タイトル通り、アメリカ編です!!
米国限定活動アメリカ
新しい年の始まりを知らせる穏やかな日差しが、雄英高校A組の学生寮「ハイツ・アライアンス」の共用ロビーを包み込んでいた。
「明けましておめでとうございます。透ちゃん」
「今年もよろしくねエンちゃん!!」
年越しを終え、正月特有のまったりとした空気が流れる中、白煙くんはポストから届いた年賀状の束を検分していた。束の最後、一枚の上質な紙に記された差出人の名を目にした瞬間――
「……………げっ」
ポスッ……と、いつも彼の身体を薄く覆っていた清浄な白煙が、完全に立ち消えた。代わりに、美少年の顔が出てくるがその顔はものすごく歪んでいる。
「えっ……!? エンちゃんが煙を消すほど嫌がってる……!?」
横で新年の挨拶をしようとしていた透ちゃんが、信じられないものを見たというように声を裏返らせた。ナインとの死闘でも、黒煙の毒舌や暗躍に直面した時でさえも決して消えなかった彼の「煙」が、完全に消失している。それほどまでに不快感と拒絶反応を示しているのだ。
「はあああああ〜〜〜〜……」
白煙くんは天を仰ぎ、この世の終わりかのような深く、重い溜息を吐き出した。
「こ、今度はため息!? エンちゃん、一体何が書いてあるの!? その年賀状、呪いの紙か何か!?」
完全にテンパる透ちゃんを前に、白煙くんは年賀状を静かにポケットへ突っ込むと、覚悟を決めたような真剣な眼差しで彼女(の空間)を見つめた。
「透ちゃん……急で本当に申し訳ないんだけど、僕と一緒に来てほしいところがあるんだ」
「えっ!? エンちゃんと一緒なら、地球の果てでもどこでも行くよ!……で、どこに行くの? 近所の神社?」
「ありがとう、透ちゃん。……じゃあ、パスポート用意してね」
「…………………ほぇ?」
固まる透ちゃんを置き去りにしたまま、白煙くんは速やかに自室へと荷造りに向かうのだった。
【1時間後――共用ロビー】
正月のお祝いのためにA組のメンバーが続々とリビングへ集まってきていた。おせち料理や餅の香りが漂う賑やかな空間で、障子くんがふと周囲を見回す。
「……白煙と葉隠の姿が見当たらないな。部屋にもいないようだ」
「あれ? おかしいね。白煙くん、朝は年賀状を取りに行くって言ってたのに」
緑谷くんが首をかしげる。すると、ソファーの陰から血眼になった峰田くんが躍り出てきた。
「なんだとぉっ!? 新年早々、二人っきりで初詣(という名のデート)に行きやがったかあああ!? 許さん! 境内の一番奥で甘いおみくじ結びやがったら爆破してやる!!」
「峰田くん、落ち着こう。仮に初詣だとしても、白煙くんなら事前に我々へ一言掛け、無断で長時間の外出はしないはずだ。ルールを重んじる男だからな!」
委員長の飯田くんが腕を直角に振りながら、冷静に(しかし声量を大きくして)推測する。
「でも、二人とも荷物をまとめて出て行ったみたいよ? 部屋のドアが開いてたわ」
芦戸さんが不思議そうに首をひねる。
「え、マジで? 新年早々駆け落ちか……!?」
上鳴くんが面白がって茶化すと、切島がくん「白煙に限ってそんな男気のないことするかよ!」とツッコミを入れる。
「ケロ。みんな、あそこのダイニングテーブルの机に、何か紙が貼ってあるわ」
梅雨ちゃんが指さした先には、白煙くんの丁寧な字で書かれた一首の置息紙(メモ)が残されていた。
緑谷くんがそれを拾い上げ、読み上げる。
『A組のみんなへ。お正月に水を差してしまってごめんなさい。急遽、アメリカにいる僕の両親から呼び出しがかかってしまったので、透ちゃんを連れて一緒にアメリカに行ってきます。数日中には戻ります。追伸:峰田くん、探さないでください』
