後の影から漆黒の巨躯が跳び出した!
「ダークシャドウ、暴れろ!!」
「マカセロ!! オリャアアアッ!!」
常闇くんの指示を受け、実体化した『ダークシャドウ』が巨大な爪を振り下ろす! しかし、スライスは一切の動揺も見せず、その髪を瞬時に強靭な盾へと変化させた。
「舐めんじゃないよ!!」
キンッ! バサァッ!!
防御と攻撃を兼ね備えたスライスの髪の刃が、ダークシャドウの腕を鋭く切り裂く!
「イタイ、トコヤミ……ッッ! コイツ、固クテ切レ味ヤバイヨ!!」
「くっ……攻防一体の隙のなさ……! 一筋縄ではいかんか!」
常闇くんが噛みしめた歯の隙間から苦悶の声を漏らす。だが、彼らの狙いは最初から単なる正面突破ではなかった。
溶解の酸と、身を挺した盾
「隙あり!! 『アシッドショット』!!」
切島くんと常闇くんが引きつけた一瞬の隙を突き、芦戸さんが跳躍! 両手から高濃度の『酸』を散弾のように解き放った。
ジュワァァァァッ!!
「なっ……あぐあぁぁぁぁっ!?」
スライス自慢の硬化毛髪に酸が命中し、凄まじい白煙とともに髪がドロドロと溶け落ちていく。誇りである美しい髪を焼かれたスライスは、顔を跳ね上げて苦悶と怒りの悲鳴を上げた。
「私の……私の美しい髪を……! 許さない……許さないわよ、小娘がぁぁぁぁっ!!」
狂気と化したスライスの瞳。彼女は溶け残った髪の全エネルギーを集中させ、無数の鋭利な「針」として針山のように射出した! ターゲットは――芦戸さん!
「ヒッ……!?」
「芦戸ーーーっ!!」
逃げ場のない超高密度の針の雨。死を覚悟した芦戸さんの前に飛び込んだのは、全身を限界を超えて硬化させた切島くんだった!
ドスッ! ドスドスドスドスッッ!!
「ぐ……があぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
「切島っっっ!!」
スライスの憎悪がこもった髪の針は、切島くんの『硬化』の強度すらも突き破り、その胸や肩、腕へと深く突き刺さった。大量の鮮血が舞い散り、切島くんは激痛に顔を歪ませながらも、芦戸さんを庇い続けてその場に仁王立ちした。
「切島……! よくも……よくも切島をぉぉぉっ!!」
「許サン……絶対ニ許サンゾォォォッ!!」
仲間の流血を目にした常闇くんとダークシャドウの感情が、限界突破を起こす。
ここは太陽の光が一切届かない、漆黒の大洞窟。闇のエネルギーを吸い上げたダークシャドウが、常闇くんの身体を包み込みながら見る見るうちに巨大化していく。
ゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!
「な……何なのよこのプレッシャーは……!? 化け物か!!?」
絶望に目を見開くスライス。彼女の頭上にそびえ立ったのは、洞窟の天井に届くほどの超巨大な漆黒の魔人――!
「**『プルスウルトラーーブラックアンク、バルドル』**ッッ!!! 送り届けてやる……暗黒の深淵へ!!」
「ウオオオオオオッッ!!!!」
咆哮一閃! 巨拳が一振られるだけで、洞窟の岩壁が一瞬で粉砕され、凄まじい落石がスライスを襲う。
ヒット&アウェイで逃げ回ろうとするスライスだったが、縦横無尽に大暴れするダークシャドウによって洞窟の退路は完全に崩落。逃げ場を失った彼女の小さな身体は、ダークシャドウの巨大な悪魔のような手に力任せに掴み取られた!
「放し……なさい……! 放し……ッ」
「潰れろぉぉぉっ!!」
ドガァァァァァンッッ!!!!
ダークシャドウがスライスの身体を洞窟の硬い岩床へと力任せに叩きつけた! 凄まじい衝撃波が走り、洞窟全体が大きく揺れ動く。
土煙が晴れた底には、白目を剥き、完全に戦闘不能となったスライスの姿があった。
「やっ……た……」
芦戸さんが安堵の息を漏らした瞬間、膝から崩れ落ちた。限界を超えて酸を放出し続けたため、皮膚のキャパシティが底をつき、その場に倒れ込む。
「ふぅ……ふぅ……っ」
暴走状態を解除した常闇くんも、莫大な精神力と体力を使い果たし、荒い息を吐きながらその場に倒れ伏した。
そして、二人を守り抜いた切島くんは、全身に突き刺さった髪の針から血を流しながら、満足そうにニッと不敵な笑みを浮かべた。
「へへ……漢……魅せたぜ……」
ドサリ、と倒れ込む切島くん。
三大ヴィランの一角・スライス撃破。命を削り落としたA組チームが、洞窟の決戦を制したのだった。
漆黒の森林――異形たちの相剋
鬱蒼とした大自然が生い茂る森林地帯。
木の葉を揺らす風の音を切り裂き、巨木を薙ぎ倒しながら二つの巨躯が激突していた。
「オオオオオッ!! 俺がお前を倒す!!」
「ハハハッ! やってみろ、人間に飼い慣らされ、牙を失った同胞がぁッ!!」
前衛に躍り出た障子くんが、無数の複製腕を展開する。6本、8本、10本――肉体の限界を超えて増殖させた圧倒的な質量の腕が、暴風のような連撃となってキメラへ叩きつけられた!
