12月25日、冬の透き通るような空気が街を包むクリスマス。
雄英高校A組の男子寮と女子寮を繋ぐ「ハイツ・アライアンス」の一番広い中央ルームは、朝から特別な熱気に包まれていた。
天井からは色鮮やかなモールや輝く星の飾りが吊り下げられ、壁には大きなクリスマスツリーのタペストリー。
「エンちゃん、すっごく楽しいね! 飾り付け、ここらへんにもっとキラキラ増やしちゃおうか!」
「そうだね、透ちゃん。あっちの窓辺にもベルを飾ると可愛いと思うよ」
透ちゃんが手際よくモールを飾り付け、その横で白煙くんが優しい笑みを浮かべながらサポートする。黒煙の記憶に苛まれていた日々の重圧をしばし忘れ、白煙くんの心にもあたたかな灯火がともっていた。
その時、厨房の方から甘く芳しい香りが漂ってきた。
「みんな、試作品だが出来たぞ。甘さはしっかり維持しつつ、生クリームの脂質を抑えてカロリー控えめにした特製クリスマスケーキだ。食べてみてくれ」
砂藤くんが巨大なデコレーションケーキをトレーに乗せて運んでくる。イチゴが美しく並べられたその出来栄えは、まるで高級洋菓子店のウィンドウに並ぶ逸品のようだ。
「砂藤くん、これ本当にすごいよ! プロのパティシエ顔負けじゃないか!」
「甘いものを我慢しがちな女子の気持ちを分かってる! まさに女性の味方だよ砂藤くん!」
「そ、そうか……? 喜んでもらえたなら作った甲斐があったよ」
白煙くんと透ちゃんの心からの感激に、砂藤くんは照れくさそうに太い眉を下げて後頭部を掻いた。『砂糖摂取』という個性の強化訓練として始まった菓子作りだったが、今や彼の腕前はA組全員の胃袋を掴むほどの領域に達している。
「砂藤、もっと自信を持っていい。お前の料理の腕は本物だ。人を笑顔にする力がある」
エプロン姿の障子くんが、オーブンで香ばしく焼き上がった巨大な七面鳥の丸焼きを切り分けながら、静かに、だが確かな信頼を込めて言った。
中央ルームの反対側では、衣装の準備が着々と進んでいる。
「みなさん! 今年のパーティー用に、全員分のサンタクロース衣装を準備いたしましたわ! サイズも各自の体型に合わせて微調整済みです!」
八百万さんが胸を張って、大容量の衣装箱を掲げる。
「ヤオモモ、さっすが〜! 仕事が早すぎるよ! 後でみんなで着替えようね!」
芦戸さんがキャッキャと声を上げながら、赤いサンタ服を身体に当ててはしゃぐ。
「ねえ青山〜。プレゼント交換の品、何用意したの? あたしは結構気合い入れたんだけど」
耳郎さんがソファーに腰掛けながら尋ねると、青山くんはマントをバサッと翻して不敵に微笑んだ。
「フフフ、それは秘密さ⭐︎ 僕の輝きに満ちた、とびきりエレガントな逸品を用意したよ……誰に当たるかはお楽しみさ⭐︎」
一方、部屋の隅でニヤニヤと不気味な笑みを浮かべながら密談を交わす影が三つ。
「ヒヒヒ……サンタコスプレ……それは合法的に女子の肌面積が広がり、なおかつミニスカから伸びる生脚を拝める神のイベント……!!」
峰田くんが鼻の下を伸ばし、口角から垂れそうな涎を袖で拭いながら目を血走らせる。
「分かる、分かりすぎるぞ峰田……! サンタ服特有のあの白いもこもこ縁取りと、赤い生地のコントラスト……そこから覗く絶対領域!! うおおお、想像しただけで脳汁が止まらねえ……ッ!!」
上鳴くんが半開きになった口でハァハァと荒い息を吐きながら、拝むように手を合わせている。
