個性「煙」の救煙レスキューヒーロー   作:ウルトラエックス

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幕間 黒煙の記録

「はぁ〜……」

 

雄英高校A組の男子寮「ハイツ・アライアンス」の自分の部屋。

ベッドに倒れ込んだ白煙くんは、天井を見上げながら重々しい溜息をついた。

那歩島での激闘を終え、無事に帰還できた安堵感はある。だが、彼の気分はちっとも晴れていなかった。

原因は、あの無人島でナインを倒すために行った黒煙(ブラック)との「融合」――。

白と黒の煙が合体し、白煙くんの体内に戻った際、二人の意識と記憶は完全に共有された。

白煙くんの脳内には今、自分と分裂してから黒煙が裏社会で「一体何をしていたのか」という、衝撃的で恐ろしい記録が鮮明に焼き付けられていたのだ。

 

「……あいつ、僕の知らないところでとんでもないことばかりやってたんだな……」

 

白煙くんは机に向かい、忘れないうちにノートへその記録を書き記し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

【黒煙の行動記録:其の壱――ヴィラン連合への潜入】

 

「黒霧様に代わり、これより死柄木弔様をお支えいたします」

 

2学期が始まり、白煙くんたちが雄英の全寮制生活を開始した頃。

黒煙は単身、裏社会の深淵――ヴィラン連合の潜入に成功していた。

僕を黒煙という異質な存在へ変え、操ろうとした張本人である「黒霧」は、オールマイトの師匠であるグラントリノと警察の手によってすでに捕獲されていた。

黒霧と黒煙は直接顔を合わせていない。それは黒煙にとっても、正体を隠して潜入するには好都合な状況だった。

 

「お前、黒霧の代わりに使えるのか? 役に立たねぇなら灰にするぞ」

 

「ご安心を、死柄木様。私はホワイトの『影』。必要な時に必要なサポートを、完璧にこなしてみせますよ」

 

死柄木弔の冷酷な眼光に対しても、黒煙は一切怯むことなく、完璧な執事のように頭を下げていたという。

 

 

 

 

 

【黒煙の行動記録:其の二――暗躍と救助の誘導】

 

「マグネ様、ご無事ですか。……下がってください」

 

漆黒の煙を操り、死穢八斎會の組長・オーバーホール(治崎)の攻撃から間一髪で仲間を庇い立てる黒煙。

 

「助かったわ、黒煙ちゃん……! ホント、気の利くいい男ねぇ!」

 

「礼には及びません。仲間を失うのは、連合にとって不利益ですから」

 

黒煙はヴィラン連合の信頼を得るため、陰で巧みに立ち回っていた。

そして何より、白煙くんが驚愕したのは『あの事件』の裏側だった。

死穢八斎會の強制捜査の際、プロヒーローのサー・ナイトアイが重体に陥ったとき、真っ先にレスキューヒーローである僕たち(白煙たち)を現場へと誘導する匿名通報を入れたのは、他ならぬ黒煙だったのだ。

 

(裏で僕たちを操ってヒーローを助けさせつつ、自分はヴィランの中で立場を固めてたなんて……。暗躍しすぎだよブラック、と白煙くんは呆れ混じりに溜息をつく。)

 

 

 

 

 

 

【黒煙の行動記録:其の三――異能解放軍との二重スパイ】

 

「死柄木様。……『異能解放軍』という潜伏組織の末端からスカウトを受けました。資金力、戦力ともにかなり巨大な組織です。私めが潜入してまいります。必ずや、死柄木様のお役に立つ情報と戦力をもたらしましょう」

 

「勝手にしろ。俺は今、このデカブツの相手で忙しいんだよ……!」

 

当時、死柄木たちはオール・フォー・ワンの側近である超巨大ヴィラン「ギガントマキア」を従えさせるため、不眠不休で凄惨な殺し合いを繰り広げていた。

黒煙はその混乱に乗じ、ヴィラン連合と異能解放軍という二つの巨大悪の組織を股にかける「二重スパイ」として暗躍を開始したのだった。

 

