ヤニねことカラカラねこ   作:きのこ大三元

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とても嬉しい限りです!(・∀・)
お盆期間もあり、少しずつ返信させて頂きますm(_ _)m




第9話 ピンクのうんちにゃ

ある休日の朝。

 

 氷川角子は、休日でも普段とあまり変わらない時間に目を覚ました。

 

 昨夜使ったステンレスジョッキ。撮影用の三脚。空になった炭酸水のペットボトル。畳の隅には、いつ食べたのか分からない魚肉ソーセージの包装まで落ちている。

 

 角子は一通り見回した。

 

 見なかったことにした。

 

 休日の朝から部屋の現実と向き合う必要はない。天気も悪くないし、今日は近所を少し散歩するつもりだった。

 

 片づけは帰ってからでもできる。

 

 たぶん。

 

「カラカラねこ、いるかにゃー?」

 

 玄関の向こうから、やけに元気な声が聞こえた。

 

「いますよー」

 

 角子は部屋着の上から適当な上着を羽織る。

 

 休日の朝からヤニねこが人の部屋を訪ねてくる。普段なら、まだ布団の中でタバコを吸っていてもおかしくない時間だった。

 

 腹が減った。タバコがなくなった。何か拾った。

 

 理由として考えられるのは、そのくらい。

 

 最後だけは嫌だった。

 

 鍵を開ける。

 

 扉の向こうには、相変わらずぼろぼろのTシャツを着たヤニねこが立っていた。髪は寝癖だらけで、片方の靴下だけ足首までずり落ちている。

 

 なのに、妙に機嫌がいい。

 

 しかも、右手を背中へ隠していた。

 

「何か見つけたんですか?」

「分かるかにゃ?」

「顔に出ています」

「これを見るにゃ!」

 

 ヤニねこが満面の笑みで右手を差し出した。

 

 木の枝だった。

 

 角子は少しだけ安心しかけた。

 

 枝だけなら、まだよかった。

 

 その先端へ、何かが刺さっている。

 

 綺麗な渦を巻いた、漫画みたいな形のうんちだった。

 

 下から上へ三段ほど巻き上がり、先端だけ細く尖っている。左右のバランスまで妙に整っていて、自然に出てきたものとは思えない。

 

 それだけでも十分おかしい。

 

 問題は、色だった。

 

 ピンク。

 

 薄い桜色ではない。菓子や玩具に使われそうな、妙に鮮やかなピンク色だった。

 

「ピンクにゃ」

「見れば分かります」

「珍しいにゃ」

「それも分かります」

 

 角子は少しだけ身体を引いた。

 

 どういう食生活を送れば、こんな色になるのだろう。そもそも本当に、身体から出てきた物なのだろうか。

 

「臭いはしますか?」

「嗅いでみるかにゃ?」

「遠慮します」

「そんな臭くないにゃ」

「もう嗅いだんですか?」

「ちょっとだけにゃ」

 

 ヤニねこが枝を鼻先へ近づける。

 

 角子は半歩下がった。

 

「近づけなくて大丈夫です」

「大丈夫にゃ。噛まないにゃ」

「そういう心配はしていません」

 

 ヤニねこは枝を自分の顔の前へ戻した。

 

 ピンク色のうんちが、朝日に照らされて妙につやつやしている。

 

 見ているうちに、表面の凹凸が顔のように見えてきた。丸い目。大きく開いた口。元気よく「うんち!」とでも言っていそうだった。

 

「アラレちゃんのうんちみたいですね……」

「アラレちゃん?」

 

 ヤニねこが首を傾げる。

 

 角子は少し遠い目をした。

 

「そうですか……知らないですか……」

「有名なうんちなのかにゃ?」

「うんちの方が有名なわけではないと思います」

「じゃあ、これは何にゃ?」

「私にも分かりません」

 

 角子は枝の先をもう一度観察する。

 

「粘土とか、お菓子とかではないんですか?」

「道に落ちてたにゃ」

「落ちている物の種類を聞いています」

「でも形はうんちにゃ」

 

 確かに、そこだけは強かった。

 

「どこで見つけたんです?」

「シケモク探してたら、道端にあったにゃ」

「朝から何を探してるんですか」

「まだ吸えそうなの落ちてるかもしれないにゃ」

「ないと思いますよ」

「一本くらいあるにゃ」

 

 あったとしても吸わない方がいい。

 