「「「あああ、アメリカーーーー!?!?!?」」」
「ちょっと待て!! なんで葉隠まで連れてアメリカ飛んでんだよ!!」
「ご両親からの呼び出しに、彼女を同伴……!? え、それってつまり……実家への結婚の挨拶……!?」
「スケールがデカすぎるだろぉぉぉぉぉッッ!!!!」
驚愕の叫び声がハイツ・アライアンスの天井を突き破らんばかりに響き渡る。
太平洋の上空、ファーストクラスの座席で「パスポートあって良かった……」と未だに事態を飲み込めていない透ちゃんと、暗い顔で窓の外を眺める白煙くんを乗せた飛行機は、一路、アメリカ大陸へと向かっていた。
広大な滑走路を抜け、降り立ったのは世界最大のヒーロー大国、アメリカ。
高層ビル群が地平線の彼方まで立ち並び、空にはヒーローたちの巡回用ヘリが飛び交う。この国で最も名高いヒーローといえば、平和の象徴オールマイトを「師(マスター)」と仰ぐ最強の女性ヒーロー、スターアンドストライプ。そして若き日のオールマイトが修行に励み、彼のバディであった稀代の技師デヴィッド・シールドと出会った奇跡の地でもある。
「透ちゃん……本当にごめんね。こんなところまで付き合わせちゃって」
空港のロビーを歩きながら、白煙くんが申し訳なさそうに頭を下げる。
「ううん、大丈夫だよ! アメリカなんてめったに来られないし!……でもエンちゃん、なんで急にアメリカなの?」
「……僕の両親が、こっちで働いているんだ。何の仕事をしているのかは詳しく知らないんだけどさ。僕が英語が苦手だって知ってるくせに、何かにつけて呼び出すんだよ。中学時代なんか、空港を出た瞬間に路地裏でゴロツキに囲まれて……本当に散々な目に遭ったんだから」
話が進むにつれ、白煙くんの表情がどんどん苦々しく歪んでいく。普段の冷静でレスキューに長けた彼からは考えられないほど、負の感情が隠しきれていない。
「あはは……エンちゃん、めちゃくちゃ嫌そー」
「だって……アメリカに良い思い出なんて、一つも無いんだもん」
「『もん』って! ふふ、語尾がおかしくなるくらい嫌なんだね。エンちゃんのそんな年相応な一面、なんか新鮮かも!」
普段は頼もしいクラスメイトである白煙くんの子供っぽい不機嫌さに、透ちゃんはクスクスと笑いを漏らす。
「笑い事じゃないよ透ちゃん……。ていうか、両親が迎えを寄越すって言ってたんだけど――」
白煙くんが周囲を見回した、その時。
「「「ウエルカム、ジャパニーズ・キッズ!! アンド、アメリカァァァ!!!ハッハッハ!!」」」
派手な柄のシャツを着た、見るからに柄の悪い3人のアメリカ人男たちが、底意地の悪い笑みを浮かべながら二人を包囲した。
「エンちゃん、まさかこの人たちが……ご両親のお使い……?」
「……違う。観光客や子供を狙う、質の悪いコソ泥ヴィランだ。……そこの背が高いノッポは、中学の時に僕の財布を盗もうとした奴だ」
白煙くんの瞳から光が消え、冷ややかな視線が男たちを射抜く。
「ワオ!! 覚えてやがったか顔見知りの坊主!! ジャパニーズは相変わらず無駄に記憶力が良いなァ!」
「おいおい、隣の嬢ちゃんは姿が見えねえぞ? レアな個性の持ち主か! 売ったら高値がつきそうだ!」
「ガタガタぬかす前に、持ち物全部吐き出しな! 前と同じようにマネー&貴重品ゲットだ!!」
ナイフや凶器をチラつかせ、ゲスな笑い声をあげるアメリカヴィラン3人組。
「……透ちゃん」
「もちろん、エンちゃん!」
「あの時と違うのは……僕はもう、ただの子供じゃない。ヒーローだ!!」
瞬時に圧縮バッグからコスチュームを展開し、白煙くんと透ちゃんはヒーロー姿へと換装する!