ガガガガガガガガッ!!
「グッ……ハハッ! 効くなぁ! だが――惰弱!! 撫でているのか!? もっと残虐になれ! 怨嗟を吐き出せ!!」
キメラは無数の拳をその強靭な肉体で受け止めると、嘲笑とともに巨大な爪を振り抜いた。
ドガァッ!!
「ガハッ……!?」
衝撃波とともに吹き飛ぶ障子くん。樹木を3本叩き折りながら地面を転がる。あまりの腕力、圧倒的な肉体スペックの差。
かつてその異形ゆえに社会から虐げられ、迫害と差別の中で世界を呪い、力のみで全てをねじ伏せてきたキメラ。背負ってきた憎悪の歴史と格が違いすぎた。
「障子!! **『氷結』**ッ!!」
間一髪、轟くんが地滑りのような巨大な氷の壁を滑らせ、キメラの足元から全身を一瞬で凍りつかせた。氷の結晶が木々を呑み込み、辺り一帯を極寒の氷原へと変える。
「……フンッッ!!」
バリバリバリッ!! ジジジ……ッ!!
だが、氷層の内側から不気味な熱気が生じ、一秒ともたずに亀裂が走る。激しい爆砕音とともに氷を粉砕したキメラが飛び出した!
「甘いぞヒヨッコ共が!!」
ボカァンッ!!
「ぐわぁぁぁッ!?」
超高速の突進を受け、死角からフォローに入ろうとした飯田くんが叩き伏せられ、地面を激しくバウンドする。
「ハハハハ! こんなもんか! ヒーローごっこの坊主どもが、俺に勝てるわけが――ンッ!?」
勝利を確信し、高らかに笑い声をあげようとしたキメラの表情が凍りついた。膝からガクガクと崩れ落ち、全身の筋肉が意思に反して硬直していく。
「カエルの……麻痺毒よ」
「貴様……ッッ! いつから……!?」
「梅雨ちゃんね。けろ」
保護色で樹木と同化し、息を潜めていた梅雨ちゃんが姿を現す。障子くんの連撃と轟くんの氷結に気を取られていた隙を突き、カエルの跳躍力でキメラの頚椎へダイレクトに強力な胃液毒を打ち込んでいたのだ。
「観念しろ、悪党! これ以上の抵抗は無意味だ!」
「そのまま……冬眠しろ!!」
動けなくなったキメラへ向かい、飯田くんと轟くんが止めを刺すべく距離を詰める!
だが――。
異形ゆえの絶望――恐ろしき「完全体」の覚醒
「調子に……乗るんじゃ……ねぇぇぇぇぇッ!!!!」
キメラの喉奥から、地獄の底から響くような怨嗟の咆哮が炸裂した。
「俺を見下すなああああ!! 人間どもも、ヒーローも……俺の容姿を笑った奴ら全員……この世の全てを滅ぼしてやるぅぅぅッ!! ウオオオオオオッッ!!!!」
不気味に腫れ上がる血管。麻痺毒の拒絶反応と怒りによって体温が爆発的に上昇し、体内の毒素を力任せに焼き尽くしていく。
グチャ……メリメリメリッ……!!