「お前らなぁ……欲望がダダ漏れどころか垂れ流しだぞ。少しは隠せ、顔がキモすぎる」
瀬呂くんがドン引きした表情で、二人の後頭部に軽くツッコミを入れた。
「そういえば、デクくんはどこに行ったの?」
麗日さんが周囲を見回しながら、ジュースの準備をしていた梅雨ちゃんに尋ねる。
「ケロ。緑谷ちゃんは相澤先生と一緒に、エリちゃんを迎えに行ったわ。今日はスペシャルゲストとして、パーティーに招待しているものね」
「そっか! エリちゃん、喜んでくれるといいなぁ!」
麗日さんの顔がぱっと明るくなる。
迫り来る4ヶ月後の決戦という暗雲を吹き飛ばすかのように、A組の温かく賑やかなクリスマスの夜が、まもなく始まろうとしていた。
夜が深まるにつれ、中央ルームの熱気は最高潮に達していた。
天井で眩しく輝くクリスマスツリーのオーナメント、香ばしい肉汁の匂いを漂わせる障子特製の七面鳥、そしてテーブルの中央で堂々と鎮座する砂藤特製の巨大クリスマスケーキ。
「「「メリークリスマス!!!!」」」
パンッ! パンッ! と賑やかなクラッカーの音が部屋中に鳴り響き、グラスに注がれたオレンジジュースやリンゴジュースが一斉に掲げられた。
「メリクリ、エンちゃん!」
「メリクリ、透ちゃん」
赤いサンタ服に身を包んだ透ちゃんと、同じくサンタ衣装に身を包んだ白煙くんがグラスを合わせる。
「あはは、エンちゃん! モコモコした白煙が顎のあたりに漂って、本物のサンタさんみたい!」
「えっ……そ、そうかな? 意識して出してるわけじゃないんだけど」
嬉しそうに笑う透ちゃんを見て、白煙くんは少し照れくさそうに首の後ろを掻いた。だが、目の前で楽しそうに跳ねる透明な彼女の姿があまりにも愛おしく、自然と心が温かくなっていく。
「透ちゃんこそ、サンタ服とっても似合ってるよ。……すごく、可愛い」
「ふえっ!? あ、ありがと……エンちゃん……っ」
ストレートな褒め言葉に、姿は見えずとも透ちゃんが顔を真っ赤にしてテンパっているのが手持ちのグラスの震えで丸分かりだった。甘い雰囲気が二人を包み込んだ――その瞬間。
「うがああああああ!!!! そこに直れバカップルがああああッッ!!!!」
血涙を流し、両目を真っ赤に血走らせた峰田くんが、泡を吹きながら突進してきた!
「み、峰田くん!?」
「どうしたの急に!?」
「イチャイチャイチャイチャしやがって〜〜!! 照れてんじゃねえぞクソがぁぁ! どうせお前ら、パーティーが終わった後に『聖なる6時間(意味深)』に突入する算段なんだろがあああーー!! けしからん! 許さん! 爆発しろリア充がああ!!」
激しい嫉妬で顔を極限まで歪め、爪を噛みちぎらんばかりに叫び散らす峰田くん。
「そ、そういうことは、ちゃんと大人になって、ヒーローとしてお金を稼いで、生活がしっかり安定してからじゃないと……っ!」
大真面目に真っ赤になって弁明する白煙くんの横で、透ちゃんはクスクスと悪戯っぽく笑った。
「え〜? 私はエンちゃんとなら、いつでもウェルカムだよ〜?」
「うがあああああああ嫌だああああ聞きたくなかったそんな生々しい発言んんんん!!!!」
「火に油を注がないで透ちゃん!? 峰田くんが修羅になっちゃうから!!」
焦りまくる白煙くん、ノリノリで乗っかる透ちゃん、そして狂乱して床をのたうち回る峰田くん。カオスな空間が形成されかけたその時――。
「峰田、静かにしろ。エリちゃんが到着した。お前は教育に極めて悪いから、一旦退場だ」
ゴッ!!