「その枝は?」

「うんちの横に落ちてたにゃ」

「枝も汚い可能性がありますね」

「持ってる方は反対側にゃ」

「そういう問題ではないです」

 

 ヤニねこは枝を胸の前へ掲げ、妙に誇らしそうな顔をした。

 

「これ、売れると思うかにゃ?」

「何としてです?」

「珍しいうんちにゃ」

「誰が買うんですか」

「ハメねこなら配信で使うかもしれないにゃ」

 

 角子は少し考えた。

 

 可能性はゼロではない。

 

 というより、休日の朝からこんな物を一人だけ見せられているのが、少し不公平に思えてきた。

 

「聞いてみますか?」

「売れたら半分やるにゃ」

「私はいりません」

「金の半分にゃ」

「それなら少し考えます」

 

 二人が廊下へ出たところで、ちょうど向こうからハメねこが歩いてきた。片手にはスマートフォン。もう片方には自撮り棒。

 

「朝から何騒いでるの?」

 

 ハメねこは二人へ近づき、ヤニねこの手元を見る。

 

 足が止まった。

 

「……何それ」

「ピンクのうんちにゃ」

「見れば、うんちっぽいのは分かるけど」

「買うかにゃ?」

「なんで?」

「配信で使えるにゃ」

 

 ハメねこは枝の先を見つめた。

 

 色も形も、見た目だけなら異常に強い。朝から見る物ではないが、画面へ出せば間違いなくコメントは流れる。

 

「本物?」

「たぶんにゃ」

「たぶんを配信に出さないでよ」

 

 そう言いながら、ハメねこはスマートフォンを構えた。

 

「映すんですか?」

「記録。まだ配信じゃないから」

 

 画面には、

 

『LIVE』

 

 と表示されていた。

 

《朝から始まった》

《今日は何》

《なんか持ってる》

《ピンク?》

 

 ハメねこはコメントに気づかないまま、カメラへ向き直る。声が一段高くなった。

 

「はぁーい。今、コーポ大谷の廊下でぇ、ヤニねこが謎の物体を拾ってきましたー」

「ピンクのうんちにゃ!」

 

 猫なで声が消えた。

 

「まだ断定しないで」

 

《うんち》

《朝からうんち》

《形が完璧》

《偽物だろ》

《近づけないで》

 

 ヤニねこはコメントを見て、さらに機嫌がよくなった。

 

「百円からにゃ」

「競売を始めないで」

「タバコでもいいにゃ」

「現物交換もしない」

「メビウスなら一本でいいにゃ」

「銘柄指定するな」

 

 騒いでいると、隣の部屋の扉が開いた。

 

 ヤクねこが顔を出す。

 

「朝から何してるんですか?」

「ヤクねこ、ちょうどいいところに来た」

 

 ハメねこがスマートフォンを向ける。

 

 ヤクねこは手のひらでレンズを遮った。

 

「配信しています?」

「今、謎の物体を検証中」

「許可を取ってから映してください」

「これは廊下だから――」

「その説明、前にも聞きました」

 

 ハメねこが黙る。

 

 ヤクねこはヤニねこの枝を見た。

 

「……何ですか、それ」

「ピンクのうんちにゃ」

「なんで拾ってきたんですか?」

「珍しいにゃ」

「珍しくても拾わないでください」

 

 ヤクねこは少し離れた位置から観察する。

 

「本当に排泄物なんですか?」

「形はうんちにゃ」

「形だけなら、お菓子や玩具かもしれないでしょう」

「私もそう思ったんですが」

 

 角子が頷く。

 

 ハメねこがスマートフォン越しに尋ねた。

 

「確認する方法ない?」

「捨てて手を洗うことです」

「確認になってないんだけど」

「確認する必要がありません」

「でも本当にうんちだったら珍しいにゃ」

「本当にうんちなら、余計に捨ててください」

 

 ヤニねこは枝を小さく振った。

 

 ぶらん。

 

 ピンク色のうんちも一緒に揺れる。

 

 ヤクねこが半歩下がった。

 

「振らないでください!」

「頑丈にゃ」

「そこに感心しないでください!」

 

《割ってみよう》

《中身確認》

《食べろ》

《ヤニねこならいける》

《大家に見せろ》

 

 ハメねこが最後のコメントを読む。

 

「大家に見せたら?」

 

 角子も少し考える。

 

「アパートの管理をしていますし、何か知っているかもしれません」

 

 ヤクねこが二人を見る。

 

