エージェント、見滝原の夜を征く   作:伊勢村誠三

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街中の海を干上がらせよ。(Drain the sea in the middle of the City.)


CASE.1 始まる

見滝原市。

近年問題視されるようになった地方自治体同士の格差是正のためのモデル都市に選ばれたこの街は数年前からユビキタス社の参入もあり急速な発展を遂げていた。

だが、それだけに残ってしまった膿もある。

 

「こちらコードナンバー:4、ミッションを開始する」

 

『OK.Good Luck.』

 

摩天楼の一角から部分的に白い鬘をつけたような独特な髪形をした黒髪茶目の少年がパラシュートもなしに飛び降りる。

しかし少年は全く慌てた様子もなく手にした白いストレートタイプとスマートフォンを合わせたような携帯電話をしまうと変わって緑色のガチャポンのカプセルのような何かを取り出す。

 

<バリアー!>

 

中央の回転できるようになっているパーツを回すと少年の肉体は手にしたカプセルと同じ色の障壁に覆われる。

そして彼が地面と熱烈な再会を果たして砕けてしまったが、少年の肉体が傷つくことはなかった。

平然と歩みを進める少年の前には街中のはずなのに海が広がっていた。

白い砂浜の向こうに浮き輪の怪人を足場に浮かぶおたまじゃくしの下半身とブイのような頭を持つ醜悪な怪獣がいた。

 

「『街中の海を干上がらせよ。(Drain the sea in the middle of the City.)』それが俺に与えられたミッション」

 

少年を海に引きずり込もうと海からとびかかってくる浮き輪の怪人を躱しながら少年は白をベースにスリットが入った派手なバックルのベルトを取り出し、それを襷掛けにするように装着する。

 

<ナイトインヴォーカー!>

 

装着と同時に右腕に出現したオレンジ色の銃身と白いグリップで構成されたおもちゃのような見た目んがら確かな重厚感を持った銃が出現した。

 

<ブレイカムバスター!>

 

少年は近づいてくる怪人たちを正確に打ち抜きながら空いているもう片方の手で先ほどバリアーを張ったモノとは違う銀色のカプセルを取り出し、ベルトのバックル中央のくぼみにセット。

 

<イレイス!>

 

セットと同時に跳ね上がったスイッチを押し込む。

 

<オ オ オン・ユア・マーク オン・ユア・マーク……>

 

「擬装」

 

変え越えと同時にベルト、ナイトインヴォーカーにせっとされたカプセル、イレイスカプセムを回転させる。

少年の姿がインヴォーカーから発生させられた白い炎に包まれ、

それが晴れると何もない中空にインヴォーカーが浮いていた。

だがブレイカムバスターも見えてはいるし、位置的にも少年が透明になっただけなのだろう。

 

<インヴォーク!ナイトシステム!イレイス!>

 

インヴォーカーのシステムボイスが鳴り出すと同時に次名になっていた少年の姿が再び浮かび上がる。

銀色の身体にぴったりとフィットするスーツにオレンジ色の光るラインが走るコミックのヒーローのような姿だ。

 

「ノクスナイト、擬装完了。対象を排除する」

 

ノクスナイトは軽快なステップで自身を捕らえて海に引きずり込もうとする怪人たちを躱しながらそれらのボスと思しき怪獣に銃弾を放つが、ゴムの様に弾性のある肉体を持つ怪獣には効いている様子がない。

 

「なら直接断ち切る」

 

ノクスナイトはブレイカムバスターの持ち手より少し上にあるカプセムソケットにバリアーカプセムを装填。

回転させてから引き金を引く。

 

<ブレイカムキャノン!>

 

怪獣の少し手前を狙って打つ。

水面にエネルギーが着弾すると、その地点を中心にバリアーが広がる。

水が一気に前後左右に押し広げられ、浮き輪型な都合上どうしても水面より下には行けない怪人たちが波に流されて散っていく。

 

「終わりだ……悪夢に、沈め!」

 

泳げないらしい怪獣相手にノクスナイトは展開させたバリアーを足場に飛び上がり、空中でブレイカムバスターを近接形態に変形させると、インヴォーカーから取り外したイレイスカプセムをブレイカーのソケットに装填して回す。