背骨が跳ね上がり、皮ふが裂ける異音が森林に響き渡る。
狼のような魁偉な肉体から、凶悪な毛並みを誇る巨大な「鳥の翼」が生え伸び、その腰からは地響きを鳴らす恐竜のような「巨大な鱗の尾」が爆発的に生え揃っていった。
形態変化――キメラ(複合生物)の真の姿。
その圧倒的な威圧感と、死の匂いを孕んだ異形のプレッシャーに、飯田くんも轟くんも息を呑み、足がすくむのを感じた。
「これが……キメラの……本当の力……!?」
咆哮一閃。翼の羽ばたきだけで周囲の樹木がことごとく根こそぎ吹き飛び、恐ろしい怪物が月夜の森林に君臨していた。
「見た目で判断され……怪物と恐れられ……追いやられた……。お前たちに、俺の痛みが分かってたまるかぁぁぁッ!!」
完全体となったキメラが、高熱の火炎を口内に猛烈に溜め込む。
「俺も……知っている」
血反吐を吐きながら、ゆっくりと立ち上がったのは障子くんだった。包帯が解け、剥き出しになった己の素顔。彼もまた、生まれ育った村でその容姿ゆえに「化け物」と忌み嫌われ、傷つけられてきた過去があった。
「俺も……奪われ、蔑まれ、差別されてきた。お前の怨念も、その痛みも……決して他人事とは思えない」
「なら何故立ち塞がる!! 同胞ならば俺と共に人間を滅ぼせ!!」
「……俺は、自分を化け物と呼んだ奴らと同じになりたくない!! 差し伸べられた温かい手を知ったからだ! 俺を『ヒーロー』と呼んでくれた
障子が、かつてないほど巨大な複数の腕を力強く握りしめる。
『でも、やっぱり障子くんみたいな、佇まいだけで『頼れるプロ』って感じがするカッコいい人は目立つだろうなぁ。羨ましいな』
『ねー! 障子くん、すっごくガッシリしてて、ヒーローとしての説得力が不戦勝レベルだもん!』
雄英体育祭が始まる前。
異形型の俺に対して当たり前のように話してくれた白煙と葉隠の言葉。
俺は返事に困っていた。
俺のことを当たり前のようにヒーロー扱いしてくれた。
そして今でも、いつも俺を慕ってくれる白煙くんと透ちゃん。
(――お前たちは俺のヒーローだよ)
障子くんはいつも心の中で感謝していた。
「お前が憎しみに囚われ、誰かを傷つける怪物になるというのなら……俺が、お前の絶望ごと殴り倒す!!」
「死ねぇぇぇぇ同胞ぉぉぉッ!!」
口から放たれる灼熱の超巨大熱線!
迎え撃つは、己の誇りと絆を背負った障子くんの全身全霊の拳!
理性を捨てた怪物の炎と、心優しき異形ヒーローの魂が、夜の森林で激しく激突した!
「ウオオオオオオッッツ!!!!」
完全体へと変貌を遂げたキメラの咆哮が、大気を激しく震わせる。
直後、その巨大な口から解き放たれたのは、白熱する破壊の光線――超高熱の放射熱線だった。
ドガラガキィィィィンッッ!!!!
一瞬にして数千度の熱波が森林を襲う。極厚の樹木が数秒と経たずに炭化して爆発し、生い茂る木々が一瞬で地平の果てまで焼き払われていく。地表はドロドロのマグマのように溶け落ち、凄まじい衝撃波が4人の身体を吹き飛ばした。
「麻痺毒作戦、失敗……!!」
「マジもんの怪物になりやがった……! 形態変化で肉体構造そのものを再構築して毒を無理やり排出しやがったのか!?」
「あの放射熱線ね……。直撃すると、防御の上からでも間違いなく肉体ごと消滅するわ」
飯田くんが眼鏡のヒビを抑えながら歯を食いしばり、轟くんが氷の盾を張りつつ青ざめる。梅雨ちゃんも熱風に皮膚を焼かれながら、息を呑んで怪物の脅威を口にした。
荒れ果てた灼熱の焦土の中で、障子くんがゆらりと前に進み出る。その背面からは、引きちぎれかけた無数の複製腕が凄絶な血を流していた。
「俺が囮になる。……みんなは隙を見て逃げろ。そして、山頂の活真くんを助けてあげてくれ」
「障子くん!?」
「障子!?」
「障子ちゃん!?」
「奴の怨念は……嫌でも理解できる。……だが、共感は絶対にしない」
障子くんは固く握りしめた拳を見つめた。
都会から遠く離れた山奥の村。そこが障子くんの生まれ故郷であり、そして日常的な暴力と差別に晒された地獄の場所だった。ただ「見た目が異形だから」という理由だけで石を投げられ、忌み嫌われ、理不尽に傷つけられてきた幼少期。キメラの抱く世界への憎悪は、かつての自分が堕ちかけた深い闇そのものだった。
「俺はヒーローだ。……かつて俺のこの姿を見て、気味悪がらずに『白煙』と『葉隠』がカッコいいと憧れてくれた。……俺を信じてくれた仲間がいる。それだけで、俺が戦う理由としては十分すぎるんだ」
「――委員長として断る!!!!」
飯田くんが腕のエンジンを爆音で吹かし、障子くんの肩を強く掴んだ。
「仲間を犠牲にして逃げる選択肢など、僕たちの辞書にはない! 追われる者を置いていくなど、絶対に認めないぞ!」
「それに……アイツを無視しても、あの狂暴さじゃ俺たち全員を殺すまで追いかけてくる。逃がしちゃくれねえよ」
轟くんが両手から凄まじい冷気を滾らせ、鋭い眼光でキメラを睨みつける。
「障子ちゃん。あなたの想いは嬉しいわ。でも、みんなで生きて帰らなきゃダメ。……ここであなたを死なせたら、私も、白煙ちゃんと透ちゃんも……一生悲しむわ」
梅雨ちゃんが心からの温かい眼差しを向ける。
「……ありがとう……みんな」
障子くんの素顔から、ポロポロと一筋の血と涙がこぼれ落ちた。孤立していた少年の心に、強い絆の炎が燃え上がる。
「ウオオオオオオッッツ!!」
理性を失い、破壊の衝動だけに支配されたキメラが、背中の巨大な翼を羽ばたかせた。ドォンッ! 衝撃波だけで周囲の瓦礫が砕け散り、再び口内に超高熱の火花が充満していく!