「アパートの管理とうんちは関係ありませんよね?」

「落とし物ですし」

「道端で拾ったんですよね?」

「近所にゃ」

「範囲が広いです」

 

 ヤニねこの耳が立つ。

 

「大家にも見せるにゃ!」

「見せるだけですよ。近づけないでくださいね」

「驚くかにゃ」

「目的が変わってません?」

 

 ハメねこもスマートフォンを構え直す。

 

「まあ、反応は撮りたい」

「ハメねこも同類じゃないですか」

「私は記録する側だから」

「配信を切ってから言ってください」

「配信?」

 

 ハメねこが画面を見る。

 

 コメントが高速で流れていた。

 

《ずっと配信中》

《気づいてなかったの?》

《朝から全部流れてる》

 

 ハメねこはすぐに猫なで声へ戻した。

 

「えーっと……これは企画の導入でーす」

「最初から配信だったんですね」

「結果的に」

 

 ヤクねこは深く息を吐いた。

 

 ここで自分だけ部屋へ戻れば、ヤニねこが一人で大家のところへ行く。そして恐らく、顔の前まで持っていく。

 

「私も行きます」

「ヤクねこも見たいのかにゃ?」

「先輩が人へ近づけないようにです」

「ニャーを危険物みたいに言うなにゃ」

「今は危険物を持っています」

 

 角子も部屋へ戻り、散歩用の鞄を取ってきた。

 

「私もちょうど出かけるところだったので」

 

 ハメねこが角子を見る。

 

「全員で行く必要ある?」

「配信している人が言います?」

「……これは企画だから」

 

 四人はそのまま、一階へ向かった。

 

 大家は共用廊下で、切れかけた電球を交換していた。脚立へ乗り、古い照明器具へ手を伸ばしている。

 

 階段から四人分の足音が聞こえ、大家が振り返った。

 

 先頭はヤニねこ。

 

 手には枝。

 

 枝の先には、鮮やかなピンク色の何か。

 

 後ろには角子、ヤクねこ、自撮り棒を持ったハメねこ。

 

「朝から何の集団だ?」

「大家ー!」

 

 ヤニねこが駆け寄る。

 

「これを見るにゃ!」

「近づけるな!」

 

 大家は反射的に脚立から半歩下がった。

 

「何だ、それ!」

「うんちにゃ!」

「それは見れば分かる! なんだ、その無駄に完璧な形と色は!」

「ピンクにゃ」

「それも見れば分かる!」

 

 ハメねこが少し前へ出る。

 

「大家ー、これ何だと思うー?」

「知らないよ。あと配信切れ」

 

 猫なで声が止まった。

 

「大家は映してないから」

「声が入ってるだろ」

 

《大家きた》

《鑑定お願いします》

《管理人なら分かる》

《ピンクうんち専門家》

 

「誰が専門家だ!」

 

 大家の声だけで、コメントへ返事が入った。

 

 角子も前へ出る。

 

「大家さんなら何か知っているかと思いまして」

「なんで俺がピンクのうんちに詳しいと思ったんだ?」

「アパートを管理していますから」

「関係ないだろ」

 

 ヤクねこが申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「すみません。止めようとはしたんですが」

 

 大家がヤクねこを見る。

 

「なんで、あんたが謝ってるんだ?」

 

 ヤクねこも少し考える。

 

「……確かに」

 

「ヤクねこは悪くないにゃ」

「先輩が言うと腹が立ちますね」

 

 ヤニねこは枝を持ち上げる。

 

「これ売れるかにゃ?」

「売るな」

「百円」

「いらない」

「五十円」

「値下げするな」

「タバコ一本でもいいにゃ」

「交換もしない!」

「ケチにゃ」

「うんちを買わないだけでケチ扱いするな!」

 

 大家は脚立から完全に下りた。

 

「とにかく、それは捨てろ」

「珍しいのにゃ」

「珍しくても、うんちはうんちだろ」

「まだ本物か分からないにゃ」

「分からない物を持ち歩くな」

「臭くないにゃ」

「そういう問題じゃない!」

 

 ヤニねこは、大家へよく見せようと枝を傾けた。

 

「ほらにゃ。形もきれい――」

 

「先輩、振らないで!」

 

 ヤクねこが気づいた。

 

 少し遅かった。

 

 枝の先で、ピンク色のうんちが大きく揺れる。

 

 一度。

 二度。

 三度目。

 

 すぽっ。

 

「あっ」

 

 抜けた。

 