「ヒ、ヒーローコスチューム……!?」
「おいマジかよ! こいつらジャパンヒーローのガキか!?」
「ビビんなダサ男共!! 所詮は日本のヒヨッコ子供ヒーローだァァァッッ!!」
怯える二人を押し退け、ノッポのヴィランが拳を硬質化させて襲いかかってきた!
「『ホワイトスモーク』!!」
シュワァァァッ!!
白煙くんの手首から爆発的な量の白い煙幕が吐き出され、一瞬にして視界が真っ白に染まる!
「ゲホッ、ゴホッ! 目が……何も見えねえ!?」
「テメェら、無事か!?」
「甘いぜガキ共! 俺の個性は**『ポインター』**! 一度目視した人間や物体の位置を、脳内のレーダーに赤く刻み込み続ける! 煙の中に隠れようが無駄だァッ!」
ノッポのヴィランが視界ゼロの煙幕を切り裂き、正確に白煙くんの胸元へ必破の拳を突き出す!
「目がどれだけ優れていても……身体の反応が追いついてなきゃ意味が無いよ!」
煙の中から現れたのは、透ちゃん!
「『虎さん直伝・軟体パーンチ』!!」
柔軟な関節可動域から放たれた不可視のしなやかな拳が、ノッポのヴィランの顎を完璧な角度で撃ち抜く!
「オーマイガー――ッ!?」
脳を揺らされたノッポが白目を剥いて卒倒。
「なっ……何が起きて――」
「君は、少し頭を冷やして寝ていてね」
動揺する二人目のヴィランの鼻先で、白煙くんが薄い桃色の『睡眠煙』を軽く吹きかける。吸い込んだ男は膝から崩れ落ち、そのまま爆睡へと落ちた。
「シット!!!! 冗談じゃねえ、捕まってたまるかァァァッ!! 『ターボ全開』!!!!」
残る一人のヴィランが足元の特殊スケートボードに個性を送り込み、排気音とともに時速200キロを超える超高速で滑走! 空港の敷地外へと逃亡を図る!
「しまった……ッ! 逃げ足が速すぎる!」
「まずいよエンちゃん、一般人のいる通りに出ちゃう!」
逃げ切られる――そう思った、次の瞬間。
天空から降り注いだのは、大気を物理的に圧砕するほどの理不尽なまでの衝撃波。
『――Smash(スマッシュ)!!!!』
ドッゴォォォォォォォンッッ!!!!
音速を超えた風圧だけでスケボーが木っ端微塵に砕け散り、逃亡していたヴィランが地面に叩きつけられて一瞬で制圧された。目にも留まらぬスピード、そして圧倒的な破格のパワー。
煙が晴れた先、そこには金髪を高く逆立て、星条旗をモチーフとしたキャプテンコスチュームを身に纏う豪快で圧倒的な存在感を放つ女性が立っていた。
「まだまだ甘いね、日本のヤングカップルヒーロー」
豪快に笑い、白い歯を覗かせるその姿は、アメリカに生きる全ての人間が知る『絶対的な強さ』の象徴。
「う……嘘だろ……!?」
「ええええええええええッ!? 本物……!?」
白煙くんと透ちゃんが目を丸くして絶叫する。
「ウェルカム・トゥ・アメリカ! カオル・ハクエン、トオル・ハガクレ! 待ちくたびれたぞ、日本の若きヒーローたち!」
アメリカナンバーワンヒーロー、スターアンドストライプ。
白煙くんの両親が「迎え」として手配していたのは、なんと世界最高峰の規格外ヒーローだったのだ。
前回の後書きで、びっくりする人はアメリカナンバーワンヒーローでした
スターアンドストライプ先行登場!!