「俺の足が千切れるまで!! 走り続けてターゲットを引きつけるッ!! 『プルスウルトラーーレシプロバーストォォォ』!!!!」
飯田くんの脚部エンジンが限界を超えた爆圧を噴射! 青い炎を置き去りにし、超絶的なスピードで焦土を駆け抜ける。
キメラの放つ幾筋もの熱線が地表を抉り、飯田くんの残像を追って爆発の連続を引き起こすが、飯田くんは己の肉体を削りながら間一髪で回避し続けた。
「障子ちゃん、これで絶対に外れないわ」
「ありがとう、梅雨ちゃん」
その隙に、梅雨ちゃんがカエルの粘液を塗り込んだ強靭な包帯で、障子くんの折れかけた無数の複製腕を一つに束ね、補強していく。一本の太く圧倒的な解体用鉄骨のような「超・複製腕」が完成する。
「ウオオオオオオッッ!!!!」
飯田くんのスピードを見切り、キメラが全方位へ向けて最大出力の熱線を薙ぎ払おうとしたその瞬間――!
「ウオオオオオオッッ!!!!」
「**『プルスウルトラーー穿天氷壁』**ッッ!!!!」
轟くんが全身の体温を極限まで奪い取り、天を穿つほどの超巨大な氷の山脈を生み出した!
怪物の熱線と轟の氷壁が激突し、凄まじい蒸気爆発と水蒸気が森林全体を覆い尽くす! 熱線すらも一瞬凍りつかせるほどの、捨て身の絶対零度!
白濁した蒸気を切り裂き、障子くんが怪物の真上へと躍り出た。
「ウオオオオオオッッ!!!!」
威嚇するように咆哮し、鋭い爪を振り下ろそうとする理性のないキメラ。その血走った絶望の瞳を、障子くんは正面から見据えた。
「キメラ!!!! 怒りの使い方を考えろ!!!! 力の使い方を間違えるな!!!!」
障子くんの魂の叫びが、激しい風を切って響き渡る。
「やり方が違うだろ!!!! 俺達は……理不尽な傷の痛みを知っているのだから!!!! 痛みを人にぶつける怪物になるな!!! 立ち上がれッッ!!!」
「ウオオオオオオッッ……!?」
言葉に反応したのか、キメラの瞳が一瞬だけ揺らいだ。
「**『プルスウルトラーーオクトスパンション』**ッッッ!!!!」
束ねられた無数の腕が、束ねられた仲間たちの想いが、己の誇りが――渾身のラッシュとなってキメラの顔面へ一閃された!
ドドドドドドガァァァァァァンッッッ!!!!
山が崩落したかのような凄まじい打撃音。キメラの巨大な体が地表へ叩きつけられ、何重もの衝撃波が地面を抉り取っていく。
静寂が訪れる。
煙の混じる倒木の中で、巨大な形態変化が解け、元の姿に戻っていくキメラ。
その瞳には、もはや怒りも狂気も失われていた。自分以上の強い覚醒と信念を持った「異形のヒーロー」に打倒されたのだ。
「………………………………クソったれ」
自らの負けを認めたキメラは、静かに瞼を閉じ、完全に意識を失った。
「がはっ……」
「ぐぅ……っ」
「げろっ……」
熱戦を終えた戦場に、静かな呻き声が響く。
飯田くんは限界を超えたレシプロの代償でエンジンが完全にエンストし、崩れ落ちるように倒れた。
轟くんは自らの極大氷結の反動で全身が凍りつき、指一本動かせずに倒れ伏す。
梅雨ちゃんは過酷な熱風に皮膚のキャパシティを超え、荒い息を吐きながら倒れ込んだ。
そして、仲間を守り抜き、誰よりも傷つき、血を流した障子くんは、荒れ果てた空を見上げた。
「白煙……葉隠……。俺は……勝ったぞ……」
ドサリと倒れ込む障子くん。
漆黒の森林決戦。ボロボロになりながらも未来を繋いだA組チームが、完全なる勝利を収めた。
障子くんの原作終盤のカッコいい台詞をここで使いました
カッコよすぎるぜ、障子くん!!
今シリーズの裏主人公です