 鮮やかなピンク色の物体が、朝の廊下をゆっくり飛ぶ。

 

「うわっ」

 

 大家が避けようとする。

 

 しかし、横には脚立がある。

 

 ぺたっ。

 

 ピンク色のうんちは、大家の白いTシャツの胸元へ綺麗に張りついた。

 

 渦巻きの形を保ったまま。

 

 中央より少し左。

 

 まるで最初から、そういう柄のTシャツだったような位置だった。

 

「…………」

 

 全員が止まる。

 

 ハメねこのスマートフォンだけが、その瞬間を撮影し続けていた。

 

 ヤクねこが片手で顔を覆う。

 

「最悪……」

 

 角子は大家の胸元を見る。白いTシャツ。鮮やかなピンク。綺麗に張りついた渦巻き。

 

「ど根性ガエルみたいですね……」

 

 ぽつりと呟いた。

 

 大家がゆっくり角子を見る。

 

「何がだ?」

「いえ……」

 

 ヤニねこの肩が震える。

 

「ぷっ」

 

 我慢できなかった。

 

「ぶははははは! 大家、うんちの服になったにゃ!」

 

 廊下へしゃがみ込み、腹を抱えて笑い始める。

 

「ピンクうんちシャツにゃ! 似合ってるにゃー!」

 

 大家の顔が引きつった。

 

「ヤニねこ……」

「うんち着てるにゃ!」

「ヤニねこおおおお!」

 

 大家がブチギレた。

 

「逃げるにゃ!」

 

 ヤニねこは笑いながら走り出す。

 

 その足が、床へ落ちた枝を踏んだ。

 

「にゃっ」

 

 ずるっ。

 

 そのまま背中から廊下へ転がる。

 

「痛いにゃ!」

「止まれ!」

「逃げてないにゃ! 転んだだけにゃ!」

 

 大家がヤニねこの足首をつかむ。

 

「捕まったにゃー!」

 

 ヤニねこは両手を床へつき、爪を立てた。しかし廊下には引っかかる場所がなく、そのままずるずると大家の方へ引き戻されていく。

 

「違うにゃ! うんちが勝手に飛んだにゃ!」

「お前が振り回したんだろ!」

「大家の服が呼んだのかもしれないにゃ!」

「どんな服だ!」

「白いから目立ちたかったんだにゃ!」

「うんちに意思を持たせるな!」

 

 ヤニねこは必死に床を掴む。

 

「ニャーはなにも悪いことしてないのに……!」

「全部お前が悪い!」

 

 その横で、ヤクねこが大家の胸元へ手を伸ばしかけた。

 

 途中で止める。

 

「……これ、どうやって取ればいいんでしょう」

「素手はやめとけ」

「ですよね」

 

 ハメねこはスマートフォンを構えたまま、少し角度を変える。

 

「大家ー、ちょっとだけこっち向いてー?」

「なんで?」

「今の位置だと光が――」

 

 猫なで声ごと怒鳴られた。

 

「撮るな!」

「サムネ用に一枚だけ」

「撮るな!」

 

 ハメねこはスマートフォンを下げた。

 

 ただし、配信はまだ続いていた。

 

《うんちシャツ》

《奇跡の位置》

《ど根性うんち》

《大家かわいそう》

《神回》

《ヤニねこが全部悪い》

 

 角子もポケットからスマートフォンを取り出した。

 

「記念に――」

「氷川さんも撮るな!」

「分かりました」

 

 角子は素直にしまった。

 

 ヤニねこは床へ引きずられたまま笑っている。

 

「一枚くらいいいと思うにゃ」

「お前は黙れ!」

 

 休日の朝。

 

 コーポ大谷へ、大家の怒鳴り声が響き渡った。

 

 ◇

 

 しばらく後。

 

 ピンク色の物体は、ヤクねこがビニール袋と割り箸を使って回収した。

 

「先輩。絶対触らないでくださいね」

「もう触ってないにゃ」

「朝からずっと持っていたでしょう」

「枝にゃ」

「枝越しでも駄目です」

 

 ヤクねこは袋の口を固く縛った。

 

 結局、それが本当にうんちなのかは分からなかった。大家のTシャツには薄いピンク色の跡が残り、ヤニねこには共用廊下の掃除が命じられた。

 

 十五分後。

 

 本人の姿だけが消えていた。

 

 モップが一本、廊下へ残されていた。

 

 ◇

 

 昼前。

 