「……ギガントマキア、何だこの化け物!?巨大ヴィランとの連日の殺し合いに、二重スパイ活動かぁ。やっぱりヴィランの世界って恐ろしいな……」

 

白煙くんはペンを置き、背もたれに深く体を預けた。

 

「黒煙のやつ……透ちゃんを守るために、こんな危ない橋を渡り続けてたんだ……」

 

毒舌で嫌味ばかり言う黒煙だが、その冷徹な計算の裏には、決して表には出さない一途な「執念」があったことを知り、白煙くんの胸は少しだけ温かく、そして重くなった。

ペンを握り直す白煙くん。黒煙の辿った「闇の記録」は、さらに恐ろしい局面へと続いていくのだった――。

 

 

 

 

 

【黒煙の行動記録:其の四――陰謀の影とホークスとの接触】

 

「荼毘様が……ハイエンド(上位存在)の脳無を解き放ち、福岡で新ナンバーワンのエンデヴァーを襲撃しました」

 

脳無。それはオール・フォー・ワンの側近である「ドクター」が、数々の人間の遺体や生き血を捏ねくり回し、複数の個性を強制移植して造り上げた悍ましき人造人間。

 

(……こんな悍ましい怪物共が野に放たれれば、透さんたちの命が幾つあっても足りない。一刻も早く、ドクターの拠点を叩かなければ……)

 

黒煙は裏社会の噂話に見せかけ、放棄された旧・脳無研究所の情報を密かに警察とヒーローへ流した。それを受け取ったのが、当時ナンバー3ヒーローだったホークスだったのは幸運だった。ホークスはすぐさまエンデヴァーへ相談を持ちかけたようだ。

その後、福岡で密かにホークスとの接触に成功した黒煙は、ホークス自身が二重スパイとしてヴィラン連合へ潜入しようとしていることを見破る。

 

「……君、なかなか鋭いねぇ。で、僕を告発する気?」

 

羽を遊ばせながら尋ねるホークスに、黒煙は冷たく言い放つ。

 

「滅相もありません、ホークス様。互いに大切なものを守るための協定を結びましょう。私の欲しいモノはひとつだけ。透さんの安全です。……それと、実験体『ナイン』の存在をお伝えしておきます。オール・フォー・ワンの『個性を奪う個性』の複製……そんなものが完成すれば、私の透さんが危険に晒されますから」

 

 

 

 

 

 

【黒煙の行動記録:其の五――誤算と黒猫の遭遇】

 

異能解放軍の幹部らと接触を深めていた頃。黒煙にとって唯一にして最大の誤算が生じた。

泥惨市の手前、捜索任務の途中で、白煙(ホワイト)と透さんに鉢合わせしてしまったのだ。

 

「えっと……黒猫ちゃん探しの依頼を受けてて……」

 

申し訳なさそうに探す透さんの足元で、黒煙は固まっていた。

 

(……私の足元に、その黒猫がいるのですが……。おい、懐くのではありません。私のブーツでゴロゴロと喉を鳴らさないでください……!)

 

黒猫を抱きかかえたまま、正体を隠すために白煙と刃を交える羽目になった黒煙。

 

(フン、ですが……あの時、あえて私の強化技『赤煙(セキエン)』の原理を見せておいて正解でしたね。少しでも強くなりなさい、ホワイト。透さんを守るためなら、泥をすすってでも這い上がりなさい。……間もなく、世界を揺るがす大災害が迫っているのですから)

 

 

 

 

 

 

【黒煙の行動記録:其の六――泥惨市の決戦と『超常解放戦線』の誕生】

 

異能解放軍がヴィラン連合へ宣戦布告。両者は泥惨市で激突した。

 

(あらかじめ、双方へ互いの戦力情報を流しておきましたが……やはり数の暴力は凄まじいですね)

 

11万を超える解放軍の群衆。黒煙は「傷を負ったマグネの護衛」というスタンスを貫き、能力の全貌を隠しながら戦況を観察していた。

だが、地獄はそこから始まった。

 

「俺が……俺たちが……無限に増えれば……! みんなを守れるんだぁぁぁッ!!」

 

追い詰められたトゥワイスが覚醒。『個性のトラウマ』を克服した男から放たれる『2倍』の泥人形の波。

 

一人から二人、二人から四人、四人から八人――!

