「す、スターアンドストライプさん……!?」
「あ、アメリカナンバーワンヒーローが……なんでここにーーー!?」
目の前で仁王立ちする圧倒的な存在感。黄金の髪をなびかせ、星条旗の威厳を纏った「最強」の姿に、白煙くんと透ちゃんは顎が外れんばかりに叫び声を上げた。
「ハッハッハ! 良いリアクションだ! カオル・ハクエン、トオル・ハガクレ! ハクエンファミリーがお待ちかねだよ!」
スターアンドストライプは眩しいほどの白い歯を見せて豪快に笑う。その声には、周囲の大気さえも震わせる圧倒的なカリスマ性が満ちていた。
「えっ……待って、なんで僕の両親の名前を……? というか、なんで僕の両親がスターアンドストライプさんと知り合いなんですか!?」
白煙くんのキャパシティは完全に限界を迎えていた。頭の上に無数の「?」が煙で浮かんでいる。
「詳しい話は事務所でしよう! 落ちこぼれのヴィラン共は警察に引き渡しておいた! レッツ・ゴー!」
「「わあああああああッ!?」」
質問に答える間もなく、スターアンドストライプは二人の体をまるでぬいぐるみのように両脇へ軽々と抱え込むと、ドォンッ!と大気を爆破させて音速の跳翔を決めた!
風を置き去りにする異次元のスピード。流れる景色に二人して悲鳴を上げていると、一瞬にして超高層ビルの頂上にそびえ立つ、巨大なスターアンドストライプのヒーロー事務所へと到着した。
最高階層の重厚な扉が開く。そこには、どこか見覚えのある二人の男女が温かい笑みを浮かべて立っていた。
「遅かったな薫! 無事に着いて何よりだ!」
「薫ちゃん、おひさー! 元気にしてた?」
「あ、いつもの父さんと母さんだ……。よし、一気に混乱が解けた」
実家の居間と全く変わらない呑気な雰囲気に、白煙くんのパニックを起こしていた脳がすっと冷えていく。
「解けてない! 私はまだまだ大混乱中だよエンちゃん〜〜〜〜ッ!?」
姿は見えずとも、透ちゃんが頭を抱えてぐるぐる目を回しているのが全身のオーラで伝わってくる。
「おや、君が薫の噂の恋人かい? うん、何も見えないな! ガハハハッ!」
豪快に笑う白煙くんのお父さん。
「でも、あの気難しくて真面目な薫ちゃんが選んだ子だもの。とびきり良い子なのは間違いないわね、あなた!」
優しく微笑む白煙くんのお母さん。
「……二人とも、挨拶は後! いろいろ聞きたいことは山ほどあるけど、まず一番に聞きたい! なんでスターアンドストライプさんが僕たちの『お迎え』なわけ!?」
白煙くんが耐えかねて詰め寄ると、お父さんは腕を組んでドヤ顔で言い放った。
「なんだ、言ってなかったか? スターは私達の『上司』だからな!」
「今まで黙っていてごめんねー。パパもママも、ずっとスターの専属チームとしてここで働いているのよ」
「「えええええええええええええええええーーー!?!?!?!?」」
二人の悲鳴のような絶叫が、スターアンドストライプ事務所の最上階に響き渡る!
「フッ……そういうことだ、少年少女!」
スターアンドストライプがマントを大きく翻し、二人の前に立ち塞がる。その背後には世界を統べるヒーローの誇りと、圧倒的な後光が射していた。
「君たちの親御さんは、私の活動を裏から支える優秀なブレーンでね! 雄英で君たちが大活躍していると聞いて、ぜひ一度、この私の目で『日本の若き芽』を確かめたかったのだよ!」
両親が世界的ヒーローの側近という衝撃事実。そして、アメリカ頂点ヒーローからのまさかの招待。
白煙くんと透ちゃんの「平凡な(?)お正月休み」は、とんでもないスケールの世界へと突入していくのだった!