障子くんの巨大な手刀が、峰田の首筋に容赦なく叩き込まれた。
「うごっ!?」
白目を剥いて、ゴミ袋のように静かに倒れ込む峰田くん。
「ありがとう、障子くん……助かったよ……」
「葉隠、あまり白煙をからかってやるな。白煙はお前のことを誰よりも大切に思っているからこそ、真面目に悩んでしまうんだ」
障子の静かな嗜めに、透ちゃんはえへへ、と小さく舌を出した。
「ごめんねエンちゃん、ちょっと悪ノリしすぎちゃった! でも、本当に嬉しかったよ」
「ううん、僕こそ……びっくりさせちゃってごめんね」
互いに顔を見合わせて柔らかく笑い合う二人の元へ、入り口の扉が静かに開き、小さな客人が顔を出した。
「こ、こんばんは……。め、めりー……くりすます……っ」
真っ赤なワンピースを着たエリちゃんが、緑谷くんの手をぎゅっと握りながら、少し緊張した様子で挨拶をする。
「「「メリークリスマス、エリちゃん!!!!」」」
A組全員の温かい歓声が広がり、パーティーのボルテージは最高潮へ!
「さあみんな! いよいよお待ちかね、プレゼント交換タイムですわよ!!」
八百万さんの弾けた声合図に、色とりどりのラッピング箱を持った生徒たちが大きな円を描いて集まり始めた。
中央ルームの中央には、色とりどりのリボンや包装紙で飾られたプレゼントの山。
その中で異彩を放っていたのは、大人一人分ほどもある異様に巨大な長方形の箱だった。包装紙の上からでも形が透けて見える……どう見てもやたら目立つ、紫色の禍々しい大きな剣のおもちゃだ。
「ねえエンちゃん、あれ誰が出したやつかな!?」
「あんなに大きくて紫色の剣なんて……想像がつきそうだけど……」
透ちゃんと白煙くんが顔を見合わせていると、部屋の隅の影から静かに声が響いた。
「……俺だ」
「「常闇くん!?」」
壁に背を預け、腕を組んだ常闇くんが漆黒の眼光を光らせていた。
「『黒き漆黒の魔剣・ラグナロク』……深淵の宴に相応しい至高の逸品だ」
「相変わらずぶれないなぁ、常闇くんは……!」
白煙くんが苦笑いする中、八百万さんの手によって中央から伸ばされた無数のロープを一人一本ずつ手に取る。
「さあみなさん! 準備はよろしくて?……いきますわよ!」
「「「せーの!!!!」」」
掛け声とともに、全員が一斉にロープを引く! 複雑に絡み合ったロープが解け、それぞれの元へ運ばれていくプレゼントたち。
「おおーっ! これは……!」
緑谷くんの手元に来たのは、麗日さんが用意した特大の『お餅セット』。
「えへへ、デクくんお餅好きでしょ? 一緒に食べようね」
麗日さんが嬉しそうに微笑む。そして麗日さんの手元には、緑谷くんが用意した『限定版オールマイトスノードーム人形』。
「……ッ!」
爆豪くんが引き当てたのは、飯田くんが出した『超軽量・高性能スポーツメガネ』。爆豪くんは盛大にチッ、と舌打ちをしながらもポケットに突っ込んだ。
「き、金塊……!? 八百万さん、これ本物!?」
飯田くんの手元に渡ったのは、八百万さんが用意したド直球の純金塊。
「俺が出したやつじゃん!? なんで俺の元に戻ってきてんだよ!?」
上鳴くんは自分が用意したサイン入りバスケットボールを抱えて膝をついている。
「わあ、すっごくオシャレ! 瀬呂、ありがとう!」
耳郎さんは瀬呂くんが選んだセンスのいいカジュアルな冬物パーカーを手にご満悦。
「いえーい! 超重量ダンベルー!! 筋トレ捗るぜ!」
芦戸さんは切島くんが用意した鉄塊のようなダンベルを持ち上げて大はしゃぎ。
「このカエルの手鏡、とっても可愛いわ。ありがとう、梅雨ちゃん」
