デュエルカフェ ドミノへようこそ! 作:ジェム貯めナイト
デュエルカフェでのアルバイト
放課後を告げるチャイムが鳴ると、カバンを持った私は教室を出て、靴箱まで向かった。
階段を下りる度に、カバンのキーホルダーがジャラジャラと揺れる。
その中でもカードの形状でモンスターが映っているものがキラリと光った気がした。
「ナミちゃん! お疲れ~!」
背後から私を呼ぶ声がした。
振り返ると、私と同じピンクの髪でショートボブの髪型が見えた。
「ミコもお疲れ」
靴を履き替えると、妹が目の前にやって来た。
こうして並ぶと、背丈と髪型がロングという違いを除けば妹と瓜二つだ。
「今日もバイトなの?」
「うん! 先週からバイト始めてさ~」
2人で歩きつつ、妹が始めたばかりのバイトの話題を切り出してきた。
「確か、遊戯王のお店だったっけ?」
「そう! 今はデュエルカフェでバイトしてるんだ!」
遊戯王か。
昔は夕飯前にアニメを視聴していたし、妹たちと遊んだりもした。
――でもデュエルカフェ?
遊戯王とどう繋がりがあるんだろう。
「へ~、懐かしいな。ねえ、お客とデュエルしたりするの?」
「うん、他には料理をお客さんに運んだり、デッキ構築を手伝ったりするんだ」
妹の説明に、最近はそんな店もあるのかと少し感心する。
おこづかいでパックを買ったり、熱中していた時期もあったな。
今はどんな環境なんだろう?
話を聞いていると、あの時の熱が蘇って来た気がした。
「ナミちゃんも昔やってたよね? 一緒にバイトしようよ!」
「気になるけど……でも、接客業なんてやったことないし――」
「大丈夫! 私もそうだったから!」
妹はバイトで撮っただろうチェキを私に見せてきた。
制服からフリルの多いエプロンドレスに着替え、男性客と一緒に映っている。
「ゆや君……別の高校に行ってるスタッフが撮ってくれたんだ~」
「その人も接客なの?」
「そっ! 女性スタッフもいるし、出てくる料理がお客さんからも評判なんだ!」
話を聞く限り、アットホームな職場みたいだ。
妹の事だし、違う高校や大人の男の人ともすぐ打ち解けたんだろうな……。
「みんな優しいよ。お店も雰囲気いいし、私が推薦するからさ……」
妹に勧められ、私は少し考え込む。
遊戯王に触るのは中学の途中以来だ。
男子とは遊ばなくなったし、次第に押し入れで保管するようになった。
ただ最新情報は追ってたし、妹もいるなら大丈夫だよね?
「――うん、やってみたい!」
「やったあ! じゃあ明日案内するよ!」
そして妹はそのままバイトへと向かい、私は帰って久しぶりに押し入れからカードを引っ張り出した。
「ブラック・マジシャン――」
あの頃と変わりなくカードに描かれた魔術師のモンスターはこちらを見ている。
また、このカードでデュエルができるんだ。
そう考えるだけでワクワクが沸き上がって来る気がした。
*
「それじゃナミちゃん、行こっか」
次の日の放課後。
私は妹と一緒に、駅前にあるデュエルカフェ ドミノへとやってきた。
「――やっぱりここね」
通学する時にチラッと見えていた看板の店だ。
私が普段通る通りの反対からでも分かるほど、大きな看板がかけられている。
モンスターやカードが描かれたこのカフェの目印だ。
「おはようございま~す!」
妹が元気に挨拶をするとともに、店へと入る。
店内はアニメで聞き馴染んだBGMが流れていて、カウンター席が壁際まで続いている。
プレイマットを敷けるくらいには奥行きが広いテーブルだ。
デュエルスペースも兼ねているのだろう。
「普通のカフェとは違うわね」
壁には放送されていたアニメや販売されているブースターパックのポスター。
更には手書きと思われるイベントのポップまで貼られている。
テーブルの横には食事を乗せる用のラックまであった。
快適にデュエルするためだろう。
「ミコちおはよ~。……もしかしてお姉さんですか?」
真っ先に顔を出したのは、襟付きのシャツに黒いベストを着た黒髪の男子だ。
「あ、はい。河迫(かわさこ)ナミといいます」
「コナミさん……?」
目の前の男子が不思議そうな表情をして私の名前を聞き返してきた。
「いえ、ナミです」
「あ、ナミさんですね。これは失礼……」
目の前の男子が苦笑しつつも軽く謝る。
遊戯王を販売しているコナミに名前が似ていて、弄られることはよくあったから気にしない。
「僕は山田 裕也(やまだ ゆうや)です。店ではゆやと名乗っています」
なるほど、このお店での名前ということね。
「ゆや君も接客を?」
「はい。こう見えても知識はある方だと自負しています」
「そうなんだ。……別校みたいだし、タメでいいわよ?」
私が提案すると、ゆや君は少し驚いたような表情をする。
「分かった。じゃあ店長を呼んでくるから、しばらく見学でもしていてください」
そう言うと、彼は店の奥のスタッフルームへと向かって行った。
しばらくして。
「ナミちゃんお待たせ~!」