「父さんと母さんがスターアンドストライプさんの部下!?うっそだあぁぁぁ!!」
「本当よ、薫ちゃん」
「国家秘密だからな。息子のお前にも伝えれなかった。すまない」
白煙くんは驚きを隠せない。
自分の親がヒーロー事務所、しかもアメリカナンバーワンの部下なんて有り得ないと疑っている。
しかし、白煙くんの両親は笑っている。
「カオル・ハクエン、トオル・ハガクレ。ジャパンでは学生ヒーローに対して、インターンなるものをやっているらしいな」
「ええ、そうですが」
「ヒーローのサイドキックとしてお手伝いです」
白煙くんと透ちゃんが急な質問に説明する。
最高階層のオフィス、巨大な窓を背にスターアンドストライプがニッと豪快に笑う。
「よし、優秀な部下のハクエンファミリーに免じて、きみたち2人を1日限定の臨時サイドキックにしてやろう」
「「…………Really?????」」
まさかの提案に、日本語の語彙すら飛んだ白煙(エン)くんと透ちゃんは、完璧な発音でハモってしまった。
こうして突如始まった、アメリカでの1日限定サイドキック活動。
超高層ビルが立ち並ぶニューヨークのメインストリートを、重厚な専用ステルスカーが走り抜ける。車内に揺られているのはスターアンドストライプ、そして白煙くんと透ちゃん。
「エンちゃん……私、もしかして壮大な夢でも見ているのかな?」
「僕も……ものすごい夢を見ている気がするよ……」
シートに深々と沈み込みながら、白煙くんは呆然と天井を見上げた。お正月に家族に呼ばれたと思ったらアメリカに飛び、世界最高峰のヒーローの車に乗っている。状況の展開速度が音速を超えていた。
「ヤングカップルヒーロー達! ぼーっとしているのはここまでさ! ヴィランだ!!!!」
スターの鋭い声と同時に、前方のビル群の隙間から不気味なジェット音が響く。
空を突如覆ったのは、怪鳥のような翼を生やした飛行ヴィランと、その背に跨がり重火器を全身に巻きつけた凶悪な装甲ヴィランの2人組!
「アメリカン、ドリィィィム!!」
「ヒハハハッ! この街の富は丸ごと奪い取ってやる!! 死ねぇッ!」
装甲ヴィランが両肩のランチャーを構えると、誘導ミサイルが爆音とともに連射された!
「ミサイルー!?」
「アメリカの犯罪スケールが大き過ぎるー!?」
ズドォォォォンッッ!!!!
「オート運転モードオン!」
スターが車載AIに一言告げると、サンルーフから豪快に車上へと躍り出た。
「スターアンドストライプだと!? 構うな、撃ちまくれぇッ!」
空を舞うヴィランが急降下しながら、数十発の大型ミサイルを一度に掃射! 街を一瞬で焦土に変える勢いの面制圧攻撃。しかし、スターは微動だにせず右拳を引く。
「『デトロイト――スマッシュ』!!!!」
ズドォォォォォォンッッ!!!!
叩きつけられた空圧だけで大気が激しく歪み、迫り来る無数のミサイルが空中で一瞬にして爆砕・粉砕された!
「ミサイルを拳の風圧だけで!?」
「オールマイトみたい……!!」
あまりの桁外れのパワーに、車内の白煙くんと透ちゃんは息を呑む。だが、茫然としている暇はない。
「透ちゃん、市民の避難誘導を!」
「うん! 皆さん、危ないですからこちらへ避難してください!!」
透ちゃんが姿を消しながら素早く路地裏の安全圏へ人々を誘導し、白煙くんは車から飛び出すと、市街地に充満する爆煙を両手から一気に吸引! 視界をクリアに確保していく。
「やるじゃないかヤングカップルヒーロー!!」
スターが車上でニヤリと笑う。しかし、空のヴィランは追いつめられて狂気に顔を歪めた。
「クソが……!! ヒーロー気取りが! 高層ビルごと木っ端微塵にしてやる!!」
標的を路地の避難民と高層ビルへ切り替え、残りの全ミサイルが一斉に放たれた。直撃すれば数百人の命が消し飛ぶ最悪の事態。
「させないよ。――『ニューオーダー』!!」
スターが空中を指差し、世界を統べる概念の規律(ルール)を解き放つ。
「『ミサイルは私の元に来る』!!!!」
「「「「え!?/なに!?/Why!?」」」」
白煙くん、透ちゃん、そして攻撃を放ったヴィラン2人組の目が点になった。
ビル群へ向かっていたはずの無数のミサイルが、空中であり得ない急旋回を起こし、磁石に吸い寄せられるかのようにスターの真っ只中へと集束していく!