 角子の部屋には、ヤニねこ、ヤクねこ、ハメねこが集まっていた。

 

 宴会ではない。

 

 全員、念入りに手を洗った後である。

 

 ハメねこがスマートフォンの画面を三人へ見せる。

 

「ここ」

 

 映像が止まった。

 

 大家の胸元へ、ピンク色のうんちが張りついた瞬間だった。

 

 形は崩れていない。位置も完璧。

 

 大家だけが真顔だった。

 

「これ、サムネにしたら伸びそうじゃない?」

「大家さんに確認した方がいいですよ」

 

 ヤクねこが言う。

 

「確認したら絶対駄目って言うじゃん」

「なら使わないでください」

「顔は映ってないし」

「声と服で分かりますよ」

 

 ヤニねこは画面を覗き込み、満足そうに尻尾を揺らした。

 

「ニャーにも金入るかにゃ?」

「入らない」

「うんち拾ったのニャーにゃ」

「動画を撮ったのは私」

「ニャーが拾わなかったら動画なかったにゃ」

「だからって出演料は払わない」

「タバコ一本でいいにゃ」

「またそれ?」

 

 ヤクねこが二人を見る。

 

「そもそも、なんで角子さんの部屋で収益の相談をしてるんですか?」

 

 角子はステンレスジョッキへ氷を入れていた。

 

 カラカラ。

 

「静かなのでいいと思います」

「静かですか?」

 

 隣では、ヤニねことハメねこが報酬を巡って揉めている。

 

「再生数一万いったら一本にゃ」

「そんな約束しない」

「五千」

「値下げ方式やめて」

「千」

「もう再生数の意味ないじゃん」

 

 角子はハイボールを一口飲んだ。

 

「結局、あれは何だったんでしょうね」

 

 その一言で、三人が少し静かになる。

 

 テーブルの端には、二重にしたビニール袋が置いてある。その中には、例のピンク色の物体。

 

 本当にうんちだったのか。菓子だったのか。玩具だったのか。粘土だったのか。

 

 誰にも分からない。

 

「調べる方法ある?」

 

 ハメねこが尋ねる。

 

「ありません。というか、調べなくていいです」

 

 ヤクねこが即答した。

 

「分析とかできないの?」

「何のために?」

「動画」

「捨ててください」

 

 ヤニねこは少し考える。

 

「明日、同じ場所探してみるにゃ」

「拾ってこないでください」

「もう一個あるかもしれないにゃ」

「いりません」

 

 ハメねこが余計なことを言った。

 

「二個あったら並べて撮れるじゃん」

 

 ヤニねこの耳が立つ。

 

「探すにゃ!」

「増やさないでください!」

「色違いもあるかもしれないにゃ!」

「収集しようとしないでください!」

「青いうんちとか売れそうにゃ」

「売れません!」

 

 角子も少し考える。

 

「今度は、持ち帰る前に配信するといいかもー」

「角子さんまで何を言ってるんですか!」

 

 ヤクねこが振り返る。

 

 角子はジョッキを持ったまま、いつもの落ち着いた顔をしていた。

 

「衛生的には、その方がいいと思いまして」

「拾わないのが一番衛生的です!」

 

 ハメねこが笑う。

 

 ヤニねこは早くも、明日どこを探すか考え始めている。

 

 角子はハイボールを飲む。

 

 カラカラ。

 

 散歩へ出るつもりだった休日の朝は、結局そのまま終わった。

 

 引っ越してきたばかりの頃、角子の部屋を訪ねる住人はヤニねこくらいだった。

 

 今では、何か変なことが起きると、いつの間にか何人か集まっている。

 

 誰かが約束したわけでもない。仲良しの集まりを作ったわけでもない。

 

 飯がある。粉がある。配信がある。変な物が落ちている。

 

 理由は、その程度だった。

 

 角子は空になりかけたジョッキを見る。

 

「もう一杯作りますか」

「ニャーもなんか食うにゃ」

「アル中パウダーの補充もお願いします」

「待って。今の話、配信した方が――」

「しませんよ」

 

 四人の声が、狭い部屋へ重なる。

 

 誰も、ピンクのうんちの正体は分からなかった。

 

 そして、その正体を本気で知ろうとしている者も、もういなかった。

 

 そんな感じで終わった。




これにていったん一区切りとさせて頂きます。
2章からは、アニメでも出ていた登場人物なども追加しつつ…カラカラねことの交流を描いていく予定です!
今後ともよろしくお願いします。
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