 

<ブレイカムバースト!>

 

「はぁあああああ!」

 

白い帆のを纏った斬撃が怪獣を真っ二つに切り裂く。

同時に海が、砂浜が、そして偽りの青空と太陽が色を失いボロボロと崩れていく。

そしてノクスナイトの足元に黒いガラス玉に張りを通したようなオブジェが転がる。

ノクスナイトは擬装を解除し、手に持ったままのイレイスカプセムを回転させる。

 

<イレイス!>

 

この世の色を消す力が作用し、オブジェは黒い色を失って非活性化した。

それを懐にしまうと少年は再び携帯電話を取り出す。

 

「対象の排除を確認。

コードナンバー:4、これより帰還する」

 

『OK. Good Job.』

 

返事を聞き終えてコードナンバー:4は深く目を閉じて大きく息を吐く。

そして再び目を開けると見慣れた天井がひろがっていた。

布団をたたんで起き上がると、

左腕に握っていた非活性状態のオブジェをベッドサイドテーブルに仕舞い、目覚まし時計を確認する。

今日も予定より10分前の起床だ。

少年、小鷹賢政は目覚ましのアラームを解除して寝巻の上に装着していたナイトインヴォーカーを通学に使っているリュックにいれると、朝の支度をするべく部屋を出た。

 

-----

 

「今日転校生来るんだってさ」

 

「やっぱまどかママのいう通りだよ!

がつーんと自分から面と向かって告る度胸がないと!」

 

たわいのない会話。

ほんの少しのスパイスで潤うなんでもない日常。

毎晩のミッションで自分が守っていると思うと密かな達成感と優越感を得ている。

 

俺の名前は小鷹(おだか)賢政(けんせい)

市立見滝原中学校に通うごくごく普通の中学生……というのは仮の姿。

その正体は極秘防衛機関『CODE』に所属し、この世の悪を撲滅するエージェント……という夢を見ている普通の少年だ。

まってまって頁を閉じようとしないで。

夢とは言ったが夢じゃないんだ。

俺の観ている夢は明晰夢にして正夢。

自分の意志で夢の中で行動可能だが、夢に出現する怪人や

怪獣を倒さなければ奴らのもたらした被害が現実に出現する夢なのだ。

この見滝原市で起こっている不可解な事件事故の実に半分以上は怪獣たちのもたらす被害が正夢になった時に現実で起こる帳尻合わせ……そんな現実を侵食する悪夢を俺は夜な夜な明晰夢の力でコードナンバー:4/夜の騎士(ノクスナイト)として戦うことで致命的な被害を食い止めているのだ。

 

(だが、そろそろあの怪獣共の詳細を知りたいところだな。

昨晩の海岸怪獣は初めて見る種類だったが、一昨日とさらにその前日はまったく同じ奴だったからな)

 

ノクスナイトやカプセムをはじめとした力は最初に明晰夢を観た時にコードフォン(俺が夢で使ってる白い携帯電話)に司令官から連絡が来て大体知ることが出来たんだが、敵の情報は全く入ってこない。

勿論色々司令官に尋ねはしたのだが意訳すると

 

『自分で調べろ。それもエージェントの仕事だ』

 

と、言われてしまった。

まあ、俺の明晰夢の中の存在だし、俺が知り得る以上の情報を知らなくても仕方ないのかもしれない。

その理屈だとナイトインヴォーカーとかは一体いつ誰があの設定を考えたのか分からないが、それは別にいい。

 

(そろそろ本格的に奴らの生態調査をすべきか)

 

そう考えて校門をくぐる。

この時、俺はまだ知らなかった。

今日という日を境に、俺はこの世界の深い闇に入り込み終いには生涯切っても切れない縁を結ぶことになるなど、全く思ってもみなかったのだ。




〇エージェント道具解説。
・イレイスカプセム
…この世の色を消すカプセムだ!
『この俺、コードナンバー:4がノクスナイトに擬装する時に使うカプセムだ。
ブレイカムバスターでの必殺技や魔女の落とすグリーフシードの封印するのにも使うぞ』
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