「**『カリフォルニア――スマッシュ』**ッッ!!!!」
迫り来るミサイルの群れもろとも、空中のヴィラン2人組をまとめて超高圧の拳が穿つ! 閃光と衝撃波とともに、ヴィランは一瞬で意識を絶たれて叩き落とされた。
「くぅ〜〜〜……!! スピード不足だ……っ!」
ヴィランを引き渡し、周囲に残った爆煙を無害化吸収しながら移動する白煙くん。
彼は爆豪の爆破移動や轟の氷結移動を参考に、両手から『煙』を勢いよく噴射して必死に移動していた。しかし、爆豪くん達のような速度が出なくて、思うようにスピードが乗らない。
スピード不足は白煙くんの課題。
「エンちゃんがんばれー!! もうちょっとだよー!」
自動追従する車の上から透ちゃんがポンポンを振って応援し、その横でスターが顎に手を当てて白煙くんの動きを観察していた。
「カオル・ハクエン。きみは全身が煙になるのだろう? 何故、両手からしか噴射していない?」
「そ、それは……クラスメイトの轟くんや爆豪くんが、手を起点にして高速移動しているので……それを参考に真似ています」
白煙くんが息を切らしながら答えると、スターは豪快に笑い飛ばした。
「ハッハッハ! カオル・ハクエン、固定概念を捨てろ! きみはクラスメイトのコピーじゃない。ルールは他人の真似ではなく、自分で創るものだ。例えば――きみ自身が、さっきのミサイルになれば良い」
「――ミ、ミサイル……!?」
頭の中で雷が落ちた。手から噴射するから動きが制限される。身体の一部、いや……。
「そうか……! 両足、いや下半身そのものを高密度の煙に変えて……一気に噴射すれば――どわあああッッッ!?」
ドドォォォォンッッ!!
白煙くんの下半身が純白の巨大なジェットエンジンへと変貌! 爆発的な推進力が爆発し、まるで音速ロケットのように空へと突き抜けた!
「すごいよエンちゃん!! 一瞬で飛んでいったよ!?」
「め、めちゃくちゃびっくりした……身体が浮いたよ……!」
上空から滑空するように着地した白煙くんは、己の手を見つめて震えていた。今まで出したこともない圧倒的な機動力。
「ふふ、『ホワイトロケット』だね! すごくかっこいいよエンちゃん!」
「グッド!! 自分のルールを見つけたな、少年!」
透ちゃんの絶賛と、スターアンドストライプの力強いサムズアップ。
アメリカでの限定サイドキック体験は、白煙くんに「己の殻を破る」という、ヒーローとして最大の進化をもたらしたのだった。
「お帰り、薫」
「お帰りー薫ちゃん! 成果はどうだった?」
スターアンドストライプ事務所の落ち着いた控室に戻ると、白煙くんの両親が優しく温かい笑顔で二人を出迎えた。
「……ただいま」
世界最高のヒーローであるスターの隣で少し背伸びをしていた反動か、実の親を前にすると年相応の少年に戻ってしまい、白煙くんはどこか恥ずかしそうに視線を泳がせた。
「どうだった? スターとの1日限定サイドキック活動は」
父親からの問いかけに、白煙くんは深々と頷き、目を輝かせた。
「……すごかった。スケールも、力も……まるで、オールマイトみたいだった」
「ハッハッハ! そりゃあそうさ! スターはあのオールマイトを『マスター(師)』と仰ぎ、誰よりも背中を追い続けているヒーローだからな!」
「ええっ!? 本当ですか!?」
透ちゃんが驚いて声を上げると、スターアンドストライプが胸を張り、眩しい笑顔で言葉を継いだ。
「ああ! かつて幼い頃、渡米してきたオールマイトにヴィランから命を救われた。あの2本角の髪型と正義の心が、私の原点(オリジン)なのだよ!」
「やっぱりすごいなぁ、オールマイト……世界中の人の光になってるんだね」
透ちゃんが感心しきりに呟く。すると、お母さんが悪戯っぽい笑みを浮かべ、白煙くんにぐっと顔を近づけた。
「それより薫ちゃん……お仕事のお話もいいけれど、透ちゃんとの『馴れ初め』を聞かせてくれないかしら?」
「ぶはああぁぁッ!?」
提供されていたジュースを飲んでいた白煙くんは、豪快に噴き出した。
「なっ……なに聞いてるの急に母さん!?」
「いいじゃないの〜! こんなに可愛らしいお嬢さんだもの、私の若い頃を思い出すわぁ」
「ほう、だが今の君の方が何倍も美しいぞ、あなた」