「ケロ。瀬呂ちゃんに当たったのね」
和気藹々とした歓声が広がる中――
「ど、どうしろと……捨てるに捨てれねえ……!?」
峰田くんの手元に届いたのは、青山くんが自撮りしたと思われる『青山のキザなポーズブロマイド集』。あまりのキモさに峰田くんすら青ざめている。
そして――
「わあっ……! おっきい……!」
小さなエリちゃんの手元に届いたのは、あの常闇くんの『紫の大剣・ラグナロク』だった。
「「え、エリちゃーーん!!?」」
「そ、それで良いの!? 持ち上げるのも大変だよ!?」
「他のプレゼントと交換してもいいんだよ!? ほら、僕のお菓子と取り替える!?」
焦りまくる透ちゃんと白煙くんが駆け寄る。だが、エリちゃんは大きな剣を両手で大切そうに抱え、目を輝かせた。
「うん、いいの。これがいい。キラキラしてて、とってもかっこいい……! ありがとう、煙のお兄さん、透明お姉さん」
「深淵の光を感じ取ってくれたか……選ばれし乙女よ」
常闇くんが満足そうに頷く横で、白煙くんと透ちゃんは「エリちゃんが満足なら……まあいっか!」と顔を見合わせて笑い合った。
「僕たちもプレゼント開けようか」
「うん! 何かなー? わくわく!」
二人が引き当てた箱を開けると――
「あはは! これ、透ちゃんのやつだ!」
白煙くんが手にしたのは、透ちゃんが用意した『海外のドッキリ番組ハプニング集DVDボックス』。
「ふふ、こっちはエンちゃんのだね。絶対にそうだと思ってたよ!」
透ちゃんくんの手元には、白煙くんが心を込めて詰め合わせた『全国有名ショップの限定お菓子詰め合わせセット』。
「「ありがとう!!」」
お互いが用意したプレゼントをお互いが引き当てるという奇跡に、胸の奥がキュンと甘く痺れる。
「透ちゃん、せっかくだから雄英の先生の皆さんにもクリスマスプレゼント配ろっか」
「さんせー!! 相澤先生、ミッドナイト先生、セメントス先生、校長先生にも渡したい!!」
「良いよ。じゃあ、僕はトナカイで透ちゃんはサンタさんね」
「レッツゴー!!」
その夜、雄英高校の先生達にクリスマスプレゼントを配る煙で空飛ぶトナカイの白煙くんとサンタさんの透ちゃんの姿を色んな人から目撃されている。
パーティーが終わりを告げ、生徒たちがそれぞれ部屋へと戻り始める時間帯。静かになった廊下の影で、白煙くんはそっと透ちゃんの袖口を引っ張った。
「……透ちゃん」
「ん? なに、エンちゃん?」
「このあと……僕の部屋で、二人だけで二次会……しない?」
「えええっ!? エ、エンちゃん、もしかして……!? 『聖なる夜』的な感じ……!?」
透ちゃんが両手をブンブンと振って、姿は見えずとも顔を真っ赤にしているのが空気の揺れで伝わってくる。
「〜〜〜〜っ!? ち、違うよ!! 変な意味じゃなくて!!」
白煙くんは耳の先まで真っ赤になりながら、必死に手を振った。
「……まあ、今日だけ……今日だけなら、一緒に寝てもいいよ? でも……変なことしたら、煙で部屋の外に追い出すからね」
「〜〜〜〜っっっ!!!! ほんと!? ありがとうエンちゃん!! 大好きーっ!!」
飛びついて抱きついてくる透ちゃんの温もりを感じながら、白煙くんは透ちゃん以上に顔を真っ赤にして照れくさそうに笑った。
窓の外では、静かに聖なる夜の雪が降り始めている。
二人にとって、これ以上ない最高のクリスマスプレゼントとなった。
なんだかんだ言いながらも透ちゃんには甘い白煙くんでした
次回からはオリジナルシリーズです
びっくりする人が出ます