妹はチェキで見たのと同じエプロンドレスを着て仕事を始めた。
私は奥の席に着いてその様子を眺める。
「こんにちは~」
早速男性客が2人来た。
妹ともう一人、大学生くらいのお姉さんが注文を取りに現れる。
「今日はどのメニューをお望みですかぁ~?」
妹が普段は聞かない甘ったるい声でお姉さんとともに、男性客へとメニュー表を差し出した。
妹とは対照的に、薄紫の髪をしたお姉さんの方は静かに受け答えしている。
あれが妹の営業スタイルってことね……。
「そんなの決まってる! デュエルお願いします!」
「オッケ~! ミコはカジュアルだけでぇ~、きしゃはカジュアルとガチどっちもイけるよ~!」
「じゃあ俺、ミコちとカジュアルで!」
「俺はきしゃさんとガチで戦(や)りたい!」
男性客のリクエストに応えると、2人はカウンターへと回る。
棚に並んでいるのは、そのデッキを代表するモンスターが描かれたデッキケースだ。
「ミコち、イビルツインは下の段よ」
「ホントだ! きしゃありがとう~」
程なくして、2人は手に取ったデッキを使い男性客とデュエルを始めた。
デッキをお互いにシャッフルし、ジャンケンで先行後攻を決める。
「デュエル! 俺はモンスターを通常召喚!」
よく見るデュエルと変わらない。
違うとすれば、妹とお姉さんは客のリクエストに応えてデッキを選ぶ。
そしてそのデッキを使いこなし、客が満足するようなデュエルを提供しようとしている。
「ナミさん」
「はい」
ゆや君の声に私は振り返った。
「遅くなりました。面接頑張ってね」
ゆや君が手招きしてスタッフルームへ迎え入れる。
いよいよだ。
私は席を立ち、ゆや君と入れ替わる形でスタッフルームへと足を踏み入れた。
「初めまして。妹さんから話は聞きました」
部屋の中で待っていたのは、まだ若い男性の店長さんだった。
面接ということでスーツを着こなしている。
真紅眼のネクタイピンまで着けている。
商売だけじゃなく、本当に遊戯王が好きな人なんだろうな。
「妹のミコから紹介いただきました。河迫ナミです」
「なるほど、どうぞ着席ください」
目の前の椅子に座るよう促される。
失礼します。と一言。
そして履歴書を差し出し、早速面接が始まった。
「僕は店長の内藤です」
「よろしくお願いします」
「妹さんの接客は大変好評ですよ。ナミさんも遊戯王を?」
聞かれたのは、私のデュエル歴。
デュエルカフェで働くなら聞かれて当然だろう。
「はい。私の影響で妹もデュエルを始めましたので」
「では、志望されたのもデュエルが好きだから?」
「はい。最近は遊ぶ相手も減って、ここでならいろんな方とデュエルできて経験にもなると思いました」
私の返答に、店長さんは納得したかのように頷いた。
「……ちなみに好きなカードは?」
「えーっと、よく使っていたのは、最初に買ったブラック・マジシャンと磁石の戦士が入ったデッキです」
「ああ、遊戯デッキですね。知ってます」
アニメDMのブラック・マジシャンを見て、使いたいと思ったデッキだ。
「アニメシリーズも初代が好きなのですか?」
「全部好きですけど、初代の再放送を見てからなのでDMですかね」
「初めて見たシリーズは思い入れあるでしょうね。分かります」
そこまで話すと、店長さんは席を立ってスタッフルームから出るよう促す。
「……不採用ですか?」
「いえいえ、このデュエルカフェ ドミノではお客様とデュエルするため、実技試験で判断させて貰いたいのです」
奥のデュエルスペース兼カウンター席へと通される。
妹はというと、決着が着いたのか記念のチェキを撮っていた。
「僕とデュエルしましょう。お客様を楽しませられるかどうか、その結果で合否を決めます」
デュエルの結果で採用が決まる。
まるでアニメの世界そのものね。
「――あの人ミコちによく似てるけど……」
男性客が私を見るや否や妹へと話しかけている。
「あっ、え~っと、ミコのお姉ちゃんだよっ! 名前は……そう! ナミコっていうの!」
妹が勝手に名前を付けてきた……。
安直だけど、覚えやすいし採用されたら使っちゃおう。
「――それじゃあナミコさん、レンタルデッキを選んでください」
店長さんまで妹の会話を聞いてナミコと言ってきた。
「はい。……じゃあ、使い慣れたブラック・マジシャンかな」
「では僕も、思い入れがあるブルーアイズを……」
店長さんは棚に置かれたレンタルデッキを取り出し、渡してきた。
ブルーアイズか。
遊戯と海馬の関係からして、いい組み合わせになったわね。
「店長がデュエルするのか」
「新人さん? 楽しみだな」
男性客も見守る中、私と店長さんはデッキを取り出しシャッフルする。
「ナミちゃん、頑張れ」
「先行後攻はお任せします」
「……じゃあ先行で」
デッキを置き、手札を5枚揃える。
久しぶりにカードを引く手は、鈍ってはいなかった。
そして私の採用をかけたデュエルが始まった。
「デュエル――」