 

一瞬にして街の路地という路地がトゥワイスの仮面で埋め尽くされ、ブラックホールのように解放軍を呑み込んでいく。耐久力こそ低いものの、その気になれば**「たった一日で日本国全土を圧殺・崩壊せしめる」**悪夢のような増殖力。

 

 

 

さらに地響きとともに到来した、歩く天災――『ギガントマキア』。

 

「主……ノ……後継……ッ!!」

 

山を砕き、地表を削りながら進む巨躯。その前に立ちふさがる者は、味方であれ敵であれ、等しく塵芥のように踏み潰されていった。正攻法など一切通用しない理不尽な暴力の体現。

 

 

 

そして――真の魔王として覚醒を遂げた死柄木弔。

 

「あぁ……晴れやかだ。胸のつかえが、全部消えていく……」

 

死柄木が地面に手を触れた瞬間、見えない死の網目が地表を駆け巡った。

建物が、石畳が、群がる解放兵たちが、悲鳴を上げる間もなくサラサラとした黒い砂へと変塵していく。たった一瞬で、街が丸ごと一つ、マップから消滅した。

邪気のない、子どものような晴れ晴れとした笑顔で惨劇を引き起こす死柄木の姿に、冷徹な黒煙すらも背筋に凍りつくような恐怖を覚えたという。

 

(結局……双方の共倒れという私の目論見は破綻しました。それどころか、死柄木様が異能解放軍を完全に服従させ、11万の兵力を束ねる最高指導者――『超常解放戦線』が誕生してしまった……)

 

「申し訳ありません、ホークス様。私の力不足です……」

 

黒煙の記憶の中で、彼は密かに歯噛みしていた。

救いは、敵の本格的な決起が「4ヶ月後」であること。死柄木がドクターの手により「オール・フォー・ワンのオリジナルの個性」を移植する手術に入るためだ。だが、肝心のドクターの潜伏先の特定には至っていない。

そんな矢先、精神の均衡を崩したナインが施設から逃亡。

嫌な予感を察知した黒煙が彼を追撃したことで、あの那歩島での白煙と透ちゃんとの再会、そして共闘へと繋がったのだった――。

 

 

 

 

 

 

【現実――白煙の決意】

 

「……ふぅ……っ」

 

すべての記録をノートに書き終えた白煙くんは、静かにペンを置き、両手で顔を覆った。

机の上には、公安やプロヒーローすら誰も知り得ない、敵(ヴィラン)の内部情報と4ヶ月後の「日本崩壊のスケジュール」がびっしりと記されている。

 

「黒煙……きみは一人で、こんな恐ろしい地獄の中にいたんだね……」

 

死柄木の覚醒、トゥワイスの無限増殖、ギガントマキアという怪物、超常解放戦線の11万人以上のヴィラン、そして4ヶ月後の全面決起。

窓の外を見やれば、雄英高校の敷地には変わらぬ平和な夕焼けが広がっている。だが、その裏で迫り来る絶望の足音を、白煙くんはハッキリと聞き取っていた。

 

「……このノートの情報は、絶対に無駄にはしない」

 

白煙くんはノートを固く握りしめ、金色の瞳に強い意志の炎を宿した。

 

「この記録を……この全てをヒーローに伝えなきゃ。透ちゃんを……みんなを、絶対死なせはしない!!」

 

黒煙が暗闇の中で命懸けで持ち帰った「光」。

少年はそれを抱え、来たるべき「4ヶ月後の最終決戦」へ向けて、静かに立ち上がったのだった。

 

 

 

 

 




ヴィラン連合のダイジェストでした
原作通り+マグネ生存です

次回はクリスマスです
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