「まあ! あなたったらこんなところで……!」
目の前で当たり前のようにイチャイチャし始める両親を見て、白煙くんは頭を抱えた。このままだと余計な追及が続いて泥沼化すると察した彼は、一息にすべてを捲し立てることにした。
「……透ちゃんとは雄英高校の入試の時に出会った! そこから同じA組で仲良くなって、色々あって……夏休みに僕から告白して恋人になった! 途中の細かい話や話せない内容もあるけど、馴れ初めは以上! これで満足!?」
「エ、エンちゃん……っ! そこまで全部言わなくても……!」
早口で一気に暴露された透ちゃんは、姿は見えずとも顔から火が出るほど真っ赤になり、手持ちのハンカチをギュッと握りしめて悶絶している。
「ふふ、ええ。大満足よ」
お母さんは満足そうに微笑むと、ふっと表情を和らげ、どこか切なげな瞳で白煙くんを見つめた。
「……それとね、薫ちゃん。あなたが『話せない』と言った内容のこと……私達、全部知っているわ」
「ヴィラン連合による神野区での誘拐……そして、君が奴らの手によって強制的にヴィランに仕立て上げられたこともな」
「「――ッ!?」」
白煙くんと透ちゃんの身体が凍りついた。両親には心配をかけまいと、雄英側からも伏せられていたはずの最悪の記憶。
事態の重みを破るように、スターアンドストライプが静かに一歩前へ出た。その厳格な眼光には、深い悔恨が滲んでいた。
「アメリカ政府および我々の諜報機関は、日本のオール・フォー・ワンやヴィラン連合の動向を常に極秘監視している。日本の大事件はすべて把握しているのだよ。……当然、カオル・ハクエンの事件もな」
「……薫、本当にすまなかった。お前が一番苦しくて、恐怖に震えていた時に……父親でありながら助けに行ってやれなくて……ッ!」
お父さんが悔しさに拳を固く握り締め、胸を焦がすような痛みに声を震わせる。
「ごめんなさい、薫ちゃん……! 知らせを聞いた時、今すぐにでも日本へ飛んでいきたかった……! あなたを抱きしめてあげたかった……!」
お母さんの目から溢れ出る涙。スターアンドストライプもまた、二人に向かって静かに頭を下げた。
「私が止めたのだ。ハクエンファミリーが私の極秘チームであり、ブレインであることをオール・フォー・ワンに知られるわけにはいかなかった。国家の制約と防衛のためとはいえ……少年一人を苦境に置き去りにした。申し訳ない……!」
世界最強のヒーローと、愛する両親からの切実な謝罪。
白煙くんは溢れそうになる感情をギュッと胸の奥に押し込め、ゆっくりと首を横に振った。
「薫ちゃん……そして、薫ちゃんを命懸けで連れ戻して助けてくれて、本当にありがとう……透ちゃん」
お母さんが涙を拭い、透ちゃんの手を優しく包み込む。
「私……私だけじゃないです! 障子くんや梅雨ちゃん、そしてバックドラフト事務所みんなで……エンちゃんを取り戻したんです! だから……!」
透ちゃんの必死な言葉を受け止め、白煙くんは二人に向かって、穏やかな、だが力強い笑顔を向けた。
「……二人とも、謝らなくていいよ。僕は今、こうしてみんなのおかげで生きてる。ヒーローとして、透ちゃんの隣で立っていられてるんだから」
「薫……」
「薫ちゃん……っ」
息子の成長した姿と、その強い言葉に、両親は胸を打たれたように瞳を潤ませた。お父さんは力強く息を吐き出すと、息子の肩をがしっと掴んだ。
「……次は絶対に助けに行く。どんな制約があろうと、お前が窮地に陥ったら地球の裏側からでも駆けつける!」
「ええ! スター、次は絶対に助けに行くからね! 許可なんていらないわ!」
お母さんの強い言葉に、スターアンドストライプはニッと豪快な笑みを復活させ、親指を立てた。
「了解した! 私の仲間とその家族を脅かす者がいるならば、この力で叩き潰すまでだ!」
かつての絶望と孤独は、温かい絆と誓いによって上書きされていく。
白煙くんの胸の中にあったアメリカへの苦手意識は、いつしか眩しい誇りと感謝の光へと変わっていた。
ミサイルヴィラン、若きオールマイト戦、劇場版第1弾のオマージュでした
白煙くんのお父さん 個性『ガス』
白煙くんのお母さん 個性『浄化』
両親の名前は決めていません